[内閣名] 第50代第4次吉田(昭和27.10.30〜28.5.21)
[国会回次] 第15回(特別会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1952/11/24
[参議院演説年月日] 1952/11/24
[全文]
去る四月、国民待望の講和がなって、わが国はようやく自由諸国家の一員として国際社会に復帰することを得、かつ去る十一月十日には、皇太子殿下の立太子の礼及び成年式が、国内はもとより世界各国の祝賀のうちに、めでたくとり行われましたことは、諸君とともに、まことに喜びにたえないところであります。
独立後最初の総選挙において、国民の大多数はわが党を支持し、私は四たび国政を担当することになりましたが、ここに政府の施政方針を申し述べることを欣快といたします。
政府は、世界平和維持のため国際連合及び民主主義諸国家と提携をますます緊密にし、ことにアジアにおける平和と安定の増進に寄与するため、アジアの民主主義諸国との相互理解を深め、これとの国交に特別の注意をいたしたいと存ずるのであります。また、朝鮮における国際連合の集団的措置が、平和維持の努力であるのみならず、これがわが国に直接かつ重大なる関係を持つことに顧み、国際連合の要望に対して、今後ともあとう限りの協力をいたす考えであります。
わが国の対外国際経済関係については、わが国内の諸経済施策と呼応し、互恵平等の原則に基く通商航海条約を締結し、ことにアジア諸国とは、貿易の増大並びに可能な範囲の技術協力、資本提携を通じ、緊密な経済関係の樹立に努力を傾注する所存であります。また、賠償問題の処理については慎重に考慮をいたしております。
南西諸島及び南方諸島の祖国復帰に関しましては、現地居住者はもとより、全国民の要望するところであります。政府は、その実現に努力するとともに、さしあたり同地域との関係をますます緊密にし、現地居住者に関する懸案事項をすみやかに解決して参りたいと考えております。
民心安定と経済再建の基盤となる治安の確保については、将来にわたる治安情勢の推移に備え、適切な対策を講じて参りたいと存じます。国内における一部破壊分子による暴力主義的の活動は、近時表面的にはややその影をひそめておるかに見えまするが、その基本的な企図には、ごうも変化はないのでありまして、国際情勢との関連を保ちつつ、将来一層周到かつ巧妙な方法によって自由社会を崩壊せんとする行動に出ずる危険性は依然としてすこぶる大なるものがあります。この種類の破壊活動に対しては、政府は一貫した治安対策のもと、治安関係諸機関の活動の連携統一をはかるとともに、警察力の発揮に遺憾なからしめ、いやしくも暴力を手段とする不法過激分子の蠢動に対しては、断固法をもってこれを取締り、もって治安の完璧を期したいと存ずるのであります。
なお、これに関連し、戦後急激に改革された現行警察制度及び治安関係諸法令についても、現下のわが国情に適合しないと思わるる点について検討を加え、能率的かつ民主的な治安機構の運営を保障し得るよう是正をはかりたいと存ずるのであります。
在日朝鮮人は、日本に居住する限り、わが国の法秩序を尊重すべきは当然でありまして、日本の治安を乱る一部不法分子に対しては厳重な取締りを励行する所存でありますが、他方、平穏に生活する善良な朝鮮人に対しては、善隣友好の精神にのっとり、安んじて正業を営み得るよう努力したいと存ずるのであります。
戦争犯罪に受刑中の者に対しましては、そのすみやかなる釈放措置が広く一般国民より熱烈に要望されておるところでありまするが、幸い仮出所につき、関係国の好意により漸次好転しつつありまして、政府においては、今後もこれが解決のため、一層の努力をいたす所存であります。
終戦後の教育改革については、その後の経験に顧み、わが国情に照して再検討を加うるとともに、国民自立の基盤である愛国心の涵養と道義の高揚をはかり、義務教育、産業教育の充実とともに、学芸及び科学技術の振興のために格段の努力を払う所存であります。
政府は、従来の均衡財政の方針はこれを維持しつつ、国民負担の軽減、公務員給与の改訂、地方財政平衡交付金の増額、米価引上げに伴う措置並びに財政投資及び公共事業費の増額を中心として本年度補正予算を編成し、国会の審議を求めております。
なお政府は、明年度においては国税及び地方税を通ずる税制の一般的改正を行い、さらに国民負担の軽減合理化をはかる所存であります。
次に、当面の金融方針については、物価の安定をはかりつつ、今後も一層民間資本の蓄積を促進するとともに、貸出し金利の引下げ、財政資金の産業投資等をはかるため各般の施策を推進して参ります。
また、国際通貨基金への加入、外貨債の支払いを機会に、友好諸国との貿易の振興をはかるとともに、今後外資導入についてはます\/努力いたしたいと思うのであります。
食糧自給の強化をはかることは、民生の安定、経済自立達成上特に緊要である点にかんがみ、農地の拡張改良を積極的かつ計画的に施行するとともに、治山治水の対策の実施に努めまして、農業生産の基盤を整備することとし、これがため必要な財政金融の措置を講じたいと思っております。
生産の規模を拡大し、流通機構を整備して生産の増強をはかることは、わが国経済の重要課題であります。これがため、政府はまず貿易の振興について、通商航海条約、通商協定の締結等、一連の経済外交を推進するとともに、外航船舶の増進をはかり、輸出産業の強化、保有外貨の活用とあわせ、輸入を促進することによって輸出市場の開拓をはかり、もって貿易規模の拡大に努め、特に東南アジア諸国との経済提携を促進せんとするものであります。
産業政策としては、その基盤を育成強化するため、電源開発を一層促進し、基礎産業の合理化に努め、これらに対し外資及び優秀技術の導入を進めたいと考うるのであります。
中小企業については、中小企業金融制度の強化と財政資金の投下によって資金供給の円滑化をはかる等、その育成振興に努力する考えであります。
政府は、戦時戦後を通じて著しく荒廃した鉄道、電話について、すみやかなる更新拡充をはかるとともに、特に資源開発、観光外客誘致のため、幹線道路、産業観光開発道路の整備増設をはかる考えであります。
国民生活の安定は経済復興の基礎をなすものであることにかんがみ、政府は国民一般の厚生施設、勤労者の福祉向上、住宅の不足を緩和する等、各般の施策に留意する所存であります。
また遺家族、留守家族の援護につきましては、去る第十三国会において所要の立法をいたしましたが、なお軍人等の恩給についても、世論と国家財政を勘案して、近く所要の法的、財政的措置をいたしたいと考えております。
この機会に申し述べたいことは、未帰還者同胞のことであります。政府は、帰還促進についてさらにたゆまざる努力を傾け、その留守家族に対する援護にも遺憾なきを期するものであります。
最後に特に申し述べたいことは、いわゆる再軍備の問題であります。世上再軍備につき種々の議論がありまするが、政府の所信は一貫してかわるところはないのであります。国力の回復に伴うて自衛力の漸増をはかるべきはもちろんでありまするが、現在の段階は、もっぱら物心両面における国力の充実に努力を傾くべきときであると信ずるものであります。