[内閣名] 第101代岸田文雄内閣(令和3.11.10〜令和6.10.1)
[国会回次] 第211回(常会)
[演説者] 岸田文雄内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 2023/01/23
[参議院演説年月日] 2023/01/23
[全文]
第二百十一回国会の開会にあたり、国政に臨む所信の一端を申し述べます。
先日の欧州、北米訪問の際、ある首脳から、なぜ、日本では、議会のことを英語でパーラメントではなくダイエットと呼ぶのかと問われました。確かに、ほとんどの国は、議会を英語でパーラメントと呼ぶようです。調べてみたところ、ダイエットの語源は、集まる日という意味を持つラテン語でした。
国民の負託を受けた我々議員が、まさに、本日、この議場に集まり、国会での議論がスタートいたします。
政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断をし、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです。
私は、多くの皆様の御協力の下、様々な議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討し、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案、法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。
検討も決断も、そして議論も、全て重要であり必要です。それらに等しく全力で取り組むことで、信頼と共感の政治を本年も進めてまいります。
近代日本にとって、大きな時代の転換点は二回ありました。
明治維新と、その七十七年後の大戦の終戦です。そして、奇しくもそれから七十七年が経った今、我々は、再び歴史の分岐点に立っています。
ロシアによるウクライナ侵略。世界が堅持してきた法の支配による国際平和秩序への挑戦に対し、国連安保理は機能不全を露呈しました。さらに、この機に乗じて、ロシアとの連携を強める国、エネルギーなどで実利を追う国、核・ミサイル開発を進める主体など、国際平和秩序の弱体化があらわになっています。
そして、もはや待ったなしとなっているのが、深刻さを増す気候変動問題、感染症対策などの地球規模の課題、世界中で生じている格差問題など、広い意味での持続可能性の問題です。
不安定で脆弱なサプライチェーン、世界規模でのエネルギー、食料危機、さらには人への投資不足など、世界の一体化と平和、繁栄をもたらすと信じられてきたグローバリゼーションの変質、変容も顕著です。
こうした現実を前に、今こそ、新たな方向に足を踏み出さなければならない。
これまでの時代の常識を捨て去り、強い覚悟と時代を見通すビジョンをもって、新たな時代にふさわしい、社会、経済、国際秩序を創り上げていかねばなりません。
先々週、G7議長として訪問した国、全ての首脳も、私と同様の認識を示しました。
日本は、五月の広島サミットの成功はもちろん、G7議長国として、強い責任感をもって、今年一年、世界を先導してまいります。
私は、皆さんと一緒に、この歴史の大きなうねりを乗り越え、次の世代に、この日本という国を着実に引き継いでいきます。
力を合わせ、共に、新時代の国づくり、安定した国際秩序づくりを進めていこうではありませんか。
そのために、今我々が直面する様々な難しい先送りできない課題に、正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく。
その強い覚悟で、昨年末、一年を超える時間をかけて議論し、検討を進め、新たな国家安全保障戦略などを策定いたしました。
まず優先されるべきは、積極的な外交の展開です。同時に、外交には、裏付けとなる防衛力が必要です。戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、いざという時に、国民の命を守り抜けるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化しました。
五年間で四十三兆円の防衛予算を確保し、相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の抜本強化、サイバー、宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実、海上保安庁と自衛隊の連携強化、防衛産業の基盤強化や装備移転の支援、研究開発成果の安全保障分野での積極的活用などを進めてまいります。
こうした取組を将来にわたって維持強化していかなければなりません。そのためには、令和九年度以降、裏付けとなる毎年度四兆円の新たな安定財源が追加的に必要となります。歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入の確保などの行財政改革の努力を最大限行った上で、それでも足りない約四分の一については、将来世代に先送りすることなく、令和九年度に向けて、今を生きる我々が将来世代への責任として対応してまいります。
今回の決断は、日本の安全保障政策の大転換ですが、憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての我が国としての歩みをいささかも変えるものではないということを改めて明確に申し上げたいと思います。
世界のリーダーと対話を重ねる中で、多くの国が新たな経済モデルを模索していることも強く感じました。
