[内閣名] 第77代第2次海部(平成2.2.28〜3.11.5)
[国会回次] 第118回(特別会)
[演説者] 海部俊樹内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1990/3/2
[参議院演説年月日] 1990/3/2
[全文]
総選挙による厳粛な審判の結果、私は、再び内閣総理大臣に任命され、国政を担当することになりました。内外の山積する諸問題を前に身の引き締まる思いでありますが、選挙の結果を謙虚に受けとめ、国民的合意を目指して全力を挙げてまいる決意であります。皆さんの御協力をお願いいたします。
世界は今、歴史的な変化の中にあります。特に劇的な変化をしているのは、ソ連・東欧諸国であります。ベルリンの壁の崩壊に象徴されるように、自由の抑圧、社会主義的統制経済の非効率、その中から自由と民主主義と市場経済を求める動きが大きなうねりとなっております。激しい変化の過程では不安も見られますが、苦しくてもこの改革は決して後戻りできないとのポーランドやハンガリーの首相の言葉が今も鮮やかに耳に残っております。
ブッシュ大統領とゴルバチョフ議長によるマルタ首脳会談は、世界の平和と安定にとって極めて象徴的なことであります。東西の力の対決、冷戦時代の発想を乗り越えて、対話と協調によって新しい世界秩序を模索していこうという動きは、ひとり欧州にとどまらず、アジア・太平洋地域へと連動させていかなければなりません。力による対立が世界の秩序を支配する中では、日本は力による貢献をすることはできませんでしたが、対話と協調によって新しい平和共存の世界の構築への模索が始まっている今日、我が国は積極的な役割を果たしていかねばなりません。
先般の訪欧を機会に、我が国と欧米との協力関係がより一層強化されたこと、東欧諸国との友好関係が新しい段階を迎えたこと、そして、これら各国首脳との会談が極めて有意義であったことをここに御報告申し上げたいと思います。さらに、先週、ブッシュ大統領から、昨年の会談に引き続き、早急に、議題を決めずに国際情勢及び二国間関係全般にわたり話し合いたいとの提案がありました。国会の御了承をいただきましたので、直ちに訪米し、率直な意見交換を行ってまいりたいと思っております。
今日、世界の経済秩序も重要な岐路に立っております。保護主義圧力の増大は、戦後の繁栄を支えてきた自由貿易体制の存立を脅かしております。他方、経済のグローバル化が急速に進み、我々の住む世界は、一つの共同体としてますます連帯感を深めており、まさに「地球化時代」ともいうべき様相を呈しております。
内に目を転じると、我が国社会もまた大きな変動期を迎えています。高齢者の急増、出生数の減少、農林漁業の後継者難や中小企業の人手不足、女性の社会参加など社会の基本構造を左右する大きな変化が見られ、これらへの適切な対応が迫られております。経済成長の持続にもかかわらず、国民一人一人に豊かさの実感が乏しいとの声も多く聞かれます。大都市地域においては、地価の異常な高騰や住宅の取得難が見られます。また、次の時代を担う若者たちを中心に生きがいや人間関係の上でさまざまな問題が生じつつあることが指摘されております。
このような内外の諸情勢を踏まえ、私は、次の方針により政策を展開してまいります。
まず第一に、我が国は、新しい秩序を築くための国際的な努力に、持てる経済力、技術力、経験を活用しつつ、積極的に参加していくことであります。
第二に、公正でしかも心から豊かさを享受できる社会を建設していくことであります。特に、長寿社会における福祉の充実、土地住宅問題の解決、内外価格差の是正は当面の急務であります。
