[内閣名] 第81代村山内閣(平成6.6.30〜8.1.11)
[国会回次] 第132回(常会)
[演説者] 村山富市内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1995/1/20
[参議院演説年月日] 1995/1/20
[全文]
第百三十二回国会の開会に当たりまして、まず、午前中御審議もいただきました関西地方を襲った兵庫県南部地震により亡くなられた方々とその御遺族に対し、深く哀悼の意を表し、また、負傷された方々や非難生活を続けておられる方々に心からお見舞いを申し上げます。
政府としては、私自身が先頭に立って、直ちに関係閣僚を現地に派遣し、実情把握に努めるとともに、地方公共団体と一体となって、警察、消防、自衛隊、海上保安庁などの各機関も最大限に動員をし、行政組織の総力を挙げて救援・復旧活動を行ってまいりました。昨日、私も現地に赴きまして、近代的大都市が初めて経験した大地震による、想像を絶する惨状を目の当たりにいたしまして、言葉を失う思いがいたしました。そして、被災者の方々の苦しみと悲しみを痛いほど肌で感じ、改めて住民の方々の不安解消に全力を傾けるとの決意を強くいたしたところでございます。
まず、依然続く余震に厳重な警戒を行いつつ、いまだに行方が確認されていない方々の捜索、救助にあらゆる努力を行ってまいります。
また、負傷された方々等の医療体制を確保すると共に、厳しい寒さと空腹の中、不安な避難生活を強いられておられる被災者の方々の窮状を一刻も早く改善するため、飲料水や食料、毛布などの供給を初め、公共住宅の活用や仮設住宅の建設による住宅の確保、入浴施設の整備、電気、ガス、水道、電話等のいわゆるライフライン施設の復旧、道路、鉄道、港湾等の輸送手段と施設の確保などを早急に進める所存であります。
さらに、速やかに被災者の方々が正常な市民生活に戻り、また経済活動が復興するために、住宅再建のための融資措置、預貯金引き出しの便宜などのきめ細かい対策や中小企業の立ち上がりを助けるための緊急支援措置などを講じてまいります。
これらの急を要する復旧、復興対策が資金面や制度面の制約などにより遅延することがあってはなりません。復旧に取り組む地方公共団体の活動への財政支援を初め、時期を失することなく、補正予算の検討などあらゆる手段を尽くして万全の財政金融措置を講じてまいりたいと考えています。
今回の都市直下型地震がもたらした甚大な被害と犠牲を貴重な教訓として、また、先年来の北日本を中心とした地震被害や依然火山活動を続けている雲仙・普賢岳の状況も深刻に受けとめて、日本列島全体の災害対策を見直し、再構築していかなければなりません。予想外の被害を見た道路、建築物等についての科学的調査分析と地震に強い構築物や輸送システムの開発、大規模災害時の政府、自治体の対応の検討、予知・予報能力の向上のための体制の強化や研究開発の促進など、総合的な防災対策に万全を期してまいる所存でございます。
なお、全国から、さらには海外各国からも被災地や被害者の方々への温かいお見舞いと御支援をちょうだいしておりますことに対し、この場をおかりして、私からも厚く御礼を申し上げる次第でございます。
平成七年、一九九五年は、戦後五十年の節目の年であります。私は、改めて、これまでの五十年を振り返り、来るべき五十年を展望して、世界の平和と繁栄に貢献し、国民に安心とゆとりを約束する国づくりに取り組む決意を新たにいたしております。この年を過去の五十年から未来の五十年へとつなぐ大きな転機の年としたい、年の初めに当たっての私の願いでもございます。
思えば、敗戦の混乱の中で、国民だれもが「二度とこのような戦争を繰り返してはならない」と胸に深く刻んだところから我が国の戦後は出発をいたしました。そして、あの焼け野が原から、今や一人当たり国内総生産が世界一となるまでの発展を遂げることができたのは、戦後の復興期から高度成長期、さらにはその後の数々の変動を乗り越えて、先輩たちが平和の維持と国民生活の向上のために、知恵を絞り、懸命に走り続けてきたからにほかなりません。その努力に深く感謝するとともに、改めて平和の大切さを痛感いたす次第でございます。今後の五十年においても、我が国はまず平和国家として生きねばならないというのが私の信念であります。
