[内閣名] 第74代竹下(昭和62.11.6〜平成1.6.3)
[国会回次] 第112回(常会)
[演説者] 竹下登内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1988/1/25
[参議院演説年月日] 1988/1/25
[全文]
第百十二回通常国会の再開に当たり、内外の重要な政策課題について、政府の施政の方針を申し述べ、国民の皆様の御理解と御協力を得たいと存じます。
私は、このたび、米国及びカナダを訪問して両国首脳と会談し、胸襟を開いた話し合いを行ってまいりました。また、昨年末、マニラにおいて開催されたASEAN首脳との会議に出席いたしました。これらの会談を通じ、国際社会における我が国への期待とその役割の大きさをこの肌で強く実感するとともに、内閣総理大臣就任後初の所信表明演説で申し上げたとおり、「世界に貢献する日本」、この姿勢を確立し、日本の豊かさと活力を世界に生かしていかなければならないとの思いをさらに深くいたした次第であります。
今、世界は大きな変動のただ中にあります。長らく米国の圧倒的経済力によって支えられてきた国際経済の枠組みは変貌を遂げつつあり、今や日本及び西欧が米国と力を合わせて世界経済を支えていく時代となっております。また、戦略核兵器、通常兵器の削減、地域紛争の解決など、平和、軍縮への道程はなおはるかでありますが、昨年末、米ソのINF全廃合意が実現し、核軍縮に向けて第一歩が記されるなど、国際政治面でも注目すべき動きが見られたのであります。このような世界的動向の中で、我が国の責任は、かつてなく重いものになってきておると言えましょう。我が国としては、第二の経済大国として、世界の繁栄に資するような経済秩序の構築、世界の平和の推進のため、最大限の貢献をしていくことが必要であります。
一方、国内では、物の豊かさだけでなく心の豊かさを重視し、これまでの経済発展の成果を真の豊かさへと結びつけていかなければなりません。私が「ふるさと創生」を唱えてまいりましたのも、このような考えに基づくものであります。
私は、このような内外の課題に取り組むことは、言いかえれば「調和と活力」を目指すことではないかと考えております。日本と世界の調和を図り、国内におけるさまざまな不均衡や不公平の是正に努め、活力に満ちた社会を築くこと、これこそ今政治に強く求められておる課題であります。その際、私は、当面直ちに対応すべき政策課題、また、各界各層の英知を集め長期的観点に立って検討していくべき課題を整理しつつ、これらの問題に対処し、国民の皆様の負託にこたえていく決意であります。
明治二十三年の議会制度発足以来、あとわずかで百年に達しようとしております。この間、我が国の民主主義は、多くの先人や国民のご努力により、幾多の困難を乗り越えて今日の発展を見るに至りました。当面の最大の課題である衆議院議員の定数是正問題につきましては、衆議院本会議の決議に沿って、各党間で十分論議を尽くしていただき、その論議を踏まえながら、政府としても最大限の努力をしてまいります。
また、私は、政治倫理の確立を図ることは、政治に対する国民の信頼を得るための大前提であると心得、清潔な政治と規律ある行政の確立に努めてまいります。
以上の考え方に基づき、国政の各分野について、基本的な方針を申し述べます。
今日の国際環境は、東西関係の一層の安定化、地域紛争の解決、さらには、世界経済の持続的成長、開発途上国の安定と発展など多くの課題を抱え、なお厳しく流動的であります。このような環境の中で、我が国は、国際秩序の主要な担い手として、世界的な視野に立ち、より大きな責任と役割を積極的に果たしていくことが重要であります。特に、平和国家としての立場を堅持する我が国としては、政治、経済、文化などの面でより大きく寄与しなければなりません。
