データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第87代第1次小泉純一郎内閣(平成13.4.26〜平成15.11.19)
[国会回次] 第156回(常会)
[演説者] 小泉純一郎内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 2003/1/31
[参議院演説年月日] 2003/1/31
[全文]

 天皇陛下におかれましては、御病気御療養中であります。陛下の一日も早い御快癒を、国民とともに心からお祈り申し上げます。

 内閣総理大臣として、今、私に与えられた職責は、我が国の経済と社会の再生です。小泉内閣として、「聖域なき構造改革」を推進するとの考えのもと、今後の国政に当たる基本方針を申し述べ、国民の皆様の御理解と御協力を得たいと思います。

 日本経済は、世界的規模での社会経済変動の中、単なる景気循環ではなく、複合的な構造要因による停滞に直面しています。不良債権や財政赤字など負の遺産を抱え、戦後経験したことのないデフレ状態が継続し、経済活動と国民生活に大きな影響を与えています。大胆な構造改革を進め、二十一世紀にふさわしい仕組みをつくることによってこそ、こうした状況を抜け出し、日本の再生と発展が可能となります。我が国の経済社会に残る非効率な部分を取り除き、技術革新や新事業への積極的な挑戦を生む基盤を築く。そして、国民が安んじて将来を設計できる環境を整備する。これら多方面にわたる課題に一つ一つ着実に取り組んでいます。改革なくして成長なしとの路線を推進してまいります。

 改革は道半ばにあり、成果が明確にあらわれるまでには、いまだしばらく時間が必要です。我が国には、高い技術力、豊富な個人資産、社会の安定など、経済発展を支える大きな基盤が存在します。厳しい環境の中でも、多くの人々や企業、そして地域が、前向きに挑戦を続けています。改革を進め、こうした力を一日も早く顕在化させることにより、我が国の発展につなげてまいります。

 今国会には、動き出した改革路線をさらに確固たる軌道に乗せるための関連法案を提出いたします。

 日本経済を再生するため、あらゆる政策手段を動員する必要があり、歳出、税制、金融、規制の四つの改革を加速させます。政府は、日本銀行と一体となって、デフレ克服に取り組みます。

 平成十五年度予算は、四十二兆円の税収に対して三十六兆円に上る多額の国債発行に依存せざるを得ない状況の中、歳出の構造改革を進め、一般歳出を実質的に平成十四年度の水準以下に抑制しました。その中で、セーフティーネットの充実に配慮し、民間活力を引き出し雇用の創出につながる分野や、科学技術など将来の発展の基盤となる分野に大胆に重点配分しました。また、道路特定財源や義務教育費国庫負担金の見直しなどを進めました。

 平成十五年度予算の早期成立に努め、平成十四年度補正予算とあわせ、切れ目なく現下の情勢に対応してまいります。

 二〇一〇年代初頭には、過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らない財政構造を目指します。

 税制改革については、あるべき税制の構築に向け、昨年一月より議論を重ね、多岐にわたる改正を一体として行うこととしました。特に、千四百兆円の個人金融資産を流動化する具体策として、相続と贈与を通じた新たな制度のもとで贈与時の非課税枠を設け、住宅取得に充てる贈与については三千五百万円まで非課税措置を講じます。この措置は、本年一月一日にさかのぼって適用することとしています。また、土地の有効利用を促進するため、土地流通税を大幅に軽減します。平成十五年度は、実質一兆八千億円の減税を先行させ、多年度で税収をバランスさせます。

 不良債権問題に全力で取り組み、平成十六年度に終結させます。金融再生プログラムを着実に実施し、強固な金融システムを構築してまいります。金融危機は起こさせません。

 産業再生機構を設立するとともに、産業再生法を抜本的に改正し、民間の英知と活力を最大限に生かしながら、産業再編や事業の早期再生に向けた取り組みを強化します。

 離職者に対する早期再就職の支援を充実し、雇用保険制度を見直すとともに、地域の創意工夫による雇用創出策を拡充するなど、セーフティーネットを強化します。求人と求職を的確に結びつけ、労働者が多様な働き方を選択できるよう、制度を見直します。