第三に、政治改革を進め、「信頼の政治」を確立することであります。リクルート事件の反省の上に立って、政治倫理を確立するとともに、金のかからない政治活動や政策中心の選挙の実現など実のある政治改革を全力を挙げて進めてまいります。さきの国会における公職選挙法の改正の実現は高く評価されるものであり、これは平成の政治改革第一歩ととらえるものであります。現在、選挙制度審議会において、定数是正を含む選挙制度及び政治資金制度の抜本的改革のための具体策について、精力的に御審議いただいております。ことしは、時あたかも国会開設百年という記念すべき年に当たっており、同審議会の御答申をいただき、その趣旨を尊重した改革の実現に向けて不退転の決意で取り組んでまいります。引き続き政治改革について各党各会派の御理解と御協力をぜひともお願いいたします。
本年十一月には、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇の皇位継承に伴う儀式として、即位の礼及び大嘗祭が挙行される運びとなっております。即位の礼は、国民がこぞってお祝い申し上げ、世界各国からも祝福されるものとして粛然と実施できるよう、万全の準備を進めてまいります。また、大嘗祭は、皇室の伝統にのっとって厳かにとり行われるよう、必要な手だてを講じてまいります。
国際関係は、政治面でも経済面でも大きな変化を遂げつつあります。東欧諸国が予想を超えたテンポで自由、民主主義及び市場経済を目指した改革を進めており、ソ連ですらも共産党一党独裁の放棄と市場経済の導入への道を歩み始めたこと、東西ドイツが統一に向けて動き出したことは、まことに注目すべきことであります。また、米ソ関係が協調関係へと改善を見せ、東西間の軍備管理・軍縮交渉に進展が見られることは歓迎すべき動きであります。
他方、アジア・太平洋地域においては、経済面での目覚ましい発展は見られるものの、いまだ不安定な要因も抱えております。その他の地域においても、幾つかの紛争に解決の兆しは見られますが、全体として政治的安定度が高まったとまでは言えない状況にあります。
世界経済もまた、構造的な変化に直面しております。情報、科学技術の急速な発展、相互依存関係の深まりとともに、我が国やECの経済力の増大、アジアNIESの躍進、EC統合の動きなど躍動的な変化が見られる一方で、保護主義圧力の増大、開発途上国の巨額な累積債務問題など不安定さを増す要因も少なくありません。
こうした中で迎える九〇年代は、新しい時代の始まりでありますが、その進む方向の青写真は未完成で、希望と不安が混在する時代であります。このようなときにこそ、我々は希望に満ちた新しい国際社会をつくるための国際秩序の構築に参画し、「志ある外交」の展開に取り組んでいかねばなりません。
我々の求める新しい国際秩序は、第一に、平和と安全が保障されること、第二に、自由と民主主義が尊重されること、第三に、開放的な市場経済体制のもとで世界の繁栄が確保されること、第四に、人間らしい生活のできる環境が確保されること、第五に、対話と協調を基調とする安定的な国際関係が確立されることを目指すものでなければなりません。
新しい国際秩序の構築を目指すに当たっては、確固とした日米間の協力関係が基軸にならなければなりません。日米の協力関係は、我が国の平和と繁栄のためのみならず、アジア・太平洋地域ひいては地球的な規模での国際関係の安定にとって不可欠であります。この協力関係のかなめをなす日米安全保障体制については、今後とも堅持していくことは申すまでもありません。
日米間の貿易経済問題の解決は、我が国の直面する最も大きな政策課題であり、中でも構造問題協議は緊急かつ重要な懸案であります。この協議は、我が国の国民生活の質の向上に寄与するとともに米国の競争力強化にも資するものであり、両国間の協力関係の基礎を強化することに直結するものであります。私は、この協議の前進に最大限の努力を払ってまいります。また、世界が共通に抱える各般の分野の問題に対し両国が共同して取り組むことにより、一層良好な日米関係を発展させてまいります。
