データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第97代 第3次安倍晋三内閣(平成26.12.24〜平成29.11.1)
[国会回次] 第193回(常会)
[演説者] 安倍晋三内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 2017/01/20
[参議院演説年月日] 2017/01/20
[全文]

 まず冒頭、天皇陛下の御公務の負担軽減等について申し上げます。

 現在、有識者会議で検討を進めており、近々論点整理が行われる予定です。静かな環境の中で、国民的な理解の下に成案を得る考えであります。

 昨年末、オバマ大統領とともに真珠湾の地に立ち、さきの大戦で犠牲となった全ての御霊に哀悼の誠をささげました。

 我が国では、三百万余の同胞が失われました。あまたの若者たちが命を落とし、人々の暮らし、インフラ、産業はことごとく破壊されました。

 明治維新から七十年余りたった当時の日本は、見渡す限りの焼け野原、そこからの再スタートを余儀なくされました。

 しかし、先人たちは決して諦めなかった。廃墟と窮乏の中から敢然と立ち上がり、次の時代を切り開きました。世界第三位の経済大国、世界に誇る自由で民主的な国を未来を生きる世代のためつくり上げてくれました。

 戦後七十年余り、今を生きる私たちもまた、立ち上がらなければならない。戦後の、その先の時代を開くため、新しいスタートを切るときです。

 少子高齢化、デフレからの脱却と新しい成長、厳しさを増す安全保障環境、困難な課題に真正面から立ち向かい、未来を生きる世代のため、新しい国づくりに挑戦する。今こそ未来への責任を果たすべきときであります。

 私たちの子や孫、その先の未来、次なる七十年を見据えながら、皆さん、もう一度スタートラインに立って、共に新しい国づくりを進めていこうではありませんか。

 かつて敵として熾烈に戦った日本と米国は、和解の力により、強いきずなで結ばれた同盟国となりました。

 世界では今なお争いが絶えません。憎しみの連鎖に多くの人々が苦しんでいます。その中で、日米両国は、寛容の大切さと和解の力を示し、世界の平和と繁栄のため共に力を尽くす責任があります。

 これまでも、今も、そしてこれからも、日米同盟こそが我が国の外交・安全保障政策の基軸である。これは不変の原則です。できる限り早期に訪米し、トランプ新大統領と同盟のきずなを更に強化する考えであります。

 先月、北部訓練場、四千ヘクタールの返還が二十年越しで実現しました。沖縄県内の米軍施設の約二割、本土復帰後、最大の返還であります。地位協定についても、半世紀の時を経て初めて軍属の扱いを見直す補足協定が実現しました。

 さらに、学校や住宅に囲まれ、市街地の真ん中にあり、世界で最も危険と言われる普天間飛行場の全面返還を何としても成し遂げる。最高裁判所の判決に従い、名護市辺野古沖への移設工事を進めてまいります。

 かつて、最低でもと言ったことすら実現せず、失望だけが残りました。威勢のよい言葉だけを並べても、現実は一ミリも変わりません。必要なことは実行です。結果を出すことであります。

 安倍内閣は、米国との信頼関係の下、抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担軽減に一つ一つ結果を出していく決意であります。

 本年は、様々な国のリーダーが交代し、大きな変化が予想されます。先の見えない時代において最も大切なこと、それは、しっかりと軸を打ち立て、そして、ぶれないことであります。

 自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と連携する。ASEAN、豪州、インドといった諸国と手を携え、アジア環太平洋地域からインド洋に及ぶこの地域の平和と繁栄を確固たるものとしてまいります。

 自由貿易の旗手として、公正なルールに基づいた二十一世紀型の経済体制を構築する。TPP協定の合意は、そのスタンダードであり、今後の経済連携の礎となるものであります。日EU・EPAのできる限り早期の合意を目指すとともに、RCEPなどの枠組みが野心的な協定となるよう交渉をリードし、自由で公正な経済圏を世界へと広げます。

 継続こそ力。就任から五年目を迎え、G7諸国のリーダーの中でも在職期間が長くなります。五百回以上の首脳会談の積み重ねの上に、地球儀を大きく俯瞰しながら、ダイナミックな平和外交、経済外交を展開し、世界の真ん中でその責任を果たしてまいります。

