データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第54代第3次鳩山(昭和30.11.22〜31.12.23)
[国会回次] 第24回(常会)
[演説者] 鳩山一郎内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1956/1/30
[参議院演説年月日] 1956/1/30
[全文]

 第二十四回国会に当りまして、本日、昭和三十一年度予算案を提出いたしまして、政府の所信を述べる機会を得ましたことは、私のまことに光栄と存ずるところでございます。

 昨年の秋に、自由民主党の結成と社会党の統一とによりまして、二大政党の対立が実現を見ましたことは、わが国憲政史上画期的な意義を持つものであります。この機会に、両党は、政党責任政治のあり方を国会運営の上に誤まりなく映し出しまして、相ともに国会の品位を高めることに努力いたさなければならないと考えております。二大政党対立の実現と民主政治確立のために身をもって尽されました緒方竹虎君を突如として失いましたことは、国家のためまことに痛恨のきわみでございます。

 さて、平和外交の推進は、第一次鳩山内閣以来、一貫としてとってきた不動の方針でありますが、政府は一そう強力にその方針を推し推めて参りたいと決意しております。

 申すまでもなく、わが国外交の基調が、自由主義陣営の一員として、米国を初め、その他の民主主義諸国との協調にあることは当然でありまして、政府は、今後、これら諸国との提携を一段と緊密にして参るつもりでありますが、ソ連に対しましては、必要な重要案件を解決して、平和条約を締結いたし、すみやかに国交を正常化するとの既定方針に従って、引き続き誠意をもって交渉を進める所存であります。

 さらに、アジア諸国との関係につきましては、貿易伸張に必要な経済外交の建前からも、一段と協力親善の度合いを密にする必要があると痛感をしております。従って、まず懸案の賠償問題、なかんずくフィリピンとの賠償問題の早期妥結に最善を尽すとともに、その他の東南アジア諸国との国交樹立や、中共に対する貿易関係の改善にも力を注ぎたいと思うのであります。

 日ソの交渉と関連いたしまして、特に一言いたしたいことは、共産主義国家と国交の正常化をはかることと、国際共産主義の宣伝方策に対処することとは、おのずから別個の問題であるということでございます。政府は、国内的には、あくまでも反共主義の立場を堅持いたしまして、国民を共産主義思想の浸透から防いで自由と民主主義を守るために、厳正な方策を講じて参る決意でございます。さらに、治安維持に関しましては、関係機関の連絡を密にいたしまして、遺憾なきを期する所存であります。

 以上のような外交方針とも関連をして、わが国が国力と国情に相応した自衛力を整備いたしまして、みずからの手でみずからの国を守り得る態勢を整えて、米駐留軍の撤退に備えることが必要なことは申すまでもないことであります。政府は、明年度においても、自衛隊の人員や装備について所要の増強を行うとともに、防衛に関する施策に遺憾なきを期するために、すみやかに国防会議の構成などを定めまして、これを発足させたいと考えております。

 次に、わが国が真の自主独立を達成するためには、占領中に制定されました各種の法令や制度を、わが国情に即したものに改める必要があることは、しばしば申し述べた通りであります。私は、さきの国会で、憲法改正と行政機構の改革を施政の目標として掲げましたが、この二つの目標こそ、心から日本の独立をこいねがう為政者としては、終戦十年の今日、何よりも先に考えなければならない当然の責任であると信じて疑いません。特に、国の大本を定める憲法については、その内容とともに、これを制定するときの経緯と形式が非常に大きな意義を持つものであります。日本国民が、みずからの手によってみずからの憲法を作り上げる準備を進めるために、まず内閣に憲法調査会を設ける手続きをとって、慎重に検討を開始すべきであると考えております。

 また、行政機構についても、実情に適合しない制度や組織は、この際根本的に改革をいたしまして、国民に便宜を与えるものに作りかえる必要があります。政府は、昨年の末行政審議会を強化して、広く各方面の公正な意見をとり入れつつ、根本的な改革案を検討しておりますが、成案を得次第、できるだけ早い機会に所要の法案を提出いたしたい所存でございます。

