[内閣名] 第40代東條（昭16.10.18〜19.7.22）
[国会回次]（帝国）第81回（通常会）
[演説者] 東條英機内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1943/1/28
[貴族院演説年月日] 1943/1/28
[全文]

　先般開院式に當りましては、特に優渥なる　勅語を賜はり、洵に恐懼感激に堪へない次第であります、私は諸君と共に謹んで　聖旨を奉戴し、全力を舉げて職責の遂行に當り、速かに戰爭目的を達成し、以て聖慮を安んじ奉らんことを深く期するものであります

　天皇陛下に於かせられましては、去る十二月十二日畏くも　皇大神宮に御親拜あらせ給うたのであります、戰爭遂行の途上に於きまして、親しく　皇祖大御神の大御前に御拜あらせられましたる御事は全く有史以來未だ曾て是れあらざる御事と拜承致して居るのであります、　聖慮の程を拝察し奉り、唯々恐懼感激に堪へない次第であります、我等一億同胞は茲に決意を新たにし、飽くまでも戰ひ抜き、勝ち抜いて、聖旨の萬分の一に報い奉らんことを固く誓ふ次第であります

　顧みまするに大東亞戰爭開始以來既に一年有餘、今や帝國は　御稜威の下皇軍將兵の善謀勇戰と、銃後國民の總力發揮とに依りまして、世界歴史に比類なき大戰果を舉げ、米英の屈服を目指して堂々の歩武を進めつつありますることは、洵に御同慶に堪へない次第であります、私は茲に諸君と共に、第一線に於て日夜を分たず決死の激鬪を續けて居りまする皇軍將兵に對し、滿腔の敬意を表明致しますると共に、銃後に在つて幾多の困難を克服し、一路戰力増強に邁進して居りまする全國同胞諸君に對し、深甚なる謝意を表明するものであります、而して此の機會に於きまして、私は諸君と共に戰場の華と散られましたる幾多忠勇義烈の英靈に對し、謹んで敬弔の誠を捧げますると共に、戰傷病將士に對し且又御遺族の方々に對し衷心より御同情申上ぐる次第であります

　現下帝國は世界に富強を誇る米英兩國を併せて之を相手とし、其の世界制覇の非望を覆へさんとする曠古の大戰爭の眞只中にあるのであります、申すまでもなく萬邦をして各々其の所を得しめ、兆民をして悉く其の堵に安んぜしめますることは、帝國建國以來の大理想であります、帝國が三千年來進み來つた途は、此の大理想を實現せんとする努力に外ならなかつたのであります、而して帝國が畏くも宣戰の　大詔を奉戴し、一億を舉げ米英撃破の一途に邁進しつつありまするのも、亦此の大理想を實現せんが爲であります、速かに大東亞を安定し、道義に基づく新秩序を建設し、帝國と目的を同じうする盟邦と相携へて、世界の眞の平和を招來せんとすることこそ、大東亞戦爭の目的であります、之を彼の米英が、他國の犠牲に於て自國の繁榮を追求し、他民族を搾取して、世界を壟 斷せんとする其の傳統の野望に比しますれば、全然其の本質を異にするのであります

　而して今や帝國は　御稜威の下、戰爭第一年に於て、早くも此の戰爭目的達成の足場を固むることが出來たのであります、　大詔一度下りまするや、　御稜威の下皇軍は大東亞における米英蘭の兵力を忽ちにして一掃し、進んで大東亞に於ける戰略要域を攻略確保するに至つたのであります、此の戰略的優位は、今後陸海軍の愈々水も漏さぬ協力の下に行はれまする雄渾なる攻勢作戰と、之に呼應する戰力の増強とに依りまして、益々擴充強化せられんとして居るのであります

