データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第96代 第2次安倍晋三内閣(平成24.12.26〜平成26.12.24)
[国会回次] 第186回(常会)
[演説者] 安倍晋三内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 2014/01/24
[参議院演説年月日] 2014/01/24
[全文]

 まず、冒頭、海上自衛隊輸送艦「おおすみ」と小型船の衝突事故について、亡くなられた方の御冥福をお祈りし、また、お見舞いを申し上げます。徹底した原因究明と再発防止に全力を挙げてまいります。

 何事も、達成するまでは不可能に思えるものである。

 ネルソン・マンデラ元大統領の偉大な足跡は、私たちを勇気づけてくれます。誰もが不可能だと諦めかけていたアパルトヘイトの撤廃を、その不屈の精神でなし遂げました。

 不可能だと諦める心を打ち捨て、わずかでも可能性を信じて行動を起こす。一人一人が自信を持ってそれぞれの持ち場で頑張ることが、世の中を変える大きな力となると信じます。

 かつて、日本は、東京五輪の一九六四年を目指し、大きく生まれ変わりました。新幹線、首都高速、ごみのない美しい町並み。

 やれば、できる。

 二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピック。その舞台は東京にとどまらず、北海道から沖縄まで、日本全体の祭典であります。二〇二〇年、そしてその先の未来を見据えながら、日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけとしなければなりません。

 その思いを胸に、日本の中に眠るありとあらゆる可能性を開花させることが、安倍内閣の新たな国づくりです。

 創造と可能性の地。二〇二〇年には、新たな東北の姿を世界に向けて発信しましょう。

 福島沖で運転を始めた浮体式洋上風力発電、宮城の大規模ハウスで栽培された甘いイチゴ、震災で多くが失われた東北を、世界最先端の新しい技術が芽吹く先駆けの地としてまいります。

 三月末までに、岩手と宮城で瓦れきの処理が終了します。作付を再開した水田、水揚げに沸く漁港、家族の笑顔であふれる公営住宅。

 一年半前、見通しすらなかった高台移転や災害公営住宅の建設は、六割を超える事業がスタートしました。来年三月までに、二百地区に及ぶ高台移転と一万戸を超える住宅の工事が完了する見込みです。

 やれば、できる。

 住まいの復興工程表を着実に実行し、一日も早い住まいの再建を進めてまいります。

 福島の皆さんにも一日も早くふるさとに戻っていただきたい。除染や健康不安対策の強化に加え、使い勝手のよい交付金を新たに創設し、産業や生活インフラの再生を後押しします。新しい場所で生活を始める皆さんにも十分な賠償を行い、コミュニティーを支える拠点の整備を支援してまいります。

 東京電力福島第一原発の廃炉・汚染水対策について万全を期すため、東京電力任せとすることなく、国も前面に立って、予防的、重層的な対策を進めてまいります。

 力強いアーチ姿の永代橋。関東大震災から三年後、海外の最新工法を取り入れて建設されました。コストがかさむなどの反対を押し切って導入された当時最先端の技術は、その後全国に広まり、日本の橋梁技術を大きく発展させました。

 間もなく、三度目の三月十一日を迎えます。

 復興は、新たなものをつくり出し、新たな可能性に挑戦するチャンスでもあります。日本ならできるはず、その確固たる自信を持って、新たな創造と可能性の地としての東北を、皆さん、ともにつくり上げようではありませんか。

 日本経済も、三本の矢によって、長く続いたデフレで失われた自信を取り戻しつつあります。

 四四半期連続でプラス成長。GDP五百兆円の回復も視野に入ってきました。

 リーマン・ショック後〇・四二倍まで落ち込んだ有効求人倍率は、六年一カ月ぶりに一倍を回復。冬のボーナスは、連合の調査によると、平均で、一年前より三万九千円ふえました。

 北海道から沖縄まで全ての地域で、一年前と比べ、消費が拡大しています。中小企業の景況感も、先月、製造業で六年ぶり、非製造業で二十一年十カ月ぶりにプラスに転じました。