今般の訪米に当たってレーガン大統領を初め各界指導者と会談した際も、私は、我が国が世界的視野においてみずからにふさわしい形で責任と役割を果たしつつあることを率直に申し述べました。私と大統領は、日米両国が力を合わせ、世界の平和と繁栄のため努力していくとともに、二国間に生ずる問題については、共同作業により解決を図るとの基本姿勢を相互に確認をいたしました。これらを通じ、我が国外交の基軸である日米関係のさらなる発展の基礎を築き得たと考えております。
また、東西関係が全体として一層安定的なものとなるよう、INF条約に続き、戦略核兵器の大幅かつ均衡のとれた削減、地域紛争などの諸懸案の解決に向け、米ソ間の建設的対話がさらに進展することを期待するとともに、このための米国の外交努力を強く支援してまいります。本年五月から開催される第三回国連軍縮特別総会などの場においても、実効的な軍縮努力が一層増進されるよう訴えていく所存であります。さらに、イラン・イラク紛争、ペルシャ湾の安全航行の問題及び中東和平問題、あるいはカンボジア問題などの早期解決に向けた努力を強化していくとともに、国連安全保障理事会の非常任理事国として国連を通ずる協力などを積極的に進めてまいります。特に国連等の平和維持活動に対する非軍事的貢献を一層強化拡充するため鋭意努力していく考えであります。
国際テロは、民主社会に対する挑戦であり断じて許すべからざるものであります。昨年十一月発生した大韓航空機事件は、まことに遺憾であり、政府としては、テロ防止のための国際協力を積極的に推進してまいります。
我が国がさまざまな分野で国際社会に貢献していくに際し、まず、みずからの平和と安全を確保する努力が肝要であります。政府としては、日米安全保障体制を堅持しつつ、その円滑にして効果的な運用を確保するよう努力するとともに、平和憲法のもと、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならず、非核三原則と文民統制を堅持し、節度ある防衛力の整備を進めてまいります。また、日米両国を取り巻く最近の経済情勢の一層の変化により、在日米軍経費が著しく圧迫されておる事態にかんがみ、今後在日米軍従業員の雇用の安定を図るためにも日本側負担の一層の増大を図っていく所存であり、このため、在日米軍労務費特別協定の改正について今国会において、御審議をお願いする考えであります。
経済面での協力に関しては、世界の経済秩序に大きな責任を有する我が国に対し、積極的な貢献を求める声が国際的に高まっております。
自由貿易体制を維持しつつ、開かれた日本市場を形成し、これを世界に提供していくことは、我が国が世界に貢献するために極めて重要なことであり、また、貿易立国である我が国の発展の道であります。このため、政府としては、経済構造調整を積極的に進め、その成果を上げつつありますが、さらに、ガット・ウルグアイ・ラウンドの積極的推進に努めるとともに、我が国における内需主導型経済成長の定着、輸入の拡大、市場アクセスの改善、規制の緩和などを積極的に進め、対外不均衡の是正に全力を傾け、我が国経済を世界経済と一層調和のとれたものとするよう施策を講じていく考えであります。
なお、農産物貿易については、我が国農業の健全な発展との調和を図りつつ、ガット・ウルグアイラウンドにおける交渉との関連を十分考慮し、適切に対処してまいります。
また、政府としては、今後とも、経済協力に重点的に配慮し、第三次中期目標について極力その早期達成を図るなど、政府開発援助を拡充するとともに、開発途上国への資金還流措置の円滑な実施に努めてまいります。
我が国の果たすべき役割は、これら政治や経済面だけには限りません。科学技術、教育、文化、スポーツなどあらゆる分野での国際交流を促進するとともに、地球環境の保全に努力してまいります。また、地球が人類共通のふるさとであるとの思いを込め、日本人一人一人の日常生活に根差した、地に足のついた国際化を進めるため、草の根外交を活発化することが必要であります。このため、海外からの留学生や若手研究者の受け入れ態勢の充実を図るとともに、外国青年招致事業の拡大、世界青年の船の事業の実施等を行うこととしております。
