[内閣名] 第88代第2次小泉純一郎内閣(平成15.11.19〜平成17.9.21)
[国会回次] 第162回(常会)
[演説者] 小泉純一郎内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 2005/1/21
[参議院演説年月日] 2005/1/21
[全文]
演説に先立ち、ただいまの御決議に対して所信を申し述べます。
政府といたしましては、ただいま採決された御決議の趣旨を十分に体しまして、インド洋沿岸諸国に対する国際的支援活動において積極的な役割を果たしてまいる考えであります。
第百六十二回国会の開会に臨み、小泉内閣として国政に当たる基本方針を申し述べ、国民の皆様の御理解と御協力を得たいと思います。
先月、紀宮清子内親王殿下の御婚約の内定という慶事を迎えました。国民とともに心からお祝い申し上げます。
昨年は、豪雨や台風による災害が多発するとともに、新潟県中越地震により甚大な被害を受け、年末にはインドネシア・スマトラ島沖で大地震と津波が発生して、多くの国々が未曾有の災害に襲われました。被害に遭われた方々、そして今なお困難な生活を余儀なくされている方々に対し、心からお見舞いを申し上げます。
国内の被災地が迅速に復旧事業に取り組めるよう、激甚災害指定を行い、補正予算を編成しました。一日も早く被災者の方々が安心して生活できるよう、復旧と復興に全力を尽くすとともに、阪神・淡路大震災の発生から十年目の本年、災害に強い国づくりを一層進めてまいります。
インド洋沿岸各国の被害に対しては、被災者の捜索や救援のため、医療や消防関係者、自衛隊などを国際緊急援助隊として派遣するとともに、当面、テント、食料、医薬品などの援助物資や資金を五億ドル無償で供与します。各国の被害状況を確認しながら、アジアの一員としてできる限りの復興支援をしてまいります。現在、神戸で開催中の国連防災世界会議の提言を踏まえ、インド洋地域における津波の早期警戒体制の構築に向け、日本の経験や技術を活用し、関係国や国連との協力を積極的に進めます。
私は就任以来、民間にできることは民間に、地方にできることは地方にとの改革を進める一方、国民の安全と安心を確保することこそ国家の重要な役割と考え、その実現に向け努力してまいりました。
ふえ続けてきた犯罪件数は二年連続して減少しましたが、なお凶悪犯罪は多発しており、市民が安心して暮らすことのできる社会を早急に取り戻さなくてはなりません。来年度、三千五百人の警察官を増員し、空き交番の解消に全力を挙げ、世界一安全な国の復活を目指します。
安全は与えられるものではなく、つくるものであります。新宿歌舞伎町を初めとする全国の繁華街から、暴力団や外国人犯罪組織を排除し健全な町に再生するため、地域挙げての住民の自主的な取り組みを支援してまいります。
重大な人権侵害である人身取引の防止は国際的な課題となっており、悪質なブローカーの取り締まりを強化し、罰則を整備するとともに、被害者の保護を徹底します。引き続き、人権救済に関する制度について検討を進めます。
さきの臨時国会で犯罪被害者等基本法が成立しました。犯罪の被害者や遺族が一日も早く立ち直り安心して生活できるよう、相談や情報提供などの支援を充実させてまいります。
テロの脅威が世界的に高まっている中、警察官が航空機に同乗するスカイマーシャルを導入するとともに、国際便の乗客名簿をもとに入国前に不審者を電子的に照合するシステムの運用を開始しました。本年四月からホテル業者による外国人宿泊客の本人確認を徹底するなど、テロの防止対策を強化します。
昨年、長年の懸案であった総合的な有事法制を整備しました。その円滑な実施に向け、有事の際の警報発令から住民の避難、救援など、国や地方自治体のとるべき措置の手順を定め、制度の運用に万全を期します。
