データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第70代鈴木(昭和55.7.17〜57.11.27)
[国会回次] 第94回(常会)
[演説者] 鈴木善幸内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1981/1/26
[参議院演説年月日] 1981/1/26
[全文]

 第九十四回通常国会が再開されるに当たり、内外の情勢を展望し、これに対処する政府の基本方針を明らかにいたします。

 われわれは、激動の一九七〇年代を乗り越え、新しい時代を迎えております。

 二度にわたる石油危機に象徴される七〇年代は、世界の多極化の進展と自由世界を支えてきた経済秩序の変化のうちに、二十一世紀へ向かう新たな時代の胎動が始まった十年間でありました。そうした中で、わが国は、この世界的な変動の影響を強く受けながらも、国民のすぐれた英知と努力により、対処を誤ることなく、多くの国から高い評価を受ける安定と繁栄を見るに至りました。この間、わが国の国際的地位は大いに向上し、同時に世界に果たすべき責任も著しく増大したのであります。

 しかしながら、七〇年代に生じた問題の多くは、なお未解決のまま八〇年代に引き継がれています。すなわち、石油を初めとする資源及び環境の面での制約、通商摩擦、人口の高齢化、財政収支の不均衡など、七〇年代の課題の多くは、わが国にとって今後なお根本的な対応が求められており、また、その幾つかは世界の国々とともに解決していかなければなりません。

 これらはいずれも、緊急に対処すべき当面の問題であるばかりでなく、未来を切り開くための基本的な課題であり、その解決には、何よりも厳しい自制と粘り強い努力が必要であります。私は、進んでその解決に当たり、八〇年代を二十一世紀への足固めとするため身を挺していく決意であります。

 われわれは、これまで幾たびか、創意と努力によって難関を克服してきました。厳しい試練を乗り越え、高い理想を実理する力はわれわれ自身の内にあります。私は、賢明な国民の英知と努力を結集して、わが国の未来を確実にするため全力を傾ける所存であります。

 最近の国際情勢は、ソ連のアフガニスタンへの軍事介入、イラン・イラク紛争、ポーランドをめぐる緊迫感など、世界の各地に緊張の高まりがみられます。また、経済面でも、石油を中心とする資源・エネルギー情勢はきわめて不安定であり、産油国に資金が偏在する一方、非産油発展途上国では、貧困と失業が蔓延しています。さらに、世界の一部には、人口の爆発的な増加などによる深刻な食糧不足を生じています。

 このような状況のもと、わが国は、世界が当面するこれらの問題の解決に積極的に貢献することにより世界の平和と安定に寄与しつつ、みずからの平和と安全を求めていかなければなりません。

 近年、防衛問題に対する国民の理解と関心が高まっております。国の防衛は国家存立の基本であり、国民全体の問題として、広く建設的に論議され、国民的合意が形成されることを願うものであります。

 わが国の防衛は、平和憲法のもと、専守防衛に徹し、近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国とならず、さらに、非核三原則を国是とすることをその基本方針としています。私は、今後とも、この方針を堅持し、みずからの国はみずからの手で守る気概を持って、節度ある質の高い防衛力の整備を図りながら、日米安全保障体制を基軸として、わが国の安全を確保していく決意であります。

 同時にまた、最近の国際情勢とわが国の立場を顧みるとき、単に防衛力の整備のみでわが国の平和と安全を確保することが困難であることも明らかであります。わが国の平和と安全を守るためには、広く外交、内政の諸施策を総合的に、かつ整合性を持って、進めていくことが肝要であります。

 そのためには、たゆまず平和外交の努力を続けていかなければなりません。とりわけ、発展途上国の抱える諸問題の解決に貢献するため、本年開催が予想されている南北サッミトなどに進んで参加するとともに、経済協力及び技術協力を積極的に推進していくことが重要であります。

 私は、厳しい財政再建期間中ではありますが、政府開発援助の拡充とその国民総生産に対する比率の改善に努め、そのために、今後五年間における政府開発援助に関する予算の総額を、これまでの五年間の倍以上とすることを目指すなどの措置を講じてまいります。

