[内閣名] 第61代第1次佐藤(昭和39.11.9〜42.2.17)
[国会回次] 第48回(常会)
[演説者] 佐藤榮作内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1965/1/25
[参議院演説年月日] 1965/1/25
[全文]
施政方針を申し述べるに先立ち、一言、チャーチル英国元首相の御逝去に対し、哀悼の意を表したいと思います。
チャーチル氏は、二十世紀の傑出した政治家として、英国民のみならず、世界の尊敬と親愛を一身に集めておられました。私は、チャーチル氏がその歴史的生涯を終えられましたことに対し、ここに国民の皆さまとともに心から御冥福をお祈りいたしたいと思います。
第四十八回通常国会の再開に際し、当面する内外の諸問題について、政府の所信を率直に申し述べたいと存じます。
私は、先般訪米し、ジョンソン大統領はじめ米国の指導者と国際情勢一般について忌憚ない意見の交換を行ないました。世界の平和維持のためには、アジアの安定が重要であることを強調し、平和に徹する精神のもと、民生の安定と生活水準の向上を通じて、アジア諸国民の福祉増進に貢献しようとするわが国の方針を説明し、米国側も賛意を表しました。また、わが国の安全の確保がアジアの平和維持に不可欠であるとの確信のもとに、日米安全保障条約体制を今後とも堅持することを再確認いたしました。中国問題については、それぞれの立場に立って意見の交換を行ない、今後情勢の重要な変化に応じて、常に緊密な連絡をとりつつ、話し合っていくことに意見の一致を見ました。さらに、沖縄、小笠原諸島の施政権の返還が日本国民の熾烈な願望であることを強く主張しました。特に、沖縄については、日米協議委員会の権限を拡大し、今後は、経済援助の問題にとどまらず、住民福祉の向上のための諸問題についても協議することといたしました。また、小笠原島民代表の墓参については、好意的に検討する旨の確約を得ました。私は、米国が従来に増してアジアの問題について深い関心を持ち、解決への努力を行なおうとしているとの強い印象を受けたのであります。また、米国当局者の態度から、相互の立場と国家利益を十分尊重しつつ、世界平和の達成のために協力し、同時に、日米間の懸案事項の解決に当たろうとする強い意欲を感じました。単に抽象的な問題についてではなく、切実な個々の問題につき、具体的に、胸襟を開いて話し合いを進めたことが、成果をあげることができたゆえんであると信じます。私は、今回の会談を通じて日米関係は新しい発展段階を迎えたものと信じて疑いません。
今日のアジアは、紛争が各地において継続しているのみならず、地域内には開発途上にある諸国が多数存するなど、世界の悩みを集約している感があります。アジアの安定を確保するためには、まず、アジア諸国民の健全な民族的願望を理解し、その上に立って、これら諸国の政治的不安の除去につとめ、その社会的、経済的発展を助長することが肝要であります。アジアにあって、自由民主主義体制のもとに高度の経済成長をなし遂げたわが国は、ともすれば自由民主主義に対する自信を喪失しがちなアジアの諸国民に対し好個の模範を示してきたのでありますが、今後は、さらにアジアの緊張緩和と平和的建設に寄与すべき使命と責任の重大さを深く感ずるものであります。したがって、わが国は、アジア諸国民との接触を一そう密にし、相互の理解の増進につとめねばなりません。このため、私は、機会を見て東南アジアの諸国を訪問し、各国首脳との接触を深めるとともに、経済技術協力等につき積極的な話し合いを進めたいと思います。なお、工業、農業等の技術を身につけた青少年が、東南アジア等の開発途上にある国々の青少年と起居をともにし、ともに働きつつ理解を深め合い、親善の実をあげることは意義深いと考え、これら青少年の派遣準備を進めております。
現在の国際政治において、中国問題の占める重要性がきわめて大きいことは多言を要しません。特に中国とは、歴史的にも地理的にも近いわが国にとっては、この問題は、影響の大きな重要な問題であります。したがって、わが国としては、いたずらに結論を急ぐことなく、自主的な観点から慎重に対処すべきであると信ずるのであります。現在の段階においては、わが国は、正規の外交関係を有している中華民国との友好関係を維持しつつ、中共に対しては、政経分離の基本方針に立って、経済及び文化面での交流を促進していきたい考えます{前5字ママ}。
