データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第78代宮沢(平成3.11.5〜5.8.9)
[国会回次] 第126回(常会)
[演説者] 宮沢喜一内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1993/1/22
[参議院演説年月日] 1993/1/22
[全文]

 このたび、国民がひとしく待ち望んでおりました皇太子殿下の御婚約のことがめでたく決定になりました。国民の皆様とともに心からお喜び申し上げます。この御慶事は、我が国の明るい将来を象徴するものであり、これを機に皇室と国民とを結ぶ親愛のきずながさらに揺るぎないものとなることを確信いたします。

 今、我々は、久しく経験したことのない歴史的変動の中におります。

 東西間の冷戦の時代が終わり、歴史の流れは大きく平和へと転じました。しかしながら、このことは、国際社会に新たな平和秩序の構築という重い課題を投げかけるとともに、我が国の外交を取り巻く環境にも、また国際社会における立場にも大きな変化をもたらすものとなりました。今や、我が国の行動が国際社会の動きを左右するまでになっており、新たな平和秩序の構築に対し、国力の増大に応じた責任と役割を積極的に果たしていかなければなりません。私は、このたびのASEAN訪問における各国首脳との意見交換を通じて、我が国の国際貢献に寄せられている期待の大きさを改めて痛感いたしました。

 現在、我が国経済は極めて厳しい状況にあります。今、国民は景気の早期回復を心から待ち望んでおり、これは官民が力を合わせて全力で取り組んでいかなければならない緊急の課題であります。他方、国民の意識は、これまでの成長や効率優先主義から、ゆとりや安心、公平、公正を重んずるものへと変化しつつあることも見逃せません。一日も早く景気の回復を図るとともに、国民一人一人が心からゆとりと豊かさを実感できる経済社会の実現に着実に進んでいく必要がございます。

 国際環境と国民意識におけるこのような変化は、戦後我々が積み上げてきた経済社会システム全体の変革を迫るものであり、そしてそのための先導役が今政治に求められております。

 こうしたときに東京佐川急便事件を契機として国民の政治に対する不信感が広まっていることは、まことに遺憾なことであります。真相の解明が重要であることはもちろんでありますが、真に国民の信頼を回復するには、民意が的確に反映される政治構造の実現に向けて政治改革を推進し、目に見える具体的な成果を上げていくことが肝要であります。戦後半世紀近くもなれ親しんできた政治や行政のシステムから脱却し変革を遂げていくことは、決して容易なことではありません。勇気と決断と、それを実行する強い意志が不可欠であります。今や政治改革こそがすべての変革の出発点であります。

 我が国はこれまで大きな変動を何度か経験してきましたが、その都度、進んでみずからを変革し、新たな発展の道を切り開いてまいりました。今また、変動の時代を迎えておりますが、必ずやこれに対応した変革をなし遂げ、二十一世紀に向けての新たな発展の礎を築くことができると確信しております。

 私は、外にあっては世界平和秩序構築のための積極的な国際貢献、内にあっては政府を初め個人や企業の意識や行動の転換を伴う生活大国づくり、そしてこれらの前提となる国民に信頼される政治の確立、この三つを柱に我が国の変革を推進してまいりたいと思います。

 冷戦の終了は、これまで我々民主国家群が追求してきた自由、民主主義、市場経済という基本理念が世界的規模で認知されたという一面を有しております。他方で、冷戦終了の結果、国際社会は、民族や宗教に根差した地域紛争の激化や核兵器を初めとする大量破壊兵器の拡散懸念など新たな課題の発生を見ています。また、開発途上国における貧困問題、地球環境問題など人類共通の課題も深刻化しております。西側社会の基本理念は、むしろ今こそその真価が問われていると申さなければなりません。

 我が国は、戦後一貫して平和主義、国連中心主義を堅持してまいりました。国際政治において軍事力の持つ意味が相対的に低下し、東西対立にかわる新たな世界秩序の構築が模索されている今、この理念の実現が現実的な課題となってきました。冷戦終了後、世界の平和を確保するための国連の努力が活発に行われていますが、我が国も、人的貢献を含めさまざまな形でこれに参画していくことが必要であります。現在、その第一歩として、国際平和協力法に基づいて、既に多数の派遣隊員諸君がカンボジアの復興を目指して汗を流しておりますが、その労苦を多としたいと思います。

