データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第79代細川内閣(平成5.8.9〜6.4.28)
[国会回次] 第129回(常会)
[演説者] 細川護熙内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1994/3/4
[参議院演説年月日] 1994/3/4
[全文]

 昨年八月の政権発足以来、私は、「責任ある変革」を旗印に、政治改革、行政改革、経済改革の三つの改革の実現に取り組んでまいりました。

 一つの時代が終わり、新たな時代の姿が必ずしも明らかになっていない中にあって、将来への展望を明るいものとするためには、みずからの力で新しい道を切り開いていく以外に方法はありません。政治、経済、社会の仕組みを根本的につくり変えるという変革の道を選択し、苦しくてもそれを歩み続けることが、この時代に政権を担当する者の歴史的な使命であると思っております。

 政治改革の実現は、本政権にとって最優先の課題でありましたが、このたび政治改革関連法の改正法が成立を見たことは、新しい責任ある政治の実現に向けて大きな一歩を踏み出すものであります。まずは、法の施行準備に万全を期すこととし、両議院の同意を得て、早期に衆議院議員選挙区画定審議会の委員を任命し、審議会の勧告があり次第、速やかにいわゆる区割り法案を国会に提出いたしたいと存じます。

 もとより、政治腐敗を根絶し、政治への信頼を回復するためには、政治家一人一人の倫理観の確立がすべての基本であることは論をまちません。いわゆるゼネコン疑惑に見られるように、依然として政治と金にまつわる構造的な問題が取りざたされていることはまことに残念なことであります。今後ともより実効ある腐敗防止策を初め、制度の改善に向けた努力を怠ってはならないと考えております。

 政治改革は、「責任ある変革」を実行するための土台であり、我々はやっと、政治が主体的に取り組まなければならない本当の意味での変革の出発点に到達したにすぎません。二十一世紀まで余すところわずかな期間しかないことを考えれば、国際社会から信頼される「質の高い実のある社会」を目指して、着実に歩みを進めていかなければならないと思っております。

 新たな発展の基礎を築くためには、まずは時代の要請に合わなくなった制度や慣行を打破していくことが必要であります。政治改革が一つの節目を迎えた今、国際社会における責任を果たすためにも、これから経済改革と行政改革に本腰を入れて取り組んでいかなければなりません。

 私は、改革政権としての本旨を忘れることなく、新たな変革に挑戦してまいりたいと思います。

 何といっても、今、国民の皆様方が切実に願っておられるのは、深刻な不況からの脱出であります。一部には明るい兆しが見られるものの、全体として見れば依然として先行きに対する不透明感、閉塞感がぬぐい切れず、我が国経済は予断を許さない状況にあります。特に、雇用が厳しい情勢にあることは重く受けとめなければなりません。

 こうした状況を克服するためには、時期を失することなく可能な限りの有効な施策を集中的に展開していくことが肝要であります。先般、大型の所得税・住民税減税や第三次補正予算による追加措置を含む十五兆円を超える史上最大規模の総合経済対策を策定いたしました。これを平成六年度予算につなげることによって、切れ目のない財政出動を実現し、できるだけ早い時期に景気を本格的な回復軌道に乗せなければなりません。

 平成六年度予算では、景気に可能な限り配慮して公共事業関係費や地方単独事業の伸びを確保するとともに、住宅、上下水道、公園、環境関連施設の整備など国民生活の質の向上に資する分野に思い切って重点投資を行うなど、本格的な高齢化社会の到来を見据え、社会資本の整備などを着実に推進することといたしております。また、苦境にある農家や中小企業の皆様方を支援するための対策や雇用の安定を確保するための対策には最大限の配慮を尽くしております。

