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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第48代第2次吉田(昭和23.10.15〜24.2.16)
[国会回次] 第4回(常会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1948/12/4
[参議院演説年月日] 1948/12/4
[全文]

 私は、第四回国会の初めにあたりまして、ここに施政の方針の演説をいたしますことを、欣快に存ずるものであります。

 去月十五日、私の演説において述べました通り、現内閣は、芦田内閣総辞職後首班指名を受けた少数党内閣であります。この少数党内閣は、まず国民の信を問うために、世論に従い、冒頭解散をいたすべきものと信じておるのであります。第三国会は、芦田内閣以来公約せられました公務員法及びその関係法規の制定のために召集せられた臨時国会であります。それゆえに、その通過のため、関係方面のあっせんによりまして、先月二十八日、政府と社会党、民主党、国協党等主要政党との間に協定が成立いたしたのであります。すなわち、政府は公務員給与及びその他緊急予算を第三回国会に提出し、野党はその予算の提出後二週間を経て不信任案を通過せしめて、衆議院を解散することになっておるのであります。その予算は、去る二十九日提出せられ、現に本第四回国会において審議せられつつある緊急予算であります。従って、私の施政方針演説も、その予算を主としていたすものと、御了承願いたいのであります。

 第一に、国家公務員法の改正に照応いたしまして、公務員の生活を保証し、その職務の能率的運営を確保するために、国民経済と国家財政の現状とをにらみ合わせて、公務員に対する妥当なる給与対策を講ぜんとするものであります。

 第二は災害復旧費であります。近時各種の災害が相次ぎ、罹災地方に対しては、まことに同情にたえないのであります。これが根本対策につきましては、組閣以来腐心し、苦慮しておるのでありまするが、とりあえず本国会に提出した予算中に所要経費の一部を計上いたしまして、迅速適切な処置を講ぜんとするものであります。

 次に、現在なお海外在留者は四十余万に上っておりまして、四たび酷寒の寒い異境において越冬を余儀なくされておる状況は、まことに憂慮にたえないところであります。今後一段と引揚促進にあらゆる努力をいたしますとともに、引き揚げ同胞及び留守家族の援護厚生につきましては万全の処置をいたしたいと考えておるものであります。

 その他予算成立後の経済状況、殊に物価騰貴等の必要に基きまして、終戦処理費、価格調整費等の増額を計上いたしております。

 他面政府は、わが党年来の主張によりまして、生産第一主義にのっとり、統制の整理簡素化、行政の整理、企業の合理化を断行いたしまするとともに、健全財政の方針を堅持いたしまして、収支の均衡をはかることを根本といたして財政計画を立て、一層健全なる予算の編成に努力いたすつもりであります。

 なお特につけ加えたきことは、文教刷新、民主教育の徹底であります。これが国家再建の根本であることは今さら申すまでもないのでありますが、新しい理想を目ざして発足いたしました新教育制度は、現に実施の途上にあるものであります。この完成のためには、今後容易ならぬ努力を要するのであります。政府は、あとう限りの熱意をもちまして、その実質的な完成を期したいと考えております。

 最後に申し述べたいことは、講和条約についてであります。先般第三国会における決議にある通り、講和条約なき限り、わが国の独立は確保せられないのであります。わが経済復興は期し難いのであります。講和条約促進のためにも、まず第一に、わが国において民主政治が確立せられなければならぬのであります。

 新憲法の成立せる今日、これが運用を全からしむることは、その精神にのっとり、最も正しき憲法上の慣例をつくり上げることであります。このゆえをもって、わが党は、新憲法のもとに行われました最初の総選挙の結果を尊重いたしまして、首班を当時の第一党たる社会党に譲り、吉田内閣は総辞職をいたしまして、民主政治の趣旨精神の貫徹徹底を期したのであります。

 次に、主義政策を異にせる政党の連立内閣は、遂に内閣を弱体化し、敗戦後の国家再建を妨ぐるものと考えまして、当時わが民自党は入閣をがえんじなかったのでありますが、爾後一年有余、政局は安定を欠き、政党政派の離合集散続出し、経済は萎縮し、生産は振わず、紛擾また紛擾、ために片山内閣より芦田内閣に及び、遂に疑獄事件のために吉田内閣の出現に至ったのであります。

 しかるに、さきの首班選挙にあたりまして、私を首班に推せるは百八十余、白票を投ずるは二百有余にもかかわらず、首班の指名を受けて国会内における少数党内閣たるの事実の明白なる以上、早きに及んで正しい国民の批判をまつことこそ、国民諸君の期待するところであると考えるのであります。公党たるものは、よろしく国民の命ずる、国論の命ずるがままに総選挙に当り、正しい民主政治を確立すべきものであると考えるのであります。

 第二には、わが国復興再建でありまするが、わが国唯一の経済資源は生産的労働力であります。正直にして勤勉、企画的にして能率的なるわが国民の労働力が、その愛国的熱情をもってわが国再建復興に協力する事実の顕著なるに至ってこそ、外資の導入となり、資材の供給となるのであります。すなわち、わが国経済の復興が世界の繁栄増進の一環をなすことを列国が承認するようにならなければならないのであります。

 第三に、現下の疑獄事件に至りましては、わが国未曾有の不祥事件であります。政府は、これが究明に努め、再びかかる不祥事の起らないように努力したいと思うのであります。政府としては、強力に綱紀粛正の方途を講じ、政界の浄化と官紀の粛正をはかり、政治と行政に対する国民の信頼と列国の信用を回復しなければならぬと思うのであります。

 以上申し述べた三点の達成により、わが国は初めて講和条約を締結し、待望の国際団体復帰を許されるに至るものと信ずる次第であります。各政党は、しばらく党利党略を度外し、その主義主張に基いて互いに切瑳啄磨し{前3字目ママ}、わが国再建復興のために、公党として民主政治の確立、経済復興に努力せられたいものと、私は切望してやまないものであります。