 また、ソマリアにおける事態は、人道上の緊急事態として座視し得ないものであります。我が国は、国連のソマリア信託基金への一億ドルの拠出を行いましたが、今後とも、こうした国連を中心とする国際的努力に対してできる限りの貢献を行うことが我が国に課せられた責務であります。

 国際情勢の変化を受け、軍備管理・軍縮の重要性はますます高まっております。このたび、米ロ両国が戦略核兵器の画期的な削減に合意したことは人類の平和にとって大きな前進であります。しかし他方、核兵器などの大量破壊兵器の拡散の動きが見られることは懸念すべき問題であり、また通常兵器の移転が地域の不安定化を招かないよう、十分注意していかなければなりません。我が国としては、大量破壊兵器の不拡散体制強化のための国際的な努力に積極的に参画するとともに、化学兵器禁止条約や通常兵器の国連登録制度への各国の参加を引き続き呼びかけてまいりたいと思います。

 このような緊張緩和の流れなどに対応して、政府は昨年末、我が国の中期防衛力整備計画の修正を一年早めて実施し、計画期間中の防衛関係費を五千八百億円削減することといたしました。もとより、平和憲法のもと、専守防衛に徹し、今後とも必要最小限の基盤的な防衛力の整備に最善を尽くしてまいることは申すまでもありません。

 世界の平和の流れを確実なものとしていく上で、多くの開発途上国において貧困の拡大や経済の低迷などが深刻化する様相を見せていることは見逃せない事実であります。また、旧ソ連などかつての社会主義国における民主主義の導入と市場経済化の努力は幾多の困難に直面しております。東西対立が消滅した今、南北問題の解決や旧社会主義国の改革支援は、我が国として真剣に取り組まなければならない問題であります。この場合、政府開発援助大綱に基づき、経済力に見合った規模の途上国援助を実施するだけではなく、地球環境を初め、難民、人口、エイズ、麻薬など地球的規模の問題や世界の政治情勢を十分に踏まえ、重点的な対応を行っていくことが重要であります。また、我が国の国際貢献の観点から世界経済の活性化に資する開発途上国などへの資金の流れを引き続き確保するとともに、これまで蓄積してきた技術やノウハウの提供など知的支援についても積極的に進めていく必要があります。

 今日の我が国の経済的発展はこれまで国際的に自由貿易体制が維持されてきたことに負うところが多く、また、自由貿易体制の堅持が我が国はもちろん世界経済の発展にとって不可欠の前提であることは異論のないところであります。現在進行中のウルグアイ・ラウンド交渉がもし不調に終わるようなことになれば、保護貿易主義の台頭など世界経済に深刻な影響を与えるおそれがあり、他の主要国とともに、交渉を早期かつ成功裏に終結させるべく努力を続けていく決意であります。なお、農業については、各国ともそれぞれ困難な問題を抱えておりますが、我が国としても、これまでの基本的方針のもと、相互の協力による解決に向けて最大限努力してまいります。

 このたび、私は、インドネシア、マレーシア、タイ、ブルネイのASEAN四カ国を訪問し、今後のASEAN諸国との協力のあり方、さらにはアジア・太平洋地域のあるべき姿と我が国の果たすべき役割について各国首脳と意見交換を行ってまいりました。冷戦構造崩壊後の世界において、アジア・太平洋地域は、政治的にも経済的にもますます重要性を増してきております。この地域が安定性を維持しつつ、今後ともダイナミックな経済発展を遂げていくことは、世界の平和と繁栄にとっても不可欠であります。さまざまな歴史、文化、社会的特性を持ち、また、異なった発展段階にあるアジア・太平洋地域の国々が経済的発展を遂げることができましたのは、異質なものの存在を許容しながら、開かれた自由貿易体制のもとで、相互に切磋琢磨してきた結果にほかなりません。地域全体の平和と繁栄を確保していくためには、今後とも、こうした多様性の尊重と開放性の確保が不可欠であり、また、こうした流れを世界の流れへと発展させていくことが重要であります。

 このため、域内の政治・安全保障対話を促進するとともに、今後とも環境保全や人材育成の面での支援を含む経済協力の拡充に努め、地域全体の平和と繁栄を我が国自身の問題として取り組んでまいります。その際、過去の歴史に対する反省の上に立って、誠実かつ謙虚な態度でこれら各国に接すべきことは申すまでもありません。