今日の国際経済が直面する重要な課題は、多角的自由貿易体制の維持強化であります。世界経済の発展は、自由貿易体制に大きく負っていることは言うまでもありません。保護主義は、一時しのぎにはなっても、結果としてその国の経済基盤を弱め、より大きなマイナスをもたらすことを忘れてはなりません。このような見地から、本年末を交渉期限とするウルグアイ・ラウンドを何としても成功させるとともに、我が国としても、対外不均衡の一層の是正を図り、我が国経済を国際的に調和のとれた構造に転換するため、内需主導型の経済運営を堅持するとともに、市場参入条件の改善、製品輸入促進税制の導入などを図っていかなければなりません。政府としては、国民生活の質の向上、消費者重視の視点からも、輸入拡大を目指した施策を強力に推進していく所存であります。国民各位および各企業もその方向での努力を積み重ねていただくよう強く希望します。
アジア・太平洋地域の政治的安定と経済的発展を確保することは、我が国にとって極めて重要な課題であります。この地域は世界経済の成長を大幅に超えるスピードで発展しており、二十一世紀にはますます大きな存在となることが予想されます。また、我が国からの投資、貿易は年々拡大し、この地域の経済発展に大きく貢献しており、我が国とこの地域との結びつきはますます強いものとなっております。しかし、一方で、いまだ南北が軍事的に対峙している朝鮮半島、引き続き戦闘の続いているカンボジア、西側諸国との関係がなお修復されていない中国など、先行きの見通しが困難な地域を抱えております。さらに、多くの国が経済発展の過程にあって援助や投資、貿易の拡大を必要としております。我が国は、アジアの一国として、具体化に向け歩み出した経済面での地域協力を含め、これらの地域の平和と繁栄のために引き続き努力するとともに、ASEAN諸国などアジア・太平洋諸国との関係を一層強化してまいります。また、北朝鮮との間においても、対話の実現を図り、関係改善が進むよう努力してまいります。
ソ連との関係については、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、安定的な関係を確立するとの基本方針の上に立って、日ソ関係全体を均衡のとれた形で拡大させることが我が国の方針であります。最近の国際社会の構造的変化の中で、日ソ関係を正常化することの重要性がこれまで以上に高まっております。明年のゴルバチョフ議長の訪日に向け双方が一層の対話を積み重ね、日ソ関係の抜本的改善が図られることを期待するものであります。
欧州では、東西分断を超えた新しい秩序の構築への大きな胎動が始まっております。政治、経済、文化の各面において西欧各国との関係を一層緊密化し、日欧関係を一辺とする日米欧三極の関係強化を図っていく考えであります。
我が国は国際社会から恩恵を受けつつここまで発展してきており、国際協力を通じて世界の平和と繁栄のために貢献しなければならない立場にあります。既に打ち出している国際協力構想は、平和のための協力、ODAの拡充及び国際文化交流の強化を柱として着実に成果を上げておりますが、今後この構想を一層推進してまいります。また、地球環境、麻薬、テロ、人口増加といった問題への取り組みと科学技術面での協力を強化し、地球的視野に立った国際協力を推進する所存であります。
特に、地球環境の保全については、国際的な枠組みづくりへの参加、国際協力に努め、地球環境の観測監視、調査研究や技術開発の推進を図るとともに、資源を大事にし自然を愛する心、いわゆる環境倫理を大切にして、環境保全のための努力を着実に進め、世界的規模での取り組みへと結実させてまいります。
以上のような時代認識、国際情勢を踏まえて、国際社会の中で我が国が選択すべき姿勢は、次のとおりであります。
その一つは、我が国が世界のどの国に対しても軍事的な脅威を与えるような存在となってはならないということであります。このような方針のもとに、我が国は、日米安全保障体制を堅持し、専守防衛に徹し、非核三原則と文民統制を確保しつつ、節度ある防衛力の整備を図るとともに、国際的に機運の高まっている軍備管理・軍縮の促進への外交努力を一層強化してまいります。