 日本海から東シナ海、南シナ海に至る地域では緊張が高まり、我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。地域の平和と安定のため、近隣諸国との関係改善を積極的に進めてまいります。

 ロシアとの関係改善は、北東アジアの安全保障上も極めて重要です。しかし、戦後七十年以上たっても平和条約が締結されていない異常な状況にあります。

 先月、訪日したプーチン大統領と問題解決への真摯な決意を共有しました。元島民の皆さんのふるさとへの自由な訪問やお墓参り、北方四島全てにおける特別な制度の下での共同経済活動について、交渉開始で合意し、新たなアプローチの下、平和条約の締結に向けて重要な一歩を踏み出しました。

 この機運に弾みを付けるため、本年の早い時期にロシアを訪問します。七十年以上動かなかった領土問題の解決は容易なことではありませんが、高齢である島民の皆さんの切実な思いを胸に刻み、平和条約締結に向け、一歩でも二歩でも着実に前進していきます。

 本年、日中韓サミットを我が国で開催し、経済、環境、防災など幅広い分野で地域レベルの協力を強化します。

 韓国は、戦略的利益を共有する最も重要な隣国です。これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ねの上に、未来志向で新しい時代の協力関係を深化させてまいります。

 中国の平和的発展を歓迎します。地域の平和と繁栄に大きな責任を有することを共に自覚し、本年の日中国交正常化四十五周年、来年の日中平和友好条約締結四十周年という節目を迎えるこの機を捉え、戦略的互恵関係の原則の下、大局的な観点から、共に努力を重ね、関係改善を進めます。

 北朝鮮が昨年、二度にわたる核実験、二十発以上の弾道ミサイル発射を強行したことは、断じて容認できません。安保理決議に基づく制裁に加え、関係国と協調し、我が国独自の措置も実施しました。対話と圧力、行動対行動の一貫した方針の下、核、ミサイル、そして、引き続き最重要課題であり、発生から長い年月がたつ拉致問題の包括的な解決に向け、北朝鮮が具体的な行動を取るよう強く求めます。

 真新しい国旗を手に、誇らしげに入場行進する選手たち。南スーダン独立後初めての全国スポーツ大会は、異なる地域から異なる民族の選手たちが一堂に会しました。

 その会場の一つとなる穴だらけだったグラウンドに一千個を超えるコンクリートブロックを一つ一つ手作業で埋め込んだのは、日本の自衛隊員たちです。

 最終日、サッカー決勝は、くしくも政治的に対立する民族同士の戦い。しかし、選手も観客もフェアプレーを貫きました。終了後には、勝利した側の選手が負けた側の選手の肩を抱き、互いの健闘をたたえ合う光景がそこにはありました。

 幼い息子さんを連れて観戦に来ていたジュバ市民の一人は、その姿に感動し、こう語っています。毎日スポーツが行われるような平和な国になってほしい。

 隊員たちが造ったのは単なるグラウンドではありません。平和を生み出すグラウンドであります。自衛隊の活動一つ一つが間違いなく南スーダンの自立と平和な国づくりにつながっている。

 灼熱のアデン湾では、今このときも、海賊対処に当たる隊員諸君がいます。三千八百隻を上回る世界の船舶を護衛してきました。

 平和のため黙々と汗を流す自衛隊の姿を世界が称賛し、感謝し、頼りにしています。与えられた任務を全力で全うする彼らは日本国民の誇りであります。

 テロ、難民、貧困、感染症、世界的な課題は深刻さを増しています。こうした現実から我が国だけが目を背けるようなことはあってはなりません。今こそ、積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄のため、皆さん、あたう限りの貢献をしていこうではありませんか。

 昨年、大隅良典栄誉教授がノーベル医学・生理学賞を受賞し、三年連続で日本人がノーベル賞を獲得。世界の真ん中で輝く姿に、やればできる、日本全体が大きな自信と勇気をもらいました。