戦後五十年を迎えたこのとき、世界では、東西両大国の対峙による戦後秩序は過去のものとなり、国内にあっても社会全体にわたって地殻変動ともいうべき構造変化が起こりつつあります。我々は、今こそ、戦後長く続いた政治、経済、社会諸制度を謙虚に見直し、新たな歩みを始めなければなりません。
昨年六月のこの政権の発足以来、私は、長年の懸案であった政治改革、税制改革、新たな世界貿易機関への積極的な参加、日米包括協議の前進や被爆者援護法を初めとする戦後処理などの困難な諸課題に全力を傾け、それぞれの問題に大きな区切りをつけることができました。
しかし、私が掲げる「人にやさしい政治」を実現するためには、時代の要請に応じ、勇気を持ってさらなる改革を行っていく必要があることは言うまでもありません。改革は新しい社会を創造するための産みの苦しみともいうべきものでございます。思い切った改革によって、「自由で活力のある経済社会」、「次の世代に引き継いでいける知的資産」、「安心して暮らせるやさしい社会」を創造していくこと、また、世界に向かっては、「我が国にふさわしい国際貢献による世界平和」の創造に取り組んでいくこと、この四つの目標が私の「人にやさしい政治」の目指すところでございます。
私は、行政改革の断行を初めとする諸課題に全力を傾注し、「改革から創造へ」と飛躍を図ることにより、我が国の新たな地平を開くための「創造とやさしさの国づくり」に真正面から取り組んでまいります。
国民経済の成熟化、人口の急速な高齢化や価値観の多様化、さらには国際情勢の激変など内外情勢は大きく変化し、戦後の我が国の発展を支えてきた行政システムも今やさまざまなゆがみを生じ、従来どおりのあり方をそのまま踏襲していたのでは社会のニーズに対応できなくなってまいりました。二十一世紀の情勢の変化にも柔軟に対応できる行政の実現を図るためには、今こそ行政の民間の活動への関与のあり方や、行政における中央と地方との関係等を抜本的に見直さなければなりません。これによって、生活者の幸福に重きを置き、より自由で創造性にあふれた社会を実現するために全力を挙げることが、我々政府の未来への責務であると存じます。
改革の方向を一言で言えば「官から民へ、国から地方へ」であります。すなわち、官と民との関係では規制緩和、国と地方との関係では地方分権、国民の信頼確保の観点からは行政情報の公開を進め、また、行政組織やそれを補う特殊法人等を改革をして、簡素で効率的な、国民の信頼にこたえる行政を実現していかなければならないと存じます。
先般、行政改革の実施状況を監視するとともに、行政情報の公開に係る法律・制度についての検討などを行う行政改革委員会が発足をいたしました。この委員会の意見を国民の目、国民の声と心得て、行政改革の推進を図ることといたします。
さらに、政と官とが適切に役割を分担し、政治がより強力な指導力を持って改革を進めるためにも、新選挙制度の趣旨が生かされる政策本位の政治の実現と腐敗防止の徹底を図り、国民の政治への信頼を確保していかなければなりません。
規制緩和については、内外からの要望を踏まえ、本年度内に、今後五年を期間とする規制緩和推進計画を策定し、実施に移してまいります。その際、経済的規制は原則自由化の方向とし、社会的規制は本来の政策目的に沿った必要最小限のものとすることを見直しの基本といたします。
地方が実情に沿った個性あふれる行政を展開できるよう、その自主性を強化し、地方自治の充実を図っていくことは、民主政治の原点であります。住民に身近な行政はできる限り身近な地方公共団体が担っていくことを基本として、国と地方の役割分担を本格的に見直し、地方公共団体自身の改革をも期待をしながら、権限移譲、国の関与の廃止や緩和、地方税財源の充実強化を進めなければなりません。昨年末に決定をいたしました地方分権大綱に基づいて、地方分権推進の基本理念や地方分権の推進に関する委員会の設置などを定めた法律案を今国会に提案いたします。
本年は、内閣制度発足百十周年に当たります。政府としては、引き続き、行政組織の見直し、内閣機能の強化、省庁間人事交流の促進などに努めてまいります。
特殊法人については、情勢の変化によってその事業の役割が十分に果たし得なくなっているものはないか、改めて評価するとともに、行政の減量化と新たな時代の要請にこたえるため、年度内にすべての特殊法人の見直しを行い、政治的リーダーシップをもって統廃合を含めた整理合理化を推進する決意でございます。
