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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第8回(臨時会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1950/7/14
[参議院演説年月日] 1950/7/14
[全文]

 第八回国会開会にあたりまして、ここに施政の方針を述べることは、私の喜びとするところであります。まずここ当面の問題について所見を述べることといたします。

 地方税改正法案の意図するところは、さきに成立した国税関係の諸改正法律とともに、国税、地方税を通ずる国民租税負担の均衡及び軽減をはかり、あわせて地方財源の強化拡充を通じて、わが国民主化の根幹たる地方自治及び財政の確立に裨益せんとするものであります。前国会において地方税法案が不成立になりました結果は、地方公共団体の財政運営の上にはなはだしく支障を来し、よって政府は各般の応急措置により当面の問題を救済いたしたのでありますが、すみやかに地方税制を確立することを政府は念願といたすものであります。政府は、これらの事情を十分考慮し、その後における事情の変化に即応し、また各方面の意見を尊重いたしまして所要の修正を加え、再び本国会に提出いたすのであります。もとより国民租税負担の軽減はきわめて重要なことでありまして、政府は引続きその軽減に努力いたしまするが、負担の軽減は国税、地方税を通じて初めてできるのであります。今回の改正案によりまして、地方自治の強化を期し、かつては租税負担の均衡をはからんとするものであります。地方税総額は増加し、税種によりましては若干負担が増加いたしまするが、国税及び地方税を通ずる国民負担の総額は軽減いたさるるのであります。

 地方財政自立の結果といたしまして、今後各地方において歳出を節約し、地方民の負担を軽減すれば、それだけ地方民の負担を減ずることを得る次第でありまして、私は、地方財政は中央財政とともに一層緊縮節約せらるることを期待するものであります。

 終戦以来、占領下すでに五年を経過いたしまして、やや国民の独立心、愛国心がいささか沮喪するに至ったのではないかと感じられる節あることは、まことに憂うべき次第であると考うるのであります。独立心、愛国心のなき国民が国際間において尊重せらるるはずはないのであります。早期講和は今や国民のあげて熱望するところでありまするが、早期講和を期するにあらずんば、わが国民の愛国心、独立心の維持はむずかしいと考うるのであります。また早期講和を実現せんといたしますならば、国民及び政党があげて一致協力、既往の行きがかりのごときはこれを捨てて大同につき、国家再建復興のため、まず政治経済の安定にともにともに全力を尽すべきものであると思うのであります。政府は、この全国民の要望を体し、講和に臨む国内態勢を一段と整備いたすために最善の努力をいたしておるのであります。幸い、最近米英等の連合国において対日早期講和の機運が強く拾頭いたして参っておりますことは、また対日講和の準備が進められておることは、外電等において諸君御承知の通りであります。

 六月二十五日、突如として北鮮共産軍が三十八度線を越えて南鮮に侵入し、アジアの一角に紛争状態を現出するに至りました。国際連合においては、時を移さず加盟国大多数の同意を得て侵略者の武力制裁を決定し、平和回復維持に極力努力いたしておるのであります。しかしながら不幸にして、ただいま南鮮には混乱状態が現出しておるのであります。この突発事件は決して対岸の火事ではないのであります。共産勢力の脅威がいかにすでにわが国周辺に迫っておるかを実証するものであります。赤色侵略者がいかにその魔手を振いつつあるかは、朝鮮事件によって如実に示されておるのであります。すなわち、わが国自体がすでに危険にさらされているのであります。この際国際連合の諸国が敢然として立って、多大の犠牲を顧みず被侵略者の救援に出動いたしておりますることは、われ\/の大いに意を強うするところであります。万一大戦争が勃発した場合、わが国の軍備撤廃の結果、わが安全保障はいかにするか、いかにして保障せられるかということは、国民が常に懸念するところであります。この懸念よりいろ\/な議論が粉糾いたしておることは諸君御承知の通りでありますが、国際連合今回の措置は、わが人心の安定に益するところ多大であり、またわが人心に影響するところ多大であると考うるのであります。わが国としては、現在積極的にこれに参加する、国際連合の行動に参加するという立場ではありませんが、でき得る範囲においてこれに協力することは、きわめて当然のことであると考うるのであります。