 中小企業の金融対策に万全を期します。技術力のある中小企業による創業や新事業への挑戦に対して、資金確保、技術開発、人材育成等、支援策を強化します。

 貯蓄から投資への流れを加速するため、金融・証券税制を大幅に軽減・簡素化します。身近な金融機関などで証券を購入できるようにし、監査を充実強化することにより、個人投資家にとって参加しやすく、信頼できる証券市場とする改革を進めます。

 公正取引委員会の体制を拡充するとともに、四月から内閣府の外局とし、公正かつ自由な経済社会のかぎとなる競争政策を強化します。

 全国どこでも司法を身近に利用できる社会を実現するため、総合的かつ集中的に司法制度改革を進めます。第一審が二年以内に終わることを目指して裁判を迅速化するための法案など、改革関連法案を提出します。

 私は、行財政改革で最も重要な課題は郵貯、年金を財源とする財政投融資を通じて特殊法人が事業を行う公的部門の改革であると主張してまいりました。これらの制度については、民業を圧迫し、また、楽観的な需要予測で国民負担を将来に先送りするなど、弊害が明らかになってきています。民間でできることは民間にゆだねることが基本です。この方針のもと、郵政事業、財政投融資、特殊法人の改革を一体のものとしてとらえ、簡素で効率的な質の高い政府に向け改革を進めます。

 四月から、日本郵政公社が発足します。民間的な経営を取り入れ、質の高いサービスが提供されるものと考えます。民間の郵便事業参入も始まります。郵政事業は、実質的な民営化の第一歩を踏み出しました。国民的議論を踏まえ、さらに改革を進めてまいります。

 財政投融資については、郵貯、年金の預託の義務を既に廃止し、みずから財源を調達することとなりました。その規模も圧縮し、平成十五年度当初計画の規模は、ピーク時である平成八年度のおよそ四割減としました。

 百六十三の特殊法人等のうち、石油公団の廃止など、百十八法人について既に改革に着手しました。事業を徹底して見直した上で、廃止、民営化、または独立行政法人化し、透明性を高め、評価を厳正に行うことにより、新たな時代にふさわしい組織へと転換してまいります。住宅金融公庫を廃止することとし、新規貸し出しを段階的に縮小するとの方針を示した結果、利用しやすい民間の住宅ローンが相次いで提供されています。

 道路関係四公団の民営化については、民営化推進委員会の意見を基本的に尊重するとの方針のもと、建設コストを引き下げ、新会社のつくる道路と税金でつくる道路を区分するなど、改革の具体化を図ってまいります。

 政府系金融機関は、当分の間、その活用を図り、中小企業等に対する円滑な金融を確保します。国として、必要な機能を厳選し、民間金融機能の正常化の状況を見ながら、大胆に統合集約化を進めてまいります。

 このような公的部門の改革は、財政構造、経済構造、金融システムの改革につながり、将来、大きな果実を生むものと考えています。

 公務員が国民全体の奉仕者として、志を持って行政に専念できる環境を整備するため、公務員制度改革の具体化を進めます。幹部職員の退職年齢の引き上げに政府一体となって取り組み、いわゆる天下りの弊害を是正します。国家公務員の退職手当について、民間企業の状況を踏まえ、支給水準を引き下げます。

 国と地方の関係については、平成十五年度予算において、改革の芽を出しました。地方にできることは地方にゆだねるとの原則に基づき、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分について三位一体の改革案を、六月を目途に取りまとめます。

 市町村合併をさらに推進してまいります。

 政治に対する国民の信頼は改革の原点です。あっせん収賄罪に問われた現職国会議員の有罪判決や、公職選挙法違反に問われた献金事件といった、一連の政治資金をめぐる問題を重く受けとめています。さきの通常国会で改正あっせん利得処罰法や官製談合防止法が成立したところであり、法を遵守することはもとより、国民の信頼を裏切ることのないよう、政治家一人一人が常に襟を正さなければなりません。公務員の政治的中立の確保についても、厳しい姿勢で臨んでまいります。