 日中関係は、今、さまざまな分野で着実に進展しております。我が国としては、今後とも政治経済両面にわたる改革努力への支援を行うことにより、中国と国際社会との一層の協調を促進していく考えであります。

 朝鮮半島政策については、我が国は韓国との友好関係の強化を軸にこれを進めてきております。私は、二月に就任予定の金泳三次期大統領とも緊密な対話を通じて未来志向的関係の構築に努力してまいります。北朝鮮については、依然として核兵器開発の疑惑が解消されていないこともあり、国交正常化の今後の見通しは不透明ですが、関係諸国とも連絡をとりつつ、原則的な立場を堅持し、粘り強く交渉に臨んでまいります。

 去る二十日、米国ではクリントン氏が大統領に就任されました。新大統領は就任演説において、米国の再生の必要性を強く訴え、引き続き国際的リーダーシップを発揮するとの決意を述べられました。私は、米国が、若く、知性にあふれた、新たな指導者のもとで、経済の再活性化を初めとする国内問題の解決や新たな世界秩序の形成に真摯に取り組もうとしていることを心から歓迎いたします。

 冷戦後の世界が抱える課題の解決のためには、各国が協力して取り組んでいくことが不可欠でありますが、殊に世界のGNPの四割を占める日米両国が、共通のビジョンのもとに、連携してリーダーシップを発揮し得るかどうかが二十一世紀に向けて世界の展望を大きく左右するといっても過言ではありません。また、アジア・太平洋地域の安定確保にとって、米国の存在、米国の関与が従来にも増して重要となってきており、我が国がこの地域においてさらに大きな役割を果たすに当たっても、米国との緊密な協調関係の維持が不可欠であります。

 日米間には、共通の価値観に加えて、日米安保体制を初め広範な分野で密接な相互依存関係が存在しております。こうした基盤に立って、両国間の経済問題を迅速、適切に処理するとともに、新たな平和秩序の構築にともに手を携えて取り組んでまいります。

 ECにおきましては、この一月一日に市場統合が実現されました。さらに欧州連合条約の批准を目指して積極的な努力が続けられており、国際社会におけるECの重みはますます増大してきております。ECは我が国と価値観を共有する重要な友人であり、今後とも政治経済両面での対話、政策協調を深めてまいりたいと思います。

 現在、ロシアは、改革に伴う多くの政治的、経済的諸問題に直面しておりますが、同国での改革が進展すること、また、法と正義に基づき北方領土問題が解決され、日ロ関係の完全な正常化が実現することは、我が国にとってのみならず国際社会にとっての利益でもあります。私は、このような考えに基づき、一貫した方針のもと、日ロ関係が均衡のとれた形で発展していくよう、対ロ外交を進めていく考えであります。

 イラクは、国連を中心とする国際社会のたび重なる警告にもかかわらず、安保理決議違反を繰り返してきております。我が国は、一連の安保理決議の履行を確保するために米、英、仏合同軍がイラクに対し限定的に武力を行使したことを理解し、支持するものであります。

 本年七月には、東京で主要先進国首脳会議が開催されます。冷戦終了後アジアで開催される初めてのサミットであり、また、我が国の世界平和秩序構築に向けての姿勢が問われる重要な会議でもあります。私は、議長として、世界経済の回復を初めとする諸問題の解決に向けた主要国間の政策協調を一層強化し、世界に明るい展望を開くことができるよう、このサミットの成功に全力を尽くす決意であります。

 我が国経済の現状は、住宅投資や公共投資など一部には明るい兆しが見られるものの、一般家庭の消費は停滞ぎみであり、また、中小企業や自営業の方々を初め企業経営者を取り巻く環境にも厳しいものが見られるなど、依然として景気の低迷が続いております。加えて、バブルの崩壊によって資産価格が大幅に下落し、金融面では金融機関の融資対応能力の低下や金融システムの安定性の問題が懸念される一方、実体経済面にも影響を与えております。

 こうした状況に対して、政府は、昨年三月には公共事業等の前倒し実施などを内容とする緊急経済対策を、また、八月には内需の拡大と金融システムの安定性の確保のための施策を含む過去最大規模の総合経済対策を決定するなど、機動的に可能な限りの努力を行ってまいりました。

