[内閣名] 第50代第4次吉田(昭和27.10.30〜28.5.21)
[国会回次] 第15回(特別会)
[演説者] 吉田茂内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1953/1/30
[参議院演説年月日] 1953/1/30
[全文]
第十五回国会の休会明けにあたり、政府の所信を述ぶる機会を得ましたことは、私の最も喜びとするところであります。
皇太子殿下には、昨年立太子の礼を滞りなく終えさせられ、今春は天皇陛下の御名代として英国女王陛下の戴冠式に参列あらせらるる予定であります。なおこれを機会に欧米諸国を御歴訪遊ばさるるよう承っております。この御旅行によってます\/知見を広めさせらるるとともに、友好諸国との国交の上にもよい影響をもたらされることを信じ、慶賀の至りにたえないのでございます。
独立後最初の予算案を提出するにあたり、まずもって国民諸君に訴えたいことは、独立日本としては、自由諸国との提携、なかんずく対米親善関係を一段と緊密にし、力を国連協力にいたし、もって世界平和への貢献をなすことであります。米国においてアイゼンハウアー氏が新たに大統領に選ばれ、ダレス氏が国務長官に就任したことは、米国のアジアに対する関心を語るものであり、日米関係の将来にも新しい希望を感ぜしむるものであります。
しかし、日米の関係を緊密にすると同時に、独立日本として、占領中の施策中の行過ぎの感のあるもの、または占領中必要ありて、その必要の去りしものに対しては、これを是正するは、国の自主性のために当然の措置であるのであります。
道義の高揚、治安の確保、国民生活の安定は、組閣に際し政府政策の基調として声明したところでありまするが、道義の高揚は、究極において教育の作振にまつほかはありません。政府が今回義務教育費の全額国庫負担を決意し、教職員を国家公務員とするの措置をとるは、このゆえにほかならないのであります。もちろん道義の高揚は各種の施策の総合によらなければなりませんが、政府は今回の施策により義務教育の面目を一新するものであります。
政府は、治安の確保のため警察制度の改革を必要とし、近く案を具して国会の同意を求めるつもりであります。現在の警察制度は、占領下、警察制度民主化の名のもとにつくられた制度でありまするが、国警、自警の区別は往往にして両者の連絡を欠き、警察目的の達成に不便を来すことなしといたさないのであります。今回の改革の目的は、叙上の欠陥を是正し、旧弊の復活を戒むるとともに、効率的警察制度を確率せんとするものであります。
昨冬行われました電産、炭労の両ストは、わが国において空前のものであったばかりでなく、外国にも多くその例を見ない長期大規模のものであり、幸いにして潰裂前一歩にこれを収拾し得ましたのでありますが、しかもその一般国民生活に与えた脅威と損害は実に甚大なものがあります。政府は、今回、この種ストの影響を少くするため、公共的性質を有する産業の争議に対し適当の制約を加うることを考え、この国会中に提案する所存であります。
行政機構の簡素化と行政運営の能率化は、前内閣以来の宿題として、政府は欠員不補充の措置を引続き強化し、配置転換等によって事務の能率を上げておりまするが、さらに一歩を進めて、極力行政事務並びに機構の合理化をはかりたい所存であります。地方制度についても、再検討を要するものは一にして足りませんが、政府は中央地方の有機的関係を密にすることを主旨として、目下地方制度調査会に諮問中であります。その答申をまって改正の実施を行わんとするものであります。
以上、占領政策の是正とともに、政府は財政の許す範囲において旧軍人の恩給を復活することにいたしました。しかしながら、旧軍人と言い条、その九八%は普通軍人以外の応召軍人とその遺族であります。総額の九二%は遺族の扶助料であるのであります。国の再建にあたり、まず古い創痍を医するのは、思うに当然のことであり、戦争責任を長く旧軍人にのみ帰することは、社会平和をもたらすゆえんでないと考うるのであります。これに伴い、留守家族の援護もさらに強化することにいたしました。
一般国民の福祉については、政府のつとに意を用い来ったところで、今回国民健康保険を充実強化するの措置を講ずるとともに、従来の健康保険についても、その適用範囲を拡大する等の施策を行うことにいたしたのであります。
政府は、さらに、人口問題が独立日本の前途に横たわる重大にして深刻なる課題なるにかんがみ、その解決の一助として、移民問題に関し適当の措置を講ずるつもりであります。
もしそれ二十八年度総予算については、大蔵大臣より説明をいたしますが、独立日本の門出に際し、主力を国家経済の自立と国民生活の安定に注いだのは言うまでもないことでありまするが、政府は、乏しき財源を、電力の開発、道路交通網の整備、食糧の増産に重点的に配付し、特に中小企業の振興を強力に推進いたしたいと思うのであります。防衛費に関しましては、不要になった安全保障諸費を削除するとともに、よって生じた余裕の一部を保安隊の訓練強化、装備の充実に充て、もって保安隊創設の目的達成に遺憾なきを期するものであります。
思うに、独立日本の前途は決して容易なるものではありません。政府は、当面する危局を克服し、国の将来を開拓する上に不断の努力を傾けております。諸君におかれても、政府の意のあるところを了とせられ、厳正なる審議を尽されんことを希望いたします。