 未来は予言できない、しかし、つくることはできる。ノーベル賞物理学者、デニス・ガボールの言葉です。

 五年前、日本には根拠なき未来の予言があふれていました。人口が減少する日本はもう成長できない。日本はたそがれを迎えている。不安をあおる悲観論が蔓延していました。まさにデフレマインド、諦めという名の壁が立ちはだかり、政権交代後も、アベノミクスで成長なんかできない、私たちの経済政策には批判ばかりでありました。

 しかし、日本はまだまだ成長できる。その未来をつくるため、安倍内閣は、この四年間、三本の矢を放ち、壁への挑戦を続けてきました。

 その結果、名目GDPは四十四兆円増加、九%成長しました。中小・小規模事業者の倒産は二十六年ぶりの低水準となり、政権交代前と比べ三割減らすことに成功しました。

 長らく言葉すら忘れられていたベースアップが三年連続で実現しました。史上初めて四十七全ての都道府県で有効求人倍率が一倍を超えました。全国津々浦々で確実に経済の好循環が生まれています。

 格差を示す指標である相対的貧困率が足下で減少しています。特に子供の相対的貧困率は二%減少し、七・九%。十五年前の調査開始以来一貫して増加していましたが、安倍内閣の下、初めて減少に転じました。

 できないと思われていたことが次々と実現できた。かつての悲観論は完全に間違っていた。そのことを私たち自公政権は証明しました。

 その経済の好循環を更に進めていく。今後も、安定した政治基盤の下、力を合わせ、私たちの前に立ちはだかる壁を次々と打ち破っていこうではありませんか。

 景気回復の風を、更に全国津々浦々、中小・小規模事業者の皆さんにお届けする。

 先月、五十年ぶりに、下請代金の支払について通達を見直しました。これまで下請事業者の資金繰りを苦しめてきた手形払の慣行を断ち切り、現金払を原則とします。近年の下請いじめの実態を踏まえ、下請法の運用基準を十三年ぶりに抜本改定しました。今後、厳格に運用し、下請取引の条件改善を進めます。

 四月から、成長の果実を生かし、雇用保険料率を引き下げます。これにより、中小・小規模事業者の負担を軽減し、働く皆さんの手取りアップを実現します。さらに、賃上げに積極的な事業者を税額控除の拡充により後押しします。

 生産性向上のため、今後二年間の設備投資には、固定資産税を三年間半減する。この仕組みを、製造業だけでなく、小売・サービス業にも拡大することで、商店街などにおいても攻めの投資を促します。

 一日平均二十人。人影が消え、シャッター通りとなった岡山の味野商店街は、その壁に挑戦しました。

 地場の繊維産業を核に、商店街、自治体、商工会議所が一体で、児島ジーンズストリートを立ち上げました。三十店を超えるジーンズ店が軒を並べ、ジーンズ柄で構内がラッピングされた駅からは、ジーンズバスやジーンズタクシーが走ります。

 まさにジーンズの聖地。今や、年間十五万人を超える観光客が集まる商店街へ生まれ変わりました。評判は海外にも広がり、アジアからの外国人観光客も増えています。

 地方には、それぞれの魅力、観光資源、ふるさと名物があります。それを最大限生かすことで、過疎化という壁も必ずや打ち破ることができるはずです。

 自分たちの未来を、自らの創意工夫と努力で切り開く。地方の意欲的なチャレンジを、自由度の高い地方創生交付金によって後押しします。

 地方の発意による、地方のための分権改革を進めます。空き家や遊休地の活用に関する制限を緩和し、自治体による有効利用を可能とします。

 ふるさとへの情熱を持って地方創生にチャレンジする。そうした地方の皆さんを、安倍内閣は全力で応援します。

 一千万人の壁。政権交代前、外国人観光客は年間八百万人余りで頭打ちとなっていました。

 安倍内閣は、その壁を僅か一年で突破しました。四年連続で過去最高を更新し、昨年は、三倍の二千四百万人を超えました。

 日本を訪れる外国クルーズ船は、僅か三年で四倍に増加。秋田港で竿燈祭り、青森港でねぶた祭り、徳島小松島港で阿波踊り、各地自慢の祭りを巡る外国のクルーズツアーが企画されるなど、地方に大きなチャンスが生まれています。