 小柴さん、田中さんのノーベル賞受賞は、日本人を勇気づけるすばらしいことでした。昨年、日本人の業績が世界で高く評価されたのは、ノーベル賞だけではありません。カーボン・ナノチューブを発見した飯島澄男さん、青色発光ダイオードを初めて実用化した中村修二さんは、ノーベル賞の登竜門とも言われる米国のベンジャミン・フランクリン・メダルを受賞しました。中西香爾さんは、生物活性物質の研究で、アラブのノーベル賞と言われるキングファイサル国際賞の栄誉に輝きました。建築家の安藤忠雄さんは、米国建築家協会の最高賞である金メダルを授与されました。

 科学や技術の分野だけではありません。輸入が急増する厳しい経営環境の中、タオル産地、今治市の企業三社は、商品企画力を高く評価され、米国の国際展示会でグランプリの栄誉を得ました。アニメ映画「千と千尋の神隠し」は、芸術性が世界で高く評価され、ベルリン国際映画祭の最優秀作品賞や、ニューヨーク映画批評家協会のアニメ部門最優秀作品賞を受賞しています。今井千恵さんと谷口郁子さんの二人の日本人女性が、世界女性起業家賞に輝きました。日本は高く評価されています。

 科学技術、バイオテクノロジー、知的財産、IT、都市再生、構造改革特区など、日本再生のかぎを握る分野について、政府を挙げて取り組み、政策の方向を示してきました。さまざまな分野での挑戦をしっかりと後押ししてまいります。

 科学技術創造立国の実現に向け、平成十五年度の一般歳出を厳しく抑制する中で、対前年度比三・九%増の科学技術振興予算を措置し、遺伝子レベルで個人個人に合った予防や治療を可能にする研究開発などを重点的に支援してまいります。また、一兆二千億円に上る研究開発・投資減税を行います。

 新たな技術への支援は、新たな産業の振興につながります。バイオベンチャー企業は急増しており、昨年までに三百社を超えました。イネゲノムの解読は、昨年十二月、日本の主導により終了しました。官民挙げて、バイオテクノロジーの発展に取り組んでまいります。

 特許審査の迅速化、特許をめぐる裁判制度の改革、模倣品・海賊版対策の強化を行い、知的財産立国を目指します。

 地球温暖化への対応には、一刻の猶予も許されません。国、地方公共団体、事業者、国民、それぞれが、脱温暖化社会への構造改革に取り組む必要があります。環境と経済の両立がかぎです。科学技術の活用を進め、世界の先端を行く環境産業を振興します。

 二酸化炭素を吸収する多様で健全な森林の育成を進めます。緑の雇用を推進し、雇用創出と森林整備の担い手の確保を図ります。

 京都議定書の早期発効と、すべての国が参加する共通ルールの構築に最大限努力します。

 平成十五年度中には、一般公用車のうち七割を低公害車とし、平成十六年度までにはすべてを低公害車にします。また、昨年、世界で初めて市販された燃料電池車を公用車として導入しました。規制を総点検し、燃料電池車の普及拡大を後押しします。平成十七年から、ディーゼル自動車について、世界一厳しい排出ガス規制を実施します。同時に、次世代の低公害車や燃料などの開発と普及を支援します。

 ごみゼロ社会の実現に、就任以来、取り組んでまいりました。食品、建設、自動車など、各種のリサイクルの仕組みは既に整備しました。今後は、循環型社会形成への道筋を示すとともに、ごみの不法投棄の一掃に向けて制度を整備します。年間三百五十万台が廃棄されているパソコン処理の仕組みを合理化するなど、廃棄物の処理やリサイクルを一層促進します。身近な取り組みとして、中央省庁の食堂で生ごみのリサイクルを進めています。トウモロコシからつくる食器など環境に優しいバイオマス製品を、政府を初め公的機関で導入し、国民の身近な生活へと広げてまいります。

 我が国には、歴史に根差した文化や伝統、すぐれた人材や企業が各地にあります。地域が持つ潜在力や魅力を引き出し、日本を再構築します。

 十四の都市再生プロジェクトを推進するとともに、四十四の都市再生緊急整備地域において、優良な民間都市開発を支援します。大都市だけではありません。北海道の稚内では、ロシア・サハリン州との交流を軸にした国際観光・交流都市づくり、沖縄の石垣では、港を中心にした町づくりが進んでいます。四国の松山では、小説「坂の上の雲」が町づくりのテーマです。地域の知恵と個性を生かした取り組みを支援してまいります。