私は、このような考えのもと、我が国が西側の一員であり、また同時にアジア・太平洋地域の一国であるとの基本的立場を踏まえた外交を展開していく所存であります。
本年六月には、トロント・サミットが開催される予定となっておりますが、私は、同サミットにおいて、米国を初めとする西側先進諸国が結束をさらに強化するとともに、世界経済の調和ある発展のため政策協調を一層進めるよう最善を尽くしてまいりたいと存じます。このたびのカナダ訪問においても、マルルーニー首相との会談でこの目的に向けての協力を確認するとともに、日加関係の一層の推進につき合意したところであります。
西欧諸国は、北米諸国や我が国とともに世界の平和と繁栄に対する大きな責任を担っており、これら諸国との協調は、我が国外交の重要な柱であります。私は、西欧諸国の対日関心が高まっている今こそ、政治、経済、文化などあらゆる面において日欧協力関係に一層の厚みと幅を加えるよう努力してまいります。
我が国が世界的視点から国際的貢献を行っていくに当たり、アジア・太平洋地域の重要性はますます増大しております。私は、内閣総理大臣就任後初の外国訪問としてフィリピンを訪れ、ASEAN首脳との会議に出席し、二十億ドルを下回らない額のASEAN日本開発ファンドの供与を表明し、対ASEAN協力への積極的姿勢を示したところであります。
また、我が国は、日韓友好協力関係を一層発展させるとともに、朝鮮半島をめぐる緊張緩和のための環境づくりに向けてできる限りの協力を行ってまいります。そのため、本年二月に就任される盧泰愚次期韓国大統領とも緊密に協力してまいります。また、秋のソウル・オリンピックが米国、中国、ソ連を初めとする世界の多数の国々の参加を得て開催される見通しであることはまことに喜ばしい限りであり、我が国としてもオリンピックの成功のため、協力を惜しまない所存であります。
中国との間で良好かつ長期安定的な関係を維持発展させることは、我が国外交の主要な柱の一つであり、政府は、引き続き日中共同声明など両国間の諸原則を踏まえ、友好関係の一層の強化を図ってまいります。特に、本年は日中平和友好条約締結十周年を迎える年であり、両国首脳間の対話を実現し、相互理解、相互信頼の増進を図る所存であります。
また、豪州、ニュージーランドを初めとする大洋州諸国との友好協力関係をさらに強化してまいります。
ソ連との間では、北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより、真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することが一貫した基本方針であり、政府は、引き続き、この方針にのっとり、日ソ関係を打開し、善隣友好関係を確立するため努力する所存であります。
我が国経済は、国内需要が堅調に推移し、企業収益は増益傾向にあり、雇用情勢も改善するなど、拡大局面にあります。一方、世界経済は、このところ緩やかながらも息の長い景気拡大が続いておりますが、米国の財政赤字、日本を含む主要国の対外不均衡、開発途上国の累積債務等の問題が数多く残されております。このような状況の中で、米国において財政赤字削減などの努力が続けられていることを評価するとともに、我が国としても引き続き主要国間の協調的な経済政策の推進を図ってまいります。また、物価の安定を基礎としつつ内需を中心とした景気の着実な拡大を図り持続的な安定成長を達成するため、引き続き適切かつ機動的な経済運営に努めることといたしております。
このため、昭和六十三年度予算においては、一般公共事業費について、昭和六十二年度当初予算に対し二〇%増という極めて高い水準を確保し、内外からの内需拡大の要請にこたえてまいりました。
為替相場の安定については、昨年末のいわゆるG7声明に基づいて主要国間の為替市場における協力が実施されておりますが、さきの訪米に際して、私とレーガン大統領は、これ以上のドルの下落は世界経済の成長にとり逆効果であるという認識を改めて共同発表において明らかにしたところであります。政府としては、今後とも政策協調と為替市場における協力を通じ、為替相場の安定を図ってまいります。