東西の冷戦終結後、我が国を取り巻く環境が大きく変わる中、新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画を策定しました。いわゆる冷戦型の侵略に備えた装備や要員など既存の防衛体制を抜本的に見直し、テロや弾道ミサイルなど新たな脅威に対応するとともに、国際平和協力活動に主体的に取り組んでまいります。
我が国では、二〇〇七年から人口減少社会が到来すると言われております。約七百万人の団塊の世代が高齢期を迎えるなど、世界でも経験したことのない速さで少子高齢化が進みます。経済活力を維持しつつ、社会保障制度を将来にわたって持続可能なものとしていくためには、与野党が立場を超えて、公的年金制度の一元化を含め、社会保障の一体的見直しに早急に取り組まなければなりません。
介護保険制度の安定に向け、できるだけ介護が必要な状態にならないよう、予防を重視したシステムへ転換するとともに、在宅と施設介護の利用者負担の公平化と年金給付との調整を図るため、施設入所者に居住費用と食費を負担していただくなど、制度全般を見直します。
さまざまな障害を持つ方が地域で自立できるよう、市町村が一元的にサービスを提供する体制を整備するとともに、雇用対策を強化します。公共施設のみならず、制度や意識の面でも社会のバリアフリー化を引き続き推進いたします。
少ない患者負担でより多くの先進的な医療技術や医薬品を利用できるよう、安全面に十分配慮しながら、混合診療を解禁することにしました。約二千の医療機関で、百種類の最先端の治療が受けられるようになります。年間三十兆円を超える医療費を審議する中央社会保険医療協議会のあり方については、公正、中立、透明性を確保する観点から見直します。
長生きを喜べる社会を目指し、本年から実施する十カ年の健康フロンティア戦略に基づいて、がんや脳卒中などの生活習慣病対策を進めます。
明るく健やかな生活に欠かすことのできないスポーツの振興を図るため、トップレベルのスポーツ選手を育成するとともに、生涯を通じてスポーツに親しめる環境を整備します。
社会保険庁の信頼を回復しなければなりません。親切なサービスの提供、むだな予算執行の排除など緊急に実施すべき取り組みを開始しました。組織のあり方については、抜本的に見直してまいります。
少子化の流れを変えるため、新たに策定した子ども・子育て応援プランに基づき、待機児童ゼロ作戦を引き続き推進するとともに、現在六〇%の育児休業制度の普及率を五年後には一〇〇%にすることを目指します。安心して子供を生み育て、子育てに喜びを感じることのできる環境を整備してまいります。また、女性がその能力を発揮し、新しい事業の展開や地域づくりなど、あらゆる分野でチャレンジできるよう支援します。
国民に身近で頼りがいのある司法を実現するため、裁判の迅速化や刑事裁判に国民が参加する裁判員制度の導入など、我が国の司法制度のあり方を半世紀ぶりに改めました。今後は、制度の着実な実施を図ってまいります。
消費者保護を最優先に、科学的知見に基づき、正確でわかりやすい情報を国民に提供することで、食品の安全確保に取り組んでまいります。米国産牛肉の輸入再開については、日本と同等の措置を米国に求めることを基本に協議します。
私は、官から民へ、国から地方への改革は経済の再生や簡素で効率的な政府の実現につながると確信し、改革の具体化に全力を傾けてまいりました。
この方針を最も大胆かつ効果的に進めていくには、郵便局を通じて国民から集めた三百五十兆円もの膨大な資金を公的部門から民間部門に流し、効率的に使われるような仕組みをつくることが必要です。資金の入り口の郵便貯金と簡易保険、出口の特殊法人、この間をつないで資金を配分している財政投融資制度、これらを全体として改革し、資金の流れを官から民へ変えなければなりません。
私はこれまでこの構造にメスを入れてきましたが、残された大きな改革、すなわち改革の本丸が郵政民営化であります。昨年九月に決定した基本方針に基づいて、平成十九年四月に郵政公社を民営化する法案を今国会に提出し、成立を期します。
