[内閣名] 第83代第2次橋本内閣(平成8.11.7〜平成10.7.30)
[国会回次] 第142回(常会)
[演説者] 橋本龍太郎内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1998/2/16
[参議院演説年月日] 1998/2/16
[全文]
私は、将来の我が国を展望した上で、現在をいかなる時代と認識し、何を優先課題とすべきかを考え、冷戦後の国際社会に対応した外交、沖縄が抱える問題の解決、行政改革を初めとする六つの改革に全力を傾けてまいりました。内閣総理大臣就任以来の二年余を顧み、我が国の進むべき方向を見据え、今何をなすべきか、改めて率直に申し上げたいと思います。
まず第一は、この十年来の経済面の困難を克服し、また、制度疲労を起こしている我が国のシステム全体を改革することであります。
経済のボーダーレス化、人口の少子・高齢化など内外情勢が大きく変化する中で、我が国がより安定した発展を続けていくために改革を先送りすることは許されません。
私は、自立した個人が夢を実現するために創造性とチャレンジ精神を十分に発揮できる国、また、内外のさまざまな変動に機敏にかつ柔軟に対応できる国を築きたい、年長者を敬い、親から子へと心の大切さや生活の知恵を伝えていくことのできる社会、そして、豊かな自然や伝統、文化を大切に守り、伸ばしていけるような社会をつくり上げたい、心からそう思っております。私が進めている改革はこうした認識に基づくものであり、内閣の総力を挙げ、どのような困難があってもやり抜く決意です。
第二は、この国の将来を担う子供たちのことであります。
明治以来、教育は、親や地域だけではなく、国が積極的に関与すべき課題とされ、今や我が国の学校教育は平均的には世界最高の水準にあると言われます。しかしながら、暮らしが豊かになり、家庭の役割が変化し、進学率が上昇する中で、受験戦争やいじめ、登校拒否、さらには青少年の非行問題が極めて深刻になっております。
今、子供たちは本当に悩み、救いを求めていると思います。家庭にも学校にも居場所を見つけられず、進学や就職のこと、友達づき合いや男女交際のことで悩んでも、相談相手が得られない、解決を見出せないというのが厳しい現実でありましょう。
しかし、この問題を放置すれば将来に禍根を残すことは間違いありません。大変難しい課題でありますが、子供たちのために何をすればよいのか、皆様とともに考え、真正面から取り組んでまいります。
第三は、冷戦後の国際秩序を模索する世界の動きに的確に対応した外交であります。
第二次世界大戦後の世界を分断した東西対立は過去のものとなり、日ロ関係の抜本的な改善を初め、我が国の外交が広がりを持つとともに、アジア太平洋地域の平和と安定がますます重要になっている今日、こうした認識に立って主体的な外交を進めます。
この三点を念頭に置いて施政の方針を明らかにし、国民の皆様の御理解と御協力をいただきたいと思います。
我が国は、一九八〇年代半ば以降、急激な円高、その後のバブルの発生と崩壊という経済の大きな変動を経験しました。特に、バブル崩壊の過程では地価の下落、土地の需給の不均衡、不良債権問題の深刻化、企業の財務状況の悪化が進み、さらに昨年の夏以降、アジア各国においては通貨・金融面の混乱、国内においては金融機関の破綻などが相次ぎました。これらの問題を克服し、経済の停滞から一日も早く抜け出し、力強い日本経済を再建しなければなりません。
そのためには、まず、金融システムの安定と景気の回復が必要であり、同時に、経済構造改革を初めとする構造改革が不可欠であります。財政構造改革の必要性も何ら変わっておりません。そして、経済金融情勢の変化に応じ臨機応変の措置を講じ、景気の回復を図ることもまた当然であります。
今国会においては、金融システムの安定を図るとともに、一日も早く景気を回復するため、九年度補正予算と関連法案の成立に全力を挙げてまいりました。議員各位の御協力にお礼申し上げるとともに、既に実施している緊急経済対策、二兆円規模の特別減税、九年度補正予算に加え、金融システム安定化対策の迅速かつ的確な執行に努めます。
十年度予算においては、社会保障、環境、科学技術、情報通信など、国民生活の安定と経済構造改革に資する予算を確保するとともに、公共投資を重点化、効率化し、過去最大の五千七百五億円、一・三%の一般歳出の減額と一兆千五百億円の公債減額を行っております。
また、国鉄長期債務の処理、国有林野事業の債務の処理を含めた抜本的改革の実現を図ることとしております。