また、我が国の経済成長の成果を国民生活の向上に結びつけていくとの観点から、円高差益の還元をさらに進めてまいります。
円高等内外の経済情勢の著しい変化の中で、一部の業種や地域においては、依然として景況は厳しく、雇用情勢も深刻であります。
政府としては、産業構造の転換が円滑に進むよう、引き続き諸施策を講じていくとともに、厳しい環境変化に直面しておる中小企業が、これに積極的に対応し、健全な発展を遂げられるよう、新分野開拓の推進を初め、構造転換対策などを強力に進めてまいります。
産業構造の転換や労働力の高齢化等の進展の中で、雇用問題に適切に対処するため産業・地域・高齢者雇用プロジェクトなどの対策を強力に推進し、また、労働時間の短縮、労働者の健康づくりなども進めてまいります。
農業については、内外の厳しい情勢に対応して足腰の強い、産業として自立し得る農業を確立するとともに、与えられた国土条件などの制約のもとで最大限の生産性の向上を図り、国民の皆様の納得を得られる価格水準で食糧の安定供給が行われるよう、農政審議会報告を踏まえ、すぐれた担い手の確保、生産基盤の整備、農業技術の向上など各般にわたる施策の充実強化に努めるほか、農村地域の活性化にも意を用いてまいります。
また、エネルギーの安定供給の確保を図るための施策についても、着実に推進してまいります。
国民生活の質的充実、地域社会の活性化、国際社会への貢献、経済摩擦の解消などの課題に取り組み、二十一世紀に向け、我が国経済の一層の発展を期していくためには、内外経済の展望の上に立って経済運営の中長期的な方針を明らかにし、国民や企業に自信と活力を与えていくことが必要であります。こうした観点から、私は、昨年十一月、経済構造の調整を一層強力に推進し、内需主導型の経済成長への転換、定着を図ることを基本とした新しい経済計画の策定について経済審議会に諮問したところであります。今後、同審議会での審議を踏まえ、経済運営の中長期的あり方を早急に明らかにしてまいりたいと考えます。
財政については、次の世代に過剰な負担を残さないよう、一日も早くその対応力を回復していく必要があります。このため、昭和六十三年度予算編成に当たっては、歳出面において特に経常経費を厳しく抑制し、特例公債の発行額は、前年度当初予定額に比べ一兆八千三百億円減額し、公債依存度を十五・六%に引き下げることができました。このように、昭和六十三年度予算では、財政改革を着実に前進させるとともに、これまでの行財政改革の成果であるNTT株売り払い収入の活用などにより内外の内需拡大の要請にこたえることができたと考えております。
しかし、昭和六十三年度末の公債発行残高は、百五十九兆円にも達する見込みであり、財政事情は依然として厳しいものとなっております。このため、気持ちを緩めることなく、今後とも財政改革を強力に推進してまいります。
また、地方財政についても、所要の措置を講じ、その円滑な運営を期することといたしております。
行政改革は、行政を取り巻く内外の環境の変化に的確に対応し、二十一世紀を展望した活力ある経済社会を構築していくため、避けて通ることのできない課題であります。このため、行政改革を引き続き強力に推進することとし、昨年末に、行政組織の簡素合理化、国家公務員の定員縮減など昭和六十三年度に実施する事項を中心とした改革の方針を取りまとめたところであります。政府としては、この方針の着実な具体化を図ってまいります。さらに、行政機関等において国民の皆様と接触する職員の一人一人に行政サービスの向上に対する意識を徹底し、仕事のやり方を総点検し、国民の立場に立った親切な行政、真心のこもった行政を実現するため、さわやか行政サービス運動を展開していくこととしております。
また、地方公共団体の自主性、自立性の強化を図るとともに、地方公共団体における自主的、総合的な行政改革の推進を図ってまいります。