そして、このような基本方針のもとに、経済的、技術的な持てる力と経験を地球的な視野から見て緊要なプロジェクトに効果的に投入し、地球の未来を全人類のために明るく豊かなものにしていく建設的な努力を繰り広げるとともに、経済を中心とするきしみを対話と相互の努力によって平和的に解決してまいります。
私は、このような国の姿勢を改めて平成日本の決意として宣言するものであります。
今日、我が国においては、子供のころは勉強し過ぎ、就職すると働き過ぎ、退職後には時間のあり過ぎという状況で、生き生きとした人生が送れていないのではないかとの声も聞かれます。私は、人生のあらゆる段階で生活のあり方を自由に選択でき、健康で豊かな高齢期を迎えることができ、また育児、介護を中心とする負担が女性にかかり過ぎている現状が改善されるなど、国民一人一人が豊かさを実感できる環境をつくり上げてまいりたいと思います。
このため、「生涯はつらつ、生涯しあわせ」を基本理念とする新人生設計計画ともいうべき構想を推進することとし、その具体的対応の第一弾として、ゴールドプランすなわち「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を策定し、今世紀中に実現を図るべき目標を明らかにいたしました。寝たきり老人ゼロ作戦の推進、在宅介護体制の緊急整備、保健福祉施設の大幅な拡充、在宅福祉などの充実のための福祉基金の創設などを強力に推進してまいります。障害者や母子家庭の方々に対しても、きめ細かな対策を講じてまいります。また、日ごろからの健康づくり、疾病の予防、がん対策や難病の克服、食品の安全性の確保などにも努力を積み重ねてまいります。
人口の高齢化の問題で忘れてならないのは、高齢者が増えていくという側面だけでなく、我が国において誕生する子供の数の減少が進んでいることであります。出生数の減少は、我が国の将来にさまざまな問題を投げかけております。若い人々の子供を持つ意欲を積極的に支えていくことに日本の未来をかけて努力していかなければなりません。子供は世の宝であります。この宝を守り、健やかにたくましく育てていくことこそは、何にもまして大切な仕事であります。私は、これらのことを肝に銘じて、効果的な環境づくりを積極的に進めてまいります。
女性が、職業生活と家庭生活を調和させつつ、男性とともにその能力と経験を生かすこともできるよう、育児休業制度の確立などに向けて積極的に努力をしてまいります。
また、生涯を通じて、各人が、生きがいを持ち、その能力や創造性を発揮していくことは、今後の長寿社会にとって極めて大切であります。六十五歳程度までの継続雇用を初め、高齢者のためのさまざまな就業機会の確保、生涯にわたる能力開発などを進めてまいります。
教育は国家百年の大計であります。自我を確立し、歴史、文化、伝統をとうとび、国際社会の中で信頼される公正な心と豊かな創造性を持つ青少年の育成に努めていかなければなりません。学校教育においては、知育偏重にならないように戒め、個性と創造性を伸ばすとともに、その個性をお互いが尊重し合う気風を育てる教育を実現してまいります。また、国民の多様かつ高度な学習意欲にこたえ、精神的、文化的な充実が得られるよう、生涯にわたる学習やスポーツの機会の整備に力を注いでまいります。
今日、国民の間には心の豊かさを求めて文化への志向が高まっております。我が国独自の伝統文化を継承しつつ、新しい芸術文化の創造発展を図るため、すべての国民が芸術文化に親しみ、みずからの手で新しい文化を創造していける環境の醸成、基盤の確立に努め、すぐれた芸術文化の振興普及や文化による町づくりなどを支援する芸術文化振興のための基金を創設してまいります。