 現下の経済の緊急状態にかんがみ、一日も早い来年度予算の成立を切に要望する次第であります。

 今回の不況は、景気循環要因やバブル崩壊の影響に加え、これまで合理性を有してきた経済の仕組みが有効に機能しなくなっているという構造的な要因も大きく作用しているものと考えられます。これを解決し長期的な発展を確実なものとするためには、日本経済の主役たる民間活力のダイナミックな展開が不可欠であります。私は、民間企業の方々が進んで困難に挑戦し、必ずやこれを克服されんことを確信します。こうした努力を勇気づけ後押しするためにも、中長期的な展望を明らかにしつつ、事業の再編や新規産業の創出、発展につながるような経済改革を確実に推し進めていかなければなりません。

 中でも規制緩和については、経済的規制は「原則自由・例外規制」とし、社会的規制についても不断に見直しを行うという姿勢でこれに取り組み、ビジネスチャンスの拡大と消費者選択の多様化、内外価格差の縮小による購買力の向上などを図ってまいります。特に、土地の有効・適正利用や住宅建設の促進につながる分野や、情報通信など新規産業の創出を刺激する分野、流通、エネルギーなど内外価格差の縮小につながる分野、輸入促進関連の分野などに重点を置いて、思い切った措置を講じてまいります。さらに、内外価格差の原因となり、新規産業の創出や対日アクセスを阻害している競争制限的な行為の排除など独占禁止法の厳正な運用に努めてまいります。

 我が国の経済社会の構造を新たな時代にふさわしいものに改革していくに当たり、行政改革は避けて通れない緊急の課題であります。戦後から今日に至る発展に我が国の行政組織・制度が有効に機能してきたことは大方の意見が一致するところでありましょうが、経済社会環境の著しい変化によって、国民の行政に対するニーズが大きく変化しているにもかかわらず、行政は必ずしもこれに十分に対応できる態勢とはなっておりません。政治や経済が大きく変わる中にあって、ひとり行政だけが旧態依然としていられるはずがありません。

 公正で透明な、そして何よりも国民の利益を第一とする行政の確立を目指して、今こそ、行政のあり方に思い切ってメスを入れなければなりません。私は、規制緩和といった官民の接点を初めとして、聖域を設けることなく、時代にそぐわなくなった制度や仕組みを洗い直し、幅広く官民の役割分担、中央と地方の関係、縦割り行政の弊害是正などについて改革を進めるとともに、行政情報の公開にも取り組んでまいりたいと思います。

 これまで臨調や行革審などの場において膨大な議論が積み上げられてきましたが、行政改革の実効が十分にあがっていないとの批判があることも事実であります。今国会に、行政改革委員会の設置法案を提出することとしておりますが、この際、いかに行政改革を実効あらしめるかが問われていることを肝に銘じ、目に見えるような形で行政改革を進めていくべく決意を新たにいたしております。

 このたび、過去最大の所得税・住民税減税の実施を決定したことは、現下の経済状況から見て不可欠の、そして適切な措置であったと考えておりますが、平成六年度末の公債残高が二百兆円を超え、地方財政の負債も含め、まことに深刻な状況にある財政事情に無責任でいることは許されません。財政事情のさらなる悪化を放置し、後世代に大きな負担を残してはならないことをぜひとも国民の皆様方にも御理解いただかなければなりません。

 本格的な高齢化社会においても、経済社会の活力を損なうことなく、時代の要請に的確に対応していくためには、財政改革を推進し、引き続き健全な財政運営を確保しなければならず、公債残高が累増しないような財政体質をつくっていくため一層の努力を払っていく必要があります。また、地方財政についても、その円滑な運営を図っていかなければなりません。このため、行政改革とあわせて、歳出の徹底した合理化、重点化を進めることとしております。また、税制については、活力ある豊かな福祉社会の実現を目指し、所得、消費、資産等バランスのとれた税体系をつくるため、国民負担と税制のあり方、減税とその財源、税負担の適正公平の確保などといった幅広い諸問題について議論を深め、速やかに合意を得て、年内の国会において関係法律の成立が図られるよう努力を傾けてまいります。

