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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第40代東條(昭16.10.18〜19.7.22)
[国会回次](帝国)第84回(通常会)
[演説者] 東條英機内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1944/1/21
[貴族院演説年月日] 1944/1/21
[全文]

 先般開院式に當りましては、特に優渥なる 勅語を賜はりまして、洵に恐懼感激に堪へない次第であります、私は諸君と共に謹んで聖旨を奉戴し、全力を擧げて決戰下重大なる職責の遂行に當り、速かに戰爭目的を達成し、以て聖慮を安んじ奉らんことを深く期するものであります

 顧みますれば、大東亞戰爭勃發以來既に二年有餘、皇軍將兵は御稜威の下愈々善謀勇戰を續けて居るのであります、私は茲に諸君と共に皇軍將兵の健鬪に對し滿腔の謝意を表しますると共に、忠烈なる戰歿勇士に對し謹んで敬弔の誠を捧げ、遺族の方々に對しまして衷心より同情の意を表し、且つ戰傷病將兵の速かなる再起奉公の日を祈念するものであります、而して私は又諸君と共に戰ひ拔く國民諸君の力鬪に對しまして深甚なる敬意を表するものであります

 大東亞戰爭の戰局を大觀致しまするに、敵の反抗は最近愈々熾烈執拗の度を加へて居るのであります、而して彼等は、御承知の如き大損害を反覆受けて居るにも拘らず、只管物量を恃んで逐次基地を進め、又我が海上交通線に攻撃を加へ、運輸の上に侮るべからざる影響を及ぼして居るのであります、この深刻なる戰局に對處し、我が第一線將兵は緒戰に獲得せる戰略的優位を活用し、連綿不斷、勇戰奮鬪、敵に甚大なる損害を與へて居るのであります、特に最近ソロモン方面に於て、ギルバート方面に於て、又支那方面に於て擧げつヽある所の赫々たる大戰果は、正に戰史に其の比を見ざるものでありまして、唯之を知らざるは其の指導者に依り目を蔽はれたる米英の一般大衆のみであります、而して此の間敵の人的戰力に與へつヽある損害の如何に大なるかは、特に注目を要する所でありまして、一人克く十人を斃さずんば已まざる皇軍將兵の前に、不逞にも挑戰し來れる米英軍の前途たるや、正に暗澹たるものがあり、彼等を待つものは、唯最後の敗北のみであります、此の前線將兵の勇戰敢鬪に呼應し、一億國民は愈々奮起したのであります、今や學徒は出陣し、徴兵適齡は低下せらるヽに至つたのであります、是等は交戰國の夙に實施して居る所のものでありまするが、今日初めて帝國が之を斷行するに至つたのは、一面敵米英に對し、動員上帝國の有する優位を示すと共に、又一面敵米英撃摧の斷乎たる帝國の決意の程を示すものであります

 一方戰力、特に航空戰力の増強に付きましては、克く多方面の困難を排除して、一路飛躍的上昇の線を辿り、生産の現状は昨年度に比しますれば、既に二倍以上に達して居るのであります、御承知の如く昨年十一月一日軍需省が新設せられ、而して去る十五日には航空機生産に關する業務に付き陸海軍當局よりの移管を了し、茲に軍需は愈々本格的に其の機能を發揮することとなつたのであります、斯くして航空機増産に關する態勢は愈々強化せられ、今後の航空機生産は更に現状の數倍に達する躍進を期待せらるヽ次第であります、固より戰力増強に關しましては、苛烈なる作戰の要求に鑑み、尚ほ幾多の工夫努力の要あることを痛感せらるヽのでありまするが、曾て纖維工業に於て短時日の裡に世界水準を突破し、世界最高の技能と能率とを示せる我等一億の卓越せる資質を、今や轉じて以て航空機工業に遺憾なく發揮するに於きましては、航空機の飛躍的増産は期して待つべきものがあるのであります、政府と致しましては以上の確信の下に國民諸君と共に、行政査察の實績等にも照し、不斷の工夫と努力とを加へ、以て必ずや前線の要望に應へて航空戰力の劃期的増強を具現せんことを固く期するものであります