 また、エネルギーなどの資源及び食糧の安定的かつ円滑な供給の確保についても、世界各国との協調を図りながら、これを進めていく必要があります。

 私は、以上の考え方に立って、昨年十二月、内閣に総合安全保障関係閣僚会議を設置いたしました。今後は、この会議を通じて、各般の施策の整合性を保ちつつ、わが国の総合的な安全保障政策を進めていく決意であります。

 私は、総理大臣就任後最初の外国訪問として、このたびASEAN諸国を歴訪してまいりました。この間、各国首脳との忌憚のない意見交換を通じ、わが国とこれら諸国がいまや成熟した関係の域に達していることを痛感するとともに、わが国の平和と安全がこの地域の平和と発展に深くかかわっていることに、改めて思いを深くいたしました。私は、今回の訪問の成果を踏まえ、また、今次歴訪を通じて得たこれら諸国の指導者との信頼関係を大切にしながら、アジアの重要な安定勢力であるASEAN諸国との関係に一層の深さと広がりを求めて努力していく決意であります。なお、カンボジア問題については、国連決議にのっとり、国際会議が早期に開催されるよう、引き続き訴えていきたいと考えます。

 わが国は、戦後一貫して平和に徹し、自由と民主主義を堅持して、国力の発展に努めてきました。この間、わが国は、日米友好協力関係を基軸とし、基本的理念を同じくする西欧諸国、カナダ、豪州、ニュージーランド等自由主義国との連帯を強化しつつ、全世界に友好と協調の輪を広げていくことをもって外交の基本方針としてきました。わが国は、今後ともこの方針にのっとり、国際社会の平和と安定のため、世界が直面する諸問題の解決に最善の努力をいたします。

 まず、米国との関係についてであります。私は、このたび発足したレーガン新政権のもとで、米国が国際社会の平和と繁栄のために強力な指導力を発揮することを強く期待いたします。日米両国は、双方のたゆまぬ努力により、揺るぎない友情と信頼を築き上げるに至っていますが、レーガン新政権との間にも、一層成熟した日米関係の構築に努力してまいります。また、そうした基盤に立って、国際社会に生じた諸問題の解決に当たっても、両国間の緊密な連携のもとに、わが国に期待される役割りを果たしていく考えであります。

 EC諸国を初めとする西欧諸国との間においても、政治、経済の両面で、さらに対話と協力を進めてまいります。

 日中両国間の平和友好関係は着実に進展しており、昨年十二月には第一回日中閣僚会議が成功裏に開催されました。私は、こうした実務的な交流の深まりを通じ、安定した両国間の協力関係を発展させたいと考えております。

 一衣帯水の間にある韓国との関係は、特に重要であります。両国は近い間柄にあるがゆえに常に相互理解を深めることが必要であります。政府は、今後とも円滑な両国関係の発展を希望し、そのため努力していく考えであります。

 ソ連との関係については、政府は、アフガニスタンへの軍事介入、北方領土での軍備強化など、遺憾な事態の速やかな是正を引き続き強く求めるとともに、北方領土問題を解決し平和条約を締結するとの一貫した基本方針のもとに、ソ連との関係を真の相互理解に基づいて発展させるため、誠意をもって対処する考えであります。日ソ関係発展への展望を開くためにも、ソ連側がその誠意を具体的行動をもって示すことを強く期待いたします。

 全世界に友好と協調の輪を広げていく上で、国連、主要国首脳会議などの場での貢献も外交施策の主要な一環をなすものであります。政府は、この面でも、引き続き積極的に対応してまいります。

 なお、イランにおける米国人の人質問題は、関係国の粘り強い努力により平和的に解決され、その全員が無事解放されましたことを心から歓迎いたします。他方、イラン・イラク紛争は、その拡大後四カ月を経過した現在、なお、その解決の兆しさえ見えないことを深く憂慮しております。私は、両国が一日も早く戦闘を停止し、両国間の紛争を平和的に解決するように強く希望いたします。