景気回復を確実なものとするためにも、十年度予算の一日も早い成立に御協力をお願いいたします。
金融システムの信頼は、行政、金融機関、金融・資本市場の参加者が責任を全うすることによって得られます。行政の責任は、金融システム安定化対策を速やかに実施し、また、透明かつ公正な金融行政を遂行することであります。この重大な時期に、大蔵省職員、大蔵省出身の特殊法人役員が不祥事を起こし、金融行政のみならず、行政全体に対する信頼を著しく損ないました。事態を厳粛に受けとめ、大蔵大臣のもと、徹底した内部調査と関係者の厳正な処分を行い、綱紀を正し、不祥事を繰り返す土壌を根本から改めます。
さらに、いわゆる公務員倫理法の制定を期します。金融行政に関しては、客観的かつ公正なルールに基づく透明な行政に転換するとともに、民間専門家の登用、外部監査の活用などにより、厳正で実効性のある金融検査を確立します。
金融機関に対しては、経営の徹底した合理化を強く要請するとともに、国際的に通用する水準の経営情報の開示を求めてまいります。また、破綻した金融機関の経営者の責任が厳しく問われることは当然であります。
こうした取り組みを進めながら、働いて蓄えた資産を有利に運用することができ、また、事業のリスクに見合ったコストで必要な資金を調達することができる公正かつ効率的な金融システムを目指し、株式売買の委託手数料の完全自由化と証券デリバティブの全面解禁、公正な証券取引ルールの整備などを行います。
金融システムの改革の進展に合わせ、金融関係税制については、十年度に有価証券取引税の税率の半減などを行うとともに、十一年末までに見直し、株式等譲渡益課税の適正化とあわせて有価証券取引税を廃止することとしております。
次に、経済構造改革について申し上げます。
私が目指す力強い日本経済は、透明性の高い市場における活発な競争を通じて人と技術が磨かれ、資金が循環し、これら三つが将来性のある分野におのずと集まる経済、個人消費と民間投資が主役となって成長し質の高い雇用の場をつくり出す経済であります。これからの日本は、福祉、情報通信、環境などへのニーズがますます高まり、産業はこうした需要にこたえていかなければなりません。また、企業活動の場としての我が国の魅力を高めるために、物流、運輸や、電力、石油などのエネルギー、情報通信などの分野で、コストを含めたサービス水準が二〇〇一年までに国際的に遜色のないものとなるよう、徹底した規制の撤廃と緩和を行います。
十年度税制改正においては、法人税及び法人事業税の基本税率などを引き下げ、新規産業の創出を促し、国際競争力を持つ企業が活動しやすい環境の整備に踏み出しました。法人課税の水準を国際水準に近づけていくことが重要であり、このような観点も踏まえ、法人事業税における外形標準課税の問題についても検討を進めます。
産業構造が変化し、終身雇用と年功序列を基礎とした雇用慣行が見直される中で、労働形態の多様化を進めることは、人々が生きがいを持って働くためにも、国全体の生産性を高めていくためにも重要な課題であり、転職をより容易にし、転職に伴う不利をなくすための制度改革、労働基準法の改正、能力開発のため主体的に努力する方々への支援、高齢者の雇用促進に力を入れます。また、企業倒産により生ずる雇用問題には機動的に対策を講じます。
技術の面では、産学官の連携による研究開発とその成果の活用、適切な知的財産権の保護により新規事業の創出を図るとともに、我が国の競争力の源泉である物づくりを支える技術と技能、中小企業の人材の育成に努めます。
農林水産業と農山漁村の発展は、経済構造を改革する上でも、食糧の安定供給、自然環境や国土の保全のためにも極めて重要であります。昨年取りまとめた新たな米政策を推進するとともに、新しい農政の基本法の制定に向けた検討を進めるなど、農政の抜本的改革に取り組んでまいります。
冒頭申し上げましたように、ナイフを使用した殺傷事件、薬物の乱用、学校でのいじめ、性をめぐる問題など、子供たちが直面する問題は極めて深刻であり、現象面にのみ目を奪われることなく、根底にある問題を真剣に考えなければなりません。子供たちには、この世に生をうけて本当によかったと思ってほしい、みずからの目標に向かって邁進してほしい、成長してから社会が抱える問題に積極的にかかわってほしい、心からそう思います。
家庭と学校がお互いの責任を強調しても問題を解決することはできません。子供たちがなぜこうした行動に走るのか、家庭、学校、地域、さらにはマスメディアなどを含め、皆が手を携えて取り組むためにどうすればよいのか、それぞれの経験、意見を持ち寄り、幅広い観点から議論し、今こそ大人の責任で対策を考え、実行しなければなりません。
