データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第10回(常会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1951/1/26
[参議院演説年月日] 1951/1/26
[全文]

 ここに私は、第十回国会の開会に際し、施政の方針を述ぶることを欣快といたします。

 最近わが国の復興再建の機運とみに横溢し、昨年末には辺隅の地に至るまでまれに見るところの光景を呈したことは、まことに御同慶の至りであります。目を国外に転ずれば、朝鮮動乱は中共軍の参加とともに一層の粉糾を生じ、これを中心として冷たい戦争の様相を世界至るところに現わし来っております。この間に、わが国における共産主義者の跳梁はようやく影を治め、治安上何ら憂うべきものなきことは御承知の通りであります。いな、わが国を民主主義の基盤として、極東共産主義制圧の一勢力たるの期待をかけられつつある国際的環境にあるのであります。この内外の情勢は、自然対日講和の機運をます\/高め来り、わが国が米英その他多数の民主、自由主義国家の間に伍する日の遠からざるを思わしむることは、わが全国民のともに\/満足するところと信ずるものであります。そのここに至らしめたるは、終戦以来わが国民の独立を思うの熱誠、愛国の至情であるのであります。またこの熱誠なる至情は、つとに連合国、わけて連合国総指令官たるマッカーサー元帥の了解せられるところであり、久しきにわたりて終始かわらざる好意ある努力の結果であることを記憶すべきは申すまでもないことであります。

 講和条約の問題は、自然わが国の安全保障に想到し、すでに種々論議の焦点となっておりますことは、もとより当然のことであります。わが国の安全は、国民みずからの力によって保障され、擁護せらるべきはもちろんであります。しかしながら、これをただちに再軍備に結びつけ、これを軽々に論断することは私のとらざるところであります。わが再軍備論は、すでに不必要な疑惑を中外に招いており、また事実上強大なる軍備は、敗戦後のわが国力の耐え得ざるところであることは明白であります。国の安全独立は、一に軍備軍力のみの問題ではないのであります。頼むべきは国民の独立自由に対する熱情であります。独立自由愛国的精神の正しき認識とその観念であります。この熱情及び正しき観念に欠くる軍備は、外に対しては侵略主義となり、内においては軍国主義政治となるのは、わが国最近の事実の経過に徴してはなはだ明らかなところであります。再軍備に対しては、国民諸君は最も慎重を期せられたいと存ずるものであります。

 朝鮮の動乱は、国際連合の努力にもかかわらず、今なお解決を見ないことは、まことに遺憾とするところであります。もとより世界にわたる民主、共産両陣営の間には根本的の対立が存在するのであり、従って、いわゆる冷たい戦争は容易に解消しがたいのであります。第三次世界大戦の勃発必要なるを思わしむるごとき神経戦は、今後ますます世界に至るところに激化することを覚悟しなければならないのであります。この間に処してわが国民に最も要望されるものは、一時的な戦局の推移に一喜一憂することなく、冷静毅然たる態度を持することであります。世界の自由と平和と正義を確立せんとする民主主義国家の目的は、必ずや究極の勝利を収むべきものと私は確信いたします。わが国民は、右顧左眄することなく、世界政治に民主自由主義の確立を目ざして他を顧みざるの気概を有すべきものであると私は存ずるのであります。

 講和条約後わが国が真の独立国家として立ち上るためには、経済の自立をはかるはもちろんでありますが、強く国民道義を高揚し、国民の自立精神を振起することが根本であります。これがため文教の振興に一段の力をいたしたいと考うるのであります。

 政府の財政金融政策の基調とするところは、すでにかち得た安定の基盤の上に、経済の自立を目ざして積極的に努力を積み重ねて行くことであります。近時わが国産業界がます\/活況を呈していますが、久しきにわたる戦中、戦後、わけて敗戦日本の復興回復は、まことに容易の業ではないのであります。国民一致協力、わが国経済の着実な復興発展をはかるべきものであると存ずるのであります。

 今回提出いたしました昭和二十六年度予算案は、この構想によって編成せられたものであります。真の財政の均衡を堅持しつつ、産業経済の回復をはかるとともに、本年度に引続いてさらに大幅の減税を行わんと欲するものであります。前年来歳出の節減による減税に努め来ったのでありますが、なお国民は重税に苦しみつつあるのであります。政府は、行政の簡素化、歳出の節約とともに、税制及び徴税方法の改善に一段の努力を払いたいと考えるものであります。

 産業金融政策におきましては、資本の蓄積と輸出入の振興に重点を置く所存でありますが、ことに輸入の促進につきましては、国際的軍備拡充の気構えに伴い、諸原材料はその価格が高騰するのみならず、各種の重要物資の入手がはなはだ困難なる現状に顧みまして、国内資源の開発活用、輸入の促進をはかるとともに、必要なる船腹の増強にその力を注ぎたいと考うるのであります。なおまた電力、鉄道交通及び通信事業の公共性、及びこれが産業開発の根幹をなす事実に顧みまして、これら事業の拡充、振興に一層の努力を払いたいと考えます。

 政府は、わが国の農林水産業の現状に顧み、これが発達奨励に必要なる公共事業費等を計上するのほか、長期資金の確保につき、近くこれに関する特別措置を講ずる考えでございます。

 また最近台風等による被害がはなはだしく、政府は重要施策の一として災害対策を重視し、さらに積極的に治山治水、利水事業の総合計画を強力に実する考えでございます{前11字目ママ}。

 わが国経済の自立振興のためには、労働秩序の安定が大切なことでありますが、幸いに昨年来、特需産業その他各種部門において雇用量は増加しつつあるのであります。政府は産業の振興によりさらに失業者の吸収をはかるとともに、失業対策事業費を増額計上し、失業者の就労の確保並びに生活の保護に努力いたしたいと存ずるのであります。

 近来国民生活は漸次改善せられ、生活水準も向上しつつあるのでありますが、社会保障制度の整備及び結核の予防撲滅に注意し、政府は明年度よりその対策強化のため必要なる予算を計上いたしております。

 政府は、一層地方自治の確立をはかるために、地方の税及び財政制度等をさらに整備する目的をもって関係法律案を提案いたします。

 政府は、現下の内外の諸情勢にかんがみ、警察制度の改正及び海上警備を一層充実いたす考えであります。

 引揚げ問題に関して、いまなお多数の未還者のあることは、まことに遺憾に存ずるのでありますが、本件は先般国連総会にも上程せられ、わが国よりも代表が出席いたしたことは諸君御承知の通りでございます。幸い国際連合に捕虜に関する特別委員会が設置せられることになっております。この委員会の今後の活動に多大の期待を持っておるのでありますが、政府は目的達成のために、なお今後ともあらゆる努力を払う考えであります。

 以上のほか、重要政務につき順次所管大臣より説明いたすはずでございます。