　今此の戰略的優位の現状に付て、一例を航空機に取つて申上げまするに、陸上に基地を有する航空機の威力は極めて大なるものがあるのであります、斯くの如く陸上航空基地が非常なる威力を發揮する秋に當りまして、皇軍は緒戰の赫々たる戰果に依りまして、適度に配列せられたる有力なる航空基地を獲得し、日に日に是等を強化して居るのであります、戰爭遂行上絶對必要なる資源地域を含みまする廣大なる大東亞の地域を抱擁する是等多數の航空基地は、日一日と増大せられ其の威力は遺憾なく發揮せられつつあるのであります、今や占領地域の要地要點には是等の航空基地に加へて、随所に有力なる作戰據點が着々として整備せられ、又要衝要域には精強無比なる陸上及び海上兵力を配備せられまして、茲に攻防兩全の備へを完成して居るのであります、帝國が戰爭第一年に於て必勝の基礎を確立し得たと申す所以は、實に此處に在るのであります

　大東亞戰爭開始前に於きましては、帝國は石油、ゴム等の重要なる戰爭資源に於て不足する所が少くなかつたのであります、敵米英は我が國を「持たざる國」と侮り、之に乗じて吾々の忘れんとして忘れざる經濟 斷行を敢てし、以て帝國を一舉に屈服せしめんとしたのであります、然るに聖戰一年後の今日、世界最大の寶庫南方諸地域は、全く我が手に確保せらるるに至つたのであります、戰前米英の利用獨占に委ねられて居りましたる重要資源は、今や地を換へて吾々の掌中に歸したのであります、斯くの如くにして帝國は、如何なる大戰爭をも遂行し得べき十分なる資源を確保し得るに至つたのであります、之に反し戰前資源豐富を豪語せし米英は、重要戰用物資に一大缺陷を今日暴露して居るのであります、曩に彼等が西南太平洋に求めて居りましたるゴム、錫、キニーネ等に付きましては、今や彼等の焦慮の色漸く掩はんとするも掩ひ得ざるに至つて居るのであります、戰略的不利を冒してまでも彼等が敢て決戰に出でんとするの理由も、實に茲にあるのであります、斯くして帝國は戰略的優位に加ふるに資源の點に於ても、極めて有利なる地歩を占むるに至つたのであります、固より是等の資源をして眞に其の力を發揮せしむる爲には、今後尚ほ幾多の努力を要するは勿論であります、併しながら大東亞の黎明に目覺めたる勤勉なる十億の民が、我に協力せんとして居るのであります、此の大資源の活用期して俟つべきものがあるのであります、此の秋に當り米英は其の工業力を唯一の頼みとし、鋭意戰力の恢復増進に狂奔し、既に反攻の舉に出でて居るのであります、是れ固より我の油 斷すべからざる所でありまするが、又以て我の最も乗ずべき所であります、洵に本年こそは過去一年有餘の間に獲得致しましたる大戰果を更に擴充し、我が必勝の条件を彌が上にも確立すべき決戰期とも稱すべき年であります、帝國は盟邦諸國との提携を愈々緊密にし、相呼應して米英に對し益々攻勢に出で、遂に米英をして其の戰爭遂行能力を喪失し、其の戰爭遂行意志を放棄せしめ、以て速かに戰爭の目的を達成せんとして居るのであります

　此の秋に當り満州國に於きましては、國礎愈々固く邊の鎮護の任を帝國と分つと共に、大東亞建設の先驅者として、今や軍需産業の發展目覺ましく、我が戰力増強に愈々大なる貢獻をなし、大東亞の兵站基地としての威力を遺憾なく發揮して居るのであります、満州國の今日の發展充實は、是れ取りも直さず大東亞全域の明日の姿を指し示すものでありまして、洵に心強き限りであります