それは、権威主義的国家からの挑戦に直面する中で、市場に任せるだけでなく、官と民が連携し、国家間の競争に勝ち抜くための経済モデルです。
それは、労働コストや生産コストの安さのみを求めるのでなく、重要物資や重要技術を守り、強靱なサプライチェーンを維持する経済モデルです。
そして、それは、気候変動問題や格差など、これまでの経済システムが生み出した負の側面である、様々な社会課題を乗り越えるための経済モデルです。
私が進める新しい資本主義は、この世界共通の問題意識に基づくものです。
官民が連携し、社会課題を成長のエンジンへと転換し、社会課題の解決と経済成長を同時に実現する。持続可能で包摂的な経済社会を創り上げていきます。
新型コロナから全面的に日常を取り戻そうとする今年、日本を、本格的な経済回復、そして新たな経済成長の軌道に乗せていこうではありませんか。
まずは、令和四年度第二次補正予算の早期執行など、足下の物価高に的確に対応します。今後も、必要な政策対応に躊躇なく取り組んでまいります。
経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組みます。
そして、企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかりと分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、賃上げです。
これまで着実に積み上げてきた経済成長の土台の上に、持続的に賃金が上がる構造を作り上げるため、労働市場改革を進めます。
まずは、足下で、物価上昇を超える賃上げが必要です。
政府は、経済成長のための投資と改革に全力を挙げます。公的セクターや政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げます。
また、中小企業における賃上げ実現に向け、生産性向上、下請け取引の適正化、価格転嫁の促進、さらにはフリーランスの取引適正化といった対策も一層強化します。
そして、その先に、多様な人材、意欲ある個人がその能力を最大限活かして働くことが、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げにつながる社会を創り、持続的な賃上げを実現していきます。
そのために、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って加速いたします。
リスキリングについては、GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直します。加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します。
一方で、企業には、そうした個人を受け止める準備を進めていただきたい。
人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。
本年六月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします。
賃上げとともに成長と分配の好循環の鍵となるのが、投資と改革です。その具体的な取組について、五点申し上げます。
第一に、GX、グリーントランスフォーメーションです。
戦争の武器としてエネルギー供給を利用したロシア。国民生活の大きな混乱に見舞われた各国は、脱炭素とエネルギー安定供給、そして経済成長の三つを同時に実現する、一石三鳥の強かな戦略を動かし始めています。
日本のGXも、この三つの目的を実現するためのものです。
官民で、十年間、百五十兆円超の投資を引き出す、成長志向型カーボンプライシング。国による二十兆円規模の先行投資の枠組みを新たに設けます。徹底した省エネ、水素、アンモニアの社会実装、再エネ、原子力など脱炭素技術の研究開発などを支援していきます。
これは、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、予見可能性を高め、期待収益率を見通せるようにすることで企業の投資を誘引していく、新しい資本主義が目指す官民連携の具体化です。このための法案を今国会に提出いたします。
官民の持てる力を総動員し、GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していきます。
エネルギーの安定供給に向けては、多様なエネルギー源を確保しなければなりません。
長年の懸案となっていた北海道―本州間の送電線整備など再エネ最大限導入に向けた取組に加え、安全の確保と地域の理解を大前提として、廃炉となる原発の次世代革新炉への建て替えや、原発の運転期間の一定期間の延長を進めます。また、国が前面に立って、最終処分事業を進めてまいります。
世界規模のエネルギー危機に直面し、アジアにおける現実的なエネルギートランジションの重要性がますます高まっています。我が国は、昨年来提唱してきたアジア・ゼロエミッション構想を今春から具体化させ、アジアの脱炭素化を支援していきます。
第二に、DX、デジタルトランスフォーメーションです。
まず強調したいのは、デジタル社会のパスポートであるマイナンバーカードです。
様々な工夫を重ね、昨年初めに五千五百万件だった取得申請を、八千五百万件まで増やしました。今や、運転免許証を大きく超え、日本で最も普及した本人確認のツールです。
このカードによって、運転免許証、各種国家資格の証明書などのデジタル化や、確定申告の際にオンラインで医療費控除やふるさと納税の手続を完結することが可能となります。
