[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第7回(常会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1950/1/23
[参議院演説年月日] 1950/1/23
[全文]
第七回国会開会に際しまして、ここに施政の方針を述ぶるは、私の欣快といたすところであります。
終戦以来四箇年有余、同情ある外援と国民の努力によりまして、食糧事情は緩和せられ、生産は漸次回復し、貿易また増進いたしまして、財政の均衡を得るとともに、インフレは終熄し、今や国家復興によみがえらんとする国民の意気とみに旺盛なるの概あるは、まことに御同慶の至りであります。
経済の安定は自然政情の安定を促し、民主主義は国民の間にます\/根底を固め、健全なる発達をいたしておることは、諸君御承知の通りであります。過激思想に対して、国民は正確なる判断のもとにこれを支持せざる事実は、累次の各種選挙において、はなはだ明瞭なる事実であります。すなわち各政党の得票に徴しまして、この事実ははなはだ明瞭と私は信ずるのであります。労働運動は、矯激、挑発的傾向より、漸次合法手段によって労働階級の利益の保護増進に努めんとし、穏健なる歩調をたどっております。わが政治経済の安定は、自然連合国の好意と期待とをもって迎えられ、対日講和の機運を醸成しつつあるは、諸君のつとに感知せらるるところと信ずるのであります。
隣邦諸国を顧みますれば、中国の政情はなはだ安定を欠いておるのみならず、その外交関係はしきりに粉糾を加え、東南アジアもまた共産分子の活動に非常な脅威を感じておるのであります。極東の平和のために、まことに憂うべき事態であります。この間、ひとりわが国は、復興再建の曙光に一層の希望を抱き、新年を迎えて新日本建設の決意を新たにするの状あるは、まことに邦家の大慶であるのであります。国民は講和実現、国家の復興、東洋の平和のために相率いてます\/努力をいたすべきときと私は信ずるのであります。幸いに講和条約成り、国際団体の一員として再び国際間に活動の自由を得るにおきましては、国民は一段と矜持を高むるとともに、新たなる希望に燃えて、政治経済活動に一層の光彩を添うることと考えます。その機会の一日もすみやかに至らんことを私は切望いたしてやまないものであります。
さきに臨時国会におきまして、講和問題につき種々論議せられましたが、全面講和の何人もこれを希望するのはもとよりでありますが、しかしながら、これは一に国際の客観情勢によることでありまして、わが国の現状といたしましては、いかんともできないことであります。また、わが国の将来の安全保障につき内外多大の関心の生じていることは当然のことでありますが、わが憲法において厳正に宣言せられたる戦争軍備の放棄の趣意に徹して、平和を愛好する世界の輿論を背景といたしまして、あくまでも世界の平和と文明と繁栄とに貢献せんとする国民の決意それ自身が、わが安全保障の中核をなすものであります。戦争放棄の趣意に徹することは、決して自衛権を放棄するということを意味するものではないのであります。わが国家の政策が民主主義、平和主義に徹底し、終始この趣旨を厳守して行動せんとする国民の決意が、平和を愛好する民主主義国家の信頼を確保するにおきましては、この相互の信頼こそ、わが国を守る安全保障であるのであります。この相互信頼が、民主国家相互の利益のため、わが国の安全確保の道を講ぜんとする国際協力を誘致するゆえんであるのであります。
今回ここに提出いたします明年度予算は、本年度予算同様、総合均衡予算の原則を堅持するものであります。また既定の経済安定復興政策を、さらに積極的に遂行せんとするものであります。総合均衡予算は、既往昭和六年以来初めて現内閣においてここに編成せられたものであります。ただに真の均衡を確保し得たるのみならず、明年度は本年度に比して約八百億円の歳出入の節約を断行いたします。九百億円の減税を実現いたします。また約一千億円の公共事業費を計上いたしまして、わが国経済の積極的復興をはかるとともに、教育費に約四百億円、災害復旧に四百七十億円、失業対策等社会政策諸費に五百六億円、その他の重要行政費に相当の額を計上いたしまして、国民生活の安定向上に資せんとするものであります。
税制改革は国民多年の要望であり、また政治の源であります。政府は、シャウプ博士の勧告に基き、前国会に引続き、中央地方を通じて、すでに全面的税制の大改正を行わんといたしておりますが、なお進んでます\/行政の簡素化、官庁、官業の合理化ないし統合を遂行いたしまして、財政の緊縮、課税の軽減をます\/行うのみならず、地方行政調査委員会議の調査を待ちまして、地方制度をも改革し、健全なる自治の発達、地方財政の確立をはからんとするものであります。地方府県民諸君は、政府の趣意のあるところを了承せられて、地方制度の簡素化、支出の節約、府県民の負担の軽減を自主的に実現せられるよう、また政府に十分の協力をせられるよう切望してやまないのであります。
政府は、今回の公務員給與ベースに関する人事院の勧告には応じがたしとの結論に達したものであります。現給與は、実質的には昨年三月改訂せられたばかりでありまして、爾来物価は毎月低落の傾向にあるにもかかわらず、もし給與の引上げを行いますならば、遂に物価と賃金の悪循環を引起し、再びインフレに逆行することはもちろんであるのみならず、減税、各種手当の適正なる支給、社会施設の充実整備等実質賃金の向上によりまして公務員の生活保障に努めんとするものであります。しかしながら、政府も目下の給與をもって足れりとするものではないのであります。財政の余裕を待ってさらに検討を加えまして、もって十分なることをいたしたいと考えておるのでありますが、公務員諸君もしばらく忍んで国力の回復に協力せられんことを希望いたします。
統制の整理撤廃は、わが党年来の政策でありまして、政府もつとめてその実現に力をいたし、統制品目の大部分を整理いたしましたが、なお明年度においてさらに大幅にこれを減少して、残存品目はこれを最小必要の限度にとどめたい見込みであります。
鉱工業昨年度の生産は、戦前の八〇%に達し、一昨年に比し二割余の増加を示しております。ことに質的方面における向上の跡は、まことに顕著なるものがあります。貿易は漸次増進いたしまして、昨年の輸出は一昨年の倍額に上っております。最近輸出入ともに管理貿易より民間の自由貿易に移行せしめましたが、なお他面、通商協定、海外渡航、政府出先機関、商社の支店の設置、船舶の増加に伴う可及的自国船舶による通商等、貿易の条件に改善を加えんと力をいたしております。
食糧問題は著しく好転いたしておりますが、政府は、あとう限り国内食糧を増産して自給度の向上をはかるべき根本方針は、あくまでもこれを堅持する方針であります。また新たに農政審議会を設け、農地の改良保全、農産物の最低価格の維持等、農家経済の改善安定に資する施策に万全を期したいと考えておるのであります。
その他重要なる諸般の問題につきましては、主管閣僚において説明するところによって御承知を願いたいと思います。
最後に特に一言いたしたいことは、海外抑留同胞のことであります。現在なおソ連地区に残留しておる多数同胞の実情調査に関し、先般東京において、シーボルト議長のもとに開かれた対日理事会の討議に基き、米国及び豪州政府のとられたる措置に対し、政府は深甚なる謝意を表せんとするものであります。政府は、引続き本問題の迅速満足なる解決に全力を傾倒いたしたい考えでございます。