郵便、郵貯、簡保、いずれの分野でも、民間企業が同様のサービスを提供しています。公務員でなくてはできない事業ではありません。郵政民営化が実現すれば、郵政公社の職員が民間人となります。従来免除されていた税金が支払われ、政府の保有する株式が売却されれば、財政再建にも貢献します。郵政民営化は、まさに小さな政府を実現するために欠かせない行財政改革の断行そのものであります。
民間にできることは民間に、行財政改革を断行しろ、公務員を減らせと言いながら郵政民営化に反対というのは、手足を縛って泳げというようなものだと思います。
質の高い多様なサービスを提供するため、民営化においては、国の関与をできるだけ控え、民間企業と同一の条件で自由な経営を可能とします。国鉄や電電公社は民営化されて、むしろ従来よりサービスの質が向上しました。職員が意欲的に働くことができ、過疎地を含め身近にある郵便局が市町村の行政事務を代行したり、民間の商品を取り次いだり、ますます便利な存在になるようにします。障害者向けの郵便料金の軽減など、社会や地域への貢献にも配慮いたします。
民営化する以上、窓口サービス、郵便、郵貯、簡保といった郵政公社の各機能を自立させ、事業ごとの損益を明確化して経営する必要があります。
このため、持ち株会社のもとに機能ごとに四つの事業会社を設立するとともに、郵便貯金会社と郵便保険会社については、他の事業会社の経営状況に左右されないよう株式を売却して民有民営を実現します。それまでの移行期においては、民業圧迫とならないよう有識者による監視組織を活用しながら、段階的に業務を拡大します。既に契約した郵貯、簡保については、新しい契約と勘定を分離して引き続き政府保証をつけます。国債市場への影響を考慮した適切な資産運用を行います。
私は、こうした郵政民営化が新しい日本の扉を開くものと確信し、その実現に全力を傾注してまいります。
道路関係四公団は、本年十月に、日本道路公団を地域分割した上で民営化します。各社がお互い競争しながら、利用者の要望に沿ったサービスを提供するとともに、債務は四十五年以内にすべて返済します。高速自動車国道の通行料金は、ETCを活用した割引制度により、昨年十一月から順次引き下げており、本年四月には予定どおり、平均一割以上の引き下げを実現します。
地方が知恵と工夫に富んだ施策を展開し、住民本位の地域づくりを行えるよう、地方自治体に権限と財源を移譲しなければなりません。
このため、私は、国の補助金の削減、国から地方への税源移譲、地方の歳出の合理化とあわせた地方交付税の見直しの三つを同時に進めることにし、三位一体の改革方針を指示しました。補助金改革の具体案は地方分権の主体となる地方が作成し、これを国と地方で協議する場を設け、地方の提案を真摯に受けとめて、改革案を取りまとめました。
今年度の一兆円に加え、来年度から二年間で三兆円程度の補助金を改革し、十六年度に措置した額を含めておおむね三兆円規模の税源移譲を目指します。十七年度は、一兆七千億円余の補助金の廃止・縮減等を行い、一兆一千億円余の税源を移譲すると同時に、地方自治体の安定的な財政運営に必要な交付税を確保しました。義務教育のあり方と、費用負担に関する地方案を生かす方策については、国の責任を引き続き堅持する方針のもと、今年中に結論を出します。
引き続き市町村合併を推進するとともに、北海道が道州制に向けた先行的取り組みとなるよう支援いたします。
昨年末に決定した「今後の行政改革の方針」に従って、独立行政法人については、三十二法人を二十二法人に再編し、八千三百人余りの役職員を非公務員化することにいたしました。国の行政機関の定員は、来年度からの五年間で一割以上の削減を目指すとともに、治安などの分野に重点的に配置します。能力・実績主義の人事評価を試験的に実施するとともに、再就職管理を適正化するなど、公務員制度改革を進めます。
