[内閣名] 第46代片山(昭和22.5.24〜23.3.10)
[国会回次] 第2回(常会)
[演説者] 片山哲内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1948/1/22
[参議院演説年月日] 1948/1/22
[全文]
第二回国会の開かれるにあたりまして、政府を代表いたしまして施政方針の大要を申し述べ、時局に対する政府の態度を明らかにいたしたいと思うのであります。
昭和二十三年は、わが国にとりまして、まさに歴史的な一年たらんといたしておるのであります。本年こそは、われ\/は積極的な経済建設に進み、無血民主革命の経済的基礎を築き上げなければならないのであります。現内閣成立以来約八ヵ月、政府は当面の経済危機を突破することに主眼をおいて、応急的施策を講じてきたのでありますが、来るべき一年においては、恒久的な再建計画の第一歩を踏み出し、経済復興、産業建設の年たらしめたいと考えておるのであります。この日本経済再建の事業を成就してこそ、初めて民主的平和国家は建設されるのであります。日本民主化の経済的基礎を確立してこそ、名実ともに国際社会に復帰し得るのであります。この意味において、政府はまさに本年を建設増産の年として意義あらしめるべく、決意を新たにいたしまして難局に処し、最善を尽さんと考えておるものであります。
わが国現下の経済情勢を見まするに、危機は未だ完全に去ったとは言えませんが、さいわいに連合軍司令部の指導と援助によりまして、また国民諸君の協力によりまして、復興がようやくその緒につき始めたことは、喜びにたえない次第であります。われ\/は、今後もさらに努力を続け、昭和二十三年こそは日本民族再生のための意義ある第一年度といたしまして、国民待望の経済再建への道へ雄々しく発足する年といたしたいのであります。このため政府は、全国民の熱情に訴えまして、ここに画期的な増産計画を樹立し、いかなる困難をも踏み越えて、その必成を期したいと考えておる次第であります。
第一に復興再建政策でありまするが、これは相当長期にわたり、堅実にしてしかも合理的な計画たることを要すると思います。さしあたり昭和二十三年度をその第一年度とし、まず生産増強の基盤をつくり上げるべき基礎産業と輸出産業とに傾斜重点をおきまして、増産計画を強力に実施いたしたいのであります。この再建第一年度の年間生産計画目標といたしまして政府が考えておりまする数字は、大体次のごとくであります。石炭三千六百万トン、電力三百十六億キロワット・アワー、鉄鋼(普通鋼鋼材)百万トン、硫安九十万トン、セメント二百万トン、綿糸四億八千万ポンド。政府はこれによりまして、鉱工業生産においては、昭和二十二年度に比べまして、おおむね四割以上の増産を達成せんと考えておるものであります。しかして米麦等の主要食糧につきましては、全農家が各戸ごとに従来の通常生産高に対してさらに一割を増産するよう、政府農家一体となりまして努力を尽す計画であります。
政府は、右計画が、国会はもとより、全国民的規模におきまして審議確定せられ、ただちに実行に移されることを期待して、近く各界関係専門家の代表者の参集を請い、経済再建促進のための会議を提唱し、右の計画目標が関係者一同のみずからの目標として確認せらるることを予期しておる次第であります。
特に石炭の増産につきましては、政府は組閣以来増産を重点的に企画いたしたのでありますが、この際さらに、第一国会を通過いたしましたる臨時炭鉱管理法を十分有効に活用いたしまして、増産第一主義を発揮するに遺憾なきを期したいと考えておる次第であります。現在においては、出炭は逐次軌道に乗り、昨年十二月は、二百九十万トンという終戦後の最高記録を打立てることができました。もちろん、これに満足せず、さらに五ヶ年増産計画を立て、一段と出炭増強に邁進する所存であります。
さらに電力につきましても同様、さきに発表いたしました電力危機突破対策要綱を強力に推進いたしまして、発電力の増大に努め、また生産の増強と不可分の関係にありまする輸送力につきましては、陸上、海上ともに、その損耗と破壊の程度が特に著しいものがありまするので、これが整備充実に十分考慮を払う考えであります。
右によりまして、鉱工業生産全体の画期的増大を期待するとともに、輸出振興の基礎を固め、進んで国民の消費資材につきましても増産をはからんとするものであります。