 平成五年度予算は、こうした努力につなげる形で、公共投資等について、国の公共事業のほか財政投融資計画や地方単独事業においても近年にない高い伸び率を確保するなど、景気に十分配慮したものといたしました。さらに、雇用情勢に細心の注意を払って、失業の予防、就職促進など機動的な雇用対策を講じていくほか、小規模企業対策の強化や中小企業が直面している時短や労働力確保の問題への対応など、きめ細かな中小企業対策を推進してまいります。また、金融・証券業界の徹底した合理化努力を前提として、金融システムの安定性の確保や証券市場活性化に引き続き努力していく考えであります。

 我が国企業の旺盛な活力とその底力は、これまで幾多の困難を乗り越えてきた実績が証明するところであります。我が国経済の潜在力を考えるならば、政府の政策努力によってやがて民間の活力が引き出され、再び内需を中心としたインフレなき成長路線へと移行していくことは疑いありません。対策の効果がだれの目にも見える形であらわれるにはある程度時間がかかるため、もどかしさを感じられる向きもあると思いますが、政府は、今後とも、経済情勢の変化に細心の注意を払い、一日も早く景気の回復が実感できるよう機動的な対応を怠らないようにいたします。まずは、景気の足取りを確実なものとするためにも、平成五年度予算の速やかな成立を切望いたします。

 現下の厳しい経済環境の中にあって、企業においては、経営体質の見直しや二十一世紀に向けた企業行動の変革など構造的な課題への積極的な取り組みが行われており、個人においても、環境と調和した簡素なライフスタイルを目指す動きが着実に進展しつつあります。また、景気の低迷もあって、地価の下落や労働時間の短縮が進んでおります。こうした傾向を一時的なものにとどめず、むしろこれを契機として消費者、生活者重視へと政策の重点を移し、個人や企業の意識や行動の転換を促して、生活大国の実現に向けた構造的な変革へとつなげていかなければなりません。

 政府は昨年、「生活大国五か年計画」を策定いたしましたが、本年は、生活大国の実現に向けて本格的な第一歩を踏み出す年であります。

 国民一人一人が経済力に見合った生活の豊かさとゆとりを実感できるためには、住宅や社会資本の整備が不可欠であります。二十一世紀までに残された期間は、後世に残すべき良質な社会資本ストックを形成するための貴重な時間であります。

 このため、平成五年度予算においては、住宅や都市公園、下水道、環境衛生施設など生活に関連した分野に思い切って重点的に予算を配分することといたしました。

 特に、住宅については、大都市圏において勤労者年収の五倍程度で良質な住宅取得が可能となるよう、住宅金融公庫融資の拡充や住宅地供給促進のための基盤整備など総合的な対策を講ずることといたしております。また、土地神話を打破し、地価の下落・鎮静化傾向の定着を図るため、引き続き国土政策とも連携を保ちつつ総合的な土地対策を推進してまいります。

 我が国の繁栄が国民の勤勉に支えられていることは申すまでもありませんが、今後の課題として、個人の生活に潤いをもたらし、また、家族との団らんの機会をふやすためにも、ぜひとも労働時間の短縮を図っていかなければなりません。年間総労働時間千八百時間の達成に向けて、中小企業等による時短のための自主的な取り組みを支援し、完全週休二日制の普及を図るとともに、週四十時間労働制への移行を実現するための労働基準法改正案を今国会に提出することといたしております。

 国民のだれもがみずからの能力に応じて社会参加し、社会に貢献できるようにすることは、生活大国実現のかぎとなる重要な課題であります。特に、女性が十分に社会で活躍できるよう、これまでの男女の固定的な役割分担意識を初め社会の制度、慣行、慣習などを見直すとともに、男女の雇用機会均等の確保を図り、男女共同参画型の社会を実現していく必要があります。

 このため、育児休業制度や介護休業制度の普及促進に努めるほか、パートタイム労働対策の充実のための法的整備を行うなど、所要の対策を推進してまいりたいと考えております。

 世界一の長寿国となった我が国は、世界でもいまだ経験したことのない超高齢化社会を迎えようとしています。住みなれた地域社会の一員として高齢者が充実した老後を送ることができるようにすることは、政治の基本であります。その基盤づくりとして、高齢者が活躍できる職場を確保し、公的年金制度の長期的安定を図るとともに、地域における保健、医療、福祉サービスが総合的、計画的に提供される体制づくりを進めてまいります。特に、看護婦、福祉施設職員等の確保は緊急の課題であり、勤務条件の改善等総合的な対策を講じてまいります。