民間と競合する住宅金融公庫の直接融資の廃止や都市再生機構のニュータウン事業からの撤退など抜本的な見直しを実施し、最大時四十兆円あった財政投融資の規模は、来年度の計画では半分以下の十七兆円に抑えました。
市場化テストは、政府と民間とが対等な立場で競争することを通じて、行政の効率化と公共サービスの質の向上、受け皿となる民間企業の活性化を図るものです。十七年度は、ハローワークの中高年向け再就職支援、社会保険庁の保険料未納者に対する督促や年金の電話相談などを対象として開始するとともに、本格的導入に向けた検討を進めます。
私は、改革なくして成長なしの方針のもと、デフレの克服と経済の活性化を目指し、金融、税制、規制、歳出の改革を実行してきました。主要銀行の不良債権残高はこの二年半で十五兆円減少し、不良債権比率を目標実現に向け四%台に減らすことができました。バブル崩壊後の負の遺産の整理のめどがついた今、構造改革の取り組みをさらに加速しなければなりません。
ペイオフ解禁は予定どおり四月から実施いたします。健全な競争の促進と利用者保護を図り、多様な金融商品やサービスを国民が身近に利用できる金融サービス立国を目指します。
日本経済は、公共投資など政府の財政出動に頼ることなく、企業収益の改善、設備投資や個人消費の増加など民間主導で回復してきました。一方で、経済をめぐる情勢は依然として地域ごとにばらつきが見られます。あらわれてきた改革の芽を地域や中小企業にも広く浸透させ、大きな木に育てるとともに、日銀と一体となってデフレを克服してまいります。
二〇一〇年代初頭には、政策的な支出を新たな借金に頼らずにその年度の税収等で賄えるよう、歳出歳入の両面から財政構造改革を進めます。来年度予算は、一般歳出を三年ぶりに前年度以下に抑制し、新規国債発行額を四年ぶりに減額しました。増額したのは社会保障と科学技術振興の分野のみで、防衛費は三年連続、公共事業は四年連続でマイナスにするなど、重点的に予算を配分しました。
平成十一年に景気対策の一環として導入した定率減税は、経済情勢を踏まえ、来年の一月から所得税、六月から個人住民税について、それぞれ半減いたします。三位一体の改革や社会保障制度の見直しとあわせ、税制の抜本的改革の具体化に向けた取り組みを進めてまいります。
継続審査となっている独占禁止法改正法案の成立を期します。
東京や大阪など大都市が生まれ変わろうとしています。規制の緩和や金融支援により、民間が一体的な地区開発を進め、仕事と生活・文化機能の融合した町づくりの事業が立ち上がってきました。
地域再生計画は全国で二百五十件に上りました。下水道や浄化槽の整備のように、複数の省庁にまたがる同種の公共事業を地域再生のため実施する場合には、窓口を一本化して交付金を地方に配分する仕組みをつくります。構造改革特区は、この二年で四百七十五件誕生しました。そのうち二十六の規制緩和の特例については、特区だけではなく全国で行えるようにします。
外国人旅行者はこの一年間で九十万人ふえ、初めて六百万人を超えました。観光は地域や町の振興につながります。ビジット・ジャパン・キャンペーンの強化や姉妹都市交流の拡大により、二〇一〇年までに外国人訪問者を一千万人にする目標の達成を図ります。既に、中国、韓国からの修学旅行生の査証を免除するとともに、地下鉄の路線や駅名に番号をつけるなど、外国人の受け入れ環境の整備を進めています。美しい自然や景観、地場産業など、各地の個性を生かした観光地づくりを支援します。
外国からの投資は、日本にとって脅威ではなく、技術や経営に新しい刺激を与え、雇用の拡大につながるものです。一昨年五月に総合案内窓口を設置した結果、これまで約百四十社の誘致に成功しており、来年末までの五年間で対日直接投資残高を倍増させることを目指します。
海外では、ナシやリンゴなど日本の農産物が高級品として売れています。やる気と能力のある農業経営を重点的に支援するとともに、企業による農業経営への参入を進め、農産物の輸出増加を目指すなど、攻めの農政に転換いたします。