　中華民國は、汪主席の獻身的指導の下に、日に日に其の力を強化しつつあるのであります、而して去る九日、中華民國國民政府は、米英兩國に對し戰を宣したのであります、此の事たるや、米英撃摧の大東亞戰爭に、更に一歩を進むるものでありまして、汪主席の下に一致團結、蹶然起ち上りましたる中華民國の決意に對し、私は茲に滿腔の敬意を表するものであります、中華民國國民政府の宣戰に伴ひ、帝國は新事態に即應する日華の關係を樹立する方針の下に、中華民國に於ける一切の帝國專管租界の還付、上海共同租界、廈門共同租界及び北京公使館區域囘收の承認、治外法權の撤癈、在支敵産の處理等各般に亙り、直ちに必要なる手配を執ることとなつた次第であります、此の我が措置に狼狽し、去る十一日、米英が重慶政權に對し架空の租界還付を約する等、何等の價値なき宣言を行ふに至りましたることは、洵に笑止に堪へない所であります、タイ國はピブン首相の逞ましき統率の下に、舉國一體帝國との攻守同盟の誓ひ愈々固く、敢然として米英撃摧の共同作戰に從事し、凡ゆる困難と、凡ゆる障碍とを克服しつつ、新しき大東亞建設の共同目的達成に眞劍なる努力を傾注し、以て眞に帝國と同志國たるの實を舉げて居るのであります

　翻つて歐州方面に於きましては、獨伊兩國を始め我が盟邦諸國は、帝國との結束愈々固く、各種の困難を排除して、世界を驚倒せしむる大戰力を随所に遺憾なく發揮致して居るのであります、而も今日までに築き上げられたる確乎不敗の地歩を擴充し、愈々有利なる攻勢を展開せんとして居るのであります、彼の北阿方面に於ける事態の如きは、戰爭の長き過程に於ける一波瀾に過ぎざるものでありまして、何等大勢に影響を齎すものではないのであります、否寧ろ此の新事態こそ米英軍に徹底的痛撃を加ふべき絶好の機會の倒來を意味するものであります、其の好機を逸することなく、獨伊兩國は愈々其の猛威を振ふと共に、帝國との共同作戰に益々其の威力を發揮し、東西相呼應して共同の敵米英に痛撃を加ふべき態勢を着々として整備しつつあるのであります

　斯くて我が戰友たる東西の盟邦諸國は、年と共に愈々其の親密の度を加へ、共同の勝利獲得と、共同の理想達成とに向つて、互ひに全く己を棄てて、水も漏さぬ協力の實を舉げて居るのであります、之に反し米英は或は自己の利害關係の爲に、或は戰後の問題に關し、戰爭の眞只中に於て早くも醜い爭ひを暴露して居るのであります、此の一事は以て彼我正邪の岐かるる所を示し、而して終局の勝利が孰れの側に歸するかを、自ら明かに物語つて居ることと確信するものであります、私は茲に盟邦諸國の華々しき活躍の跡を偲び、其の輝かしき前途に思ひを致し、諸君と共に今日までの是等盟邦諸國の偉大なる成果に、深甚なる敬意と祝意とを表するものであります、更に私は是等盟邦諸國の帝國に寄せられたる絶大なる協力を感謝致しますると共に、今後の健闘と成功とを心から祈つて已まない次第であります

　現在軍政下にありまする南方諸地域に於きましては、今や各住民は御稜威の光に浴し、早くも新しき建設に向つて心からなる協力を示しつつありますことは、洵に御同慶の至りであります、固より帝國は我が眞意を了解せざるものに對しましては、徹底的に之を庸懲するものではありまするが、一たび我が治下に入り來れるものに對しましては、眞に之を親子の情を以て遇するものであります

　マライ、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、セレベス等に於きましては、皇軍の指導の下に治安は全く囘復し、住民は喜んで生業に復し、未だ曾てなき幸福なる力強き生活に入らんとして居るのであります、而して帝國は克く原住民年來の要望に應へ、其の安住の地たらしめんことを期し、着々成果を舉げて居るのであります

　ビルマに於きましては、治安は既に囘復をし、帝國不動の大方針に呼應致しまして、力強き指導者バーモ長官を中心としてビルマ人を舉げて、現地皇軍に協力し、着々として「ビルマ人のビルマ」を建設し、以て大東亞の建設に資せんとする目覺ましき努力を續けて居るのであります、其の努力は帝國の感銘に堪へない所であります、帝國は遲くも本年中には現在行政府をして管轄せしめつつある區域を以てビルマ國の建設を認めんとして居るのであります、曩に本議場に於て帝國の内外に宣明しましたるビルマ人多年の念願たるビルマの獨立は、早くも茲に實現せんとして居るのであります、此のことを本議場に於て聲明し得ることは、帝國の洵に本懐とする所でありまして、ビルマの爲め、又新しき大東亞の爲め、眞に御同慶に堪へない次第であります