韓国との国交を正常化し、両国間に善隣友好関係を確立することは、きわめて重要であります。諸懸案の解決にあたり、両国は、両国国民大多数の支持を得られる方向で互いに歩み寄りをはからねばならないと考えます。私は、大局的見地に立って、多年にわたる交渉を早期に妥結させるため、最善の努力を傾注する決意であります。
先般、コスイギン・ソ連首相から個人的接触を希望する趣旨の書簡を受領しましたが、私は、機会があればその招請に応じ、両国の親善を深めるとともに、国際情勢及び当面の諸案件につき、腹蔵のない意見の交換を行ないたいと考えます。ソ連が今後ますます日ソ諸懸案の解決について、積極的かつ具体的な態度を示してくることを望むものであります。また、現在まで未解決のまま残されている北方領土問題については、今後もあらゆる機会をとらえてソ連との間に話し合いを進める所存であります。
私は、今回の訪米中、ウ・タント国連事務総長と親しく会談の機会を得ました。世界が多元的な傾向を示しつつある今日、諸国の行動を調和するための中心となる国際連合の果たすべき役割りはきわめて大なるものがあります。創設後二十年に当たる本年、国際連合は、重大な試練にさらされております。インドネシアの国連脱退は、国連史上初の事件であり、まことに遺憾であるといわねばなりません。国際連合の権威と機能を高めるため、積極的に貢献することはわが国外交の基本であります。私は、ウ・タント事務総長に対し、国際連合の強化につき日本が全面的に協力していくことを話し合ってまいりました。
私は、自由と正義を基調とした世界平和の確立と維持を最高の目標としつつ、自主外交を推進し、わが国の安全と国家利益を十分に追求していく考えであります。もとより、私の求める国家利益は、あくまで世界平和と結びつき、国際協調を基礎とするものであります。私は、国際社会においてわが国の正しい利益を堂々と主張するとともに、向上した国際的地位にふさわしい責任を果たしていきたいと存じます。
一昨年以来、政府は、国際収支の改善と物価の安定をはかるため、経済を引き締め基調で運営してきましたが、その効果は、漸次各分野に浸透し、国際収支は改善の方向に向かい、国内経済も落ちつきを取り戻してきました。しかし、この間、経済構造の変化に景気の調整が重なり合って、企業倒産の増加など、憂慮すべき現象が生じております。一方消費者物価はなお騰勢気配を続けており、また、今後の国際経済の動向については、昨年のような飛躍的な拡大を期待することはむずかしく、国際収支の見通しは必ずしも楽観を許しません。政府は、このような内外の情勢に対処し、弾力的、機動的な配慮を払いつつ、健全にして慎重な経済運営を行ない、経済構造の変化に適応し得る能力を充実するための施策を推進する所存であります。
政府は、中期経済計画を基本として、長期的な経済運営をはかりたいと考えます。昭和四十年度については、政府民間相携えて努力すれば、わが国経済は実質七・五%程度の安定した成長を達成し、国際収支の均衡を保つとともに、消費者物価についても、逐次安定の方向に向かうことを期待できると信じます。
開放経済体制へ移行した今日、わが国経済の安定した成長を確保していくためには、産業の国際競争力を強化し、輸出の伸長をはかることが、ますます緊要な課題となっております。政府は、対外経済交渉の推進、海外市場調査網の充実をはかって輸出環境の整備につとめる一方、財政、金融、税制の各般にわたって輸出振興施策を強化いたします。また、開発途上にある諸国、特に東南アジア諸国の健全なる発展に寄与するため、一次産品の調査開発及び買い付けにつとめるとともに、延べ払い信用供与を推進するなど、これら諸国に対する経済協力施策を拡充いたします。なお、輸出振興及び経済協力の重要性にかんがみ、新たに通商産業省に貿易振興局を設けるなど機構を強化する所存であります。また、輸出入物資の安定した輸送を確保し、貿易外国際収支の改善をはかるため、外航船舶の増強につとめたいと存じます。
消費者物価の安定をはかることは、当面の最も重要な課題であり、政府は、本問題解決のため、格段の努力をいたす決意であります。