異なる業種の企業と連携しながら、新技術開発や販路開拓などに挑戦する中小企業を支援してまいります。
子供は社会の宝、国の宝です。学校や家庭、地域など社会全体で、新しい時代を切り開く心豊かでたくましい人材を守り育てていかなければなりません。
教育基本法の改正については、国民的な議論を踏まえ、積極的に取り組んでまいります。
我が国の学力が低下傾向にあることを深刻に受けとめ、学習指導要領全体を見直すなど学力の向上を図ります。
豊かな心と健やかな体の育成に、健全な食生活は欠かせません。大人も子供も食生活の大切さを認識するよう、食育を国民運動として展開してまいります。
若者の働く意欲と能力を高めるために、産業界や地域社会が一体となって、学校における職業教育の充実を図るとともに、生活訓練や労働体験を積ませる合宿を実施するなど、就労対策を進めます。
大学は、知の創造と継承の拠点であります。世界に誇れる研究を重点的に支援するとともに、大学運営に関する第三者評価制度により、質の向上を図ってまいります。世界一流の研究者を集めて、最高水準の教育研究を行う科学技術大学院大学を沖縄県につくるための法人を設立します。
本年は、世界最先端のIT国家実現の目標年であります。今や、我が国のインターネット利用者は八千万人に達し、政府に対する一万三千件の申請や届け出のほぼすべてが家庭や会社のパソコンから行えるようになりました。IT化の加速に応じ、情報セキュリティー対策を強化してまいります。
日本のアニメは世界各地の子供たちに夢を与えています。映画、アニメなどのコンテンツを活用した事業を振興し、ファッションや食の分野で魅力ある日本ブランドの発信を強化するなど、文化芸術を生かした豊かな国づくりを進めてまいります。
知的財産立国の実現を目指し、深刻化している海外での模倣品・海賊版問題について対策を強化します。
美しい地球を次世代に引き継ぐことは我々の責務です。環境保護と経済発展の両立は可能であり、これを実現するのは科学技術であります。
新しい産業や雇用の創出、国民の健康や生活の質の向上、国の安全や災害の防止に寄与する研究開発を戦略的に推進し、科学技術創造立国を目指します。人の遺伝子情報の医療への応用など基幹技術の研究開発を重点的に支援します。大学発のベンチャー企業は、世界初のマグロの完全養殖に成功した事例など、既に九百社を超えました。産業界、学界との連携をさらに強化します。
三月二十五日から九月二十五日まで、二十一世紀最初の国際博覧会「愛・地球博」が愛知県で開催され、人間と自然とが共生していく未来への道を提示します。政府のパビリオンでは、竹のすだれや打ち水を利用した省エネ型の空調を実現するとともに、生ごみを使った燃料電池発電などのクリーンエネルギーで電力のすべてを賄います。植物からつくられ分解されて土に返る食器を使用するレストランが店を出します。
来月には、地球温暖化防止のための京都議定書が発効します。我が国にとって、温室効果ガスの削減目標を実現することは決して容易ではありません。新しい目標達成計画を早急に策定し、官民挙げてこれを確実に実施しなければなりません。二酸化炭素を吸収する森林の育成や保全に努めてまいります。安全確保を大前提に、原子力発電を推進します。
エネルギー消費量の伸びの著しい運輸分野では、新たに事業者に省エネルギー対策を義務づけるとともに、トラックの共同運送や海上輸送への転換を図るため、幹線道路や港湾での物流拠点の整備を支援します。
就任時に約束したとおり、この三月に政府の公用車をすべて低公害車に切りかえます。同様の取り組みが民間にも広がっており、ある企業グループでは、所有する約一万四千台すべての車を二〇一〇年度までに低公害車にする計画が進んでいます。
ごみゼロ社会の実現に向け、国と地方が一体となって、五年以内に大規模不法投棄を撲滅いたします。昨年の先進国首脳会議で、私は、ごみを減らし、使えるものは繰り返し使い、ごみになったら資源として再利用する社会づくりを提唱しました。