 「質の高い実のある社会」を実現するために、私は、第一に「創造性にあふれた個性豊かな社会の構築」、第二に「豊かで質の高い生活基盤の構築」、第三に「高齢化が活力に結びつく社会の構築」の三つの具体的提案を行いたいと思います。

 これからの世の中を展望いたしますと、多様な個性が豊かに伸びていくことにより、新しい文化や経済活動が生まれ、新たな活力の源泉になるのだろうと思います。これは同時に、国際社会の責任ある一員として行動し、貢献していく上でも重要な基礎を築くものでもあります。今、私たちは 新たな発展を目指して、科学技術、教育、情報通信といった分野でのさらなる前進が求められております。

 科学技術は、経済社会の発展の原動力であり、未来の夢を与えるものであります。科学者や技術者が生き生きと創造的な活動ができる環境を整えていくことは将来へのかけがえのない投資であります。よく我が国は基礎的、先端的な研究に立ちおくれていると言われますが、私は、宇宙、生命、環境、エネルギーなど二十一世紀をにらんだ研究分野において、国際的協力も視野に入れつつ我が国として先導的な役割を果たしていくべきであると考えます。このため、研究施設や研究情報基盤の整備に加えて、創造性にあふれた人材の育成や人材・情報交流の円滑化などにも配慮しながら研究開発体制の整備を促進してまいります。

 また私は、日本が世界に誇る豊かな個性ある文化を、個人から、地域から、また国レべルで発信し、相互の交流を通じて新たな文化創造を目指す「文化を発信できる社会」をつくり上げたいと思います。若手芸術家の育成や地域の特色ある文化活動の推進など文化、芸術、スポーツの振興に取り組んでまいります。さらに、諸外国との対話を通じて、お互いの多様性を理解し合える環境を築くために、「留学生受入れ十万人計画」の推進や、語学教育の一層の充実、開発援助に携わる人材の養成などの人づくりと国際的な文化交流を重点的に進めてまいる考えであります。

 教育を通じて個性豊かな人問性を育てることは、創造的で文化の薫り高い国をつくっていくための基本であります。教育に関して、画一的であるとか、主体性が育たないとかさまざまな意見がありますが、私は、幅広く初等中等教育から大学教育まで、より魅力的な開かれた教育を目指して教育改革を進めてまいりたいと考えております。

 次代を切り開く創造性あふれる経済活動が期待されるものとして、情報通信分野があります。技術の急速な進歩によって、事情報に関しては空間・時間の制約がなくなり、これまでの生活や経済活動を一変させるような社会が二十一世紀初頭にも実現できそうなところまで来ております。しかしながら、残念なことに我が国の情報化は期待どおりには進展していないのが現実であります。私は、目指すべき情報化社会に向けて、長期的な視点に立った新しいビジョンを早急に策定し、公共分野において情報化に積極的に取り組むほか、情報通信ネットワークの整備の促進、通信と放送の融合化、情報教育の推進など総合的な施策を展開してまいる考えであります。

 なお、こうした情報通信分野を含めた新規産業の創出を支援するため、中小企業の新分野進出の支援や、柔軟な構造を持った労働市場の形成、金融・証券市場の活性化、大胆な構造転換の促進なども着実に推進してまいります。

 日本は、世界第二位の経済大国にまでなりましたが、生活の真の豊かさを実感できずにいるというのが国民の皆様方の正直な気持ちではないかと思います。地方では、大都市と比べ働き場所が少ないとか、文化や教育へのアクセスなどの利便性が十分でないといった問題がある一方、都市部では、住宅問題や通勤地獄などに代表されるように生活にゆとりがないと感じている方も多いと思います。こうした問題の原因として、東京圏への諸機能の一極集中や生活関連の社会資本の不足の問題などがあり、早急に効果的な対策の実施に取り組んでいかなければなりません。