次に農業生産につきましては、政府はこれに全力を傾倒いたしまして、その増産確保に努力いたしたいと考えております。すなわち政府は、農業協同組合の生産部面における活用を通じまして、農家経営の改善をはかり、これをもって農業生産力増大の基礎といたしたい考えであります。また供米割当の合理化をはかる措置を急速に実施し、供米は農民諸君の責任、供米に対する生産資材及び報償物資配給は政府の責任とし、ともに責任を分担して食糧難解決に進みたいのであります。この意味において、食糧供出制度につきましては、これを根本的に改正する必要を痛感しておりまするので、近くその法案を本国会に提出して、責任供出制度を確立する方針であります。なお二十二年度産米の供出は、各方面の努力によりまして、すこぶる順調に進捗しつつありますることは、感謝にたえない次第であります。
この際ここに、中小企業について一言したいのであります。中小企業は、今後のわが国輸出産業の支柱となるものであるばかりでなく、現在の国内経済情勢から考えまするならば、中小企業に依存せざるを得ない人々は、ますます増加する傾向にあるのであります。中小企業の振興は、まさにわが国経済再建の中心命題でありまするので、政府はこの際、大いにその振興策をはかる方針であります。
第二に、大体以上のような生産増強、産業建設の計画により、政府はインフレーションを抑止し、一段と再建を促進していく方針でありまするが、かかる計画を実施して増産目標を達成するためには、今後ともインフレーションに対しては確固たる対策を講じなければならないと考えておるのであります。
いまさら申し上げるまでもありませんが、インフレの進行の直接の原因は通貨の増発であります。通貨の増発を抑えるためには、政府の財政支出を節減し、産業に対する赤字的融資を抑制するとともに、租税の納入を促進し、預金の増加をはからなければならないのは当然であります。もとより、敗戦国として当然負担せねばならぬ経費も多額に上り、産業資金も度を超えて抑制いたしまするならば、かえって生産の低下となり、税金の取立てにも限度がありまするが、しかし、現在のごとき通貨膨張の傾向をいつまでも続けていきまするならば、いつかは破局化する危険があるのでありまするから、どうしてもわれ\/は、インフレの進行の速度を弱め、遂にはこれを停止させるところまでもっていかなければならないと考えております。
そのためには、まず財政支出の切詰めと財政収入の増加によって実質的な財政のバランスを回復しなければならないのであります。すなわち二十三年度予算におきましては、政府は財政の規模を国民経済の実力に合致させることを根本方針とし、歳出については、真に民主的国家再建に必要かつ有効な費目のみに限定するとともに、行政機構の改革、行政整理等によって行政費の節減に努めまして、一ヶ年を通じての収支の均衡を確保するのみならず、進んで財政収支の時期的調整をはかっていく方針であります。他方歳入の面におきましては、国民の租税負担はすでに相当高率に達しておりまするが、滞納、未納の税金が巨額に上っておる現状に鑑み、第一回国会において行われた租税完納運動に関する決議に基きまして、目下国会を中心とせる一大国民運動を全国的に展開しておりまして、国家再建のために進んで納税を行うよう国民の納税義務観念の徹底をはかっているのであります。
政府といたしましても、税務機構の拡充強化と税務運営方法の刷新とをはかり、税務官吏の待遇を合理的に改善する反面、その職責に対する自覚を喚起し、綱紀を粛正する考えであります。いわゆるインフレ所得者等の脱税に対しましては、これを国民の敵といたしまして徹底的に糾明し、悪質な脱税者に対しては体刑を課する等処罰を強化し、また第三者通報制を活用する等万全の策を整えつつある次第であります。
税制の改正につきましては、具体案を追って本国会に提出する予定であります。これにより、国民所得の実情と経済事情の変動に即し、勤労大衆の立場をも十分考慮した措置を講じたい所存であります。大体の方針といたしましては、二十三年度において勤労所得税を軽減いたしたい考えであります。
次に、通貨膨張の原因となる産業資金の貸出しにつきましては、復興金融金庫の融資に対する監督を強化し、現行の融資準則による融資規則の方法に加えるに、物資割当と資金融通との連繋を緊密にする方法をとり、極力放漫貸出しを防止する方針であります。しかしながら、無差別に産業資金を抑制して、健全なる産業活動をも阻害することは、絶対に避けなければならないのでありまして、政府といたしましては、金融機関はあくまで産業の奉仕者たるべしという建前のもとに健全金融を確保いたしたい考えであります。