今後の高齢化社会の到来、経済、社会の一層の国際化を考えるとき、抜本的な税制改革の実現は、我が国にとって最重要課題の一つであり、国民の税に対する不公平感を払拭し、所得、消費、資産等の間で均衡がとれた安定的な税体系を早期に構築することが必要であります。
このような認識のもと、現在、税制調査会において税制の抜本的改革の全体像について精力的な御審議をお願いしているところであり、私は、このような場を通し、国民各界各層の御意見を十分に伺いながら、抜本的税制改革について国民の納得が得られるような成案を取りまとめるとともに、その実現に向かって、渾身の努力を傾けてまいる所存であります。
豊かな自然や住みよい都市環境、地域における人と人との心の通い合い、住民の自発性に基づく町づくり、村づくり、地域づくりのための活動、そして、家族の団らん、これらは、私が目指す政治の一つの原点とも言うべきものであります。その意味で、各地方の活性化を促進するためには、ふるさとを育て、守っていく国民一人一人の活動に待つところが大きいと考えます。一方、政府としてもこれらの活動がよりよく発揮されていくよう、都市環境の整備、良質な住宅の供給や地域づくりへの支援、自然環境の保全など均衡ある国土づくりのための諸施策を積極的に講じてまいります。また、昭和六十五年に開催される予定の国際花と緑の博覧会について、諸般の準備を進めてまいりたいと存じます。
昨今の大都市などにおける地価高騰の抑制については、臨時行政改革推進審議会の答申等を踏まえ、緊急土地対策要綱を定めたところであり、現在、土地取引の適正化、住宅宅地開発の促進などこの対策の着実な推進に努めているところであります。さらに、昭和六十三年度税制改正において、居住用資産の買いかえ特例の原則廃止を初めとする土地譲渡益課税の見直しなどを行うことにより、地価高騰の波及を防止し、また、土地供給の促進を図るなど地価対策に資することとしております。幸い、東京の都心部等におきましては、地価上昇の沈静化傾向が見られるところでありますが、さらに、臨時行政改革推進審議会において、土地問題等に関し、基本的かつ広範な検討を行っていただいているところであります。また、国会においても特別委員会が設けられ精力的な御審議がなされ、決議等も出されております。政府としては、これら各方面での論議を踏まえ、国民的なコンセンサスの形成に努めることにより、引き続き、適正かつ合理的な土地利用の実現、適正な地価の形成に努力してまいります。
地価上昇の原因の一つは、東京への人口や諸機能の一極集中であります。政府としては、第四次全国総合開発計画の着実な推進等を通じ、都市・産業機能の地方への分散により、東京への過剰な依存からの脱却を図るよう努めてまいります。
また、この一環として、政府機関などの地方移転を推進していくこととしており、そのため、今般、移転方針について、決定を行ったところであります。これに基づき、現在、いわゆる一省庁一機関移転の実現に取り組んでおるところであります。
第四次全国総合開発計画は、地域の創意と工夫を基軸とした地域づくりを基本とし、そのための基盤となる交通、情報通信体系の整備と交流促進のためのソフト面の施策の拡充を内容とする交流ネットワーク構想の推進により、多極分散型の国土の形成を図ることといたしております。私が目指そうとする「ふるさと創生」と国土づくりの考え方の基本を同じくするものであります。本年は、この四全総推進の一年目に当たり、国はもとより地方公共団体や民間団体など多様な主体の参加、協力を得ながら、四全総で示された諸施策を総合的かつ強力に推進することとし、その一環として、関連法案の準備も進めているところであります。
また、北海道の総合開発及び沖縄の振興開発のための諸施策を引き続き積極的に推進してまいります。
さらに、広く国民に不安を与えるテロ・ゲリラ事件について、国民の皆様の御協力を得てその防圧に努めるなど法秩序の維持、犯罪の防圧、検挙に努めるとともに、事故や災害に強い国土づくりを進め、人を信じ、まじめに働いている者が報われる社会、国民が安心して生活することができるような社会づくりに努めてまいります。