 私は、何よりも、それぞれの地域が主体的に、創意工夫しながら魅力ある地域づくりを進め、それが国土の均衡ある発展につながるような基盤を整備していくことが必要であると考えます。そのためには、まず、住民に身近な問題は身近な自治体が担っていくことを基本として、地方税財源の充実を含め、地方分権を強力に推し進めていかなければなりません。法律の制定も視野に入れながら、基本理念や取り組むべき課題と手順を明らかにした大綱方針を年内をめどに策定したいと考えております。

 さらに、多極分散型国土の形成に向けて、都市・産業機能の地方分散を促進するとともに、拠点都市を道路、鉄道、航空で結ぶ効率的な高速交通ネットワークの形成や過疎・山村地域の振興などを進めてまいります。また、国土保全対策や災害対策全般の一層の充実に努めるほか、北海道の総合開発と沖縄の振興開発にも引き続き積極的に取り組んでまいる考えであります。

 地域を問わず国民の一人一人が豊かさを肌で実感できるようにするためには、生活の利便の向上に直結するような生活関連資本をより一層充実したものにしていかなければなりません。このため、例えば、もっと快適で余裕をもった広さの住宅に住めるよう、住宅産業の思い切った構造改革や住宅輸入の促進などを通じて住宅コストの引き下げを図るとともに、計画的に土地の高度利用を進めてまいります。また、道路、公園、上下水道、廃棄物処理施設などの整備や通勤混雑の緩和のための都市鉄道の輸送力増強などの社会資本整備を着実に推進していくことが必要であります。

 環境とエネルギーの問題は、今に生きる我々の問題であると同時に、将来の世代や地球全体のことも視野に入れて取り組まなければならない重要な課題であります。かけがえのない美しい自然を初め、恵み豊かな環境を我々の子供たちに引き継ぐことができるよう早急に環境基本計画を策定し、総合的な対策を実施したいと考えております。また、省エネルギーの推進や代替エネルギーの開発導入の加速化とあわせて、安全性の確保を前提に、原子力の平和利用を進めてまいります。

 安全で安心な生活は日本が世界に誇るべき財産ともいうべきものであり、これを守っていくことは政府の重要な役割であります。暴力団犯罪の悪質・巧妙化、薬物・けん銃事犯の多発化に加え、犯罪が広域化、国際化するなど最近の治安情勢には極めて厳しいものがある一方、交通死亡事故も高水準で推移しております。私は、法秩序の維持や安全の確保に遺漏なきよう取り組んでまいる所存であります。

 また、消費者重視の視点のもとに製品の安全性に関する消費者利益の増進を図るために、製造物責任制度の導入を初めとする総合的な消費者被害防止・救済対策の確立に向けた関係法律案を今国会に提出することといたしております。

 日本が世界一の長寿国になり、世界でもまだ経験したことのない本格的な高齢・少子社会を迎えることについて、国民の皆様方が不安を抱くとすれば、それは政治の責任であります。二十一世紀を活力のある明るい福祉社会としていくために、年金、医療、福祉等の各分野のバランスのとれた総合的な高齢社会福祉ビジョンを早急に策定し、福祉社会の将来像と国民の負担のあり方についての国民的なコンセンサスを形成していくことが重要であります。

 まず私は、二十一世紀初頭までに、本人が希望すれば少なくとも六十五歳までは働くことのできる社会の仕組みをつくり上げたいと思います。高齢者の雇用継続を援助するための給付を雇用保険制度に創設するほか、高齢者の再就職や能力開発を積極的に支援してまいります。また、国民の老後生活を支える柱である公的年金制度については、こうした高齢者雇用の促進と連携のとれた仕組みとするとともに、その長期的安定を図ることにより、本格的な高齢化社会にふさわしいものへと改革してまいります。