行政情報の公開は、主導者たる国民に対し行政が十分な説明を行い、その信頼を得なければならないという民主主義の基本に照らし、早急に取り組むべき課題でございます。このため、行政改革委員会から情報公開に係る法律・制度について二年以内に意見具申をいただくことになっております。また、急速に進歩しつつある情報通信技術の成果を行政分野に積極的に導入し、効率的、効果的な行政の実現を図る行政の情報化に計画的に取り組んでまいりたいと考えています。
行政改革は本内閣の最重要課題であります。私は、言葉だけの改革に終わることのないよう、不退転の決意と勇気を持って実のある改革を断行する所存でございます。
我が国財政は、公債残高が昨年末ついに二百兆円を超え、さらに増加する見込みであり、国債費も歳出予算の約二割を占め、政策的経費を圧迫するなど、構造的に一段と厳しさを増しております。財政が新たな時代のニーズに的確に対応し、豊かで活力ある経済社会の建設を進めていくため、制度・政策の根本までさかのぼって歳出の抜本的な見直しを行うなど、財政改革をさらに強力に推進してまいります。
また、活力ある福祉社会の実現を目指す視点に立った税制改革の関連法が昨年成立をいたしましたが、その法律に盛り込まれている消費税及び地方消費税の税率の見直し規定の趣旨を踏まえ、国・地方を通じた行政及び財政の改革の推進、そして社会保障の将来の姿の検討について一層積極的に取り組むとともに、今後ともあるべき税制に向けて不断に努力してまいる所存でございます。
我が国経済は、引き続き明るさが広がってきており、緩やかながら回復基調をたどっております。一方、雇用情勢が依然厳しい状態にあるほか、設備投資も総じて低迷が続いております。ようやくともった景気回復の明かりが今後とも着実にその明るさを増すように、引き続き、為替相場の動向を含め、内外の経済動向を注視しながら、機動的な経済運営に努めてまいります。
我が国経済の将来への展望を確かなものとするためには、構造的な変化へのしっかりとした対応がなされなければなりません。成長への信頼に陰りが見え、急速な円高の進展や内外価格差等による高コスト経済化、国際競争の激化等の内外環境のもとで、産業の空洞化やそれに伴う雇用への懸念など、先行きに対する不透明感が広がっております。一方、今や経済に国境のない時代となり、我が国産業も世界にその活動の場を拡大しております。このような状況のもと、我が国が世界の国々とともに繁栄の道を歩んでいくには、自由で柔軟な、活力と創造性にあふれた経済をつくり上げていくための構造改革がなされなければなりません。
具体的には、まず、内外価格差の是正・縮小であります。内外価格差は、豊かな国民生活の実現への妨げになっており、さらに、国内産業の競争力を低下させております。情報の提供等により消費者や産業界の意識改革を促し、政府規制の緩和や独禁法の厳正な運用、競争制限的な取引慣行の是正を進めることにより積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
この関連で、公共料金につきましては、安易な改定が行われることがないよう、案件ごとに厳正な検討を加えるとともに、情報の一層の公開に努めてまいりたいと考えております。
次に、産業構造転換の円滑化であります。既存の産業がみずからの経営資源を有効活用して行う事業革新を積極的に支援していくとともに、構造的な雇用問題に対応して、労働移動ができるだけ失業を伴うことなく行われるための施策を幅広く展開してまいります。
かつてのように国の経済を将来に向かって牽引する産業の姿が明らかでない中にあって、経済の新たな地平を切り開く新規産業の育成もまた重要であります。資金調達環境の整備など総合的な支援策の推進に力を入れるとともに、円高等の厳しい環境の中で、中小企業がその持ち前の企業家精神を発揮することにより、構造改革を進展させていくため、中小企業者や創業者が行う研究開発及びその成果の事業化を促進してまいりたいと考えています。
以上のような観点から、昨年末には産業構造転換・雇用対策本部を設け、内閣一体となって経済構造改革の推進に取り組んでまいりたいと考えております。
次に、農林水産業は、食糧の安定供給という国民生活に欠かすことのできない重要な使命に加え、自然環境や国土の保全など多面的機能を有しております。また、農山漁村は、地域文化をはぐくみ、あの唱歌「故郷」に歌われているような、ゆとりと安らぎに満ちた空間を提供してくれます。我が国農業は、ウルグアイ・ラウンド農業合意の実施に伴い、新たな国際環境のもとに置かれることになりますが、この影響を極力緩和するとともに、我が国農業・農村の二十一世紀に向けた自立と発展を期して、効率的で安定的な農業経営の育成、農業生産基盤の整備、農山村地域の活性化などの施策を総合的に推進してまいります。また、林業、水産業につきましても、緑と水の源泉であり、美しい日本の象徴ともいうべき森林の整備保全に力を注ぐとともに、豊かな海の恵みを生かした水産業の振興、漁村の活性化などに努めてまいりたいと考えています。