 民間資金を活用し、国際クルーズ拠点の整備を加速します。港湾法を改正し、投資を行う事業者に岸壁の優先使用などを認める新しい仕組みを創設します。

 沖縄はアジアとの懸け橋、我が国の観光や物流のゲートウエーです。新石垣空港では、昨年、香港からの定期便の運航が始まり、外国人観光客の増加に沸いています。機材の大型化に対応するための施設整備を支援します。

 全国の地方空港で、国際定期便の就航を支援するため、着陸料の割引、入国管理等のインフラ整備を行います。羽田、成田両空港の二〇二〇年四万回の容量拡大に向け、羽田空港では新しい国際線ターミナルビルの建設に着手します。

 いわゆる民泊の成長を促すため、規制を改革します。衛生管理などを条件に、旅館業法の適用を除外することで民泊サービスの拡大を図ります。

 あらゆる政策を総動員して、次なる四千万人の高みを目指し、観光立国を推し進めてまいります。

 地方経済の核である農業では、高齢化という壁が立ちはだかってきました。平均年齢は六十六歳を超えています。

 しかし、攻めの農政の下、四十代以下の新規就農者は二年連続で増加し、足下では、統計開始以来最多の二万三千人を超えました。生産農業所得も、直近で年間三兆三千億円、過去十一年間で最も高い水準まで伸びています。

 更なる弾みを付けるため、八本に及ぶ農政改革関連法案を今国会に提出し、改革を一気に加速します。

 農業版の競争力強化法を制定します。肥料や飼料を一円でも安く仕入れ、農産物を一円でも高く買ってもらう。そうした農家の皆さんの努力を後押しするため、生産資材や流通の分野で事業再編、新規参入を促します。委託販売から買取り販売への転換など、農家のための全農改革を進めます。数値目標の達成状況を始め、その進捗をしっかりと管理してまいります。

 牛乳や乳製品の流通を事実上農協経由に限定している現行の補給金制度を抜本的に見直し、生産者の自由な経営を可能とします。

 農地バンクの下、農地の大規模化を進めます。世界のマーケットを目指し、生産行程や流通管理の規格化、ジェトロの世界ネットワークを活用したブランド化を展開し、競争力を強化します。

 農政改革を同時並行で一気呵成に進め、若者が農林水産業に自分たちの夢や未来を託することができる農政新時代を、皆さん、共に切り開いていこうではありませんか。

 チャレンジを阻むあらゆる壁を打ち破ります。イノベーションを次々と生み出すため、研究開発投資、そして規制改革、安倍内閣は三本目の矢を次々と打ち続けます。

 医療情報について、匿名化を前提に利用可能とする新しい仕組みを創設します。ビッグデータを活用し、世界に先駆けた新しい創薬や治療法の開発を加速します。

 人工知能を活用した自動運転、その未来に向かって、本年、各地で実証実験が計画されています。国家戦略特区などを活用して、自動運転の早期実用化に向けた民間の挑戦を後押しします。

 民間の視点に立った行政改革も進めます。長年手付かずであった各種の政府統計について、一体的かつ抜本的な改革を行います。

 本年四月からガスの小売を完全に自由化します。昨年の電力自由化と併せ、多様なサービスのダイナミックな展開とエネルギーコストの低廉化を実現します。

 水素エネルギーは、エネルギー安全保障と温暖化対策の切り札です。これまでの規制改革により、ここ日本で未来の水素社会がいよいよ幕を開けます。三月、東京で、世界で初めて大容量の燃料電池を備えたバスが運行を始めます。来年春には、全国で百か所の水素ステーションが整備され、神戸で水素発電による世界初の電力供給が行われます。

 二〇二〇年には、現在の四十倍、四万台規模で燃料電池自動車の普及を目指します。世界初の液化水素船による大量水素輸送にも挑戦します。生産から輸送、消費まで、世界に先駆け、国際的な水素サプライチェーンを構築します。その目標の下、各省庁にまたがる様々な規制を全て洗い出し、改革を進めます。