 景気回復の裾野は着実に広がっています。

 改めて申し上げます。

 この道しかない。皆さん、ともにこの道を進んでいこうではありませんか。

 企業の収益を雇用の拡大や所得の上昇につなげる。それが、消費の増加を通じて、さらなる景気回復につながる。経済の好循環なくして、デフレ脱却はありません。

 政府、労働界、経済界が、一致協力して、賃金の上昇、非正規雇用労働者のキャリアアップなど具体的な取り組みを進めていく。政労使で、その認識を共有いたしました。

 経済再生に向けたチーム・ジャパン。みんなで頑張れば必ず実現できる。その自信を持って、政府も、規制改革を初め成長戦略を進化させ、力強く踏み出します。

 国家戦略特区が、三月中に具体的な地域を指定し、動き出します。容積率規制や病床規制など、長年実現しなかった規制緩和を行います。

 企業実証特例制度も、今月からスタート。フロンティアに挑む企業には、あらゆる障害を取り除き、チャンスを広げます。

 設備投資減税や研究開発減税も拡充し、チャレンジ精神を持って新たな市場に踏み出す企業を応援してまいります。

 利益を従業員に還元する企業を応援する税制を拡充します。復興財源を確保した上で、来年度から、復興特別法人税を廃止し、法人実効税率を二・四%引き下げます。

 キャリアアップ助成金を拡充し、正規雇用労働者へのステップアップを促進してまいります。

 この国会に問われているのは、経済の好循環の実現です。景気回復の実感を全国津々浦々にまで、皆さん、届けようではありませんか。

 四月から消費税率が上がりますが、万全の転嫁対策を講ずることに加え、経済対策により持続的な経済成長を確保してまいります。

 五兆五千億円に上る今年度補正予算の財源は、税収の上振れなど、この一年間の成長の果実です。国債の追加発行は行いません。

 来年度予算でも、基礎的財政収支が、中期財政計画の目標を大きく上回る、五兆二千億円改善します。

 経済の再生なくして財政再建なし。経済の好循環をつくり上げ、国、地方の基礎的財政収支について、二〇一五年度までに二〇一〇年度に比べ赤字の対GDP比の半減、二〇二〇年度までに黒字化との財政健全化目標の実現を目指します。

 独立行政法人の効率化、公務員制度改革を初め、行政改革にもしっかりと取り組んでまいります。

 社会保障関係費が初めて三十兆円を突破しました。少子高齢化のもと、受益と負担の均衡がとれた制度へと、社会保障改革を不断に進めます。

 ジェネリック医薬品の普及を拡大します。生活習慣病の予防、健康管理なども進め、毎年一兆円以上ふえる医療費の適正化を図ってまいります。

 その上で、消費税率引き上げによる税収は、全額、社会保障の充実、安定化に充てます。世界に冠たる国民皆保険、皆年金をしっかり次世代に引き渡してまいります。

 年金財政を安定させ、将来にわたって安心できる年金制度を確立します。

 所得が低い世帯の介護保険や国民健康保険などの保険料を軽減します。地域において、お年寄りの皆さんが必要としている、在宅での医療・介護サービスなどを充実してまいります。

 全世代型の社会保障を目指し、子ども・子育て支援を充実します。この国から待機児童をなくすため、来年度までに二十万人分、二〇一七年度までに四十万人分の保育の受け皿を整備してまいります。

 昨年一人の女の子から届いた手紙を、私は今も忘れません。

 今は中学生となった愛ちゃんは、生まれつき小腸が機能しない難病で、幼いころから普通の食事はしたことがありません。

 iPS細胞の研究への期待を込め、手紙は、こう結ばれていました。「治療法が見つかれば、とっても未来が明るいです。そして、何でも食べられるようになりたいです。」

 この小さな声に応え、未来への希望をつくるのは、政治の仕事です。難病から回復して総理大臣となった私には、天命とも呼ぶべき責任があると考えます。

 小児慢性特定疾患を含む難病対策を大胆に強化します。医療費助成の対象を、子供は六百疾患、大人は三百疾患へと大幅に拡大。難病の治療法や新薬開発のための研究も、これまで以上に加速してまいります。

 病院を見舞った私に、愛ちゃんがかわいらしい絵をくれました。「私は絵を描くのが好きで、将来、絵本作家になって、たくさんの子供を笑顔にしたいと思っています。」

 難病の皆さんが、将来に夢を抱き、その実現に向けて頑張ることができる社会をつくりたい。私は、心からそう願います。

 二〇二〇年のパラリンピック。日本は、障害者の皆さんにとって、世界で最も生き生きと生活できる国にならねばなりません。

 難病や障害のある皆さんの誰もが生きがいを持って働ける環境をつくる。その特性に応じて、職業訓練を初め、きめ細やかな支援体制を整え、就労のチャンスを拡大してまいります。