なお、インフレの破局化を防止するためには、通貨に対する信頼感を増強することの必要なるは言うまでもありません。この意味において、政府は新円再封鎖のごときは絶対に行わないことをここに言明する次第であります。
第三に、インフレ対策の眼目は、帰着するところ物価と賃金の安定を実現し、家計の赤字を解消することであります。このため政府は、今後も一般国民生活水準を実質的に確保するために努力するはもとより、実質賃金を充実するに全力を尽し、物価と賃金の悪循環を断ち切って、生産の増強と相まち、一日も早く国民生活、特に勤労者の家計の安定を実現いたしたいと考えておるのであります。
政府は、まじめに働けば必ず食える体制を実現する方針のもとに実質賃金の一層の充実をはかるために、次のような方策を行わんとするものであります。
まず主食につきましては、一般配給に差支えのない限り、現行の労務者加配米制度を新たな見地から根本的に検討し、配給基準の合理化及び配給方法の刷新を行い、厳に実稼働に応ずる効率的な運用をはかって、労働の軽重に応ずる必要量の配給を確保いたしまするほか、配給操作技術の許す限り、米、麦、小麦等重点主義をとりまして、加配米の質及び量の合理化を行うとともに、いやしくも遅配、欠配の生ずることのないように配給を確保いたしたいと思っておる次第であります。
次に魚類、蔬菜等の生鮮食料につきましては、現行リンク制を重点的に強化いたしまして、その生産を計画的に確保し、正規配給の格段な増加をはかっていく方針であります。その他食料品、衣料品、家庭燃料等、勤労者の生活必需品についても、また国民生活の最低限維持のため供給確保をはかり、特に重要産業労務者に対しては、供給力の増加によって増加配給の実現を期し、よってこれら勤労者に重点配給を行う考えであります。このため政府は、配給の的確敏速をはかるため、各種公団組織を初め配給機構の適切な運営をはかるほか、地域及び職域の生活協同組合を育成助長し、また勤労者用物資を確実にとらえるため、特別な強力な新しい配給方式を採用いたしたいと考えておる次第であります。
以上のような方法によりまして、できるだけ公定価格による配給を殖やし、家計中のやみ支出をなくして、重要産業に働く人々の実質賃金を充実することにより物価と賃金の安定を実現せんと考えておるのであります。政府といたしましては、物価と賃金の問題は、この実質賃金充実に主力を注ぎ、いたずらに貨幣賃金を引上げて物価騰貴を誘発し、物価と賃金の悪循環を招くやり方を避ける方針であります。現行物価体系につきましても、この角度から慎重な検討を加えまして、これを改訂するにいたしましても、その時期と方法を誤らないよう、真に勤労者の生活を擁護する建前に立って善処いたしたいと考えておる次第であります。勤労者諸君においても、政府の意のあるところを諒察して、積極的に物価、賃金の安定施策に協力されるとともに、その成果をしばらく見守る雅量をもっていただきたいと考えるのであります。
最近、労働者諸君の間に健全なる労働組合運動が澎湃として湧き起りつつあることは、日本民族再生のために、ようやくにして明るい希望がさしそめたものとして、まことに喜びにたえない次第であります。真に民族と国家の将来を思う諸君の健全なる良識と聡明なる判断によって、経済の破壊や社会秩序の混乱を企図するごとき一部の不健全分子は、遠からず、あげて清算さるべきことを期待してやまない次第であります。
第四に、政府は、次に行政機構の改革を断行して、能率増進の徹底をはかり、政治上における民主化を実現するとともに、一般企業の健全化を促進する手引といたしたい考えであります。しこうして、その目標は、行政機構の簡素合理化と、行政事務の整理再建編成と考えているのであります。これは中央における官僚的傾向を払拭するとともに、各官庁間における権限の重複を排除し、官吏の責任の所在とその明確化を期することに重点を置いておるのであります。さらにまた地方自治の精神に則りまして、これに関する中央官庁の権限は可及的に地方に委譲いたしまするとともに、地方出先官庁は徹底的に整理いたす考えであります。各省各庁は、以上の処置によって、人員の整理をもはかる必要ありと考えておりまするから、数よりも能率主義を徹底いたしまして、人員整理を予算上及び官制上において行いたいと考えているのであります。同時に、官吏の待遇はできるだけ改善いたしまして、その反面、官紀は徹底的に粛正する方針であります。なお、行政機構の相当思い切った根本的改革を断行するために、内閣に官民よりなる行政機構改革審議会を設置いたしまして、早い時期にその結論を得たいと考えておるのであります。