医療面では、今後、スマートフォン一つあれば、診察券も保険証も持たずに、医療機関の受診や薬剤情報の確認ができるようになります。さらには、学生証への利用、買い物時の年齢確認やコンサートのチケット購入などでの活用も進み始めています。
本人確認が必要なあらゆる公的、民間サービスを簡単、便利に利用できる社会を創るため、官民で取り組んでまいります。
アナログ規制の一括見直しにも取り組みます。
具体的には、オンライン上で様々な行政手続を完結できるようにしたり、フロッピーディスクを指定して情報提出を求めていた規制を見直したりといった改革を、来年までの二年間で一気呵成に進めます。
四万件の法令を点検し、準備が整ったものについて、一斉に見直すための法案を今国会に提出します。
第三に、イノベーションです。
つい先日、日米の企業が共同開発し、世界で初めて、本格的なグローバル展開が期待される、アルツハイマー病の進行を抑える治療薬が、米国においてFDAの迅速承認を受けました。
日本発、世界初のイノベーションが、国境を越えて、認知症の方とその御家族に希望の光をもたらすことは、大変嬉しいことです。
こうしたニュースを次々にお届けできるよう、中長期的かつ国家戦略的な視点をもって、半導体、量子、AI、次世代通信技術、さらには、バイオ、宇宙、海洋。戦略分野への研究開発投資を支援するとともに、イノベーションを阻む規制の改革に取り組みます。
社会のニーズに応じた理工系の学部再編や、若手研究者支援も進めます。
さらには、教職員の処遇見直しを通じた質の向上、教育の国際化、グローバル人材の育成に向け、日本人学生の海外派遣の拡大や、有望な留学生の受け入れを進めます。
二〇二五年には、大阪・関西万博が開催されます。空飛ぶ車など、未来社会の実験場として、イノベーティブで活力ある日本の姿を世界に向けて発信してまいります。
第四に、スタートアップの育成です。
五年でスタートアップへの投資額十倍増を目指し、卓越した才能を発掘、育成するプログラムの拡充や、研究開発ベンチャーへの資金供給の強化、欧米のトップクラス大学の誘致によるグローバルスタートアップキャンパス構想の実現、さらには、税制による大企業とスタートアップの協業によるオープンイノベーション支援に取り組みます。
また、創業時に、経営者保証に頼らない資金調達ができるよう、新たな信用保証制度を創設します。
さらに、世界に伍する高度人材の新たな受け入れのための制度を創設するなど、外国人材が活躍できる環境整備も行います。
今は日本経済を牽引する大企業も、かつては戦後創業のスタートアップでした。戦後の創業期に次ぐ、第二の創業ブームを実現し、未来の日本経済を牽引するような企業を生み出していきます。
第五に、資産所得倍増プランです。
長年の懸案である貯蓄から投資への流れを実現できれば、家計の金融資産所得の拡大と成長資金の供給拡大により、成長と資産所得の好循環を実現できる。そう考え、NISAの抜本的拡充や恒久化を実現し、五年間でNISAの総口座数と買付額を倍増させることにしました。
国家戦略として資産形成の支援に取り組み、長期的には、資産運用収入そのものの倍増も見据えて対応してまいります。
今こそ、これらの政策を力強く実行していこうではありませんか。
そして、今年は、新しい資本主義の取組を次の段階に進めたいと思っています。
新しい資本主義は、持続可能で包摂的な新たな経済社会を創っていくための挑戦であると申し上げてきました。
我が国の経済社会の持続性と包摂性を考える上で、最重要課題と位置付けているのが、こども・子育て政策です。
急速に進展する少子化により、昨年の出生数は八十万人を割り込むと見込まれ、我が国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれています。こども・子育て政策への対応は、待ったなしの、先送りの許されない課題です。
こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければなりません。
こども政策担当大臣に指示をした三つの基本的方向性に沿って、こども・子育て政策の強化に向けた具体策の検討を進めていきます。高等教育の負担軽減に向けた出世払い型の奨学金制度の導入にも取り組みます。
検討に当たって、何よりも優先されるべきは、当事者の声です。まずは、私自身、全国各地で、こども・子育ての当事者である、お父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方、若い世代の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます。年齢、性別を問わず皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。
そして、本年四月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において必要とされるこども・子育て政策を体系的に取りまとめつつ、六月の骨太方針までに、将来的なこども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示します。
こども・子育て政策は、最も有効な未来への投資です。これを着実に実行していくため、まずは、こども・子育て政策として充実する内容を具体化します。そして、その内容に応じて、各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援の在り方など、様々な工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えてまいります。