 次に、わが国の経済状況を見ますると、昭和三十年度の国際収支は、輸出貿易の飛躍的な増加によりまして、きわめて好調を示し、さらに農産物の空前の豊作も手助けとなりまして、産業活動は活発となり、国民経済は安定した基礎のもとに拡大発展の方向をたどりつつあることは喜びにたえません。政府は、今回、このような経済事情にかんがみまして、経済自立五カ年計画を決定したのでありますが、その五カ年計画の初年度に当る昭和三十一年度においては、引き続き、経済正常化の方向を一そう促進しつつ、生産地盤の強化と輸出の振興、雇用の増大等に施策の重点を置きまして、計画目標達成のための基礎を確立することに努めたいと考えております。三十一年度予算案に盛り込んだこれら重要政策の詳細につきましては、関係閣僚から説明することになっておりますので、私は、そのおもなるもの二、三について簡単に申し述べることにいたします。

 その第一は、産業基盤の強化と輸出貿易の振興についてであります。

 わが国経済発展の基礎がこの二つにかかっていることは申すまでもございません。そのため、政府は、あらゆる産業の近代化と合理化を一そう推進いたしまして、さらに労使の協力体制を確立することなどによって、生産性の向上をはかり、産業基盤を強化することに力を尽す考えであります。また、経済外交の推進と相待ちまして、国際通商の改善や海外市場の開拓、輸出品価格の安定などによって、貿易の振興に特段の力を注がなければならないと考えております。

 その第二は、民生の安定と失業対策についてであります。

 国民生活の安定は、自主独立の完成のために欠くことのできないものとして、われわれが第一次内閣以来掲げている重要政策の一つでありまして、そのため、政府は、特に今まで、社会保障の拡充強化と住宅の建設、減税の三つに力点を置いて参りました。、そのうち、社会保障の中心課題とも申すべきものは、疾病に対する医療保障の確立にあると思われますので、将来、全国民を包含する総合的な医療保障を達成することを目標として、計画を進めていくつもりでございます。また、住宅につきましては、既定方針通り、十カ年で住宅難を解決するという目標のもとに、三十一年度は、質の向上にも重点を置いて、四十三万戸を建設する予定であります。さらに、従来不均衡の感を免れなかった国民の税負担につきましては、三十一年度は、さしあたり特に勤労所得税の軽減に重点を置きましたが、さきに三大目標の一つとして表明いたしました中央、地方を通ずる税制の根本的改正は、三十二年度からこれを実施することとし、早急にその検討を開始する所存でございます。

 現下の失業問題は、政府の最も重視しているところであります。この根本的解決は、結局、経済の拡大発展による雇用の増大に待たねばならないところでありまして、経済五カ年計画において、その実現に努めることにしておりますが、当面の対策としては、特別失業対策事業と、道路の新設整備や各種の国土開発などによる公共事業の総合的運用によりまして、極力失業者の吸収をはかる計画であります。

 重要政策の第三は、新農村の建設と、中小企業の振興でございます。

 まず農林漁業対策としては、特に青年の自主的活動を中心として、適地適産を目標とした土地条件の整備、経営の多角化、技術の改良などに力を注ぎまして、村全体として安定した経営と生活を確立し得る新農山漁村の建設を助けることにしております。中小企業につきましては、極力その組織化をはかりまして、設備の近代化や技術の向上などを促進する一方、中小企業金融を円滑にいたしまして、資金を確保することに意を用いる所存でございます。

 その第四は、文教の刷新と、科学技術の振興についてであります。

 自主独立の達成も、正しい民主政治の確立も、その基はすべて国民の燃え上がる祖国愛と良知良能にあることは言うことを待ちません。その意味で、教育こそ、一切に通ずる大本であります。そこで、政府は、教育制度を根本的に検討するために調査機関を設けまして、文教の刷新をはかりたいと考えております。さらに、科学技術の振興を目ざして、各種試験研究体制の整備に努めまして、特に原子力の平和的利用については、強力にその推進をはかる考えであります。

 次に、地方財政については、政府は、地方団体の過去の赤字を解消するため、必要な措置を講じて参りましたが、今後は、さらに、機構の簡素化、補助金制度の改革、公債費の合理化、自主財源の充実などによって地方財政の健全化をはかりまして、赤字の発生を見ないための根本的な対策を立てる所存でございます。

 最後に、政府は、二大政党対立の新事態に即応いたしまして、政局の安定と政界の刷新をはかるため、選挙制度を根本的に改正したいと考えております。その内容につきましては、近く行われる選挙制度調査会の答申ともにらみ合せまして、政府としての態度を決定したいと思っております。

 以上、ここに所信の一端を述べましたが、私は、国民の総意をできるだけ施策の上に反映いたさせ、民主政治にふさわしい明朗な政治を行なって参りたいと念願しております。国会を通じて、国民各位の御理解と御協力とを心から切望いたす次第でございます。