生産増強のためとはいえ、行政整理によって、やむを得ない失業者の発生が予想されるのでありまするが、政府は失業の全般的情勢に即応し、必要に応じて財政上許す限り最大限の経費を割き、失業対策に遺憾なからしむる方針であります。しかし、いたずらに失業手当受領者を殖やすことのないよう積極的に就業の機会を提供し、労働力の吸収活用をはかるべきはもちろんであります。政府は、さきに述べました増産計画と並行いたしまして、国民職業の安定方策につきましても計画を立てつつあるのでありまするが、農業方面に人口吸収の余地の少いことを考慮いたしまして、鉱工業部門と輸出産業の発展とにより、その生産力を増大せしめまして、これにより失業者を吸収する方策を樹立する考えであります。
第五に、その他、政府は新日本建設のため文化対策、生活改善対策をとるとともに、あらゆる角度からその促進をはかりたい考えであります。すなわち、教育の刷新振興のために、その財政の許す限り六・三制の実施に進む方針のもとに、勤労青年のための定時制高等学校を含む新制高等学校と、盲聾唖児童の義務教育を開始するとともに、教育の地方分権化を期したい考えであります。さらに教育行政の民主化のために、また科学、芸術を尊重し、国民の文化水準を高めるために必要な具体策をとる予定であります。特に科学研究の振興と技術水準の向上のためには、研究者並びに技術者の方々の自主的な意向を尊重しつつ必要な施策を講じていきたいと存じております。
さらに、戦災都市の復興を促進し、庶民住宅及び重要産業労務者の住宅建設に努力いたすつもりであります。殊に全国的に頻発した水害と災害の復旧に関しましては、今日これに十分な対策を講ぜざるときは、国土の全面的荒廃を招来するおそれがありまするので、単に応急的処置に止まることなく、恒久的な治山治水対策を確立いたす所存であります。
海外、特にソ連地域に、今日なお七十五万余名の同胞が残っておられまするので、これらの方々及びその留守宅の方には深く同情を表し、その引揚げ促進につきましては、あらゆる対策を講じてまいったのでありまするが、思う通り進まなかったのは遺憾であります。政府は、今後さらに各関係当局にあたって、最大の努力を尽す考えであります。
さらにまた、金のかからない選挙公営の徹底を本旨とする選挙法の改正を望んでやみません。選挙の明朗化は、新日本のために最も必要なることと考えております。
第六に、政府は講和会議が一日も早く開催されることを希望いたしておるのでありますが、何よりも必要なることは、わが国としてなすべきことを、国民みずからがまず果すということであります。それは政治上の制度改革問題のみならず、復興のための経済再建についても、みずからなすべき義務を果し遂げなければならないと思うのであります。いたずらに世界の憐みを請うというがごときことでは、とうていわれらの希望は達成されないのであります。よって政府としては、今後とも積極的に日本民主化の徹底に進むとともに、経済民主化の実施により、わが国経済の復興再建に全力を注ぎ、もって何時でも講和会議に臨めるようにいたしたいと考えておる次第であります。
最後に、国会を通じて全国の勤労者及び農民諸君に一言希望を申し述べたいと存じます。日本経済再建の成否は、一にかかって諸君の双肩にあるのであります。社会秩序の混乱と再建経済の破壊とを企図するがごときことは、諸君のとらざるところであると信じます。諸君の聡明なる判断と健全なる常識とに訴え、その努力によって生産増強と経済再建が達成されることを希ってやみません。政府は、諸君の建設的な運動に対しましては、活溌なる成長を希望し、心からなる支援を惜しまないことを、ここに明らかにいたしたいと思うのであります。
さらにまた、全国民大衆諸君にお願いいたしたいのであります。私は国民生活安定を政治の究極の目的といたしております。これを達成するために努力をいたしておりまするが、われらは今日何をさておいても、まず祖国の経済復興をはからないことには、決してわれらの政治の目的は達せられないということを考えなければならないのであります。すなわち、民主的に国民大衆諸君の御協力を得まして、ここに初めて復興再建が実現することを信ずるものであります。祖国再建には、高遠なる政治理念と道義的観念とを必要とするはもちろんでありまして、私は、さらにこれに加うるに、乏しきをもち寄り、力を出し合って経済的再建に協力する建前が、今日最も要請せらるべきであると考えるのであります。ここに第二回国会の議場を通じ、切に国民大衆諸君の御協力をお願いいたしまして、私の施政演説を終る次第であります。