 さらに、出生率の低下など状況の変化に対応して、将来を担う子供たちが健やかに生まれ育つ環境づくりに取り組むとともに、「国連障害者の十年」終了後も長期的展望に立って、障害を持つ人の社会への完全参加と平等の理念の実現に努めるなど、福祉施策全般にわたって充実強化を図ってまいります。

 エイズ患者や感染者が急増しております。何としてもその拡大を食いとめなければなりません。そのため、地方自治体や民間の協力も得ながら、地域や職場、学校などあらゆる場で正しい知識の啓発普及を推進するとともに、相談や検査・医療体制の整備、治療法の研究など総合的かつ集中的な対策を展開してまいります。

 次に、社会秩序と安全の問題について申し上げます。

 最近の治安情勢は、暴力団活動の悪質・巧妙化を初め、けん銃を使用した凶悪事件やテロ、ゲリラ事件の多発、薬物事犯の増加など厳しさを増しております。また、交通死亡事故も高水準で推移しております。申すまでもなく、法秩序の維持や安全の確保は、国民生活の基盤をなすものであり、私は、今後ともその対策に万全を期してまいる所存であります。

 国民がひとしくゆとりと豊かさを実感できるようにするためには、多極分散型の国土を形成していくことが重要であります。このため、都市・産業機能の地方分散を一層推進するとともに、成長と定住の核となる地方拠点都市地域の重点的整備や地方の自主的、主体的なふるさとづくりへの支援を積極的に推進してまいります。また、東京一極集中への今後の対応として、過密問題対策とあわせて、国会等の移転の具体化に向けて積極的な検討を進めてまいります。さらに、高規格幹線道路を初めとする道路網や、幹線鉄道、空港など基幹的な高速交通網、生活や地域に密着した高度な情報通信網の整備などにより、全国土を有機的に結び、国土の一体化を図ってまいります。

 また、私は、北海道の総合開発と沖縄の振興開発にも引き続き積極的に取り組んでいくほか、地域の実態に即した国土の保全にも努めてまいります。

 先日の釧路沖地震により被災された方々に心からお見舞い申し上げます。政府としては、被害の復旧に早急に取り組むなど災害対策全般の一層の充実に努力してまいります。

 農林水産業は、国民生活に欠くことのできない食糧の安定供給という重大な使命に加えて、国土や自然環境の保全、伝統と地域文化に裏づけられたゆとりある生活や余暇空間の提供といった多面的な機能も有しております。

 現在、我が国の農業、農山漁村は、後継者の減少、高齢化の進行などの事態に直面しております。私は、二十一世紀という新しい時代を視野に置いた長期的展望のもとに、経営感覚にすぐれた意欲的な農業者が生産の根幹を担う力強い農業構造を実現してまいります。同時に、条件の不利な中山間地域を初め農山漁村が多様で活力のある地域として発展できるよう、基本的な条件の整備を推進してまいります。また、林業、水産業については、国土・環境保全など緑と水の源泉としての森林づくり、豊かな海の恵みを生かした水産業の振興などに努めてまいります。

 人類の生存基盤としての有限な環境を守り、それを次の世代へ引き継いでいくことは、現在に生きる我々に課せられた使命であり、それはまた生活大国実現の礎でもあります。政府は、環境と調和した持続可能な経済社会を構築するためにも、地球環境時代にふさわしい政策を総合的、体系的に進めていくための環境基本法案を策定すべく目下検討を進めております。

 また、地球環境問題に適切に対応していくためには、エネルギーの需給両面からの対策も不可欠であります。需要面では、あらゆる部門における抜本的な省エネルギーを推進するための総合的な対策を講じることとし、供給面においては、環境負荷の小さい原子力や再生エネルギーなどの開発導入を積極的に推進してまいります。特に、原子力については、安全性の確保に万全を期しながら、原発立地や原子燃料の平和的利用の促進を図るほか、旧ソ連・東欧地域の原発の安全性向上のための協力を進めてまいります。