私は、国民の間に豊かさの実感が乏しいのは、住生活の貧困が大きな要因であると考えています。地価の高騰は、社会的な公正感を揺るがせ、国民の住宅確保の夢を奪っております。待望の土地基本法の成立を踏まえ、早速土地対策の重点実施方針を取りまとめましたが、今後一層、地価の動向に細心の注意を払い、投機的な取引を厳しく抑制するとともに、総合的な土地住宅対策を強力に展開してまいります。土地税制は総合的に見直し、平成二年度中に成案を得てまいります。大都市地域の市街化区域内の農地への課税については、総合土地対策要綱に沿って、関係制度の整備充実等とあわせ見直しを行い、平成四年度からの円滑な実施を図ることとしております。
また、東京通勤圏において勤労者が良質な住宅を確保できるよう、この十年間に百万戸を目標に新たな住宅供給を行うことを初め、多様かつ切実な需要に応じた総合的な住宅対策を展開してまいります。
我が国の物価は、安定的に推移しております。しかし、消費生活に直結する価格の中には、外国の水準に比べてなお割高感をぬぐえないものもあります。このため、私は、新設した内外価格差対策推進本部の長として、流通の合理化、独占禁止法の厳正運用、輸入の促進、公共料金の適正化などに取り組み、内外価格差の是正に努め、国民生活を一層充実させてまいります。
現在、我が国経済は、息の長い拡大を続けております。今後とも、主要国との協調的な経済運営を進め、為替レートの安定を図りつつ、内需を中心としたインフレなき景気の持続的拡大と対外不均衡の一層の是正を図るため、引き続き適切かつ機動的な経済運営に努めてまいります。
勤労者の豊かでゆとりのある生活の実現にとって欠くことのできない労働時間の短縮に、真剣に取り組んでまいります。また、良好な労使関係の維持発展を図るとともに、活力ある中小企業の育成を図ってまいります。
さらに、学術研究や原子力、宇宙研究開発を初めとする科学技術の振興に努め、その成果を国際的に展開し、人類の新たな未来を創造してまいります。
北海道の総合開発と沖縄の振興開発に引き続き積極的に取り組んでまいります。
本年四月から開催される国際花と緑の博覧会を通じ、国際交流を深めてまいります。
先般の税制改革は、来るべき高齢化社会を展望し、国民の重税感、不公平感をなくすことを目指したものであります。このうち消費税につきましては、すべての人が社会共通の費用を広く公平に分かち合うという趣旨によるものでありますが、国民各層からさまざまな御意見や御指摘をいただきました。政府はこの新しい税について、消費者の立場、生活重視の思想に立脚しつつ、思い切って見直し、既にその内容を決定したところであります。今後、早急に改正法案を国会に提出し、各党各会派の御審議を得て成立を期し、さらに新税制の定着に全力を尽くしてまいります。
この見直しにおいては、逆進性の緩和の観点や社会政策的配慮から、食料品について小売段階を非課税とするほか、家賃、出産の費用、入学金、教科書代を初め、身体障害者用の物品、老人に対する在宅サービスなどについても非課税とし、さらに、年金生活を送る方々のために一層の所得減税を行うこととしております。中間申告や納付の回数の増加などにより、消費者の立場から指摘されていた仕組みの上での問題点についても、現時点においてできる限りの措置を講じております。また、歳出面でも、消費税の使途を明確化するとともに、高齢化に対応した公共福祉サービスの充実を図ることとしております。
私は、この新税は我が国の二十一世紀を支えるため必要なものと確信しております。税の負担には確かに痛みを伴いますが、しかし、社会全体のことを考え、御理解の上、御協力いただくようお願い申し上げます。
平成二年度予算においては、特例公債依存体質からの脱却を果たすことができました。これは、歴代内閣の御努力と皆さんの御協力のたまものであります。
しかし、なお、国債残高が累増し、平成二年度末には百六十四兆円にも達する勢いであり、財政は依然として厳しい状況にあります。高齢化社会に多大な負担を残さず、再び特例公債を発行しないことを基本として、国債残高が累増しないような財政体質をつくり上げることを目指し、来るべき世紀に向けての足固めを図っていかなければなりません。