 再生可能エネルギーから大規模に水素を製造する。最先端の実証プロジェクトが福島で動き出しました。

 南相馬では、町工場の若い後継者たちが力を合わせ、災害時に水中調査を行うロボットを開発しました。その一人、金型工場の二代目、渡邉光貴さんが強い決意を私に語ってくれました。南相馬がロボットの町と言われるよう、若い力で頑張る。

 原発事故により大きな被害を受けた浜通り地域は、今、世界最先端の技術が生まれる場所になろうとしています。

 福島復興特措法を改正し、イノベーション・コースト構想を推し進めます。官民合同チームの体制を強化し、なりわいの復興を加速します。

 今年度中に、帰還困難区域を除き、除染が完了します。廃炉、賠償等を安定的に実施することと併せ、二〇二〇年には身近な場所から仮置場をなくせるよう、中間貯蔵施設の建設を急ぎます。帰還困難区域でも、復興拠点を設け、五年を目途に避難指示解除を目指し、国の負担により除染やインフラ整備を一体的に進めます。

 東北三県では、来年春までに、九五%を超える災害公営住宅が完成し、高台移転も九割で工事が完了する見込みです。農業、水産業、観光業など、なりわいの復興を力強く支援します。

 熊本地震以来通行止めとなっていた俵山トンネルを含む熊本高森線が先月開通し、日本が誇る観光地、阿蘇へのアクセスが大きく改善しました。今後、熊本空港ターミナルビルの再建、さらには復興のシンボルである熊本城天守閣の早期復旧を国として全力で支援してまいります。

 昨年の台風十号では、岩手の岩泉町で、避難が遅れ、九名の高齢者の方々が川の氾濫の犠牲となりました。現場に足を運び、御冥福をお祈りするとともに、再発防止への決意を新たにしました。

 水防法を抜本的に改正します。介護施設、学校、病院など避難に配慮が必要な方々がいらっしゃる施設では、避難計画の作成、訓練の実施を義務化します。中小河川も含め、地域住民に水災リスクが確実に周知されるようにします。

 治水対策のほか、水害や土砂災害への備え、最先端技術を活用した老朽インフラの維持管理など、事前防災・減災対策に徹底して取り組み、国土強靱化を進めます。

 糸魚川の大規模火災で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い生活再建、事業再開に向け、国も全力で支援してまいります。

 お年寄りなどを狙った悪質業者が後を絶ちません。被害者の救済を消費者団体が代わって求める新しい訴訟制度が昨年スタートしました。これを国民生活センターがバックアップする仕組みを整え、より迅速な救済を目指します。

 三年後に迫ったオリンピック・パラリンピックを必ず成功させる。サイバーセキュリティー対策、テロなど組織犯罪への対策を強化します。受動喫煙対策の徹底、ユニバーサルデザインの推進、多様な食文化への対応など、この機を生かし、誰もが共生できる町づくりを進めます。

 昨年七月、障害者施設で何の罪もない多くの方々の命が奪われました。決してあってはならない事件であり、断じて許せません。精神保健福祉法を改正し、措置入院患者に対して退院後も支援を継続する仕組みを設けるなど、再発防止対策をしっかりと講じてまいります。

 障害や難病のある方も、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、誰もが生きがいを持ってその能力を存分に発揮できる社会をつくる。一億総活躍の未来を切り開くことができれば、少子高齢化という課題も必ずや克服できるはずです。

 しかし、家庭環境や事情は人それぞれ異なります。何かをやりたいと願っても、画一的な労働制度、保育や介護との両立など様々な壁が立ちはだかります。こうした壁を一つ一つ取り除く、これが一億総活躍の国づくりであります。

 最大のチャレンジは、一人一人の事情に応じた多様で柔軟な働き方を可能とする労働制度の大胆な改革、働き方改革です。

 アベノミクスによって、有効求人倍率は、現在、二十五年ぶりの高い水準、この三年間ずっと一倍を上回っています。正規雇用も、一昨年、増加に転じ、二十四か月連続で前年を上回る勢いです。雇用環境が改善する中、民間企業でも、定年延長や定年後も給与水準を維持するなど、前向きな動きが生まれています。