二十一世紀に向け、創造性にあふれた社会を実現するためには、天然資源に恵まれない我が国にとって最大の資源である人的・知的資産をさらにつくり出し、次の世代に引き継いでいかなければなりません。尽きることのない知的資源である科学技術は、私たちの未来を創造し、知的でダイナミックな経済社会を構築するかぎでもあります。
私は、若者の科学技術離れに歯どめをかけ、人材の育成確保や研究者の研究環境の改善を図るため、大学や研究機関の教育研究活動の充実や産学官の連携の強化とともに、創造的、基礎的な研究の充実強化等に力を入れ、国民生活に密着をした分野や先端技術分野の研究開発の推進、国際的共同研究の促進など、我が国の研究開発活動を活性化し、科学技術創造立国を目指して全力を傾けてまいります。
生産性の向上や新規市場の創造に大きく寄与し、国民生活の充実にもつながる情報化の推進は、我が国が本腰を入れて取り組むべき重要な課題であります。産業の情報化や、学校、病院、図書館、官公庁など国民生活の情報化を推進し、情報通信の高度化に向けた諸制度の見直しに総合的に取り組むと同時に、新たな低利融資制度等による光ファイバー網の整備や電線共同溝などの整備、情報通信関係技術開発等も積極的に進めてまいりたいと考えています。また、これらの施策を盛り込んだ基本方針を策定するとともに、来月に予定されている情報社会に関するG7閣僚会合に臨むなど、世界情報インフラ整備等の情報通信に関する国際的な展開にも積極的に対応してまいります。
国家は人によって栄え、人によって滅ぶと申します。教育を通じて、個性と創造性にあふれ、思いやりの心を持った人間を育てることは、国づくりの基本であります。いわゆる偏差値偏重による受験競争の過熱化を緩和するために、また、我が国の教育が、国際化、情報化、科学技術の革新といった変化に、より適切に対応し得るよう、いま一度教育上の課題を見直し、より魅力的な、そして心の通う教育を実現するために教育改革を押し進めていかなければなりません。
最近、児童生徒のいじめの問題が深刻になっております。まことに心が痛みます。子供や青少年の問題はいわば社会の縮図であります。教育界のみならず、社会全体が協力して解決すべき課題であり、子供たちがお互いを思いやりながら心健やかに育つよう、家庭、学校、地域社会が互いに手を携えて取り組んでいかなければなりません。政府としても、そのために真剣に努力をしてまいりたいと考えています。
これからの日本は、積極的な文化の創造と発信を通じて、人々が心にゆとりと潤いを持って人間らしく生きることができる真の文化国家を目指すべきであると考えます。私は、創造的な芸術活動や地域文化の振興、さらにスポーツの振興に努めてまいります。
教育、学術、文化、スポーツの分野における国際交流・協力は、国境を越えて互いの多様性を理解し合える環境を築く上で極めて重要であると思います。このため、「留学生受入れ十万人計画」の推進や、平和友好交流計画の一環として実施する青年招聘事業、国際共同研究や研究者交流、海外の文化遺産の保存修復などを進めてまいりたいと存じます。
人の一生には日の当たる時期もあれば、つらく厳しいときもあり、また、心身の強健な人もあれば、病苦に悩む人もあります。いろいろな立場や状態にある人々が、社会全体の支え合いの中で、人権が守られ、差別のない、公正で充実した生活を送ることができる社会を建設することは、「人にやさしい政治」の中心をなすものであります。今、地方公共団体でも、お年寄りや障害者に配慮した町づくりの条例の制定など、徐々に人に優しい社会づくりの輪が広がっております。私は、その先頭に立って、「やさしさ」を現実の政策に具体化していくため、最大限の力を注いでまいります。
まず、老後の最も大きな不安要因である介護問題に対処し、安心して老後を迎えることができる社会を築くために、高齢者介護サービスの整備目標を大幅に引き上げるなど、施策の基本的な枠組みを強化した新ゴールドプランを推進するとともに、新しい公的介護システムの検討を進めてまいります。