 最近の世界の経済情勢に目を転じますと、多くの国々が、相次ぐ石油価格の上昇など困難な経済環境のもとで、景気の後退、物価の高騰あるいは国際収支面の悪化などへの対応に苦悩しています。その中で、わが国の経済は、このところ比較的順調に推移していますが、今後のわが国をめぐる経済環境は、ますます厳しさの度を増すものと思われます。ことに七〇年代の経験を通じて、もはやかつてのような高度成長を期待できる環境にないことが明らかになった以上、今後は、石油依存体質の積極的転換を図りながら、わが国の経済を中長期的な安定成長路線に定着させる努力が必要であります。

 七〇年代後半の財政主導による経済運営の結果、大量の公債依存という財政体質が八〇年代に受け継がれ、財政の国民経済に果たすべき役割りに多くを期待できない現状にあります。自由な経済体制をとるわが国経済の中心は、民間の経済活動でありますが、特に、財政を再建してその対応力を回復させるまでの間の経済運営は、より一層民間部門を主軸とした息の長い成長に重点を置き、機動的な金融政策などによって、自由で安定した民間活動の環境を整えることに努力していく必要があります。

 このための具体的施策は、まず、物価の安定であります。物価の安定は堅実な消費と安心できる国民生活の基礎であります。また、健全な労使関係と投資関係の確保にとっても欠くことはできません。さらに、企業活動を円滑にするためには、世界各国との協調を図りながら、積極的に自由貿易体制を堅持する努力が重要であります。また、中小企業がその特性を発揮しつつ、経済の活力の源泉としての役割りを高めるよう配慮し、あわせて、雇用の安定のため、きめ細かな施策を展開してまいります。

 農業については、長期的展望に立った農政のもとに、日本型食生活に即した農業生産の再編成と経営規模の拡大を軸とする生産性の向上に努め、自給力の強化を図ります。また、新時代に対応した水産業の発展を図るとともに、緑豊かな国土を保つため、森林資源の整理と林業の振興に努めてまいります。

 私は、さきの臨時国会で、昭和五十六年度予算では二兆円程度の公債減額を行いたいとの決意を明らかにしましたが、このたび国会に提出した一般会計予算では、この方針のもとに、二兆円の特例公債の減額を予定しています。このため、経費の節減合理化に努力し、国債費と地方交付税以外の一般歳出は、その増加率を四・三%と、昭和三十一年以来の低い率に抑えるとともに、全体としての歳出規模を一けたの伸び率にとどめました。

 このような厳しい歳出抑制努力の中で、エネルギー対策、科学技術の振興、経済協力など、中長期的見地から充実を図る必要のある施策には、積極的に予算を配分するとともに、社会保障、文教などの重要施策にも重点的な予算の配分に努めました。

 防衛費については、「防衛計画の大綱」に定める水準にできるだけ早く到達するとの基本方針のもとに、装備の近代化を中心に、防衛力の着実な整備を図りました。

 一方、歳入面では、極力歳出を抑制してもなお必要となる財源を確保するため、特殊法人からの国庫納付の実施など政府部内での財源調達に努めるとともに、現行税制の枠組みの中で必要な増収措置を講じました。私は、こうした措置が国民生活や企業活動にとって厳しいものであることは十分承知していますが、他方、今日の不健全な財政状態を放置し、いわゆる赤字公債の償還のために新たに赤字公債を発行しなければならないという状況に立ち至れば、国家経済はもとより国民生活にとってもゆゆしい事態となり、やがてはより大きな国民の負担となることを憂えざるを得ません。

 財政の再建は、多くの困難と忍耐を伴うものでありますが、私は、今後とも着実に再建の努力を続けていく決意でありますので、国民各位の御理解と御協力を切にお願いいたします。

 私は、財政の再建とあわせて、行政改革の一層の推進を図ってまいります。政府は昨年末、行政事務、事業の整理委譲など、行政の減量化を中心とする新たな角度からの行政改革を実施する方針を決定しましたが、その実施に万全を期するとともに、引き続き、行政機構や定員の厳正な管理等を行ってまいります。さらに、臨時行政調査会を早い機会に発足させ、八〇年代以降の展望を踏まえ、あらゆる角度から行政の適正かつ合理的なあり方は何かを問い直し、官業と民業の役割り分担、国と地方の事務配分、あるいは府県単位などの国の出先機関のあり方等、行政の基本的制度とその運営について同調査会に御検討願うこととしています。また、政府はその結果を尊重し、順次実行に移す決意であります。