 先般來南太平洋方面に於て示されたる如く、莫大なる犠牲をも顧みることなく、遮二無二挑戰し來る戰法より見まするも、敵米英、特に米國がロに長期戰を呼號しつヽも、内實頻りに短期戰を渇望して居りますることは明かなる所であります、而して是れ正に長大なる補給路に依らざるを得ざる作戰上の不利は固より、彼等の内外に於ける深刻なる苦惱不安に基くに外ならないのであります、即ち米國の最も恃みとする軍需生産も既に飽和點に達し、資材及び勞力の問題より不安は愈々深刻となりつヽあるのであります、一方英國は國力涸渇し、疲幣の度愈々濃厚なるものがあるのであります、而も帝國に對し時間を與ふるならば、帝國の戰略據點は愈々強固となり南方の軍需資源は益々戰力化せられ、大東亞民族の結束は彌が上にも強化せられ、斯くして帝國の地位は彼等の力を以てしては如何ともなし得ざるに至るべきは、彼等の當然考慮して居る所であり、又彼等の最も恐れて居る所なのであります、而して恣に無名の師を起し、國民を戰爭の苦惱に驅立てつヽある彼等米英指導者としては、年と共に募る國民の苦惱と不滿とに直面しては、當面を糊塗して自己の面目を保持せんが爲め、無謀の暴舉も之を敢てせざるを得ないのであります、更に國家の利害關係に付き根本的に矛盾を藏する彼等聯合國の間に於きましては、是が救ふべからざるものとなるに先だち、速かに事態を収拾せんと焦慮するは是れ亦當然のことであります、今や敵は焦つて居るのであります、敵の焦つて居る今こそ敵を徹底的に叩いて、之を破局に追込むに逸すべからざる好機であります、是に於きましてか帝國は飽くまでも冷靜沈著、此の好機を捉へて更に一段と猛烈に敵に打撃を加へんとして居るのであります、既に此の邀撃作戰は展開せられて居るのであります、例を六次に亙るブーゲンビル島沖航空戰、四次に亙るギルバート諸島沖航空戰に見るも、斯くの如き大損害を反覆被りますることは、假令如何に物量を恃む米國に取りましても、致命的の痛手となるべきは蓋し想像に難くない所であります、況や數萬の敵將兵が短時日の間に南溟深くその生命を失へるを思ひますれば、其の影響の如何に深刻であるかは蓋し思ひ半ばに過ぐるものがあるのであります、敵側指導者が此の儼たる事實を前にして、極力之を隱蔽せんと努めつヽありますることも、洵に宣なる哉であります、而して此の間敵を邀撃する皇軍の威力を愈々偉大ならしむると共に、機を逸せず、來るべき攻撃作戰への切替へを可能ならしむるものは、正に一億官民を擧げて一路邁進しつヽある戰力、特に航空戰力の増強にあるのであります、固より是と共に物心兩面に亙り、常に長期戰の構へを固むるの要あることは多言を要しない所であります、而して茲に所謂長期戰の構へとは、内に強靭なる耐久の姿勢を整へ、外に随時随所に痛撃を加ふる積極的攻撃の態勢たるべきは又論を俟たない所であります

 之を要しまするに、今後に於ける戰爭遂行の要諦は、敵が焦慮して總反攻し來れる此の好機を捕捉して敵戰力の撃摧を圖と共に、我が戰力特に航空戰力を飛躍的に強化せしめつヽ、物心兩面に亙る長期戰の構へを固め、斯くして更に攻勢に轉じて、以て遂に敵を屈服せしむるにあるのであります

 以上の戰爭遂行の要諦に基きまして、政府と致しましては國内の決戰施策に遺憾なきを期し、特に昨秋以來國内態勢の決戰化に付き各般の措置を執つて參つたのでありまするが、今後更に政府の力を致さんとする施策の重點に付きまして一言致したいと存じます