 元気で経験豊富な高齢者もたくさんいます。あらゆる人が、社会で活躍し、その可能性を発揮できるチャンスをつくる。そうすれば、少子高齢化のもとでも、日本は力強く成長できるはずです。

 全ての女性が活躍できる社会をつくる。これは、安倍内閣の成長戦略の中核です。

 仕事と子育てが両立しやすい環境をつくります。小一の壁を突き破るべく、第一次内閣で始めた放課後子どもプランを着実に実施してまいります。

 家族のきずなを大切にしつつ、男性の育児参加を促します。育休給付を、半年間五〇%から六七%に引き上げ、夫婦で半年ずつ取得すれば一年間割り増し給付が受けられるようにします。

 子育てに専念したい方には最大三年育休の選択肢を認めるよう経済界に要請しました。政府も、休業中のキャリアアップ訓練を支援します。一年半でも二年でも子育てした後は、職場に復帰してほしいと願います。

 子育ての経験を生かし、二十億円の市場を開拓した女性がいます。子育ても一つのキャリア。家庭に専念してきた皆さんにも、その経験を社会で生かしてほしい。インターンシップや起業を支援します。

 女性を積極的に登用します。

 二〇二〇年には、あらゆる分野で指導的地位の三割以上が女性となる社会を目指します。そのための情報公開を進めてまいります。まず隗より始めよ。国家公務員の採用は、再来年度から、全体で三割以上を女性にいたします。

 全ての女性が、生き方に自信と誇りを持ち、持てる可能性を開花させる。女性が輝く日本を、皆さん、ともにつくり上げようではありませんか。

 若者たちには無限の可能性が眠っています。それを引き出す鍵は、教育の再生です。

 いじめで悩む子供たちを守るのは、大人の責任です。教育現場の問題に的確で速やかな対応を行えるよう、責任の所在が曖昧な現行の教育委員会制度を抜本的に改革します。

 公共の精神や豊かな人間性を培うため、道徳を特別の教科として位置づけることとし、教員養成など準備を進めてまいります。

 全ての子供たちに必要な学力を保障するのも公教育の重要な役割です。幼児教育の無償化を段階的に進めます。教科書の改善に向けた取り組みを進めてまいります。

 世界一の読解力。十五歳の子供たちを対象とした国際的な学力調査で、日本の学力が過去最高となりました。改正教育基本法のもと、全国学力テストを受けてきた世代です。第一次内閣以来の公教育の再生が、確実に成果を上げています。

 やれば、できる。

 二〇二〇年を目標に、中学校で英語を使って授業するなど、英語教育を強化します。目指すは、コミュニケーションがとれる使える英語を身につけること。来年度から試験的に開始します。

 日本人は、もっと自信を持って、自分の意見を言うべきだ。立命館アジア太平洋大学で、ミャンマーからの留学生ミンさんがこう語ってくれました。

 教授も学生も、半分近くが外国籍。文化の異なる人々との生活は、日本の若者たちにすばらしい刺激となっています。

 二〇二〇年を目標に、外国人留学生の受け入れ数を、二倍以上の三十万人へと拡大してまいります。

 国立の八大学では、今後三年間で外国人教員を倍増します。

 外国人教員の積極採用、英語による授業の充実、国際スタンダードであるTOEFLを卒業の条件とするなど、グローバル化に向けた改革を断行する大学を支援してまいります。

 意欲と能力のある全ての若者に留学機会を実現します。学生の経済的負担を軽減する仕組みをつくり、二〇二〇年に向けて、日本人の海外留学の倍増を目指します。

 可能性に満ちた若者たちを、グローバルな舞台で活躍できる人材へと育んでまいります。

 世界に目を向けることで、日本の中に眠るさまざまな可能性に改めて気づかされます。オープンな世界は、日本が成長する大きなチャンスです。

 急成長する新興国では、道路も鉄道も必要です。水道や電気のインフラを整え、災害に強い都市開発が課題です。アジアでは、二〇二〇年までに八兆ドルものインフラ投資が見込まれています。