 雇用情勢が好転している今こそ、働き方改革を一気に進める大きなチャンスです。三月に実行計画を決定し、改革を加速します。

 同一労働同一賃金を実現します。昇給の扱いが違う、通勤などの各種手当が支給されない、福利厚生や研修において扱いが異なるなど、不合理な待遇差を個別具体的に是正するため、詳細なガイドライン案を策定しました。今後、その根拠となる法改正について、早期の国会提出を目指し立案作業を進めます。

 一年余り前、入社一年目の女性が、長時間労働による過酷な状況の中、自ら命を絶ちました。御冥福を改めてお祈りするとともに、二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意で長時間労働の是正に取り組みます。いわゆる三六協定でも超えることができない、罰則付きの時間外労働の限度を定める法改正に向けて作業を加速します。

 抽象的なスローガンを叫ぶだけでは世の中は変わりません。重要なことは、何が不合理な待遇差なのか、時間外労働の限度は何時間なのか、具体的に定めることです。言葉だけのパフォーマンスではなく、しっかりと結果を生み出す働き方改革を、皆さん、共に進めていこうではありませんか。

 人は幾つからでもどんな状況からでも再出発できる。十六年間子育てに専念した後、リカレント教育を受け再就職を果たした島千佳さんの言葉です。役職にも就き、仕事に大変やりがいを感じているそうです。島さんは、笑顔で私にこう語ってくれました。子育ての経験をしたからこそ、今の職場で生かせることがたくさんある。子育てや介護など多様な経験を持つ人たちの存在は、企業にとって大きなメリットを生み出すはずです。

 百三万円の壁を打ち破ります。パートで働く皆さんが就業調整を意識せずに働くことができるよう、配偶者特別控除の収入制限を大幅に引き上げます。

 出産などを機に離職した皆さんの再就職、学び直しへの支援を抜本的に拡充します。復職に積極的な企業を支援する助成金を創設します。雇用保険法を改正し、教育訓練給付の給付率、上限額を引き上げます。子供を託児所に預けながら職業訓練が受けられる、また、土日、夜間にも必要な講座を受講できるなど、きめ細かく再就職支援の充実を図ります。

 保育や介護と仕事の両立を図る。

 子育てを理由に仕事を辞めずに済むよう、育休給付の支給期間を最大二歳まで延長します。地方と連携し、子育て世帯に対する住宅ローン金利を引き下げ、三世代の近居や同居を支援します。

 待機児童ゼロ、介護離職ゼロ、その大きな目標に向かって、保育、介護の受皿整備を加速します。国家戦略特区で実施してきた都市公園に保育園や介護施設の建設を認める規制緩和を全国展開します。

 人材を確保するため、来年度予算でも処遇改善に取り組みます。介護職員の皆さんには、経験などに応じて昇給する仕組みをつくり、月額平均一万円相当の改善を行います。保育士の方々には、おおむね経験三年以上で月五千円、七年以上で月四万円の加算を行います。

 加えて、全ての保育士の皆さんに二%の処遇改善を実施します。これにより、政権交代後、合計で一〇%の改善が実現いたします。他方で、あの三年三か月、保育士の方々の処遇は、改善するどころか引き下げられていた。重要なことは、言葉を重ねることではありません。責任を持って財源を確保し、結果を出すことであります。安倍内閣は、言葉ではなく結果で国民の負託に応えてまいります。

 年金受給資格期間を二十五年から十年に短縮します。消費税率引上げを延期した中でも、十月から新しく六十四万人の方々に年金支給を開始します。自治体による国保の安定的な運営のため、財政支援を拡充します。最低賃金が大きく上昇を続ける中、失業給付について、若い世代への支給期間を延長するなど改善を実施します。

 来年度予算では、政府交代前と比べ、国の税収は十五兆円増加し、新規の公債発行額は十兆円減らすことができました。こうしたアベノミクスの果実も生かし、成長と分配の好循環をつくり上げてまいります。同時に、将来にわたり持続可能な社会保障制度を構築するため、改革の手も決して緩めません。

