データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第5回(特別会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1949/4/4
[参議院演説年月日] 1949/4/4
[全文]

 ここに現内閣の施政の方針に関して一言する機会を得ましたことは、私のまことに欣快とするところであります。

 思うに、国民は今回の総選挙におきまして、終戦以来の苦しき経験にかんがみ、安定せる政局のもとに、わが国の再建を健全なる保守政党に託さんとして、われ\/保守政党を圧倒的に支持したものと考えるのであります。ここに政府は着々所信を断行いたしまして、もって国家の復興再建を成就し、外は連合国の好意と援助にこたえ、内は国民の興望と負託にこたえんとするものであります。

 十年間にわたる無謀なる戦争による、名状し難い破壊と混乱の跡始末をなし、わが国の復興再建をはかるために、挙国一致協力、この痛ましき現状を直視して、一大決心と覚悟のもとに、敢然として将来の大計を立つべきときと考えるのであります。

 昨年十二月二十九日、マッカーサー元帥の私にあてた九原則を含む書簡及び最近におけるドッジ氏声明は、すべて右の趣意に出でたものであります。私も、この線によるにあらずんば、わが国の再建はできがたしと衷心より信ずるものであります。

 今回提出せんとする予算は、この九原則及びドッジ氏の声明を了承いたしまして、政府の責任においてこれを具体化したものであります。政府は、幾多の困難なる事情あるにかかわらず、まずもって均衡予算を作成し、真の自立再建をはかる決心であります。しかしながら、敗戦後、今日に至る間、わが経済は非常に縮小し、わが財源は極端に枯渇し、重税に国民はいまだかつて見ざる苦痛を感じつつあるのであります。まことに憂慮にたえざる事態であります。ゆえに政府は、根本的に行政財政等の改革を断行し、均衡予算案実施の途上においても税制及び徴税方法の改善をはかり、他面、歳出の面におきましても、さらに現実に節約を期し、でき得る限り国有財産を処分し、その実績を得るに従って臨時国会を召集し、予算の補正、国民の負担軽減をはからんとするものであります。

 真の安定と進歩とは、国家的諸問題を健全なる財政通貨の政策により処理することに立脚しなければならないのであります。有効な安定をもたらすためには、財政政策の基本的手段たる政府予算とすべての政策決定とを関連せしむることが必要なのであります。過去においてインフレーションを激化せしめたものは、主として政府であります。今日の段階においてこれを終熄せしめなければ、国家経済の破滅を来すほかないのであります。補給金、投資その他一般費目から支出を創ることは、政府にとってはなはだ困難なことでありまするが、これは必ず実行しなければならないのであります。

 また、わが国の現状を見まするに、日本の生産指数は、米国の援助資金の大幅な累進的増加によりまして上昇しており、輸入超過額も増加し、輸出入の不均衡は年々激増しつつあるのでありますが、わずかに米国の援助資金によって、つじつまを合わせておるような次第であります。この現状は、国家経済上看過しがたきところであります。経済の終局的安定をはかり、徹底的にインフレーションを終熄せしめ、さらにゆたかなる経済的発展を遂げ、祖国を自立再建するためには、国民生活にたとい一時容易ならざる影響があるといたしましても、国民最大多数の究極における幸福のために断じて行わねばならぬところであります。でき得る限り早く光明のある未来を招来するためには、手術は早きを必要とし、国家をしてこの手術に耐えしむるためには、一に国民諸君の不動の信念と熱烈なる愛国心の協力にまたねばならないのであります。連合国、特に米国の日本に対する深い理解と絶大なる援助は、われ\/の衷心感謝にたえないところであります。しかしながら、われ\/として最も大切なることは、でき得るだけ早くこれらの援助なくして自立し、祖国を復興することであります。私は、連合国の恩恵のみに依存することなく、国民みずから強烈な自主的精神と、耐乏生活に徹した努力とによって、すみやかに再建を成就する決心を、八千万国民がこぞって固うせられることを切望してやまないのであります。英国国民が非常なる決心のもとに経済的自立を目ざして協力一致の態度は、まことにもってわれわれが最も学ぶべきところと信ずるのであります。私は、現内閣が今後遂行せんとする強力にして責任ある政策に対し、国民諸君が全幅の後援と鞭撻を与えられんことを切望してやまないのであります。

 ここに一言いたしたいことは、近く設定を見る運びになっております単一為替についてであります。単一為替レートは、申すまでもなく貿易振興、外資導入のため必要欠くべからざるものであります。現在の日本経済は、一応表面的には安定の段階に達したように見えまするが、その実は自力によるものでなく、米国の援助を支援によって支えられてある安定でありまして{前22字目ママ}、内面に幾多の不安定要素を包含しておるのであります。また、たとい単一為替レートの設定を見ましても、健全なる経済力の回復がなければ、これを維持し得ることはできないのであります。また、経済復興に必要なる外資の導入も期しがたいのであります。なおその他輸出産業の刷新とか、農業の振興改良とか、失業対策、災害対策、文教の刷新、科学技術の振興、道義の高揚等、これことごとくみな重要な問題でありまするが、これらの施策については、順次所管大臣から説明があるはずであります。

 なお、海外同胞引揚げについて、外務大臣として一言いたします。これまで約六百十余万の引揚げを了しておりますが、いまだなお四十余万の同胞が、厳寒の地に四たび越冬を余儀なくせられておることは、まことに遺憾なことでありまして、その親戚故旧及び家族に対しては、まことに同情にたえないのであります。連合軍司令部も非常なる同情をもって引揚げ完了に盡力し、相手国との交渉に不断の努力を払っておらるる結果、相手国も綿国の事情は深くこれを了としておりますから、本年中には引揚げを完了し得ると私は考えるのであります。

 この機会に一言つけ加えまするが、近ごろ、わが国にの国際情勢より来る将来の危険性に関連し、いろ\/なうわさが生じておるのでありますが、これは大戦後常に生ずる状態でありまして、いずれの国も、今日戦争の記憶は今なお新たなるものがあるのであり、いずれの国も、平和を欲する国はあれ、戦争を欲する国はないのでありますから、国民諸君におかれても軽々しく海外の情報に迷わされることなきよう希望してやまないのであります。

 また最近、学術、宗教、赤十字、労働、通商等の諸会議にわが国の招請せられるものようやく多く、また通商使節として海外渡航を許されるもののだんだん多きに至っておりますことは、まことに喜ぶべき現象であります。

 また国内事情において、極右、極左というような言葉がよく使われるのでありまするが、これはためにするものの言うところであって、現在国民の大多数は、安定せる政局のもとに経済再建を強力に衷心よりこいねがって、その道に邁進協力して行こうと決心しておる国民であることは、私は信じて疑わないのであります。しかしながら、またあらゆる手段を弄して祖国の再建を妨害するものがあることは、これまた遺憾ながら明らかなる事実であります。少数でありましても、とかくそれの存在することは事実であることを認めなければならぬのであります。

 これを要するに、このたび提出の予算案は、戦後のわが政府が当然実行しなければならなかったことでありますのを、今日までゆるがせにしておったものであります。政府は、ポツダム宣言及び九原則を含むその他の管理政策を熱意を持って誠実に遵守履行し、国民はこぞって経済的愛国心により自主経済並びに民主政治を確立し、世界列国が一日も早く栄誉ある国際社会の一員としてわが国を迎え入れるに至らんことを、私は切に国民諸君とともに希望するものであります。

 ここに政府の施策大綱と私の衷情とを披瀝し、あえて国民諸君の協力と奮起とを衷心より切望いたすものであります。