 その世界のニーズに応える力が日本にはあります。

 エネルギー不足や公害などの問題に取り組んできた経験があります。高い環境技術は、世界の温暖化対策にも貢献できるはずです。長年培ってきた経験や技術を、世界と、惜しむことなく、共有してまいります。

 インフラ輸出機構を創設します。

 交通や都市開発といった分野で海外市場に飛び込む事業者を支援し、官民一体となって成約につなげます。十兆円のインフラ売り上げを、二〇二〇年までに、三倍の三十兆円まで拡大してまいります。

 昨年、シンガポールで、日本専門チャンネル、ハロー・ジャパンが開局。インドネシアでは、仮面ライダーが子供たちのヒーローに加わりました。

 日本のコンテンツやファッション、文化芸術、伝統の強みに、世界が注目しています。ここにも可能性があります。クールジャパン機構を活用し、コンテンツの海外展開や地域ならではの産品の海外売り込みなどを支援してまいります。

 成長センターであるアジア太平洋に一つの経済圏をつくる。TPPは、大きなチャンスであり、まさに国家百年の計です。

 企業活動の国境をなくす。関税だけでなく、知的財産、投資、政府調達など、野心的なテーマについて厳しい交渉を続けています。

 同盟国でもあり経済大国でもある米国とともに、交渉をリードし、攻めるべきは攻め、守るべきは守るとの原則のもと、国益にかなう最善の判断をしてまいります。

 アジアと日本をつなぐゲートウエー、それは沖縄です。

 舟楫をもって万国の津梁となし、万国津梁の鐘にはこう刻まれています。古来、沖縄の人々は、自由な海を駆け回り、アジアのかけ橋となってきました。

 そして、今、自由な空を舞台に、沖縄が二十一世紀のアジアのかけ橋となるときです。

 アジアとの物流のハブであり、観光客を迎える玄関口として、那覇空港第二滑走路は、日本の成長のために不可欠です。予定を前倒しし、今月から着工いたしました。工期を短縮し、二〇一九年度末に供用を開始します。

 高い出生率、豊富な若年労働力など、成長の可能性が満ちあふれる沖縄は、二十一世紀の成長モデル。二〇二一年度まで毎年三千億円台の予算を確保し、沖縄の成長を後押ししてまいります。

 沖縄科学技術大学院大学には、世界じゅうから、卓越した教授陣と学生たちが集まります。さらなる拡充に取り組み、沖縄の地に世界一のイノベーション拠点をつくり上げてまいります。

 ITやロボットには、競争力を劇的に伸ばす力があります。メタンハイドレートは、日本を資源大国に変えるかもしれません。海洋や宇宙、加速器技術への挑戦は、未来を切り開きます。イノベーションによって日本に新たな可能性をつくり出す気概が必要です。

 世界じゅうから超一流の研究者を集めるため、研究者の処遇など世界最高の環境を整えた、新たな研究開発法人制度をつくります。経済社会を一変させる挑戦的な研究開発を大胆に支援します。年度にとらわれない予算執行を可能とし、長期にわたる、腰を据えた研究が行える環境を保障します。

 日本を、世界で最もイノベーションに適した国としてまいります。

 世界シェア三割。誰にもまねのできない薄いメッキをつくるイノベーションは、墨田区にある従業員九人の町工場から生まれました。日本のイノベーションを支えてきたのは、大企業の厳しい要求に高い技術力で応える、こうした中小・小規模事業者の底力です。

 ものづくり補助金を大胆に拡充します。物づくりのための設備だけではなく、新たな商業、サービスを展開するための設備に対する投資も支援してまいります。あわせて、個人保証偏重の慣行も改めてまいります。

 ソニーもホンダも、ベンチャー精神あふれる小規模事業者からスタートしました。小規模事業者がどんどん活躍できる環境をつくるための基本法を制定し、小規模事業者支援に本腰を入れて乗り出します。

 iPS細胞を初め再生医療、創薬の分野で、日本は強みを持っています。しかし、未踏の技術開発には、リスクも高く、民間企業は二の足を踏みがちです。

 日本版NIHを創設します。医療分野の研究開発の司令塔です。

 難病など不治の病に対し、官民一体で基礎研究から実用化まで一貫して取り組み、革新的な治療法、医薬品、医療機器を世界に先駆けて生み出してまいります。

 電力システム改革を前進させ、電気の小売を全面自由化します。

 全ての消費者が自由に電力会社を選びます。ベンチャー意欲の高い皆さんに参入してもらい、コスト高、供給不安といった課題を解決する、ダイナミックなイノベーションを起こしてほしいと願います。