 薬価制度の抜本改革を断行します。二年に一回の薬価改定を毎年実施することとし、国民負担の軽減と医療の質の向上の両立を図ります。医療保険で、高齢者の皆さんが現役世代より優遇される特例に関し、一定の所得がある方については見直しを実施します。

 累次の改革が実を結び、かつて毎年一兆円ずつ増えていた社会保障費の伸びは、今年度予算に続き来年度予算においても五千億円以下に抑えることができました。引き続き、経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを同時に実現しながら、一億総活躍の未来を切り開いてまいります。

 我が国の未来、それは、子供たちであります。子供たち一人一人の個性を大切にする教育再生を進めます。

 先般成立した教育機会確保法を踏まえ、フリースクールの子供たちへの支援を拡充し、いじめや発達障害など様々な事情で不登校となっている子供たちが自信を持って学んでいける環境を整えます。

 実践的な職業教育を行う専門職大学を創設します。選択肢を広げることで、これまでの単線的、画一的な教育制度を変革します。

 邑に不学の戸なく、家に不学の人なからしめん。明治日本が学制を定め、国民教育の理想を掲げたのは、今から百四十年余り前のことでした。それから七十年余り、日本国憲法が普通教育の無償化を定め、小中学校九年間の義務教育制度がスタートしました。

 本年は、その憲法施行から七十年の節目であります。この七十年間、経済も社会も大きく変化しました。子供たちがそれぞれの夢を追いかけるためには、高等教育もまた、全ての国民に真に開かれたものでなければなりません。

 学制の序文には、こう記されています。学問は身を立るの財本ともいふべきもの。どんなに貧しい家庭で育っても、夢をかなえることができる。そのためにも、誰もが希望すれば高校にも専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません。

 高校生への奨学給付金を更に拡充します。本年春から、その成績にかかわらず、必要とする全ての学生が無利子の奨学金を受けられるようにします。返還についても、卒業後の所得に応じて変える制度を導入することで負担を軽減します。

 さらに、返還不要、給付型の奨学金制度を新しく創設いたします。本年から、児童養護施設や里親の下で育った子供たちなど、経済的に特に厳しい学生を対象に先行的にスタートします。来年以降、一学年二万人規模で、月二万円から四万円の奨学金を給付します。

 幼児教育についても、所得の低い世帯では第三子以降に加え第二子も無償とするなど、無償化の範囲を更に拡大します。

 全ての子供たちが、家庭の経済事情にかかわらず、未来に希望を持ち、それぞれの夢に向かって頑張ることができる。そうした日本の未来を、皆さん、共に切り開いていこうではありませんか。

 子や孫のため、未来を開く。

 土佐湾でハマグリの養殖を始めたのは、江戸時代、土佐藩の重臣、野中兼山だったと言われています。こうした言い伝えがあります。おいしいハマグリを江戸から土産に持ち帰る。兼山の知らせを受け、港では大勢の人が待ち構えていました。しかし、到着するや否や、兼山は船いっぱいのハマグリを全部海に投げ入れてしまった。ハマグリを口にできず文句を言う人たちを前に、兼山はこう語ったと言います。このハマグリは末代までの土産である、子たち、孫たちにも味わってもらいたい。兼山のハマグリは、土佐の海に定着しました。そして、三百五十年の時を経た今も、高知の人々に大きな恵みをもたらしている。まさに未来を開く行動でありました。

 未来は変えられる。全ては私たちの行動に懸かっています。

 ただ批判に明け暮れたり、言論の府である国会の中でプラカードを掲げても何も生まれません。意見の違いはあっても、真摯かつ建設的な議論を闘わせ、結果を出していこうではありませんか。

 自らの未来を自らの手で切り開く。その気概が今こそ求められています。

 憲法施行七十年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる七十年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか。

 未来を開く。これは、国民の負託を受け、この議場にいる全ての国会議員の責任であります。

 世界の真ん中で輝く日本を、一億総活躍の日本を、そして子供たちの誰もが夢に向かって頑張ることができる、そういう日本の未来を、共にここから切り開いていこうではありませんか。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)