 次に、高齢期にも健康で安心できる社会を築くために、財源の確保に配慮しつつ、「高齢者保健福祉推進十か年戦略」、いわゆるゴールドプランを抜本的に見直し、ホームヘルパーなど介護サービスの充実を図ってまいります。また、医療保険制度や老人保健制度については、付添看護に伴う患者負担の解消や保険給付の範囲、内容の見直しなどを行い、医療サービスの質の向上や患者ニーズの多様化に適切に対応できるようにしてまいりたいと思います。

 また、障害者対策に関する新長期計画に基づいて、障害者に優しい町づくりの推進など積極的に障害者対策を進めてまいります。

 豊かな人生を送るために何より大切なものは健康であり、がんを初めとする成人病や難病に対する総合的な対策を図ってまいります。特に、がん克服を目指し、新たに「がん克服新十か年戦略」を策定するとともに、エイズ対策については、拠点病院の整備や治療薬等の研究開発など医療体制の充実に努めるとともに、本年我が国で開催される国際エイズ会議の支援など世界のエイズ対策への貢献に努めてまいります。

 出生率の低下や女性の社会進出など、子供や家庭を取り巻く環境は近年大きく変化してきております。ことしはちょうど国際家族年でもありますが、これを契機として、保育対策の充実や児童環境基金の創設など安心して子供を生み育てる環境づくりに取り組んでまいります。さらに、仕事と家庭が両立できるように雇用保険における育児休業給付制度の創設や介護休業の法制化の検討を含めた介護休業制度の充実を図るとともに、パー卜タイム労働対策なども進めてまいりたいと思います。

 また、女性が、政治、経済、社会のあらゆる分野に男性と平等に参画する男女共同参画型社会の形成に向けて総合的な施策の推進とそのための体制整備に取り組んでまいります。

 昨年十二月、七年以上にわたったウルグアイ・ラウンド交渉がついに妥結したことは、世界経済の未来に明るい希望の灯をともすものであります。交渉の妥結に当たり、米は関税化の特例措置が認められる一方、米以外の農産物については関税化するという内容の農業合意案を受け入れることとなりましたが、自由貿易体制の維持強化によってもたらされる幅広い国民的利益という観点から、ぎりぎりの検討を行い、私は、まさに断腸の思いでこれを決断いたしました。

 農林水産業は、国民生活に欠かせない食糧の安定供給を初め、伝統と地域文化に裏づけられたゆとりある生活空間の提供といった多面的な機能を保有しております。特に、米については、水をたたえた水田と豊かに実った稲穂は、この日本列島の象徴であり、国土や自然環境の保全のためにもかけがえのない役割を果たしてまいりました。

 私は、このようなときであるからこそ、農業に携わる人々の不安感を払拭し、安心して営農にいそしむことができるよう政府として万全を期していかなければならないと考えております。昨年末に設置された緊急農業農村対策本部の陣頭に立って、農業再生のビジョンづくりと国内対策に全力で取り組んでまいる決意であります。

 また、林業、水産業につきましても、森林の整備・保全の推進、生命の源である豊かな海の恵みを生かした水産業の振興などに努めてまいります。

 今我が国は、大幅な経常収支黒字を抱えており、依然として閉鎖的な市場であるとの声が根強く存在いたします。このような批判の中には誤解に基づくものもありますが、これをむしろ日本に対する積極的な期待ととらえ、改善すべきは、日本自身のために積極的に改善していかなければなりません。

 現在進めている経済改革や行政改革は、こうした国際社会の期待にこたえるゆえんでもあります。内需主導型の経済運営とあわせて、規制緩和などによる対日アクセスの改善や内外価格差の是正、政府調達手続における透明性の確保、OTO機能の活用、輸入インフラの整備などを推進し、国際的な貿易ルールのもとに、外に向かって開かれた経済社会を実現していかなければならないと思います。