 各地域で多様な形のタウンミーティングを開催し、国民との活発な対話を継続します。

 四月には、構造改革特区第一号が誕生します。地域や民間から、六百を超える第二次提案がありました。制度を一層充実し、教育分野への株式会社参入を含め、これまで規制されていた市場への民間参入の実現を図ります。特区をてこに、全国規模での規制改革を進めます。

 観光の振興に政府を挙げて取り組みます。現在、日本からの海外旅行者が年間約千六百万人を超えているのに対し、日本を訪れる外国人旅行者は約五百万人にとどまっています。二〇一〇年にこれを倍増させることを目標とします。

 海外から日本への直接投資は、新しい技術や革新的な経営をもたらし、雇用機会の増大にもつながります。脅威として受けとめるのではなく、日本を外国企業にとって魅力ある進出先とするための施策を講じ、五年後には日本への投資残高の倍増を目指します。

 英国の作家、スマイルズの著書「自助論」は、明治の多くの青年たちの心をとらえたと言われます。みずから志を立て、懸命に学問を修め、勤勉努力した若者たちが主役となって、近代国家日本の基礎が築かれました。新しい時代を切り開くのは、いつの時代でも、自助自律の精神のもと、他者への思いやりと高い志を持つ青年たちです。人こそ改革の原動力です。

 アフリカのマラウイで数学や物理の教育を行う青年や、メキシコ南部の村で保健指導に従事する女性など、日本とは文化も価値観も異なる厳しい環境で、現在も約二千四百名の青年海外協力隊員が開発途上国の国づくりのために活躍しています。

 勇気を持って新しい時代に立ち向かう力を培うため、画一と受け身から自立と創造へと、教育のあり方を大きく転換してまいります。教育基本法の見直しについては、国民的な議論を踏まえ、しっかりと取り組んでまいります。確かな学力と豊かな心の育成を目指した初等中等教育の改革、知の世紀を担うにふさわしい大学改革を進めてまいります。

 「必ず邑(むら)に不学の戸なく、家に不学の人なからしめんことを期す。」明治五年の太政官布告は、すべての国民に教育の機会を保障すると宣言しました。現在、意欲があれば、みずからの意志と責任で、だれでも教育を受けることができます。一方、不登校児童の増加など、新しい状況が生じています。時代にふさわしい多様な教育機会の整備に努めてまいります。あすを担う人材が勉学の機会を失うことがないよう、奨学金制度の充実に努めます。世界に開かれた最高水準の教育研究を行う科学技術大学院大学の設立構想を、沖縄で推進します。

 昭和三十年代には洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビ、四十年代にはカー、クーラー、カラーテレビが、新しい生活を象徴する三種の神器と言われました。欲しいものがないと言われる現在でも、カメラつき携帯電話や薄型テレビ、食器洗い機など、新しい時代をとらえた商品の売れ行きは伸びています。自由な時間を自分を磨くためやボランティア活動に使う人は、着実にふえています。暮らしの質を高めたいという国民の意欲は、今でも健在です。

 暮らしの構造改革を進め、国民が安心して将来を設計することのできる社会を構築してまいります。

 新たな職業分野への進出など、女性の挑戦を支援し、先進諸国に遜色のない男女共同参画社会の形成を進めます。

 子育てと仕事の両立を支援するため、平成十六年度までにさらに十万人の受け入れ児童の増加を目指し、待機児童ゼロ作戦を引き続き推進します。小学生のための放課後児童クラブや、子育て中の親が集まって相談や情報交換ができる場を整備します。少子化の流れを変えるため、家庭、地域、企業が一体となって子育てを支援するための法案を提出します。

 年金制度については、平成十六年度に行う改革の検討に向けて、昨年、方向性と論点を取りまとめました。医療制度については、国民皆保険を守り、将来にわたり良質で効率的な医療を国民が享受できるよう、先般、大幅な改革を行いました。持続可能な社会保障制度を構築するため、給付と負担のあり方について正面から取り上げ、国民的な開かれた議論のもとに、改革を継続してまいります。