 かかる事態に直面いたしまして、いまなお全面講和とか永世中立とかいうような議論がありまするが、これはたとい真の愛国心から出たものであるとしても、まったく現実から遊離した言論であります。みずから共産党の謀略に陥らんとする危険千万な思想であります。わが国の安定は、わが国民自身が進んで平和を愛し、国際正義にくみする国民の精神、態度を中外に明瞭にいたして、平和と秩序を重んずる自由国家とともに世界の平和に貢献せんとする国民の意気を明瞭に内外に表明することによって来るのであります。すなわち、やがて自由主義国家の一員として迎えられ、わが国の安全が保障せらるるに至るのであります。

 国民一致して平和を確保し、民主主義諸制度の樹立に努力すべき今日、一部国民の間には、過激なる思想を鼓吹し、あるいは他人を煽動し、あるいは反米運動を使嗾し、ただに国内治安を紊乱し、国家再建復興を阻害するのみならず、あたかもわが国において共産主義の激化しつつあるかのごとくよそおい、早期講和の機運を阻止せんとするもののあることは、まことに私の遺憾とするところであります。政府は、法の示すところに従い、特に治安の維持のために善処する考えであります。政府が、さきに日本共産党中央委員並びに同党機関紙アカハタの編集責任者に対し公職追放の手続をとりましたのも、またこの趣旨に出るのであります。

 政府は、かねて治安維持の必要上警察制度につきまして深く留意し、その研究を続け来ったのでありますが、去る八日、わが国の警察及び海上保安制度に関して、マッカーサー元帥より、最近の治安状況にかんがみ、さらにわが国の警察力を民主的諸国家の水準に達せしめるに足るまで、その数を増加すべきことを許容せられたのであります。また許されたのであります。また海上保安庁も、わが国の長い海岸線を不法な入国者や、あるいは密貿易から守るために、さらにより多くの人員が必要であることは明らかであります。政府は、わが国の治安に対し常に甚大なる関心を有せられる連合国最高司令官の好意をすみやかに具体化し、少数不法の破壊分子による民主政治の攪乱を防止し、密出入国の取締りを厳にするため、その與えられた権限に基いて警察予備員七万五千を増加し、また海上保安庁定員を八千名増加し、従来の国家地方警察及び自治体警察と相まって、わが国の治安の維持に万全を期せんとするものであります。

 政府は、さきに本年度予算編成にあたり、前年度に引続き均衡財政の大方針を堅持するとともに、その実施にあたっては財政と金融との一体的な総合調整に意を用いておるのであります。今や物価も賃金も一応の安定を見、インフレの危険は去ったのであります。これはまさに国民全体が誇るに足る安定計画の成功であると考うるのであります。政府は、この安定をさらに強固にし、復興再建への基盤を一層充実するため、さきに財政経済の新政策を決定し、これが実現のために着々準備を進めております。

 国民生活の向上については政府の常に意を用いて来たところでありますが、なかんずく公務員の給與ベースにつきましては、インフレ抑圧、財政均衡の目標に向って公務員諸君の協力を得たことを満足に考うるものであります。今や財政の均衡を得、経済また安定の度を加えた今日におきまして、政府はさらに行政諸経費の節減をはかると同時に、国家財政の許す限度、時期において給與ベースの増額に資せんとするものであります。

 今、貿易の推移を見まするのに、昨昭和二十四年度における輸出入ともそれぞれ前年に比し増加を示し、さらに本年四月には戦後最高の実績を見るに至ったのであります。しかしながら、いまだ経済自立への規模に到達するにはほど遠いものがあるのであります。政府としましては、貿易振興のため、協定貿易の促進、海外市場への拡大、ことに先般設置いたしました米国内在外事務所の効果に顧みまして、さらにスターリング地域及び東南アジア地域にも在外事務所を設置し、かつ輸出金融機関の設置に努力するとともに、従来の統制を大幅に撤廃し、世界市場への参加に資せんとするものであります。

 失業対策は政府の常に関心を有するところでありますが、失業の情勢は必ずしも楽観を許さないのであります。政府としては、輸出産業を中心とする民間産業の振興をはかるのほか、都市及び農村を通じ昨年度に倍する約一千億円の公共事業の実施等による雇用量の増加を失業対策の根幹といたしまして、失業情勢の変化に即応して、本年度失業対策事業費の残余三十億円を一応繰上げ使用する等によりまして、応急対策の機動的運用並びに失業保険法の改正によりまして、失業者なかんずく日雇い労働者の就職の確保と生活保護にできる限りの努力を傾ける考えであります。

 以上、当面する問題の大要につきて政府の所信を述べた次第であります。