 先般行われたクリントン大統領との会談で、日米包括経済協議におけるいわゆる目標値の設定をめぐって意見の一致を見なかったことはまことに残念なことでありました。今や、自由貿易原則を堅持しつつ、国際社会との調和のために我が国が果たすべき責任は従来にも増して重くなったと私は受けとめており、中期的な経常収支黒字の十分意味のある縮小に向けて効果的な手段を講じていかなければならないと考えております。

 世界の平和と安定の実現への道のりは決して平たんなものではありませんが、世界は今、共通の目標を目指してその英知と努力を結集しており、その道筋が少しずつ浮かび上がってきております。カンボジア和平の実現や中東和平交渉の進展は、まさに国際社会の協調による問題解決の可能性を象徴するものであります。

 言うまでもなく国連は、国際社会を挙げての努力を結集するかなめとなるものであり、新たな時代の要請にこたえることができるよう、その機能を強化していくことが重要であります。本年は、安保理改革が国際的に議論される年となりますが、我が国としてもこの議論に積極的に参画しつつ、国際社会の期待にこたえ得る形で責任を果たしてまいりたいと思います。

 今後、経済的な支援はもちろんのこと、人的協力や知的協力など我が国が有する資産を十二分に活用し、また、それをうまく組み合わせることにより、平和憲法を有する我が国ならではの多角的な国際貢献を展開し、多様性が尊重される、より平和で繁栄した世界の実現に取り組んでまいりたいと思います。

 日本が一層の役割を果たすべき分野の一つに地域紛争の予防と解決への協力があります。私は、地域紛争を解決し、安定をもたらすためには、和平のための外交努力、国連の平和維持活動、人道支援、暴力により引き裂かれた国の開発復興援助といった包括的アプローチをとることが有効であると考えております。カンボジア紛争を成功裏に終結させた過程は、このアプローチのよい例であります。我が国は現在、モザンビークの国連平和維持活動に参加しておりますが、今月中にエルサルバドルに選挙監視要員を派遺するほか、中東和平進展のかぎとなるパレスチナ人の民生安定のための支援実施や旧ユーゴにおける紛争被災地域に対する人道援助の拡充など、今後にも平和に向けた国際社会の努力を支援してまいります。

 冷戦の終結は、軍備管理・軍縮に向けての好機をつくり出しました。私は、今後とも非核三原則を堅持するとともに、核兵器を含む大量破壊兵器やミサイルの拡散防止に積極的に取り組んでいくつもりであります。核兵器開発問題をめぐり、IAEAによる北朝鮮の申告済み原子力施設に対する査察実施が行われることとなりましたが、さらに北朝鮮の前向きな措置を引き出すことが重要であります。今後とも事態の推移があれば的確に対応していかなければならないと考えておりますが、我が国としては、引き続き韓国、米国を初めとする関係諸国と緊密に連携しつつ、この問題の平和裏な解決に努力してまいります。また、旧ソ連の核兵器廃棄への協力、通常兵器移転に関する国連軍備登録制度の効果的な実施などにも取り組んでまいります。

 世界の平和と繁栄を図る上で、政府開発援助は重要な役割を果たします。日本は今や世界最大のODA供与国となっておりますが、政府開発援助大綱に照らし、被援助国の民主化や人権及び自由の保障、市場経済化、軍事支出の抑制の努力を支援することも念頭に置いて、これを有効に活用してまいります。

 また、環境、人口、エイズ、麻薬、難民問題など地球的規模の問題についても、政府開発援助などを通じて積極的に貢献するとともに、国連の場を中心とする国際的取り組みのかじ取りを率先してまいりたいと思います。