 今日前線に速かに優秀なる航空機を十分に供給し得るや否やは、正に現下の戰局の大勢を決し、今次の戰爭の勝敗を決するものであります、大量の航空機を速かに生産する、即ち量と時とは航空戰力の増強の絶対的要求であります、固より是は生易しい業ではないのでありまするが、必勝の爲には何としても之を完遂しなければならないのでありまして、先程も申述べましたる如く、政府と致しましては國民緒君と共に確信を以て是が必成を期するものであります

 而して戰力の増強、特に航空戰力の増強の爲には、鐵、輕金屬、石炭、其の他の重要軍需物資の増産と共に、國民勤勞の強化、又海陸輸送力の確保向上が根本要件と認めらるヽのであります、重要軍需物資の増産に付きましては、政府は作戰の要求に對應し、劃期的なる増産計畫の下に是が實現に萬遺憾なきを期し、渾身の努力を致して居る次第であります、之に伴ひ國民勤勞の強化に付きましては政府と致しましては、量の増加、即ち人を増すと云ふことと質の向上、即ち、生産效率の上昇に付き凡ゆる措置を講ずる所存であります

 量の増加に付きましは、國民動員の強化として、更に國民の負擔を増大し、國民生活の上にも影響を及ぼす所少からざるものがあるのでありまするが、政府は今後の苛烈なる戰局に對應し、強力に是が實行に當らんことを期して居るのであります、固より國民諸君は此の緊急なる國家の要求に對し、欣然として之に應ぜらるべきことを私は固く信じて疑はざるものであります、質の向上に付きましては、各方面に亙り尚ほ幾多の改善向上の餘地のあることを認めるのであります、政府と致しましては是が指導に更に一段の力を加ふると共に、各方面に於ける當事者の此の點に關しまする一層の工夫と努力とに依り、萬遺憾なきを期するものであります

 海陸輸送力の確保向上に付きましては、今や海上輸送の上に於て被りつヽある損害は蓋し輕視すべからざるものがあるのであります、此の際海空よりする護衞の強化に依り船舶の損耗を極力減少すると共に、政府と致しましては輸送船、乘組員、稼航率、荷揚能率等、各般の問題に亙り緊急の對策を講じ、特に萬難を排して船舶の建造を促進し、更に陸運を強化し、以て綜合的に輸送力の確保向上を圖つて居る次第であります

 以上の諸方策と相竝び食糧の確保は必勝の爲め缺くべからざる要件であります、政府は從來とも食糧も自給態勢の強化に對しましては、愼重なる計畫の下に努力して參つたのでありまして、今や帝國の食糧は國民諸君の努力に依り、米穀に加ふるに、特に麥、芋類等を劃期的に増産し、更に滿洲國の非常なる協力に依りまして、今後戰ひが如何に長期に亙りませうとも、何等の不安もなき状態に達したのであります、皇國農村の傳統の醇風美俗の下、老若男女を問はず、相倚り相扶け幾多の困難を突破して、孜々として食糧増産に挺身致して居られまする所の農村の方々の、此の御努力は洵に感銘に堪へざる所であります、固より戰時下特に戰爭が長期となるに伴ひまして、食糧の確保が如何に重大なる問題であるかは、戰史、特に第一次歐州大戰に徴しましても明かなる所であります、政府と致しましても食糧の増産、配給の圓滑化に今後更に意を用ひまして、愈々食糧自給の強化を圖らんとするものでありまして、此の點に關しましては此の上とも國民諸君の強力を強く期待するものであります

 尚ほ戰局の進展に對處し、租税及び國民貯蓄の増強を圖ることは固より、産業資金の效率的使用を圖るの要が特に切なるものがあるのであります、政府と致しましては國民諸君の協力の下に、是が成果獲得に萬全を期する次第であります、