常識、知恵、知識を身につけるための教育が、いつの日からか、皆が同じようによい学校に入り、よい仕事につくための手段になり、私たちは、いわゆるよい子の型に子供たちをはめようとする親と教師になっていないでしょうか。偏差値より個性を大切にする教育、心の教育、現場の自主性を尊重した学校づくり、中高一貫教育など選択肢のある学校制度、子供たちの悩みを受けとめられる教師の養成など、教育改革を進める上でも、このような問題意識を十分反映させていかなければなりません。
六つの改革が前提とする個人は、自立した個人です。社会を明るくし未来を切り開く源はそうした個人の夢と希望であり、それをかなえるために努力する姿は本当にすばらしいものです。開催中の長野冬季オリンピックと、引き続き行われるパラリンピック、そして六月のワールドカップ・サッカー大会における日本選手の活躍を心から期待いたします。そして、子供たちがこうしたすばらしい活躍に胸を躍らせ、それぞれの地域でスポーツ、文化、ボランティアなど、好きなことに打ち込み、個性と能力を伸ばしていく、そのような社会をつくりたいと考えております。
個人の幸福と社会の活力をともにかなえるためには、個人が相互に支え合い、助け合う社会の連帯を大切にし、人権が守られ、差別のない公正な社会の実現に努力しなければなりません。
中でも、男は仕事、家事と育児は女性といった男女の固定的な役割意識を改め、女性と男性がともに参画し、喜びも責任も分かち合える社会を実現することは極めて重要であり、そのための基本となる法律案を来年の通常国会に提出いたします。労使の方々にも、働く女性が性により差別されることなくその能力を十分に発揮することができるよう、御理解と御協力をいただきたいと思います。
社会保障、福祉政策はこれまで大きな役割を果たし、我が国は世界一の長寿国となりました。社会保障に係る負担の増大が見込まれる中で、国民皆年金・皆保険制度を守り、安心して給付を受けられる制度を維持していくためには、少子・高齢化や経済成長率の低下という環境の変化などに対応し、改革を進めなければなりません。年金については、来年の財政再計算に向けて、世代間の公平、公私の年金の適切な組み合わせを考えながら、将来にわたって安定した制度づくりを行います。
医療については、いつでも安心して医療を受けられるよう、医療費の適正化と負担の公平の観点から、薬価、診療報酬の見直しを初め抜本的な改革を段階的に行います。こうした改革を進める上では、国民の皆様の声を政策の立案過程から十分に伺い、議論を尽くし、結論を出します。
また、子育てや介護を担う方への支援を充実するとともに、介護保険制度の円滑な施行に向けて、施設の整備、人材の確保に努めます。ハンディキャップを克服し自立した生活を送ろうと努力する障害者の方々など、真に手を差し伸べるべき弱い立場にある方を支援することは当然であります。
かけがえのない環境、国土、伝統、文化を大切に守り、暮らしの安全と安心を確保することは国の果たすべき役割であり、中でも地球環境を守り子孫に引き継ぐことは最も重い責任の一つです。
昨年の十二月、世界は地球温暖化の防止に向けて大きな合意をいたしました。その合意を実現するために、省エネルギー法の強化などによる省エネルギーの徹底、原子力、新エネルギーの開発利用の促進、革新的な技術開発、途上国の支援などに取り組んでまいります。国民の皆様にも、ライフスタイルの見直しを初め、できる限りの御協力をお願いします。
また、限られた資源を有効に活用し、廃棄物を減量するため、家電製品などの再商品化に関する法整備を初め廃棄物処理対策、とりわけリサイクルを一層強力に推進いたします。さらに、ダイオキシン類の排出抑制、いわゆる環境ホルモンの問題への対応、新型インフルエンザなどの感染症対策など、人の健康と自然環境を脅かす新たな問題や、科学技術の進歩に伴う生命倫理の問題に精力的に取り組みます。
二十一世紀は、時間や距離の制約なく、だれもが大量の情報をやりとりすることができる高度情報通信社会であり、その到来に向けた戦略的な対応が必要です。政府としては、電子商取引の本格的な普及、西暦二〇〇〇年問題、いわゆるハイテク犯罪など情報化をめぐる諸問題に適切に対応するとともに、ネットワーク・インフラの整備、教育、医療など公共分野の情報化、利用者本位の行政の情報化を推進いたします。