 過去半世紀にわたって、日米両国は、強固で、積極的な関係を維持してきました。今、両国の間には深刻な貿易経済問題が横たわっておりますが、冷静に、相互信頼の精神で協力してその解決に取り組んでいかなければならない問題であります。クリントン大統領とも、このために日米関係がゆがめられるようなことがあってはならないということを確認し合いました。今や日米関係は、それぞれの立場や見解を尊重しながらも協調の道を探るという、新たな段階に至りつつあります。現在日米両国で進行中の改革努力は、こうした日米関係をより強化するものであります。引き続き日米両国が政治・安全保障、経済、地球的規模の協力の各分野について緊密な関係を維持し、日米パートナーシップをより安定したものにしていくことは、両国間のみならず、世界の平和と発展のためにも不可欠であります。

 特に、冷戦終了後の世界にあって、依然として不安定要因を抱えるアジア・太平洋の安全と安定にとって、日米安全保障体制は一層重要性を増してきております。我が国は、みずから適切な規模の防衛力を保有するとともに、この日米安全保障体制を堅持することを引き続き防衛政策の基本としてまいりますが、防衛力整備の指針である防衛計画の大綱が策定されて約二十年の歳月が経過いたしました。私は、この間の国際情勢の劇的な変化や科学技術の目覚ましい進歩などを踏まえながら、改めて大綱の基本的な考え方について整理してみることが必要であると考えております。国民各層の御意見も聞きながら、できるだけ早くあるべき方向を見定めてまいりたいと思います。

 来年は、第二次世界大戦終戦五十周年に当たります。かつて戦場であったアジア・太平洋は、今や世界で最も希望に満ちた地域に発展いたしました。この地域の首脳が一堂に会した昨年十一月のAPEC非公式首脳会議は、地域協力の新しい歴史を開く出来事でありました。その際私は、他の首脳との率直な意見交換を通じて、地域としての一体感が徐々に、しかし確実に醸成されつつあることを実感いたしました。この地域全体にわたる政治及び安全保障対話も本格化しつつあり、今年から中国、ロシアなども参加してASEAN地域フォーラムが開催される予定であります。この機運を逃すことなく、この地域における安定した開かれた協力関係の構築を目指してまいりたいと思います。

 日中関係は、国交正常化二十周年、平和友好条約締結十五周年を経て大きく発展しております。私は、今月後半に訪中し、中国側指導者と率直な意見交換を行うこととしておりますが、両国間の協力関係が国際社会に一層貢献するものとなるよう努力してまいる考えであります。

 韓国との間では、昨年の首脳会談で私が金泳三大統領との間で確認したように、人的・文化的交流をさらに拡大し、未来に向けた自然な形での関係発展のために努力してまいります。また、北朝鮮との国交正常化の問題については、今後とも核兵器開発問題等における動向を慎重に見守っていくことが必要であると考えております。

 ロシアとの関係については、エリツィン大統領の訪日により今後の日ロ関係進展の新たな基礎がつくられました。昨年十二月の新議会選挙及び本年一月の内閣改造後、ロシア情勢は不透明さを増しておりますが、我が国としては、大統領訪日の際署名された東京宣言に従い領土問題を解決し、日ロ関係を完全に正常化するため最善の努力を払うとともに、改革に対し適切な支援を行ってまいる所存であります。

 欧州では、昨年十一月に欧州連合が発足しました。これまでのECよりもさらに統台の度合いが強固なものとなり、この動きは北欧や中・東欧へも拡大しつつあります。このように一体性を強める欧州が国際社会において発言力を強め、ますます重要な役割を担っていくことは間違いありません。私は、我が国と価値観を共有する友人たる欧州との対話、政策協調をさらに広げ、深めてまいりたいと思います。

 新たな日本に生まれ変わらなければならないという国民の皆様方の熱い思いが結実して、この連立政権が発足し、約半年が経過をいたしました。この短い期間の中でも幾つかの大きな課題に直面いたしましたが、これまでだれも踏み入れたことのない道を進むことを選んだ者にとって、これは当然の試練であります。私たちにとって、国民の皆様方の声だけが唯一の道しるべであり、これにこたえながら大きな歴史的な変革を実現してまいりたいと思います。

 ここに重ねて皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。