わが国の消費者物価は、三十五年以降上昇を続け、経済調整期においても依然騰勢を持続しております。これは、近年の高度成長過程における消費需要の堅調な伸びがその一因でありますが、生産性の格差が存在する中で賃金、所得の平準化が急速に行なわれ、それが原価を押し上げ、消費者物価の上昇を招くという構造的要因によるところも大きいと考えられます。
したがって、物価対策としては、経済を安定基調に導くことが肝要であります。このため、四十年度予算の編成にあたっては、重点施策について十分な配慮をいたしつつも、極力、規模の圧縮をはかり、健全均衡財政を堅持することといたしましたが、さらに金融面においても、慎重かつ弾力的な運営を行なうなど、総需要を適切に調整してまいります。また、農業、中小企業、サービス業など生産性の低い部門の近代化、流通機構の合理化、労働力の流動化などの構造対策を推進するとともに、公正な価格形成のための条件整備、生活必需物資の円滑な供給等をはかり、さらに、地価の安定について根本的な対策の検討を進めたいと考えます。
公共料金等については、最近、米価、医療費、バス料金等の最小限度の値上げを認めましたが、これらは、いずれも自由経済のもとに、それぞれの分野における正常な運営を確保するため、やむを得ずとった措置であります。したがって、国鉄運賃その他の公共料金については、慎重な態度で値上げの抑制につとめてまいります。
なお、政府は、消費の健全化をはかるため、消費者教育の充実、消費者保護行政の拡充等の施策を推進する所存でありますが、国民各位においても、健全な消費活動を通じて物価安定に協力されんことを望む次第であります。
金融政策については、さきに公定歩合の引き下げを行ない、引き締め政策の緩和をはかったのでありますが、きびしい国際経済の現状にかんがみ、今後再び経済に行き過ぎを生ずることのないよう、引き続き慎重な運営を行なうことを適当と考えます。もとより、中小企業に対する金融の円滑化、重要な産業資金の確保などにつきましては、今後とも十分な配慮を行なってまいりたいと思います。さらに、経済情勢が落ちつきを示している現在、産業界、金融界の努力と相まって、多年の懸案である金融正常化の実現及び資本市場の育成を逐次はかってまいる考えであります。
最近における国民負担の現状及び経済情勢の推移にかんがみ、所得税、法人税を中心として平年度総額一千二百四十億円に及ぶ一般的減税を実施いたします。この際、特に低額所得者の負担軽減に配慮し、標準世帯の勤労所得につき、従来その免税点が約四十八万五千円であったのを今回の改正で約五十六万四千円に引き上げました。さらに、企業の体質改善、国際競争力の強化に資するため、法人税率の軽減を中心とする企業減税にも格段の配慮をいたしました。なお、今後も引き続き税負担の軽減をはかるため、財政事情の許す限り減税を検討してまいります。
経済社会の安定した繁栄のもとに、国民ひとしく豊かな生活を享受する高度の文明社会の建設こそ、政治の理想であり、われわれに与えられた歴史的課題であります。私は、この課題にこたえるため、民族のたくましい発展力を生かしつつ、経済成長の成果が国民の真の福祉と結びつくよう、社会開発を積極的に推進することを政策の基本といたします。
このため、来年度予算においては、特に、住宅、生活環境施設の整備、公害の防止、地域開発の促進につとめるとともに、社会保障の拡充、人的能力の向上、教育の振興、交通事故の防止等の施策を推進し、また、農業、中小企業の近代化をはかってまいります。さらに、長期的見地に立って、社会開発に関する各界有識者の意見を求めた上、総合的な対策を強力に推し進めたいと存じます。
住宅対策については、低額所得者及び都市勤労者に重点を置いて賃貸住宅を供給いたします。さらに、主として中堅勤労者を対象に、いこいとやすらぎの城ともいうべき持ち家への夢を実現さすべく住宅供給公社を設立して、持ち家建設のための資金の計画的な積み立てと住宅の供給を行なわせる考えであります。なお、近年の宅地需給の不均衡は、国民の住生活を圧迫し、健全な市街地形成の障害となっていますが、政府は、特に宅地難の著しい大都市周辺において、大規模かつ計画的な宅地の開発供給をはかるとともに、建設省に宅地部を新設する等機構の整備を行なう決意であります。
生活環境施設については、上下水道及び清掃施設の整備を促進するとともに、産業の発達等に伴う公害の発生を防止するため、新たに公害防止事業団を発足させる等、対策を強化し、住みよい町づくりにつとめてまいります。