 最近の国際石油情勢は、イラン・イラク紛争の長期化、先般のOPEC総会における原油価格の引き上げ決定など依然として懸念材料が多く、また、中長期的にも、石油を温存したいという産油国の姿勢、中東政治情勢の不安定などから、緊迫した状態が続くものと思われます。

 こうした状況のもと、わが国は、第一次石油危機の教訓を生かし、国民は冷静に対応してきております。また、石油消費節減意識の浸透、高水準の備蓄などの裏づけもあって、当面、供給面の不安はありません。

 しかしながら、中長期的な見地に立てば、わが国の基盤の弱いエネルギー供給構造をそのまま次代に引き継ぐことは許されません。また、自由世界の石油消費の一割を占めるわが国が、エネルギー問題に真剣に取り組むことは、国際的な責務でもあります。

 私は、エネルギーの節約、原子力を初めとする石油代替エネルギーの供給目標の達成及び石油の安定供給の確保等の基本政策を総合的に実施することが現下の急務であると考え、安全性の確保と環境の保全にも十分留意しながら、積極的に次の諸施策を進めてまいります。

 まず第一に、石油消費の節約を一層徹底することとし、昭和五十六年度の節減目標量を二千五百万キロリットル以上といたしました。この目標達成のため、政府は国民各位とともに真剣に努力いたします。

 第二に、省エネルギー及び代替エネルギー関係投資を促進し、国民の理解と協力を求めつつ、原子力を初めとする電源立地の促進に努めます。

 第三は、エネルギー関係の技術開発であります。省エネルギー関係技術や、石炭の液化、地熱、太陽熱利用などの技術開発を進めるとともに、核燃料サイクルの確立の推進、新型炉の開発など長期的観点に立った原子力の利用について、より積極的に研究開発を進めます。

 第四は、国際協調に基づいた石油の安定供給の確保であります。このため、先進工業国間での協力関係を確立するとともに、中東を初めとする産油国と絶えず話し合って相互理解を増進し、経済協力、技術及び資本の交流等により相互依存関係の強化を図ります。

 わが国が今後直面する幾多の制約を打開するかぎとなるのは、科学技術の振興であります。科学技術の進歩は、経済発展の原動力であり、国民生活向上の基盤であります。

 わが国は、幸い、国民の高い知的能力に恵まれています。私は、この貴重な国民的資質を十二分に活用して、独創的な科学技術を振興し、民族発展の可能性を切り開き、世界の進歩に貢献することがわれわれの世代に課せられた責務であると考えます。

 私は、このような観点に立って、宇宙開発から生命科学に及ぶ広い分野にわたり、また、基礎研究から実用化に至る各段階の連携を保ちながら、次の世代に引き継ぐ科学技術の発展を図ってまいります。そのため、来年度予算において、科学技術振興調整費の制度を創設するなど、施策の充実に努めました。

 わが国は、世界に例を見ない速さで人口の高齢化が進んでいます。二十一世紀への基礎づくりのためには、この問題に真剣に取り組まなければなりません。人口構造の変化による社会の高齢化の進展は、単に老人問題の深刻化にとどまらず、社会の仕組み、生活のあり方全体にかかわる問題であります。八〇年代は、来るべき人生八十の時代に備え、健康、家庭、雇用、教育、住宅、地域社会等々、各般の問題に新たな角度から取り組み、高齢化によって社会の活力が失われないよう備えを固めていく必要があります。

 私は、このような見地から、高齢者の就労機会の確保と健康に配慮してまいります。あわせて、年金、医療など、福祉に関する諸制度について、高齢化社会にふさわしい給付の実現と負担の公平に重点を置いた見直しを進めてまいります。このうち、老人保険医療制度については、今国会に所要の法案を提出するよう検討を進めております。