 これまでのエネルギー戦略をゼロベースで見直し、国民生活と経済活動を支える、責任あるエネルギー政策を構築します。

 原子力規制委員会が定めた世界で最も厳しい水準の安全規制を満たさない限り、原発の再稼働はありません。徹底した省エネルギー社会の実現と、再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、原発依存度は、可能な限り低減させてまいります。

 さて、ことしは、地方の活性化が安倍内閣にとって最重要のテーマです。地方が持つ大いなる可能性を開花させてまいります。

 地方経済の中核は農林水産業です。おいしくて安全な日本の農水産物は、世界じゅうどこでも大人気。必ずや世界に羽ばたけるはずです。

 農地集積バンクが動き出します。

 農地を集約し、生産現場の構造改革を進めます。さらに、四十年以上続いてきた米の生産調整を見直します。いわゆる減反を廃止します。需要のある作物を振興し、農地のフル活用を図ります。

 規模拡大に伴って負担が増す水路や農道など多面的機能の維持のため、新たに日本型直接支払いを創設します。農地の規模拡大を後押しし、美しいふるさとを守ります。

 経営マインドを持ったやる気ある担い手が、あすの農業を切り開きます。彼らが安心と希望を持って活躍できる環境を整えることこそ、農業、農村全体の所得倍増を実現する道だと信じます。農林水産業を、若者に魅力のある、地方の農山漁村を支える成長産業とするため、食料・農業・農村基本計画を見直し、農政の大改革を進めてまいります。

 人口減少が進む中においても、元気な地方をつくる。これは、大いなる挑戦であります。

 自主性と自立性を高めることで、個性豊かな地方が生まれます。一次内閣で始めた第二次地方分権改革の集大成として、地方に対する権限移譲や規制緩和を進めます。

 行政サービスの質と量を確保するため、人口二十万人以上の地方中枢拠点都市と周辺市町村が柔軟に連携する、新たな広域連携の制度をつくります。中心市街地に生活機能を集約し、あわせて地方の公共交通を再生することにより、町全体の活性化につなげてまいります。

 中山間地や離島といった地方にお住まいの皆さんが、伝統あるふるさとを守り、美しい日本を支えています。

 活力あるふるさとの再生こそが、日本の元気につながります。こうした地域で、都道府県が福祉やインフラの維持などを支援できる仕組みを整えます。都市に偏りがちな地方法人税収を再分配する仕組みをつくり、過疎に直面する地方においても財源を確保してまいります。

 地方には、特色ある産品や、伝統、観光資源などの地域資源があります。そこに成長の可能性があります。地域資源を生かして新たなビジネスにつなげようとする中小・小規模事業者を応援します。

 昨年、外国人観光客一千万人目標を達成いたしました。

 北海道や沖縄では、昨年夏、外国人宿泊者が八割もふえました。観光立国は、地方にとって絶好のチャンスです。タイからの観光客は、昨年夏、ビザを免除したところ、前年比でほぼ倍増です。

 やれば、できる。

 次は二千万人の高みを目指し、外国人旅行者に不便な規制や障害を徹底的に洗い出します。フランスには、毎年八千万人の外国人観光客が訪れます。日本にもできるはずです。二〇二〇年に向かって、目標を実現すべく努力を重ねてまいります。

 日本人のサービスは世界一、一千万人目としてタイから来日したパパンさんの言葉です。日本のおもてなしの心は、外国の皆さんにも伝わっています。

 昨年は、富士山や和食がユネスコの世界遺産に登録されました。日本ブランドは、海外から高い信頼を得ています。観光立国を進め、活力に満ちあふれる地方を、皆さん、つくり上げようではありませんか。