我が国には、工場排水をすべて循環利用するとともに、社内での分別回収の徹底とリサイクルの促進により廃棄物を限りなくゼロに近づけている先端技術メーカーがあります。エアコンなどの家電製品は年間一千万台が引き取られ、ペットボトルの回収率は六割を超え、欧米に比べて極めて高い水準となっています。今月からは自動車のリサイクルが新たに始まりました。地球規模で循環型社会の構築に向けて具体的な行動を起こすため、四月に日本で閣僚級の国際会議を開催します。
我が国は、戦後、世界第二位の経済大国となりましたが、決して軍事大国とはならず、平和主義を貫きながら、ODAや国連分担金などの資金面でも、国連平和維持活動などの人的貢献の面でも、世界の平和と繁栄に積極的な役割を果たしてきました。
創設六十年を迎える国連は、二十一世紀の国際的な諸問題に効果的に対処することが期待されていますが、安全保障理事会は第二次世界大戦直後の枠組みのままであります。これまでの我が国の国際貢献の実績は常任理事国にふさわしいものであり、国連改革の機運が高まっているこの機をとらえ、その一員となるよう外交に一層の力を注いでまいります。
イラクの人たちがみずからの手で平和な民主国家をつくり上げることは、日本のみならず、世界の平和と安定に寄与するものであります。我が国は、人的貢献と資金援助を車の両輪として人道復興支援を行ってきました。この一年、サマワでは約六百人の自衛隊員が交代で、住民との交流に心を砕きながら、病院での医療技術支援、給水活動、学校や道路の補修を実施しました。自衛隊員の献身的な活動は、多くの住民から感謝と高い評価を受けています。資金面の支援は、発電所や病院の復旧、港湾整備、学用品の支給など十四億ドルに上っており、水や衛生面で延べ二百万人に、教育面で六百万人の生徒に日本の支援の手が差し伸べられました。
これからイラク国土の復興と民主国家の建設が本格化していく中、今月三十日には国民議会選挙が行われる予定です。我が国は、先月、自衛隊の派遣期間を一年延長しました。現地の状況の変化に対して適切な措置を講じながら、隊員の安全確保に万全を期してまいります。イラクが一番苦しいときに日本はイラクの国づくりに協力してくれたと、将来にわたって評価を得られるような活動を継続していきたいと思います。
アフガニスタンでは、初の民主選挙によりカルザイ政権が発足しました。アラファト議長逝去後のパレスチナでは、自治政府議長選挙が実施されるなど、平和と繁栄に向けた取り組みが進んでおります。引き続き、中東地域の安定と発展を支援してまいります。
米国との関係は日本外交のかなめであり、日米同盟は、我が国の安全と、世界の平和と安定の礎であります。政治、経済など多岐にわたる分野において、緊密な連携と対話を続け、日米関係をより強固なものとします。
米軍再編については、米軍駐留による抑止力を維持し、かつ、沖縄等の地元の過重な負担を軽減する観点から、米国との協議を進めてまいります。今後とも、普天間飛行場の移設、返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告の早期実施に努めてまいります。
北朝鮮による拉致問題は、国民の生命と安全にかかわる重大な事項であります。拉致被害者五名とその家族八名の帰国が実現しましたが、なお安否のわからない方々について、先般提出された再調査結果はまことに遺憾であり、北朝鮮に対し厳重に抗議し、一日も早い真相究明と生存者の帰国を強く求めています。対話と圧力の考え方に立って、米国、韓国、中国、ロシアと連携しつつ粘り強く交渉し、拉致、核、ミサイルの問題を包括的に解決し、両国関係の正常化を目指します。