　私は昨年本議場に於てフィリッピンの民衆にして帝國の眞意を了解し、大東亞共榮圏建設の一翼として協力し來る場合に於きましては、帝國は欣然として彼等に獨立の榮譽を與へんことを聲明致したのでありまするが、茲に私は重ねて之を宣明するものであります、今やフィリッピンに於ては、新しき指導者バルガス長官の下に、帝國に對する協力の誠意大いに見るべきものがあり、又治安の恢復も逐次向上しつつありますることは、洵に頼もしき限りであります、私はフィリッピンが更に積極的なる協力を重ね、斯くしてフィリッピンの獨立が、成べく速かなる時機に於て實現せんことを、衷心より期待するものであります

　此のビルマ及びフィリッピンの希望に滿ちたる現状を、ビルマに隣りするインドの苦しみ喘ぐ状況と比較致しまする時、轉た感慨無量なるものがあるのであります、曩に本議場に於て申上げましたる如く、インドは既に英國より精神的に獨立しておるのであります、然るに今尚ほ英國は、其の態度を改むることなくインドの指導者、憂國の志士を悉く逮捕監禁し、盛り上るインド民衆を鐵蹄の下に蹂躙して居るのであります、更に米英軍はインドを基地として、盛んに新生ビルマの平和を攪亂し、之に未練の魔手を伸ばさんとして居るのであります、今や皇軍は是等の米英軍に對し、猛撃を加へて居るのであります、而して既に帝國の眞意を知れるインドの一部人士は、帝國と協力して現に戰ひに從事して居るのであります、帝國は新しきインドの建設の爲に、インド國内に於て又其の國外に於て、生みの苦しみをなしつつあるインドの指導者及び民衆に對し、深甚なる同情の意を表しますると共に、其の囘天の大事業の遠からず成就することを、深く期待するものであります、而して帝國は是が爲に全幅の協力を吝まざることを、重ねて宣明するものであります

　既に中華民國が大東亞戰爭に參加し、米英打倒の大義名分の明かとなれる今日、今尚ほ情實と因縁とに囚はれ、米英の走狗となり、自らの手を以て其の同胞を害し、無益の抗戰を續けつつある重慶政權の如きは、洵に支那民衆の敵であり、中華民國の傳統に對する叛逆者であります、帝國は之に對し、 斷々乎として膺懲の鐵槌を加へんとするものであることを、重ねて宣明するものであります、濠洲に對する帝國の態度亦重慶に對すると全く同様でありまして、米英依存の迷夢より覺めざる以上、帝國が之に痛撃を加へますることも、是亦已むを得ざる所であります

　今や帝國は雄渾なる構想の下に、世界の運命を決する大戰爭を戰つております、隨て今後の施策は、此の大戰爭に勝つと云ふことに總てを集中するものであります、戰に勝たんが爲に前線に於きましては、果敢なる武力戰を愈々強力に續行して、敵の戰爭能力を喪失せしめなければならないのであります、戰ひに勝たんが爲に、銃後に於きましては作戰の要求に即應して、愈々戰力を増強しなければならぬのであります、國内の施策は舉げて勝たんが爲の、此の戰力増強の一點に集中しなければならぬのであります

　抑々戰力増強に關する政府の指導精神は、一億同の盛り上る力を遺憾なく發揮せしむるに在るのであります、由來吾吾日本國民は、　皇室を中心として、舉國一致只管に　天皇陛下の御爲には身を鴻毛の輕きに置き、一旦緩急あれば義勇公に奉ずるの、世界に比類なき傳統を有して居るのであります、況んや皇國の興癈を決する此の大戰爭の下に於きましては、前線銃後を問はず、一億同胞は唯々盡忠報國、以て　聖恩の萬分の一に報い奉らんとの熱意に燃えて居るのであります、私は此の國民の燃え上る力に信頼し、戰力の増強に向つて之を全幅活用することが、政府の重大なる責務であると確信するものであります