日本は、世界で一、二を争う長寿国となり、まさに、人生八十年時代を迎えております。本格的な長寿社会の到来を控え、公平で安定した社会保障制度の確立を図るため、国民健康保険制度の安定強化のための見直しを行うとともに、医療保険、公的年金について、制度の一元化に向け一層の努力を傾注してまいります。また、より豊かな老後の生活のため、企業年金の育成普及を図ってまいります。国民一人一人が健やかに生きがいをもって安心して暮らすことができるよう、健康づくり対策を推進するとともに、老人保健事業の充実、在宅保健福祉サービスの拡充や特別養護老人ホームなどの整備等を進めてまいります。また、がん対策、エイズ対策を初め難病の克服に万全の努力を傾注していくほか、精神保健対策、精神障害者の社会復帰の促進等心の健康づくりを進めてまいります。
障害者、母子家庭等社会的に弱い立場にある方々へのきめ細やかな配慮を行いますとともに、婦人が十分に能力を発揮し、男性と平等な立場で社会の発展に貢献できるよう諸施策を総合的かつ積極的に講じてまいります。
教育改革の推進は、二十一世紀に向けて我が国が創造的で活力ある文化国家として発展し、世界に貢献していく基盤を築くために、全力で取り組んでいかなければならない国政の重要課題であります。
私は、今の教育に最も強く求められているのは、日本人としての自覚に立って国際社会の中でたくましく活動できる個性的で心豊かな青少年を育成することであると考えます。そのため、臨時教育審議会の諸提言を受け、子供たち一人一人の個性を生かした創造的で多様な教育の実現を目指し、引き続き、道徳教育の充実、教員の資質向上、大学入試制度の改革などを着実に実行に移していくこととしており、そのための法案の提出を含め諸般の施策を進めてまいります。
青少年の健全な育成を図ることは、国の重要な責務であります。このため、学校のみならず、家庭や地域社会における教育を充実させるとともに、青少年が野外で自然に親しむ機会の拡大、青少年による郷土理解や奉仕活動など地域における活動の促進に努めてまいります。生涯学習の振興と学術、文化の発展のための施策も充実させてまいります。
また、健康で充実した生活に対する国民の関心が高まっているところであり、政府としても、各地域で人々が生涯にわたりスポーツを続けることができるよう、施策の推進を図ってまいります。特に、本年はオリンピックの年であり、国際的な競技会において、我が国選手が活躍できるよう計画的に競技力向上のための施策を充実してまいる所存であります。
昨年、利根川進博士がノーベル医学・生理学賞を受賞されたことは、日本人全体にとって大変喜ばしいことでありました。政府としても学術研究の一層の推進に努めてまいります。また、超伝導など新たな技術開発の地平線が開かれつつある中で、未来を開くかぎとなるような基礎的、創造的な科学技術の研究開発、さらには、この面での国際協力を積極的に推進してまいります。
以上、内政外交の重要政策について所信を申し述べました。
激しく変化する時代の流れの中で、私は、今日の繁栄を築かれた先人のひたむきな御努力に感謝し、賢明で勤勉な国民の皆様に心から敬意を表したいと存じます。そして、常に初心を忘れることなく、物心両面で調和のとれた日本、真の豊かさを実感できる開かれた社会の建設を目指し、さらに力強く前進してまいりたいと考えております。
我が国が平和に徹し、世界に貢献する姿勢を打ち出していくに当たっては、時には痛みを伴うことも避けられないと思います。その意味で、内政と外交はまさに一体であります。解決すべき数多くの課題に対しては、国民の合意を求めながら、信念と責任を持って、誠実に忍耐強く取り組んでいきたいと念願しておるところであります。
私は、国民すべての幸せと繁栄を心から祈りつつ、「調和と活力」の政治を目指し、これからも全身全霊を傾けて邁進する決意であります。
国民の皆様の御理解と御協力を重ねてお願いし、演説を終わります。