 そのブランドが揺らぎかねない事態が起きています。ホテルなどで表示と異なる食材が使用されていた偽装問題については、不正表示への監視指導体制を強化します。

 悪質商法による高齢者被害の防止にも取り組み、消費者の安全、安心を確保してまいります。

 日本を世界一安全な国にしていかなければなりません。

 近年多発するストーカー事案には、警察や婦人相談所などが連携して被害者の安全を守る体制を整え、加害者の再犯防止対策も実施します。社会を脅かす暴力団やテロ、サイバー空間の脅威への対策も進め、良好な治安を確保してまいります。

 昨年は、自然災害により、大きな被害が相次いで発生しました。災害から人命を守り、社会の機能を維持するため、危機管理を徹底するとともに、大規模建築物の耐震改修や、治水対策、避難計画の作成や防災教育など、ハードとソフトの両面から、事前防災、減災、老朽化対策に取り組み、優先順位をつけながら国土強靱化を進めます。

 伊豆大島への災害派遣。活動中に御位牌を発見した自衛隊員は、泥をみずからの水筒の水で洗い、きれいに拭き取りました。

 その様子をテレビで見た方から、自衛隊に手紙が寄せられました。「本当に涙が出ました。あの過酷な条件の中で自衛隊員の心の優しさに感動しました。」その手紙は、こう続きます。「私はもう八十歳になりますが、戦争を知っている世代としては最後の世代ではなかろうかと思います。このようにたくましく、また、心優しい自衛隊員がおられる日本は安心です。」

 自衛隊は、何物にもかえがたい国民の信頼をかち得ています。黙々と任務を果たす彼らは、私の誇りです。

 海を挟んだ隣国フィリピンの台風被害でも、千二百人規模の自衛隊員が緊急支援を行いました。

 避難する方々を乗せたC130輸送機は、マニラ到着とともに、乗客の大きな拍手に包まれました。サンキュー、サンキュー、子供たちは何度もそう言いながら、隊員たちに握手を求めてきたそうです。

 日本の自衛隊を、日本だけでなく、世界が頼りにしています。世界のコンテナの二割が通過するアデン湾でも、海賊対処行動に当たる自衛隊、海上保安庁は、世界から高い評価を受けています。

 ことしは、ODA六十周年。日本は、戦後間もないころから、世界に支援の手を差し伸べてきました。医療・保健分野などで生活水準の向上にも貢献してきました。女性の活躍を初め人間の安全保障への取り組みを、先頭に立って進めています。

 シリアでは、化学兵器の廃棄に協力しています。イランの核問題では、平和的解決に向けた独自の働きかけを行っています。

 こうした活動の全てが、世界の平和と安定に貢献します。これが積極的平和主義です。我が国初の国家安全保障戦略を貫く基本思想です。その司令塔が国家安全保障会議です。

 戦後六十八年間守り続けてきた我が国の平和国家としての歩みは、今後とも変わることはありません。

 集団的自衛権や集団安全保障などについては、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会の報告を踏まえ、対応を検討してまいります。

 先月東京で開催した日・ASEAN特別首脳会議では、多くの国々から積極的平和主義について支持を得ました。ASEANは、繁栄のパートナーであるとともに、平和と安定のパートナーです。

 中国が、一方的に防空識別区を設定しました。尖閣諸島周辺では、領海侵入が繰り返されています。力による現状変更の試みは、決して受け入れることはできません。引き続き、毅然かつ冷静に対応してまいります。

 新たな防衛大綱のもと、南西地域を初め、我が国周辺の広い海、そして空において、安全を確保するため、防衛態勢を強化してまいります。

 自由な海や空がなければ、人々が行き交い、活発な貿易は期待できません。民主的な空気が、人々の可能性を開花させ、イノベーションを生み出します。

 私は、自由や民主主義、人権、法の支配の原則こそが世界に繁栄をもたらす基盤であると信じます。日本が、そして世界がこれからも成長していくために、こうした基本的な価値を共有する国々と連携を深めてまいります。

 その基軸が日米同盟であることは、言うまでもありません。

 世界の市民同胞の皆さん、米国があなたのために何をするかを問うのではなく、我々が人類の自由のために一緒に何ができるかを問うてほしい。昨年着任されたキャロライン・ケネディ米国大使の父、ケネディ元大統領は、就任に当たって世界にこう呼びかけました。

 半世紀以上を経て、日本はこの呼びかけに応えたい。国際協調主義に基づく積極的平和主義のもと、日本は、米国と手を携え、世界の平和と安定のために、より一層積極的な役割を果たしてまいります。