また、少子化の問題に対しては、次代を担う子供が健やかに生まれ育つ環境づくりを進めるため、子育て支援の総合的な施策を推進してまいりたいと存じます。
さらに、障害者基本法や新長期計画を踏まえ、障害者の自立と社会参加のため、福祉施策の充実や障害者雇用の促進など総合的施策の展開を図ってまいりたいと考えています。
豊かな人生を送るために何より大切なものは健康であります。看護職員を初めとする医療従事者の確保など医療体制の整備や医療保険制度の安定に努めるとともに、「がん克服新十か年戦略」などの疾病対策を推進してまいります。特に、全世界共通の課題であるエイズについては、国際協力を一層進めるとともに、治療体制の整備や啓発普及に積極的に取り組んでまいります。
社会全体の活力の低下が懸念される中、これまで社会的に能力発揮の場が限られていたお年寄りや女性にもっとその知恵やエネルギーを発揮していただかなければなりません。二十一世紀初頭までに、六十五歳まで現役として働ける社会を実現していくため、継続雇用の推進を初め、高齢者のニーズに応じた多様な形態の雇用機会の確保に努めてまいります。また、育児休業法の定着を図るとともに、介護休業制度の法制化に取り組むなど、職業生活と家庭生活の両立のための対策に力を注いでまいります。さらに、男女の雇用機会均等の確保など、女性の能力発揮の環境を一層整備をしてまいりたいと存じます。
雇用に限らず、社会のあらゆる分野に女性と男性がともに参画し、ともに社会を支える男女共同参画社会の形成は、今後我が国社会がその創造性と活力を高めていくためにもゆるがせにできない課題でございます。政府としては、政府審議会の委員に占める女性の比率を一五%に引き上げるとの目標を平成七年度中に達成するよう全力を挙げることを初めとして、社会の各分野においてさらに男女の共同参画を推進してまいります。また、本年は北京において第四回世界女性会議が開催される予定でもあり、国際的に平和や開発のための女性の行動を強く支援してまいる所存でございます。
地球規模で、また、将来世代にわたって広がりをもつ今日の環境問題は、人類共通の課題であります。我々は、経済社会活動や生活様式を問い直し、祖先から受け継いだ美しく恵み豊かな自然と環境を守り続けていかなければなりません。先般策定をいたしました環境基本計画に基づき、環境への負荷の少ない循環型経済社会の構築、自然と人間との共生、環境保全への国民的参加と国際的な取り組みの推進を長期的な目標として、人と環境との間に望ましい関係を築くため総合的施策の推進に全力を挙げてまいりたいと存じます。
特に、廃棄物の減量化や資源の有効利用の観点から、リサイクル関連の技術開発を推進するとともに、市町村、事業者及び消費者の協力を得て、リサイクルの推進のための仕組みを検討し、適切に対処してまいります。また、新エネルギーの積極的な開発や導入によるクリーンなエネルギー政策の推進も不可欠であると存じます。
環境を守ると同時に、国民生活をより充実するための積極的な環境整備がなされなければなりません。本格的な高齢化社会の到来を控え、豊かな国民生活を実現するためには、国民に身近な生活環境を整備し、同時に、国際化の進展にも配慮しつつ、国土の均衡と特色ある発展を図る必要がございます。大都市圏における通勤混雑の緩和や都市居住の推進など、住宅、生活環境の改善、地方圏への都市・産業機能の分散や活力に満ちた地域社会の形成、さらには、基幹交通網整備等を促進するとともに、北海道や沖縄の開発、振興にも積極的に取り組んでまいります。このため、昨年見直された公共投資基本計画を踏まえて、社会資本整備の着実な推進に努めてまいります。
国民生活の安全は、「安心できる政治」の実現の上で不可欠な要素であります。製造物責任法が本年七月に施行されますが、製品の安全性に関する消費者利益の増進を図る観点から、総合的な消費者被害防止・救済策の確立に努めてまいります。
最近、一般市民を対象とした凶悪な発砲事件や薬物をめぐる事件が多発しております。良好な治安は、世界に誇るべき我が国の最も貴重な財産ともいうべきものであります。これを守るために、国民の皆様とともに今後とも全力を尽くす所存でございます。
以上申し述べました「自由で活力のある経済社会の創造」、「次の世代に引き継いでいける知的資産の創造」、「安心して暮らせる優しい社会の創造」という政策目標の達成のためには、相互に連関した各種の課題を総合的にとらえ、計画的に解決していかなければなりません。このため、政府といたしましては、二十一世紀に向け、新たな経済社会の創造や国土づくりの指針となる経済計画や全国総合開発計画を策定し、これらの「創造」のための施策を積極的に展開してまいりたいと考えているところでございます。