 以上の施策に竝行致しまして、官吏服務の決戰化は萬般の施策の根本的前提をなすものであります、曠古の重大戰局に鑑み今や我々官吏の職責遂行の如何は、直ちに國民の志氣に反映し、國民の活動を左右し、戰爭遂行に至大なる影響を及ぼすものであります、此の秋に當り特に戰時官吏服務令の御制定公布を見、戰時下に處しまする官吏の道に付き明示をせらるヽ所があつたのであります、此の際我々官吏は愈々内に省み、切磋琢磨本勅令に示されたる所を拳々服膺し、以て戰時下の御奉公に付きまして聊かの遺憾なからんことを固く期して居る次第であります

 戰爭遂行の要諦と、之に基く政府の國内施策の要點は以上の通りでありまするが、私の特に強調致さんとするものは、我等一億國民に一貫して流るヽ必勝の信念であります、大東亞戰爭の勝利獲得の確信であります、申すまでもなく戰爭は畢竟意志と意志との戰ひであります、今や世界の列強は國力を擧げて戰ふこと數年、此の秋に當り、最後の勝利は、飽くまでも最後の勝利を固く信じて鬪志を持續したものに歸するものであります、最後の勝敗の岐れ目は眞に紙一重であります、今囘の戰ひに於きましても、今後我々に襲ひ掛つて來る苦難は、愈々深刻なるものがあることを覺悟しなければならぬのであります、同時に我が猛撃の前に敵の蒙むる苦惱の更に増大することは、固より當然であります、斯くして敵味方雙方共、疲れに疲れ果てた末、必勝の信念に動揺を來し、鬪志を一歩でも早く失つた方が參ると云ふ過程を辿るべきは、當然豫想せらるヽ所であります、此の點に於いて世界に冠たる國體を有し、絶對不敗の帝國に敵對し來る國々こそ、洵に憐れむべきものであります、三千年來、彌榮えに榮えます、皇室を戴く大和民族の盡忠報國の精神は、萬邦無比であります、而して時存自衞の爲め、已むに已まれずして起ち上つた此の大東亞戰爭に於いて、此の力は何物をも燒き盡さずんば止まざる勢ひを以て進んで居るのであります、危險が身近に迫れば迫る程、困難が眼前に積れば積る程、我等一億國民の精神力は熾烈となつて居るのであります、曩にアッツ島に於て、而して最近タラワ、マキンの兩島に於て、我が勇士は寡兵克く數倍、否十數倍の敵を殪して玉碎して居るのであります、是等の勇士は、我々一億國民に代つて、大和民族に精神力が如何なるものであるかを、嚴かに敵に示して居るのであります、而も是等の勇士と何等異なる所なき偉烈を遺されて居る忠烈の將士の數知れざるもののあることを、我々は忘るヽことが出來ないのであります、洵に鬼神を哭かしむる此の偉大なる精神力こそ、我々一億國民に脈々として流れて居る底力であります、此の世界に類を見ざる精神力あればこそ、我々は遂に必ずや此の正義の戰ひの究極の勝利を獲得することが出來るのであります、敵が内心恐れをなして居るのも、實に我々の此の精神力なのであります、此の偉大なる精神力の上に立ち、而して前に述べましたる諸方策の實行に依り、劃期的戰力の増強を圖るとき、茲に我々の前途には唯最後の勝利あるのみであります

 飜つて大東亞の情勢を見ますると、昨年十一月大東亞會議の開催せられましたることは御承知の通りであります、大東亞戰爭完遂、大東亞建設完成の途上に於きまして、劃期的盛事として此の大會議が開催せられ、各國を代表する責任ある指導者自らが親しく一堂に相集ひ、親睦明朗なる雰圍氣の下に、公然と大東亞の將來を議し、共同の決意に到達致したのであります、即ち大東亞各國は共存共榮、獨立親和、文化昂揚、經濟發展、世界進運貢獻の五原則の下に、大東亞戰爭を完遂し、大東亞を建設し、以て世界平和の確立に寄與せんことを堂々宣言致したのであります