 在日米軍再編については、抑止力を維持しつつ、基地負担の軽減に向けて、全力で進めてまいります。

 特に、学校や住宅に近く、市街地の真ん中にある普天間飛行場については、名護市辺野古沖の埋立申請が承認されたことを受け、速やかな返還に向けて取り組みます。同時に、移設までの間の危険性除去が極めて重要な課題であり、オスプレイの訓練移転など、沖縄県外における努力を十二分に行います。

 沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、できることは全て行うとの姿勢で取り組んでまいります。

 さて、総理就任から一年ほどで、十五回海外に出かけ、三十カ国を訪問し、延べ百五十回以上の首脳会談を行いました。

 ロシアのプーチン大統領とは四度首脳会談を行い、外務・防衛閣僚協議も開催されました。個人的な信頼関係のもとで、安全保障、経済を初めとする協力を進めるとともに、平和条約締結に向けた交渉にしっかりと取り組み、アジア太平洋地域のパートナーとしてふさわしい関係を構築してまいります。

 トルコのエルドアン首相とは、三度の首脳会談を通じ、地下鉄、橋などの交通システム、原子力、科学技術分野における人材育成など、多岐にわたる協力で合意し、戦略的パートナーシップは着実に前進しています。

 直接会って信頼関係を築きながら、一つ一つ前に進む。いかなる課題があっても、首脳同士が膝詰めで話をすることで物事が大きく動く。昨年は、トップ外交の重要性を改めて実感しました。

 ことしも、地球儀を俯瞰する視点で、戦略的なトップ外交を展開してまいります。

 中国とは、残念ながら、いまだに首脳会談が実現していません。しかし、私の対話のドアは常にオープンであります。課題が解決されない限り対話をしないという姿勢ではなく、課題があるからこそ対話をすべきです。

 日本と中国は、切っても切れない関係。戦略的互恵関係の原点に立ち戻るよう求めるとともに、関係改善に向け、努力を重ねてまいります。

 韓国は、基本的な価値や利益を共有する、最も重要な隣国です。日韓の良好な関係は、両国のみならず、東アジアの平和と繁栄にとって不可欠であり、大局的な観点から協力関係の構築に努めてまいります。

 北朝鮮には、拉致、核、ミサイルの諸懸案の包括的な解決に向けて具体的な行動をとるよう、強く求めます。

 拉致問題については、全ての拉致被害者の御家族が御自身の手で肉親を抱き締める日が訪れるまで、私の使命は終わりません。北朝鮮に対話と圧力の方針を貫き、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引き渡しの三点に向けて、全力を尽くしてまいります。

 今月、アフリカ三カ国を訪問しました。力強く成長するアフリカは、日本外交の新たなフロンティアです。日本は、インフラ、人材育成といった分野で、アフリカの人々のため、一層の貢献をしてまいります。

 アフリカの人々のため、八十七年前、アフリカに渡った一人の日本人がいました。野口英世博士です。

 志を得ざれば再びこの地を踏まず。ふるさと福島から世界に羽ばたき、黄熱病研究のため、周囲の反対を押し切ってガーナに渡り、そして、その地で黄熱病により殉職。人生の最期の瞬間まで医学に対する熱い初心を貫きました。

 我々が国会議員となったのも、志を得るため。この国をよくしたい、国民のために力を尽くしたいとの思いからであったはずです。

 改めて申し上げます。

 全ては国家国民のため、互いに寛容の心を持って、建設的な議論を行い、結果を出していくことが、私たち国会議員に課せられた使命であります。一年前、私は、この場所でこう申し上げました。

 今や、自由民主党と公明党による連立与党は、衆参両院で多数を持っております。しかし、私の信念は、今なお変わることはありません。

 私たち連立与党は、政策の実現を目指す責任野党とは、柔軟かつ真摯に政策協議を行ってまいります。そうした努力を積み重ねることで、定数削減を含む選挙制度改革も、国会改革も、そして憲法改正も、必ずや前に進んでいくことができると信じております。

 皆さん、ぜひとも、国会議員となったときの熱い初心を思い出していただき、建設的な議論を行っていこうではありませんか。最後にこうお願いして、私の施政方針演説といたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)