 我が国の高速インターネットの利用料金は、三年間で月額八千円から二千五百円に下がり、今や、世界で最も低い水準にあります。高速インターネットや携帯電話の普及により、さまざまな情報提供や、遠隔医療・教育など、暮らしに密着したサービスがあらわれ、IT革命は国民生活に着実に浸透しつつあります。利用者の視点を重視した新IT戦略を策定し、二〇〇五年に世界最先端のIT国家を実現します。行政手続を一つの窓口で済ませることができる、身近で便利な電子政府・電子自治体や、家庭のIT基盤となる放送のデジタル化を推進します。

 IT社会の基盤となる法制として、個人情報保護関連法案を、修正の上、再提出し、成立を期します。

 原子力発電の安全確保に全力を挙げて取り組み、信頼回復に努めます。また、エネルギー安定供給の確保に的確に対応してまいります。

 食品安全基本法を制定するとともに、安全性を科学的に評価する食品安全委員会を新設するなど、緊急事態に対処する体制を整備し、食の安全確保に万全を期してまいります。

 農業・農村の改革を加速するため、米政策の改革と農業経営の規模拡大や法人化を推進し、意欲と能力のある経営体を集中的に後押しします。自然に恵まれた農山漁村と都市との交流を進めます。

 凶悪な事件が多発し、国民の多くが治安の悪化に不安を抱いている状況を改善し、世界一安全な国の復活を目指します。不法滞在の外国人による組織的犯罪やハイテク犯罪などへの対策を強化します。大規模地震等への消防防災対策を強力に推進するとともに、被災者への支援や災害復旧復興対策に万全を期します。

 昨年の交通事故による死者数は、過去最悪だった昭和四十五年の約一万七千人から半減しました。今後十年間で交通事故死者をさらに半減させ、道路交通に関して世界で一番安全な国とすることを目指します。

 弱い立場にある人権侵害の被害者を実効的に救済する、新たな人権救済制度を整備します。

 建築物や交通機関のみならず、制度や意識も含めて社会のバリアフリー化を促進し、年齢や障害の有無にかかわらず、国民が安心して生活できる社会を築いてまいります。

 国際社会の一員として、テロの防止、根絶に引き続き取り組みます。武装不審船、大規模テロを含む国家の緊急事態への対処態勢を充実し、継続審査となっている有事関連法案の今国会における成立を期します。安全保障、危機管理に必要な情報収集能力を強化するため、我が国初となる情報収集衛星の今年度末打ち上げに向け、最終の準備を進めます。

 国際平和への決意を具体的な行動に移すため、和平交渉の促進、難民支援や対人地雷除去、インフラの復旧整備、教育支援など、平和の定着と国づくりに積極的に取り組みます。昨年一月に東京で開催したアフガニスタン復興支援国際会議は、国際社会でも高い評価を得ました。今後も、スリランカやインドネシアのアチェなど、さまざまな地域で平和な国づくりに貢献してまいります。

 我が国の平和と安全、そして繁栄を確保するため、各国首脳との信頼関係を築き、国際社会が直面する課題に主体的に取り組んでまいります。我が国の文化と伝統を積極的に紹介し、文化や智の交流を進め、深い相互理解と幅広い協力関係を構築します。

 北朝鮮については、日朝平壌宣言を踏まえ、国交正常化に取り組んでまいります。我が国は、米韓両国と緊密に連携し、また、中国、ロシアや国際機関とも協力しつつ、北朝鮮に対して、核兵器不拡散条約の遵守を求めるとともに、核兵器開発の放棄を強く求めてまいります。拉致被害者並びに御家族の立場を踏まえ、拉致問題の全面解決に最大限努力します。国際社会の責任ある一員となることが北朝鮮の利益に最もかなう選択であることを、粘り強く説得していく考えです。