わが国の大都市は、いまや、集中の利益よりも過密の弊害が顕著となり、一方、地域格差は引き続き拡大する傾向にあります。政府は、各地域の均衡ある発展をはかるため、新産業都市、工業整備特別地域の整備並びに山村、離島その他の未開発地域の開発などの施策を講ずるとともに、産業、文化、人口等の大都市への集中の抑制と地方への分散をはかるよう、研究学園都市を設ける等、総合的な過密都市対策を確立したいと考えます。
国土の総合的開発と効率的利用をはかるため、治山、治水及び港湾事業について、新たに総額一兆九千億円に及ぶ五カ年計画を策定し、他方、特に国民生活に密接な関連のある道路の舗装を四十三年度までに約五万キロメートル施行して、舗装率を現在の二倍以上に高める等、道路の抜本的な整備を行なうことといたします。
政府は、農林漁業の近代化をはかるため、生産の維持増強、構造改善、農林水産物の価格安定及び流通合理化等の施策を強化いたします。とくに、自立農家を育成するため、農地管理事業団を設立して、経営規模の拡大をはかるとともに、生産の基礎である圃場、林道、漁港等の整備を推進いたします。また、酪農の振興、野菜供給の安定的増大をはかるための施策を拡充し、さらに中央卸売市場の整備、食料品総合小売市場の設置等によって、流通機構の合理化を促進し、農業所得の増大と国民消費生活の安定向上を期する決意であります。
中小企業については、税負担の軽減に特段の配慮をいたすほか、財政資金の確保を通じ、設備の近代化、事業の共同化をはかるとともに、経営の合理化、技術水準の向上のための施策を講じます。また、小規模企業については、特に配慮し、新たに共済事業団を設けるとともに、担保も保証人も得がたい小規模零細業者に対し、簡易な信用保証を通じて金融の円滑化に資する制度を創設する等、経営の安定とその従事者の生活の向上をはかるための施策を画期的に拡充する考えであります。さらに、金融については、特に黒字倒産、連鎖倒産の防止に重点を置き、弾力的な措置と下請取引適正化対策を適時適切に講じてまいります。
社会保障については、国民皆保険、皆年金の制度が実施され、逐年堅実な前進を続けておりますが、なお、制度間に不均衡が存する等、改善、充実を要する点が少なくありません。政府は、均衡のとれた社会保障制度の整備を目標に、長期的な観点に立って社会保障の充実をはかる所存であります。所得保障については、国民の生活水準の向上に見合い、厚生年金保険の老齢年金額を画期的に引き上げるとともに、福祉年金の改善、生活保護基準の引き上げ等を実施いたします。医療保障については、国民健康保険の世帯員七割給付の年次計画を推進する一方、医療保険の財政の健全化をはかりたいと存じます。また、児童、母子、老人、心身障害者の福祉の向上につとめ、さらに児童手当の実現についても検討を進めたいと考えております。特に、日本の未来をになう児童とその母親に対しては、あたたかい配慮が必要であります。このため、総合的な母子保健対策を推進し、低所得層の妊産婦と乳幼児に対し無料でミルクを支給するとともに、保育所の画期的な整備拡充を強力に進めてまいります。
経済の長期的な発展をはかり、完全雇用を達成するためには、人的能力を開発向上させ、それを有効適切に活用することが重要な課題であります。政府は、地域別産業別の雇用に関する計画を策定して、労働力の適正な流動化をはかり、中高年齢労働者の雇用促進、中小企業の労働力の確保を期するとともに、技能労働者の養成確保と技能水準の向上につとめるなど、積極的な雇用対策を推進いたします。
また、勤労者の生活の長期的な安定をはかる見地から、勤労者が住宅、貯蓄等の財産を形成することができる施策を検討し、わが国の実情に適するものから逐次実施していきたいと考えます。
近年、社会の一部に、安易な享楽的風潮が見られ、また、青少年の非行が増加するなど憂慮すべきものがあります。私は、青少年諸君が、未来に連なる人間像を心に描きつつ、世界の中の日本人となり得るよう力強い努力を続けることを心から期待します。政府は、このため必要な諸条件を整え、適切な指導を行なうことこそ文教の基本であると考え、家庭教育、道徳教育の強化、育英奨学の拡大及び勤労青少年教育の推進に努め、さらに義務教育費の父兄負担の軽減について一そう努力いたします。なお、民族の原動力であるたくましい体力と気力を養うため、体育、スポーツの普及奨励、青年の家の建設等の施策を講じてまいります。また、現代は技術革新の時代であります。政府は、長期的視野に立って、原子力の平和利用や宇宙開発などの科学技術の振興、優秀な科学技術者の確保とその処遇の改善をはかってまいります。
