[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第9回(臨時会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1950/11/24
[参議院演説年月日] 1950/11/27
[全文]
本日ここに提出の...所見を述ぶる機会を得ましたことを欣快と存じます。最近、外電は対日講和の近きを報じ、米国を中心として関係諸国間に予備交渉が進められつつある趣でありますが、これは長い間講和を待ち望んで来たわれ\/日本国民にとって、まことに喜びにたえないところであります。一日もすみやかに、一国とでも多く講和をいたしたいと切望いたしておるわが国民としては、平和国家、民主国家としての日本の再建にさらに一段の努力を傾注すべきときであると信ずるのであります。
なおこの機会に、政府は、スエーデン国王グスタフ五世陛下の崩御に対し深く哀悼の意を表するものであります。スエーデン国は、戦時中わが国の利益代表国として在外邦人に対し多大の好意と庇護とを與えられたるのみならず、戦後もかわらざる好意を寄せられておることは、まことに感謝にたえません。新国王グスタフ・アドルフ陛下は、先年現皇后陛下とともにわが国を訪問せられ、京都、奈良のわが国に保存せられたる東洋文化につき非常に興味を持たれ、わが国に対し深き理解を有せられる方であります。私は陛下の御即位に対し、つつしんで慶祝の意を表するものであります。思うに、日端関係は陛下の御即位によりまして、一層親善を加うることを信じて疑わないのであります。
先ごろ予期せざる朝鮮事変の勃発を見たことは、きわめて遺憾のことであります。これはわが国民にも多大の衝動を與えたのでありますが、われ\/はまた韓国国民に対しまことに同情にたえざるものであります。幸いにして国連軍の適切果断の処置により事変の終熄がはかられつつありましたが、本日マッカーサー元帥みずから陣頭に立って全軍を指揮し、北鮮の戦闘をただちに終結せられんとする趣であります。これにより朝鮮全土のすみやかなる平和回復も期待せられ、まことに慶賀にたえないのであります。東亜、ひいて世界の平和のために一日も早く安定が回復することを希望いたしてやまないものであります。
政府がここに提出の昭和二十五年度の補正予算の大要を申し述べますが、まずわが国の経済の自立性を確立するため、価格調整費は当初予算よりもさらに大幅な減額を行うとともに、災害復旧費、失業対策費等にそれヾ/相当額を計上することにいたしたのであります。
公務員の給與につきましては、政府は財源や経済全般への影響の関係につき研究中のところ、今や経済状態も著しく安定の度を加え、また財源にも若干余裕を生じましたので、この際公務員の給與改善につき考慮を払いました。政府としては今後も引続き行政機構の簡素化、定員の減少に努め、もって冗費の節約を一層徹底して行うことはもちろんであります。
なお政府は先般大幅な税制改革を行い、国民の租税負担の軽減をはかったのでありますが、今なお負担は相当に重いのであります。今後一層の減税を加えたいと考えておるのであります。
以上が本年度補正予算の大綱でありますが、国民の精神的方面の作興、すなわち文教の振興の重要なること今日にしくものはないのであります。最近、民主的秩序を暴力をもって破壊せんとするものの行動は国民多数のいるるところとならず、その勢力も逐次衰退しつつあるのでありますが、一層この際教育に思いをいたし、健全なる国民思想の涵養をはかるべきものであると、かたく信じておるのであります。
さきに国家公務員法が公布せられましたが、ここに地方自治の直接の担当者である地方公務員に対し地方公務員法案を提出いたすことにしたのであります。またこれによって中央地方を通じ民主国家にふさわしい公務員制度の完成を期せんとするものであります。
政府は昨年二月公職資格訴願審査委員会を設置し、爾来同委員会は熱心かつ慎重に審査を進めて参りましたが、その結果、一万有余名に対する特免を発表することを得たのであります。これらの人々が今後わが国の自立再建に貢献せられることは期待いたして誤らないと考えるものであります。
わが国の経済安定復興のため貿易の振興の要をます\/痛感せらるるのでありますが、現在までに二十四の通商協定が成立し、在外事務所の設置、邦人の海外渡航の機会の増加、その他通商振興のための諸問題が漸次解決しつつあるのであります。特に最近輸出が飛躍的に増進いたしておりますことは、わが国貿易の前途のためにまことに賀すべきことであります。政府はさらに貿易に伴う資金の円滑なる供給を確保するため輸出銀行を設置する所存であります。また輸出振興の基盤としてわが国中小企業の占める重要性は、政府のつとに認むるところであります。特にその金融については、すでに見返り資金のわくを広げる等の措置をとったのであります。
電気事業再編成法案は、前々国会において不幸にして成立することができなかったのでありますが、本問題は集中排除法に基き一日もすみやかにこれを実現する義務であるのであります。またわが国の電源、ことに水力発電の開発により電力の供給を豊富ならしめることの必要は申すまでもないことであります。かかる事情のもとにおいて、政府は今般電気事業再編成令及び公益事業令をポツダム政令をもって公布するのやむなきに至ったのであります。
災害対策は、わが国再建のため最も重要な問題の一つでありまして、政府としては、これについては最大限の努力を払っております。すなわち、既定公共事業費及び予備費を支出するほか、今回の補正予算にも相当額を計上いたしまして、すでに発生した災害の復旧と災害防止の応急工事の迅速なる施行に努めるとともに、今後は治山治水費等の増額により、その根本対策を強力に推進し、あわせて農業の振興及び食糧自給度の向上を期したいと考え、その施策に遺憾なきことを期しておるのであります。
最後に、在外同胞の引揚げについては、従来政府は懸命の努力を傾けておるのでありますが、総司令部当局の多大なる理解と不断の好意により、近く国連総会において正式に討議されることとなっており、すでにわが国よりも国民の代表が非公式に招聘されて渡米いたしております。本問題が国際正義によりやがて解決せらるることを私は確信して疑わないのであります。