これからの国土政策の基本は多軸型の国土構造を形成していくことであり、新しい全国総合開発計画を策定し、首都機能移転問題への取り組みも含め実施してまいります。あわせて、ゆとりある国土空間と恵まれた自然環境を生かした北海道の総合開発計画を推進いたします。
社会資本整備については、国が関与する事業を重点化、効率化するとともに、民間の参加を期待することができる分野に新たな手法を導入してまいります。土地税制の見直し、不動産の証券化、大都市における容積率の見直しなどにより、民間部門の建てかえや再開発、そして不良債権の処理、経済の活性化にも資する土地の有効利用を促進し、職と住の両面における都市の利便性、快適性を高めます。
中心市街地の活性化対策、大型店と地域社会がともに栄えるために実効性のある政策を行い、地域コミュニティーの発展を支援します。さらに、国民共通のよりどころ、豊かな心をはぐくむ源である伝統、文化、芸術、工芸を大切に守り、育ててまいります。
危機管理、災害対策に関しては、在ペルー日本国大使公邸占拠事件、ナホトカ号重油流出事故などの教訓を踏まえ、初動体制の整備、内閣の体制の強化などを行い、万全を期します。阪神・淡路大震災の被災地の復興にも最大限の努力を続けます。また、市民生活を脅かす銃器犯罪や薬物の乱用、組織犯罪、さらには公正な金融・経済秩序の信頼を損なう行為に厳正に対処するとともに、暴力団やいわゆる総会屋などの反社会的勢力を根絶するよう断固として対処します。また、発生件数が五年連続して増加している交通事故の防止対策を推進します。
次に、外交であります。
まず、焦眉の急となっているイラクの大量破壊兵器の廃棄をめぐる問題に関しては、関連する国連安保理決議に基づき、国連特別委員会の査察が即時、無条件に実施されることが必要であります。外交努力を続けながら、米国を初め関係国と協調して対処する方針であります。
アジア太平洋地域の平和と安定は我が国外交の最大の課題でありますが、昨年夏以来のアジア各国の通貨・金融市場の混乱は、この地域の経済に深刻な影響を及ぼしているだけでなく、世界経済に不安定感を与えております。アジア各国が潜在的な力を発揮し、再び力強い経済成長を続けるには、透明な市場原理に基づいてみずから富を生み出すことのできる、すそ野の広い経済を目指した経済、産業構造改革を進めることが重要であり、IMFを中心とする国際的な枠組みを基本とし、関係国、関係国際機関と連携しながら対応してまいります。
アジア太平洋地域の平和と安定のためには、日本、米国、中国、ロシアの四カ国が、信頼と協調に基づく関係を構築していくことが重要であります。
そのような中で、私がまずもって重視するのは、ロシアとの関係の抜本的改善であります。四月にはエリツィン大統領の訪日が予定されています。大統領との間に生まれた信頼関係を一層強固なものとし、橋本・エリツィン・プランを含め、昨年十一月のクラスノヤルスク首脳会談の成果を着実に具体化しながら、二〇〇〇年までに、東京宣言に基づいて平和条約を締結し、両国関係を完全に正常化するよう最大限努力いたします。
また、日中平和友好条約締結二十周年を迎え、江沢民国家主席の来日が予定されている中国との間では、さまざまなレベルにおいて対話を深め、日中友好関係をさらに発展させるとともに、中国と国際社会との一層の協調を促してまいります。
韓国との間では、漁業協定締結交渉など懸案を抱えておりますが、より広い視点から金大中次期大統領との信頼関係を確立し、さまざまな分野での交流、協力を進めてまいります。
北朝鮮に関しては、朝鮮半島の平和と安定に向け、韓国などと緊密に連携しながら、拉致疑惑や日本人配偶者の故郷訪問、国交正常化交渉の再開、KEDOの問題などに真剣に取り組みます。
アジア太平洋地域の平和と安定のためにも、ユーラシア外交を進めていくためにも、基軸となるのは日米関係であり、安全保障、政治、経済にわたる幅広い関係をさらに発展させてまいります。特に、日米安保体制の信頼性の向上は、我が国の安全にとって不可欠であるとともに、アジア太平洋地域全体の平和と安定につながるものであり、新たな日米防衛協力のための指針の実効性を確保するための作業を着実に進めてまいります。
アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスが地域の平和と安定に不可欠である状況のもとで、沖縄の方々が長年背負ってこられた負担に思いをいたし、沖縄が抱える問題の解決に全力を傾けたい、中でも普天間飛行場は市街地にあり、この危険な状況をほうってはおけない、だからこそ、私は、SACO最終報告を取りまとめ、普天間飛行場の返還を可能にする最良の選択肢として代替へリポートの建設を提案いたしました。今でもそのような私の思いは同じです。米軍の施設・区域の整理、統合、縮小に引き続き全力を挙げ、代替へリポート建設に地元の御理解と御協力をいただけるよう粘り強く取り組みます。北部地域を含めた沖縄の振興にも最大限努力する決意であり、特別自由貿易地域制度の創設などを内容とする法案の成立を期します。
我が国の防衛については、日本国憲法のもと、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守るとともに、防衛大綱及び昨年末に見直した中期防衛力整備計画に基づき、節度ある防衛力の整備に努めます。また、ASEAN地域フォーラムなどの安全保障対話や防衛交流などにより、周辺諸国との信頼の醸成に努力してまいります。
また、人口が増大する中で、食糧、エネルギー、環境などの問題を克服し、持続可能な開発を実現していくことは極めて重要であります。我が国としては、これらの課題に積極的に取り組むとともに、途上国の自助努力を支援するため、貧困対策と社会開発、環境保全、人づくりなどを重点として、質の高い援助を効果的に実施してまいります。地域紛争、軍縮・不拡散、難民、テロなどの問題についても、国連平和維持活動への参加などにより積極的な役割を果たすとともに、我が国の安保理常任理事国入りの問題を含め、この分野において大きな役割を果たす国連が、全体として均衡のとれた形で改革されるよう努力いたします。
行政改革の目的は、国の権限と仕事を減量し、簡素で効率的な行政、機動的で効果的な政策遂行を実現すること、国民の皆様から信頼される開かれた行政を実現することであります。これは、同時に、住民に身近な行政をできる限り身近な地方公共団体が担えるようにすることであります。
地方分権に関しては、今国会中に政府の推進計画を作成し、確実に実施するとともに、市町村へのさらなる権限などの移譲、市町村の自主的な合併の積極的な支援、国と地方の役割分担に応じた地方税財源の充実確保、地方の課税自主権の拡大を図ります。地方公共団体に対しては、徹底した行財政改革に取り組むよう強く求めてまいります。
また、新たな規制緩和推進三カ年計画を作成し、一層の規制の撤廃と緩和を進めます。これらの取り組みにより、国の権限と仕事を絞り込み、二〇〇一年一月には、一府十二省庁体制への移行を開始することを目指し、内閣機能の強化と中央省庁改革のための基本法案の成立を期します。新体制に移行する過程においては、現業の改革、独立行政法人制度の導入、郵便貯金などの預託の廃止を含めた財政投融資制度の抜本的な改革などにより、公務員の定員を含め、行政を大幅にスリム化するとともに、公務員制度のあり方を検討し、必要な改革を行います。
今国会に提出する情報公開法案は、主権者である国民の皆様に、政策を評価、吟味し、御意見をいただき、政治と行政への関心を高めていただくために極めて重要であり、法案の早期成立をお願いいたします。また、開かれた行政への取り組みとして、動力炉・核燃料開発事業団の改革を行います。
最後に、行政改革によって不透明な規制を廃し、社会が事後監視・救済型へと転換していく中で、国家の基礎を支える司法の機能が充実することは欠くことのできない課題であり、内閣としても積極的に協力してまいります。
以上、私の所信を申し上げてまいりました。
本年は、バブル崩壊後の最終局面を乗り越え、改革に向けて力強い歩みを進める年、すなわち「明日への自信を持つ年」であります。私は、この国と国民の力を信じます。私たちは、敗戦後の廃墟から立ち上がり、石油危機、円高などの国際情勢の激変や公害問題など、その時々の困難を乗り越えてきました。その熱意と知恵と努力があれば、解決できない問題はありません。
我が国の将来像、進むべき方向を示し、それを実現するために政策を実行するのは政治の使命であります。政治が国民の信頼を回復し、国民の期待にこたえていくために、与党三党は、政治腐敗の防止のための方策、議員の兼職禁止に係る行為規範の見直しなど、政治倫理などに関する協議を精力的に進めており、その結論に従い、清潔で活力ある政治の実現を図ります。
私自身、政策を真剣に議論する政治を率先し、与党三党の協力関係を基本とし、政策によっては各党各会派の御協力をいただき、国民の皆様のために全力を尽くします。
御臨席の各党各会派の議員各位、国民の皆様の御支援と御協力を心からお願い申し上げます。