暴力の存在は、国民生活に暗い影を投げかけております。私は、社会のあらゆる階層に暴力排除の気風を醸成するとともに、暴力組織の根絶をはかり、もって明るい社会の建設につとめる覚悟であります。
昨年中の交通事故による死者の数は、戦後最高を示しました。交通事故は、いまや個人の不幸を越えて大きな社会問題となっております。寸時も放置できません。私は、交通安全教育の徹底、道路環境の急速な設備等具体的施策の推進に格段の努力をいたすとともに、広く国民諸君の協力を求めるため、交通安全国民会議を開催して本問題の解決に真正面から取り組む決意であります。
子供たちが何の危険もなく、明るく伸び伸びと育つことができる社会、青年が未来に対して夢と希望を持ち、その知恵と力を正しく発揮できる社会、そして老人がいたわられ、豊かな知識と経験を公共のために生かすことができる社会、このような希望にあふれ、平和で住みよい社会の実現に向かって、私は国民諸君とともに全力を尽くしたいと存じます。
ILO八十七号条約について、その早期批准を期する政府の方針には変わりなく、一日も早く関係案件の成立をはかり、多年の懸案であるこの問題に終止符を打ちたいと考えます。
今日、労働運動は、全体的には正常化の方向をたどりつつありますが、私は、この際、労使に対し、国民経済的見地に立った話し合いによる問題の合理的処理を一そう期待するとともに、その機運の醸成につとめたいと存じます。
私は、公務員諸君がその職務に専念し、国民全体の奉仕者として、その職責を果たすことを強く希望いたします。また、行政制度全般に検討を加え、臨時行政調査会の意見の趣旨を尊重して実施可能の部門から行政の改革を逐次実現したいと存じます。
議会政治のよき伝統をつくることは、民主政治の基盤であります。私は、政治に対する信頼を高めるとともに、わが国の繁栄と国民の福祉を願う共通の立場に立って、野党各派との建設的な話し合いを進めていきたいと考えます。
選挙区制等、選挙制度の基本については、選挙制度審議会の答申を待って改正措置を講ずる考えであります。また、選挙制度の改正とあわせて、民間団体と協力して公明選挙運動を協力に推進し、特に、来たる参議院議員通常選挙につき、真に公明化の実をあげるよう努力いたします。
地方自治の確立は、国勢進展の基礎であります。私は、地方自治を尊重し、その充実強化をはかるとともに、国と地方公共団体との間における協力関係を一そう緊密にしてまいりたいと考えております。
戦後二十年、われわれは、かつて経験したことのないきびしい歴史的な試練にともに耐え、それに打ち勝ってまいりました。二十年前、われわれは、廃虚の中で、その日その日の暮らしに追われたのでありますが、二十年後のいま、われわれは、明日の日本を思うべきであります。いまこそ日本国民として、ともに苦しみ、ともに喜ぶ新しい連帯のきずなをお互いの心の中につくり上げ、新しい日本の進路を確立すべきときであります。
愛するに足る祖国は、国民一人一人がその責任を自覚し、努力することによってつくられるものであります。日本の未来は、他から与えられるものではなく、営々たる汗と力によって、みずからの手で切り開くべきであります。日本の現状は、国民に対して新しい愛国心の喚起を期待しております。わが国のすぐれた伝統と文化を愛し、繁栄と進歩に貢献し、世界の平和と人類の福祉を願う心こそ真の愛国心であります。国民が社会や国家に対する責任感や使命感を失い、建設への気迫と向上への意欲に欠けるときは、社会の沈滞と国運の衰退は免れません。経済の危機よりもさらにおそるべきは、精神力の欠除であります。
一国の真の偉大さは、国土の大小によってきまるものではありません。わが国の国土は狭く、かつ、天然の資源にも恵まれていませんが、豊かな創造力と旺盛な勤勉の意欲に満ちた国民が、その力に強い自信を持ち、決意を新たにして事に当たれば、若い日本は限りない繁栄の可能性を蔵しております。
私は、国民諸君と手を携えて、わが国に人間尊重の精神に裏づけられた高度の文明社会を築き上げるため、こん身の努力を注ぐことを誓うものであります。