私は、戦後五十年という節目の年を迎えて、過去への反省を忘れることなく、世界平和の創造に力を尽くしていくことが我が国外交の原点であるということを今一度強調したいと思います。我が国が目指すべき平和への道は、武力の行使による平和の実現ではなく、過去の痛ましい経験から得た知恵や世界に誇る技術の力、あるいは経済協力を通じた世界の平和と繁栄の実現であります。それは、「人にやさしい政治」を国際社会に広げていく道でもあります。
我が国は、みずから非核三原則を堅持するとともに、核兵器を含む大量破壊兵器やミサイルの拡散防止、通常兵器の移転の抑制に努力してまいります。昨年我が国が国連総会において提案した核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議は圧倒的多数によって採択をされましたが、今後とも核兵器不拡散条約の無期限延長の実現や全面核実験禁止条約の早期妥結など、唯一の被爆国として、核兵器の究極的廃絶と軍縮に向け、世界に積極的な働きかけを行う考えでございます。
世界に向けて軍縮を唱える我が国が、みずからも節度ある対応をすることは当然であります。平和憲法の理念を遵守し、近隣諸国の信頼の醸成に力を入れつつ、国際情勢を踏まえた必要最小限の防衛力整備に努めていくことを改めて内外に申し上げます。
戦後処理の問題については、さきの大戦が我が国国民とアジア近隣諸国等の人々に多くの犠牲と傷跡を残していることを心に深くとどめ、昨年八月の私の談話で述べたとおり、平和友好交流計画や戦後処理の個別問題について誠意を持って対応してまいります。これは日本自身のけじめの問題であり、アジア諸国等との信頼を増す結果となると確信をいたしておるところでございます。
本年は国連にとっても創設五十周年の記念すべき年に当たります。この歴史的契機に、世界の平和と安定の確保及び環境、貧困、難民といった地球的課題への対処などの分野での国連の機能を強化し、その改革を一層進展させていかなければなりません。我が国としても、安保理改革を初めとする国連改革の議論に積極的に参加をしてまいります。
世界には、冷戦後の今日にあっても引き続き未解決の問題や不安定要因が存在しております。モザンビークにおけるPKOやルワンダ難民救済のための自衛隊部隊等の活動は国際的にも高く評価されましたが、我が国としては、地域紛争の予防と解決のために、外交努力や人道・復興援助等の面の協力に加え、平和維持活動など国連の活動に人的な面や財政面で引き続き積極的に貢献をしていく所存でございます。
アジア・太平洋地域には、目覚ましい経済発展等を背景に、域内各国間の相互依存関係を一層進化させることが必要であるという共通の認識が生まれてきております。我が国としても、この地域さらには世界全体の平和と繁栄を実現するべく、ASEAN地域フォーラム等における政治・安全保障対話や、APEC等での経済面の協議を通じ、協力の強化を図ってまいります。本年、我が国は、APECの議長国として大阪で会議を開催いたしますが、この地域の成長が我が国の繁栄と密接に結びついていることを十分認識し、発展と調和のとれた貿易・投資の自由化の促進やこの地域の発展基盤の整備等の協力の前進のために尽力する所存でございます。
朝鮮半島に関しましては、昨年十月の米朝合意が緊張緩和の契機となることを願いますが、情勢は今後とも予断を許しません。まず重要なことは、北朝鮮が今次合意内容に沿い誠実に行動し、核兵器開発問題に対する国際社会の懸念を払拭することでございます。我が国としては、韓国、米国等々の関係諸国と緊密に連携をしながら、朝鮮半島の平和と安定のためにできる限りの貢献を行っていく所存でございます。
韓国との間では、友好と協力を基礎とし、未来に向けた両国関係の強化に努めてまいります。
また、日中関係につきましては、一層の発展を目指し、中国の改革・開放政策が着実に進むよう引き続き協力をし、国際社会が直面する諸問題についても中国とともに積極的に参加してまいりたいと考えているところでございます。