　曩に私は本議場に於て、行政各廳の事務を、能う限り簡素強力ならしめ、之に依つて得たる人員は、舉げて之を大東亞全般に亙つて活躍せしめんとする決意を表明致したのであります、而して政府は之を實行し、相當多數の官吏定員を減少し、官廳事務遂行の方法も、戰時に適應するやう鋭意工夫改善を加へて、實効を舉げつつあるのであります、又既に多數の人士は、出でて大東亞の各地域に於て、其の建設經營に挺身して居るのであります、政府は今後も此の方針に則り、愈愈其の實效を舉げんことを期して居る次第であります

　又政府は時局の進展に適應すべく、内外行政の一元化を斷行し、他方新たに大東亞省を設置し、大東亞地域に於ける帝國の政務を、一元的且つ包括的に處理することと致したのであります、是等政府機構の改正と相俟つて戰時國内體制の整備を期し、政府は公共團體に付き、而して又農業商業等各方面に亙つて、刷新強化を企圖して居るのであります

　物的戰力の擴充に付きましては、從來の重點主義を更に徹底し、直接戰力の増強上緊要なる鐵鋼、石炭、輕金屬、船舶、航空機等重要軍需物資の急速増産に全力を傾注するは勿論、凡ゆる創意工夫を凝して、不測の事態に對處すべき劃期的増産對策を實施する方針を以ちまして、既に着々是が具體化に努めて居る次第であります、殊に造船に關しましては、政府は格段の努力を傾注して參つたのでありまするが、今や着々其の效を収め、前途何等不安なきに至つたのであります、又鐵鋼生産等に於きましても、東亞の全域を通じ從來の様式に囚はれず、新たなる構想の下に各般の需要に應ぜんとして居るのであります

　政府は今囘重要軍需物資の増産を期する爲に、其の障碍となる如き法令既定の制約を排除するの途を講じますると共に、内閣總理大臣の權限を強化し、眞に事態に即應し、彈力性ある指導を行ひ、更に又官廳の指導監督を單一化し、生産者をして其の據る所を簡明ならしめんことを期して居るものであります、而して戰力増強の爲には、政府は廣く民間有識者の衆智を蒐むるを緊要と認めまして、曩に大東亞建設審議會の設置を見、幾多貴重なる意見に接したのでありまするが、今後とも出來る限り民間の有益なる意見の攝取に努むる所存であります

　以上申述べましたる通り、今や戰爭の前途には何等の不安もないのであります、併しながら此の戰爭を勝ち抜く爲には、各種の不便不足は固より已むを得ざるものであります、最後の勝利に至るまでの過程に於て、國民は凡ゆる困苦に耐へて行かなければならぬのであります、一億國民の此の勞苦が積みに積んで、初めて此の戰爭を戰ひ抜く力が、そこに生れるのであります、固より政府は國民生活の確保に關しましては、萬般の措置を講ぜんとするものでありまするが、吾々一億國民は、此の上とも生活の刷新、消費の節約、貯蓄の増強に徹底し、如何なる事態にも動ぜざる質實剛健にして、清新簡素なる戰時生活の確立を期せねばならないのであります

　今や帝國は大東亞共榮圏建設の中核たるべき人士を、愈々多く必要として居るのであります、政府は學制の改革を 斷行し、在學年限の短縮を圖りますと共に、戰力増強に直接必要なる部門の擴充強化を行ひ、以て時局の要求に應ぜんとして居るのであります　

　又政府は戰時下、溌剌たる國民の健康を増進することが、最も必要であると考へて居るものであります、是が爲め政府は諸般の健民對策、特に結核對策に付きましては、萬全の努力を傾倒せんとするものであります、尚ほ此の機會に於て曠古の大戰爭中にも拘らず、累年我國の人口動態は極めて良好でありまして、出産の如きは空前の數に達し、死亡は却て減少の歩を辿りつつありますることを報告し得ることは洵に力強き限りであります

　政府は以上申述べましたる趣旨に基きまして、豫算案及び法律案を今期議會に提出致した次第であります、何卒速かに協賛を與へられんことを切望致します、終り