 惟ふに、大東亞共同宣言こそは、我が肇國の大理想が正に大東亞諸民族の理想と相合致することを示すものであり、而して其の全東亞人の共同の心を、最も嚴かに全世界に闡明したものに外ならないのであります、今や大東亞十億の民衆は、愈々提携を密にし、必ず東亞の侵略者、共同の宿敵米英を完全に却け、道義に基く大東亞を建設し、世界平和に寄與せんことを固く期して、獻身的努力を致して居るのであります、此の間に於ける大東亞諸民族の帝國に對しまする心からなる協力に對しましては、感激に堪へざる所でありまして此の機會に於きまして、私は諸君と共に大東亞諸民族に對しまして深甚なる謝意を表するものであります

 今や日滿一徳一心の紐帶は愈々固く、而も昨年日華同盟條約及びタイ國の新領土に關する日タイ條約の締結を始め、ビルマ國及びフィリピン國の獨立等が相次いで行はれたのであります、又マライ、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、セレベス等に於ける原住民の政治參與も著々として具現せられ、原住民の帝國に對する協力は更に一段と目覺しきものがあるのであります、而して大東亞諸國家の指導者は敵側の惡辣なる謀略と、手段を擇ばざる恫喝とに拘らず、敢然として之に坑しつヽ克く大局を達觀し、率先其の國民亦凡ゆる困難に耐へて、一路最後の勝利に向つて邁進致して居るのであります

 最近に至り米英は大東亞各地域に於ける都市の非軍事施設を盲爆し、無辜の民衆を殺傷致して居るのであります、此の敵の非人道的なる行爲に基き、生命を奪はれ、家を失へる幾多の大東亞の民衆に對しましては、私は衷心より同情の意を表しますると共に、敢然として此の苦境を突破しつヽある大東亞の民衆に對しまして、心からなる敬意を表するものであります、此の憎むべき敵の暴状は、正に天人倶に許すべからざる所であります、遠からず帝國は之に對し斷乎報復膺懲の鐵槌を下さんとするものであります、帝國の此の斷乎たる決意こそ米英の大衆の以て肝に銘記すべき所であります

 今や大東亞十億民族の結束は日に日に強化せられ、大東亞解放、大東亞建設の大事業は著々として其の巨歩を進めて居るのであります、此の秋に當り今に及んで敵米英が重慶を誘ひ、カイロに於て彼等の今後の方途を議するが如きは、既に米英を重慶との精神的連繋の破綻を暴露するものに外ならないのであります、即ち自主獨立、永久友好の日華本然の關係に立ち還れる此の新事態に直面して、今や抗日名目を失へる重慶政權下の民衆の新しき動向に目を蔽ひ得ざる敵米英としては、尚ほ未だ迷夢より醒めず、依然として從來の行掛りに拘泥する重慶指導者を懷柔する外には、最早何等施すべき術はないのであります、而してカイロ會談に依つて重慶政權下の民衆の得たるものは、遂に儚なき夢物語と内容なき援助の約束のみであり、之に依つて自らの身に襲ひ來るものは、故なき戰爭に依る苦惱の延長と増大のみであります、曩にビルマ總反攻を呼號し、今にも重慶を直接援助せんことを豪語せる英米は、今や雨季明け後乾季既に半ばを過ぐるも未だに何等なす所を知らず、斯くして再び空しく新しき雨季を迎へんと致して居るのであります