 私は、先般、日ロ関係に新たな息吹を吹き込みたいとの思いでロシアを訪問しました。日ロ行動計画に合意し、プーチン大統領との信頼関係を深めることができました。我が国固有の領土である四島の帰属問題の解決による平和条約の締結を目指し、民主主義と市場経済という二つの基本的な価値を共有する国として、政治、経済、文化など幅広い分野で、関係の発展に取り組みます。

 イラクの大量破壊兵器をめぐる問題は、国際社会全体への脅威です。イラクが査察に全面的かつ積極的に協力し、大量破壊兵器の廃棄を初め、関連する国連安全保障理事会の決議を履行することが重要であり、我が国として主体的な外交努力を継続してまいります。

 本年は、ペリー提督率いる米国の黒船艦隊が浦賀に来航してから百五十年目に当たります。同盟国である米国との関係は、今後も我が国の平和と繁栄の基礎であり、日米安保体制の信頼性の向上に努めるとともに、政治、経済を初め多岐にわたる分野において緊密な連携や対話を続け、強固な日米関係を構築してまいります。また、普天間飛行場の移設、返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告の実施に取り組み、沖縄県民の負担軽減に努力するとともに、地域の特性を生かし、沖縄の経済的自立を支援します。

 ワールドカップサッカー大会の共催成功でより緊密な隣国となった韓国との未来志向の友好協力関係を一層発展させていくため、二月に発足する盧武鉉新政権と密接に協力してまいります。

 本年は、日中平和友好条約締結二十五周年に当たります。両国国民の理解と信頼を基礎に、アジア地域、ひいては世界の平和・安定と繁栄の実現のため、中国との幅広い分野における協力関係を一層推進します。

 日本とASEAN関係の新時代に向けた昨年一月の我が国の提案は、着実に具体化されてきました。交流年の事業も既に開始されています。年末に予定されている、我が国で初の日本ASEAN特別首脳会議などを通じ、協力関係を発展させてまいります。

 国際社会での影響力を一層増しつつある欧州とは、広範な分野にわたって、より緊密な関係を築きます。

 貿易自由化を進め、途上国を含めたすべての国が利益を得られる多角的貿易体制を強化するため、WTO新ラウンド交渉を推進します。

 メキシコやASEAN、韓国との経済連携に積極的に取り組みます。

 三月に関西で開催される世界水フォーラム、六月のエビアン・サミット、九月末に東京で開催予定の第三回アフリカ開発会議へと続く一連の国際会議を通じ、持続可能な開発、途上国の貧困問題・感染症対策など、重要課題の解決に主体的な役割を果たしてまいります。

 ODAについては、効率化、透明性の向上に努めるとともに、アジアの安定と成長、紛争後の平和の定着、環境を初めとする人間の安全保障分野に重点化するなど、戦略的に活用します。

 科学的観点に立った水産資源の持続的利用を基本に、水産外交を展開いたします。

 私が初めて当選してから、三十年がたちました。初当選直後に第四次中東戦争が勃発し、我が国は、一年間で物価が二〇%以上も上昇する狂乱物価の時代を迎えました。インフレの抑制が最大の政治課題でした。

 二度の石油ショック、そして円高ショックと、我が国はこの三十年間、幾たびか、経済と国民生活の根幹を揺るがす危機に見舞われました。しかし、国を挙げて省エネ化を進めるとともに、企業においては、徹底した省力化投資と製品の高付加価値化による国際競争力の強化に取り組み、危機をばねにして、より強靱な経済社会をつくり上げてきました。

 我が国は、構造的な停滞の中で、戦後初めて、デフレという状況に直面しています。今こそ、幾多の危機を克服してきた経験と、これを支えた日本の力を思い起こすときです。

 大事なことは、失敗しないことではなく、失敗を次の成功に生かすことです。人生で大切なことは、挫折してもくじけず、また立ち上がることだと思います。

 明治維新の激動期も、敗戦後の混乱期も、先人たちは、難局に敢然と立ち向かって、今日の日本を築き上げてきました。悲観論から新しい挑戦は生まれません。厳しい経済状況下にあるとはいえ、今、私たちには、当時よりはるかに豊かな蓄積と、そこから生まれる大きな可能性があります。

 歴史に学び、勇気と希望を持って、新しい日本をつくり上げようではありませんか。

 国民並びに議員各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。