日露修好百五十周年に当たる本年は、プーチン大統領の訪日が予定されています。両国で各分野の交流を拡大し、信頼関係を深めてまいります。北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという基本姿勢に変わりありません。
中国は日本にとって、今や米国と並ぶ貿易相手国となるなど、両国関係はますます深まっています。さきの日中首脳会談では、二国間のみならず、国際社会全体にとっても両国関係は極めて重要であるとの認識を共有し、未来志向の日中関係を構築していくことで一致しました。個々の分野で意見の相違があっても、大局的な観点から幅広い分野における協力を強化してまいります。
韓国の盧武鉉大統領とは、昨年、相互に訪問し合い、友好関係を深めました。国交正常化後四十年を迎える今年は日韓友情年として、各分野の交流を一層拡大してまいります。
フィリピンとの経済連携協定の大筋合意を皮切りに、韓国、タイ、マレーシアなどアジア諸国との締結交渉に弾みをつけてまいります。多様性を包み込みながら経済的繁栄を共有する、開かれた東アジア共同体の構築に積極的な役割を果たしていきます。
世界貿易の自由化を進め、途上国を含めたすべての国が利益を得られる貿易体制を構築しなければなりません。WTO新ラウンド交渉の最終合意に向けて、精力的に取り組みます。
日EU市民交流年である今年、拡大したEU二十五カ国の人々と音楽、文化を通じて交流を深める行事を実施するなど、市民レベルの相互理解の強化に努めてまいります。
アフリカを初めとする途上国の開発や貧困の克服など国際的な課題に対処するため、ODAを戦略的に活用します。
海洋国家として、大陸棚を画定するための調査や周辺の海底資源を探査する船舶の建造など、海洋権益の保全に努めてまいります。
今後も日米同盟と国際協調の重要性をよく認識して、政治、経済の分野のみならず、我が国のすぐれた文化を生かしながら、激動する外交の諸課題に全力で取り組んでまいります。
政治は国民に支えられてこそ成り立つものであり、国民の政治への信頼なくして改革の達成は望めません。政治家一人一人が襟を正すとともに、政治活動の公正性と政治資金の透明性を確保するための法整備を行わなければなりません。
戦後六十年を迎える中、憲法の見直しに関する論議が与野党で行われております。新しい時代の憲法のあり方について、大いに議論を深める時期であると考えます。
このたび、皇室典範に関する有識者会議を設置しました。皇位継承を安定的に維持する制度のあり方について検討してまいります。
小泉内閣が誕生して三年九カ月。構造改革を進めてきた結果、ようやく日本社会には、新しい時代に挑戦する意欲と、やればできるという自信が芽生えてきたように思います。私は、内閣総理大臣に就任して以来、日夜、緊張と重圧の中で、いかに総理大臣の職責を全うすべきか、全精力を傾けてまいりました。困難な課題に直面するたびに「天の将に大任をこの人に降さんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ」という孟子の言葉を胸に、改革の実現に邁進してまいりました。
昭和の初期、厳しい経済財政政策を断行するとともにロンドン軍縮条約を結んだ浜口雄幸首相は、軍部や官僚、経済界の強い抵抗や介入の中、不退転の覚悟でみずからの責務を果たすことができれば、たとえ国家のために倒れても本懐であるとの決意で難局に臨みました。
イラク人道復興支援や北朝鮮問題、郵政民営化など内外の困難な課題が山積する今、ためらうことなく改革を実行しなければ、先人たちが築き上げてきた繁栄の基盤を揺るがし、将来の発展の可能性を閉ざしてしまいます。恐れず、ひるまず、とらわれずの姿勢を貫いて改革を断行することは、まさに私の本懐とするところであります。
改革の原動力は国民一人一人であり、改革が成功するか否かは、国民の断固たる意思と行動力にかかっています。日本の将来を信じ、勇気と希望を持って困難に立ち向かおうではありませんか。
国民並びに議員各位の御協力を心からお願い申し上げます。