 又敵米英の説く理想、人道の如何に空虚にして不信なるかは、現に英人の支配下に在る諸民族に對し、將來米人の支配下に在る黒人に對する彼等のなす所に徴すれば、極めて明白なるものがあるのであります、抑々人種的差別を撤廢し、萬邦共榮に樂しみを偕にせんとするは、我々アジア人多年の宿望であり、永遠の理想であります、然るに米英は他民族の奴隷化に依つて、專ら自己のみの繁榮を圖らんとして居るのであります、而して東亞に於て彼等の企圖する所は、現に築き上げられつヽある、新しき大東亞を再び之を舊態に引戻し、以て專ら彼等の搾取する虐げられたる東亞たらしめんとするに外ならないのであります、是れ我等の理想と天地霄壤の差のある所でありまして、我々大東亞十億民族の決して容認し得ざる所であるます

 殊にインドの大衆が依然として英米の暴力の前に塗炭の苦しみを重ねて居りますることは、洵に同情に堪へない所であります、今やインド解放は我々十億の抑へんとするも抑へざる熱情であります、既にスバス・チヤンドラ・ボース氏を首班とし、幾多のインドの志士はインド獨立の爲め起ち上つたのであります、而して曩に自由インド假政府首班ボース氏を大東亞會議に迎へ、其の席上に於て、帝國はインド獨立の第一段梯として、皇軍の占領下にあるアンダマン諸島及びニコバル諸島を近く自由インド假政府に歸屬せしむるの用意ある旨を闡明致したることは御承知の通りであります、爾來スバス・チヤンドラ・ボース氏指導の下に、インドの自由と獨立とを獲得せんとする此の世紀の大事業は、著々として進捗しつヽあるのであります、既に精神的に飽くなき米英より離反せるインド四億の民衆は、此の正義の大運動に機を逸せず呼應せんと致して居るのであります、今や此の運動の進展に伴ひ、インド民衆の桎梏離脱、獨立蹶起の勢ひは正に全インドを蔽はんとして居るのであります、斯くして愈愈インドに於て自由インド假政府の大旆を進めらるヽ日の遠からざるを期待せらるヽのであります、之に對し帝國は大東亞の諸國家と共に、インド解放の爲め更に實力を以て積極的なる援助を送るものなることを、茲に重ねて中外に闡明する次第であります 轉じて歐州の情勢を見まするに、我が盟邦ドイツは幾多波瀾の眞只中に磐石の構へを布いて、一路米英撃摧に邁進致して居るのであります、ドイツの嘗め來れる苦難の程は我々の察するに餘りある所であります、而もドイツは國を擧げて克く之を克服して、戰意愈々揚り、飽くまでも究極の勝利を固く信じて敢鬪を續けて居るのであります、而して今や幾多の試煉を重ね、來るべき一大決戰に備へて態勢を整へたるドイツ軍は、機に乘じて其の最も得意とする陸上決戰に於て米英軍に痛撃を浴せ、敵をして再び起つ能はざらしめんと致して居るのであります、遠からずして起るべき此のドイツ軍の縦横の活躍こそ正に刮目して待つべきものがあるのであります

 今や日獨兩國は崇高なる道義に基く世界の新秩序建設に付き、終始渝らざる相互の信頼と、共同の敵米英との戰ひに於て、流されたる將兵の血に依り不可分の一體をなして居るのであります、斯くして日獨の提携、特に其の精神的提携は、戰局の苛烈なるに伴ひ益々緊密の度を加へて居るのであります、又ムソリーニ統帥の強力なる指導の下に再出發せるイタリアは、著々として態勢を整へ、樞軸の紐帶強化に邁進致して居るのであります、茲に私は諸君を共にドイツを中軸とする歐州盟邦諸國の健鬪に對しまして、滿腔の敬意を表すると共に、此の上とも提携を更に緊密にし、東西相呼應して米英を撃摧し、以て共同の使命を達成せんことを更めて固く期するものであります

 以上、重大なる戰局に臨みまする政府の所信を披瀝したのでありまするが、どうか諸君に於かれましては、政府の決意を篤と御了解賜はり、此の上とも愈々心からなる御協力を賜はりますると共に、今囘政府提出の豫算案、法律案に付きまして、何卒御審議の上、速かに協贊を與へられんことを切望致す次第であります