 教育や芸術文化、科学技術は、我が国が創造的で活力ある文化国家として発展し、世界に貢献していく基礎を築くものであります。

 このような認識に立って、私は、個性や創造力を伸ばすことを学校教育の基本に置き、日本人としての自覚を持って国際社会に貢献できる。心豊かなたくましい国民の育成に努めてまいります。また、生涯にわたって自由に学習の機会が得られる社会の実現を目指すとともに、国際的な文化交流の促進、スポーツや芸術文化の振興を図ってまいります。

 さらに、我が国の将来の発展を確保し、知的な面での国際貢献を行っていくためには、基礎研究の基盤整備を図り、独創的、先端的な学術・科学技術研究を推進しなければなりません。高等教育機関の教育・研究環境の抜本的な改善や研究開発基盤の充実強化、研究交流や国際協力の促進に努めるとともに、地球規模の諸現象の解明、宇宙、海洋などの開発利用を推進してまいります。

 生産者中心の視点から消費者や生活者を重視し、効率優先から公正にも十分配慮した社会への転換を進めることは、生活大国づくりの基本理念であります。

 私は、国民の一人一人が真に安全で豊かな消費生活を営むことができるよう、消費者行政を積極的かつ総合的に推進してまいります。現在、政府部内において総合的な消費者被害の防止や救済のあり方についての検討を行っておりますが、年内には結論を得たいと考えております。また、消費者の利益を保護するためには、市場における公正かつ自由な競争を維持し、促進することが重要であり、今後とも、独占禁止法違反行為に対し厳正に対処するとともに、その運用の透明性を高めてまいります。

 二十一世紀をにらんだ社会資本の整備や人口の高齢化などに適切に対応し、生活大国実現に向けて着実に歩みを進めるためにも、また国際社会における我が国の役割の増大に積極的にこたえていくためにも、引き続き健全な財政運営を確保し、公債残高の累増を避けるべく財政改革を進めていかなければなりません。なお、地方財政についても、その円滑な運営を図ってまいります。

 また、時代が大きく流れを変えようとしているときにあって、行政組織やその役割は根本からの見直しや変革を迫られております。私は、簡素で効率的な行政の実現という基本に立って、これまで進めてきた地方への権限委譲、規制緩和の推進に加えて、官民の役割分担そのものの見直し、セクショナリズムの打破による総合的な政策展開能力の強化などを断行する決意であります。

 なお、行政手続法制の整備に取り組むなど、公正、透明で信頼される行政を目指します。

 国民の政治に対する不信感の高まりは、かつてその例を見ない状況に達しており、政治家の一人として、また、国政を担う者として、まことに憂慮にたえません。今こそ政治が我が国の進むべき方向を提示し、その具体化に邁進すべきときであり、一日も早く政治改革を実現し、国民の政治に対する信頼と期待を取り戻さなければなりません。イギリスでは、かつていわゆる腐敗行為防止法の制定を転機に政界の浄化が進んだと言われております。我が国も今、将来にわたって民主政治を発展させていくための抜本的な改革を断行する時期を迎えるに至りました。

 さきの国会で成立した緊急改革は、政治改革に向けての着実な第一歩をしるすものでありました。しかしながら、ここで前進の歩みをとどめることなく、引き続き抜本的な改革を推進することこそが国民の期待にこたえるゆえんであります。

 先般、自由民主党が策定した「政治改革の基本方針」は、政治倫理の確立、政治資金の透明性の確保、政策論議を中心とする政党本位の選挙制度の確立などを目指すものであります。抜本改革のあり方については、さまざまな意見や利害の対立があることは当然でありますが、私といたしましてはきょうの後にきょうなしとの覚悟で政治改革の実現に取り組んでまいります。

 今国会中に抜本的な政治改革が実現するよう、十分建設的な議論が行われることを念願いたします。

 今、我々は、二十一世紀に向けてあすへの展望を開く岐路に立たされております。内外の環境が大きく変化し、国内的にも国際的にも変革が迫られ、また、その機が熟していることはだれの目にも明らかであります。変革は大きな困難を伴うものでありますが、今ここで、新たな道への一歩をちゅうちょするならば、我が国の将来を危うくするおそれがあります。

 私は、改造内閣の発足に当たり、「変革と実行」を掲げました。我が国を、国際社会から尊敬され、国民一人一人が誇りを持ち幸福を実感できる国とするため、政治を初めとする社会制度全体を見直し、新たな時代に対応していくための変革を実行してまいる決意であります。

 議員各位と国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。