手綱を緩めることなく制度や歳出を見直すことはもとより、来月に予定される臨時行政改革推進審議会の最終答申を最大限尊重し、さらに新たな気持ちで行財政改革を推進してまいります。
また、さきの国と地方の関係等に関する答申に沿って、国から地方への権限委譲などに積極的に取り組み、地域の活性化を促してまいります。
地方財政については、その円滑な運営を期することとしております。
なお、公務員の綱紀粛正の徹底に努め、いやしくも疑惑を招くことのないよう規律ある行政を確立してまいります。
農林水産業は、国民生活にとって最も大切な食糧などを安定供給するという重大な使命を担っております。
農業が自立できるよう、確固たる長期展望のもと、誇りと希望を持って農業を営める環境をつくり上げてまいります。急速な高齢化が進んでいる今、進取の気性に富んだ後継者を育成するとともに、生産基盤の整備、バイオテクノロジーを初めとした先端技術の活用などにより、一層の生産性の向上を進め、国民の納得できる価格での安定的な食糧供給を図ってまいります。私は、これらの施策を積み重ねることにより、食糧自給率の低下傾向に歯どめをかけ、供給熱量で五割の自給率となるよう努力をしてまいります。
また、農林水産業の持つ多面的な役割を重視し、地域の資源を活用しながら、条件の不利な中山間地域を初め農山漁村の活性化を図ってまいります。
我が国農業の基幹である米については、米及び稲作の持つ格別の重要性にかんがみ、また衆参両院における御決議の趣旨を体し、国内産で自給するとの基本的な方針で対処してまいります。
地域の活力は、我が国の発展の基盤であります。私は、さきの「活力ある地域づくりに関する懇談会」の御提言にあるように、創造性豊かで多様な選択可能性に富む地域づくり、ふるさと創生の具体化に努力してまいります。また、過疎地域の活性化についても意を用いてまいります。
東京への過度の集中や依存を改め、多極分散型の均衡ある国土づくりを強力に推進することは、国の責務であります。地価の高騰を招かないように配慮しつつ公共投資を推進し、第四次全国総合開発計画に沿って、都市・産業機能の地方分散を図るとともに、基幹的な高速度交通網や高度の情報通信網の整備、イベント開催などによる交流ネットワークの形成を進めてまいります。特に、新東京国際空港の早期完全空港化に積極的に取り組んでまいります。また、より高度な交通サービスを実現するために、リニアモーターカーなどの技術開発を推進してまいります。
最近の交通事故の急増にかんがみ、交通安全の確保に万全を期すとともに、「国際防災の十年」の始まりに当たり、大都市などにおける防災対策の充実、防災分野の国際協力を推進してまいります。また、安寧と自由、民主主義を脅かす暴力事件やテロ・ゲリラ事件には断固たる決意を持って対処してまいります。
私は、世界も日本もみずからの未来を決める歴史的な転期を迎えていることをひしひしと感じております。
冷戦の克服の過程を歩みつつある今日、経済と科学技術の持つ重要性が増大する中で、我が国は、国際社会の恩恵を受けて蓄積してきた経済力、技術力、経験をもとに、地球社会のために積極的に貢献し得るときを迎えたのであります。
我々の周りには、現在も、貧困や病気に苦しむ人々、開発途上にあって援助に頼らざるを得ない国々、自由を求めて歩み始めた国々、そして環境破壊の脅威にさらされている地球があります。我々は、世界各国と手を携えながら、経済的援助にとどまらず、先進技術の移転、人づくりなど幅広い貢献を行うことによって、これらの諸問題の解決に主導的な役割を果たしていかなければなりません。全世界の人々の人間的でより豊かな生活を可能とし、美しく快適な地球を創出していくという高い理想の実現に向けて汗を流していこうではありませんか。
こうしてでき上がった新しい国際社会は、戦争という言葉すら要らない、平和と繁栄の世界となるに違いありません。この崇高な理想の実現に向けて、私は、全力を尽くしてまいります。
議員各位と国民の皆さんの御理解と御協力を、切にお願いする次第であります。