戦後五十年の年の初めに行ったクリントン大統領との首脳会談でも認識の一致を見たとおり、日米両国は、この五十年の間に、世界の平和と繁栄に対する責任を共有するところまでその関係を発展させてまいりました。今回の首脳会談では、これからの日米協力のあり方を十分話し合い、安全保障面での対話、APECの成功のための協力、地球規模の問題の解決や開発途上国の女性支援等、多くの課題において将来に向けた相互の協力関係を一層発展させていくことを合意したところでございます。
また、このような協力関係の政治的基礎となっている日米安保体制を堅持していくことを改めて確認いたしました。沖縄の基地問題についても、米国側の協力を得て、今後さらなる努力を払っていく所存であります。日米協力関係は、両国にとってのみならず、国際社会全体にとって極めて重要な関係であり、今後ともその強化に努めていきたいと考えております。
日米関係においては、ともすれば経済面での摩擦に焦点が当てられがちですが、両国間の経済関係を円滑に運営していくことが双方の利益であることを改めて想起すべきだと考えます。昨年来、大きな前進を見ている包括協議についても、今回の首脳会談の成果も踏まえ、引き続き積極的に取り組んでいく所存でございます。
欧州におきましては、EUの拡大に向けて着実な進展が見られております。一体性を強め、国際社会における発言力を増しつつある欧州との関係強化は極めて重要であります。最近、欧州側も我が国との対話と協調を重視する建設的姿勢をとっていることを踏まえ、経済、政治分野を含む広範な協力関係の構築に引き続き努めてまいります。
混迷するロシア情勢は注視していく必要がありますが、今後とも、政治、経済両面にわたり均衡のとれた日ロ関係を進展させる必要があります。特に両国間の最大の懸案である北方領土問題が、今日もなお未解決であることは大変残念なことであります。私としては、東京宣言に基づき、政治対話の推進等を通じこれを解決し、両国関係の完全な正常化を達成するために、さらなる努力を払ってまいる所存でございます。
中東地域については、昨年の和平に向けての画期的進展を一層発展させていくため、関係諸国首脳との政治対話、多国間協議への参加、対パレスチナ人及びイスラエル周辺国支援などを通じ協力を進めてまいります。
今や国境線を超えて、各国や地域間の経済の相互依存関係がますます深化をし、国家は対立の中では互いの繁栄を実現できない状況にあります。このような中、我が国としても規制緩和や市場アクセスの一層の改善などにより、国際社会と調和のとれた経済社会の実現に努力してまいります。本年一月一日、WTOが発足をし、世界的な貿易の自由化の中核となる国際機関が誕生いたしました。WTOは、貿易の自由化と規律の強化を通じて世界経済に多大の利益をもたらします。これまで自由貿易の利益を最も享受してきた我が国としては、WTOにおいて積極的な役割を果たすこと等により多角的自由貿易体制の一層の強化に貢献してまいりたいと存じます。
世界には、いまだ貧困や停滞から脱することができないでいる諸国や人々が数多く存在しています。これらの諸国の経済的発展を積極的に支援していくことは、平和国家として、そして国際的にも「やさしい社会」の創造を目指す我が国が最も力を入れて取り組むべき分野であると考えています。我が国の地位にふさわしい貢献を図るため、政府開発援助大綱を踏まえ、環境と開発の両立や民間援助団体との連携も念頭に置いて、貧困に悩む開発途上国や市場経済への移行努力を続ける諸国などに対する支援を続けていきたいと考えています。また、環境問題や人口問題など地球規模の問題については、我が国の知識や経験をもって、引き続き国際社会の共通の認識や枠組みづくりに向けて積極的に取り組んでまいる所存でございます。
ことしは戦後五十年であると同時に、あと五年余りで新世紀を迎える年でもあります。二十一世紀が人類にとって希望に満ちた世紀となり得るかどうかは、残された期間における今の世代の取り組みがその成否を決すると言っても過言ではありません。
二十一世紀というまだ見ぬ未来への助走期間において政治に求めれられていることは、新たな時代に生きる我々の孫やひ孫のために今我々が何をなすべきかを虚心に話し合い、その答えを見出し、勇気を持って実行に移すことであります。今ほど真摯な政策論議とそれに基づく改革努力が求められているときはありません。私も、このことをしっかりと心に置いて、透明で開かれた政策論議を重ねながら「創造とやさしさの国づくり」に全力を傾けてまいりたいと決意をいたしております。
国民の皆様と議員各位の御理解と御協力を心からお願い申しあげます。