 また、今年は国際障害者年であります。私は、この機会に、社会的、経済的に真に恵まれない立場にある人々に対しては、一層きめ細かな配慮のもとに福祉の充実を図り、わが国をこれまで以上に温かい思いやりに満ちた社会とするよう努めてまいります。このため、来年度は、心身障害者、老人、母子世帯等に対して、福祉年金の改善、社会福祉施設と在宅サービスなどの施策の充実を図ることにしています。

 思いやりは、ゆとりのある心と生活から生まれます。ゆとりのある心と生活は、自然と人間の調和した環境によって培われます。広く地球的な視野に立った環境問題への取り組みの中で、汚染の未然防止のための施策並びに制度の推進等環境の改善に努めるとともに、生活の質と利便の向上のため、各種の社会資本の充実を図り、豊かで潤いのある地域社会を築き、災害から住民を守り、健全な生活の基盤にふさわしい住居と職場の環境を整備することによって、ゆとりと思いやりに満ちた社会を実現したいと思います。

 なお、この冬、豪雪による被害が相次いでおります。政府は、豪雪対策本部を設置し、除雪の推進、生活物資の確保等の各般の対策の実施に全力を挙げていますが、今後とも、住民生活の確保を図るため、雪害対策に万全を期してまいります。

 われわれの目指す充実した社会は、物質的豊かさのみでは築くことはできません。その根幹となるのは、豊かな人間性であります。

 ことに、二十一世紀を担う青少年については、家庭、学校そして社会を通じ、その個性と創造力を開発するとともに、わが国の文化と伝統に誇りを抱き、進んで世界に開かれた視野を持った国民に育てていかなければなりません。

 教育の大本は、親子、師弟の情愛にあります。昨今の家庭内、学校内での暴力の頻発は、憂うるべきものがありますが、私は、深い愛情と信頼と、これに裏づけられた厳しさを持って、社会全体で、青少年の健全育成に当たらなければならないと考えます。

 また、最近の覚せい剤事犯や青少年非行の増加は、経済的豊かさの中で精神面の成熟がおくれていることのあらわれであり、見逃し得ない問題であります。このような社会の病理現象は、その徴候の初期に芽を摘み取らなければなりません。政府は、この対策に最善を尽くしますが、健康で安全な社会を築くため、広く国民各位の御協力をお願いいたします。

 一たび社会の秩序が乱れると、その回復が容易でないことは、多くの先例によって明らかであります。長い伝統に培われた健全で安定した社会を大切に保ち、一層みがき上げて二十一世紀に引き継ぐため、国を挙げて努力したいと思います。

 清潔かつ公正な政治と行政は、社会秩序の基礎であります。政治の倫理を確立し、行政の綱紀を維持することによって、国民の社会及び国家への信頼を高めるため、政治と行政に携わるすべての者が自戒の念を持って事に当たらなければなりません。

 政治倫理の確立に資するため、私は、さきの臨時国会以来検討されている倫理委員会の設置について、各党各会派の間で速やかに建設的な合意が得られることを期待いたします。

 また、多年の懸念である選挙制度の改革については、現在国会で審議されている選挙運動の規制に関する公職選挙法の改正案の早期成立を願うものであり、また、参議院全国区制の問題や政治資金のあり方の問題等についても、引き続き各党各会派の間で十分に論議を尽くし、成案が得られるよう切望いたします。

 以上、私の施政の方針について述べてまいりました。

 私は、わが国が、戦後、ここまで発展し得たのは、平和と民主主義、基本的人権の尊重と自由経済体制のもとで、国民がその能力を存分に発揮してきた成果であると思います。

 私は、こうした認識に立ち、和の精神を持って、新しい時代に生きる国民の未来を切り開くための施策を一歩一歩着実に進めてまいります。

 私は、また、これからの日本が、活力にあふれ、ゆとりに満ちた安定感のある国家に成熟し、国際社会で期待される責任を着実に遂行し、一段と厚い信頼と尊敬を得られるよう、全力を傾ける決意であります。

 国民の皆様の賢明な御理解と御支援を切にお願いいたします。