安心してこどもを産み育てられる社会を創る。全ての世代、国民皆にかかわるこの課題に、共に取り組んでいこうではありませんか。
あわせて、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支えあう、持続的な社会保障制度の構築に取り組みます。
老若男女、障害のある方もない方も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会。
意欲のある全ての方が、置かれている環境にかかわらず、十全に力を発揮できる社会。
そうした包摂的な経済社会を創るため、これから、特に、女性、若者、地方の力を引き出していくための政策に力を入れていきます。
これまでの取組により、女性の就労は大きく増え、いわゆるM字カーブの問題は解消に向かっていますが、出産を契機に女性が非正規雇用化する、いわゆるL字カーブの解消、そして、男女間の賃金格差の是正は、引き続き、喫緊の課題です。また、女性登用の一層の拡大も進めていかなければなりません。
そのために、女性の就労の壁となっている、いわゆる百三万円の壁や百三十万円の壁といった制度の見直し、男女共に、これまで以上に育児休業を取得しやすい制度の導入などの諸課題に対応していきます。
さらには、配偶者による暴力防止の取組を強化するため、DV防止法の改正にも取り組みます。
こども・子育て政策の強化、男女共に働きやすい環境の整備、全世代型社会保障改革、構造的賃上げ、スタートアップなどの成長分野への投資などは、日本の未来を担う若い世代のためにこそ進めるべき取組です。
こうした各般の取組を通じ、若者、そして若い世帯の所得向上を実現し、若者が未来に希望をもって生きられる社会を創っていきます。
孤独・孤立対策にも本格的に取り組みます。対策の基本となる法案を今国会に提出し、孤独や孤立に寄り添える社会を目指します。
地方創生を進め、地方が元気になること。それが日本経済再生の源です。
地方の基幹産業の活性化に全力を注ぎます。
観光産業については、全国旅行支援による需要喚起に加え、高付加価値化の推進、国立公園なども活用した観光地の魅力向上に取り組み、外国人旅行者の国内需要五兆円、国内旅行需要二十兆円という目標の早期達成を目指します。
農林水産業については、肥料、飼料、主要穀物の国産化推進など、食料安全保障の強化を図りつつ、夢を持って働ける、稼げる産業とすることを目指します。
農林水産品の輸出については、二〇二五年二兆円目標の前倒し達成を目指し、更なる輸出拡大支援を進めます。
地方経済の基盤である高速道路網について、老朽化対策と、四車線化などの進化、改良の取組を着実に実施するための制度整備を行います。また、地域公共交通のリデザインに向け、国の支援を拡充します。
さらには、地方への企業立地支援や海外からの人材、資金の呼び込み、官民連携によるスタジアム、アリーナ、文教施設の整備、地方議会活性化のための法改正にも取り組みます。
地方創生に向けた全ての基盤となる取組が、デジタルの力で地域の社会課題を解決し、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を実現するデジタル田園都市国家構想です。
光ファイバー、5G等のデジタルインフラ整備を着実に進めつつ、今後、全国津々浦々で、本格的なデジタル実装を進めます。
まずは、スマート農業、ドローンによる配送、遠隔見守りサービスなどを組み合わせたプロジェクトを日本の中山間地域百五十か所で実現いたします。
また、今年四月には、レベル4、完全自動運転を可能にする新たな制度が動き始めます。二〇二五年を目途に、全都道府県で自動運転の社会実験の実施を目指します。
全国津々浦々、全ての方々が輝ける日本を創っていこうではありませんか。
今年、関東大震災から百年の節目を迎えます。激甚化、頻発化する災害への対応も、先送りできない重要な課題です。
五か年加速化対策の着実な推進に加え、中長期的、継続的、安定的に防災・減災、国土強靱化を進めるため、新たな国土強靱化基本計画を策定します。
機動的に自治体を支援するなど、大雪や鳥インフルエンザなどの対応に万全を期します。
台風や豪雨などに対応するための予報高度化、猛暑から人命を守るための熱中症対策の強化、さらには、北海道知床の遊覧船事故を受けた、旅客船の安全性確保のための法案を提出し、災害や事故への対応力を強化します。
政権の最重要課題である福島の復興も、地元の皆さんと共に、取組を更に前に進めます。
昨年、長期にわたり帰還が困難であるとされた区域で初めて、住民の帰還が実現しました。
引き続き、残る復興再生拠点の避難指示解除を目指すとともに、拠点区域外についても、意向のある方が帰還できるよう取組を具体化していきます。
あわせて、映画など文化芸術を通じた街づくり、廃炉、ALPS処理水対策や福島国際研究教育機構の整備を政府一丸となって推進し、責任をもって福島の復興再生に取り組みます。
新型コロナの感染拡大から約三年。国民の皆さん、そして、現場で働く医師、看護師、介護職員などエッセンシャルワーカーの皆さんの協力をいただきながら、感染の波を乗り越え、ウィズコロナへの移行を進めてきました。
足下の感染状況については、感染防止対策や医療体制の確保に努め、いわゆる第八波を乗り越えるべく、全力を尽くしてまいります。
そして、原則、この春に、新型コロナを新型インフルエンザ等から外し、五類感染症とする方向で議論を進めます。これに伴う医療体制、公費支援など様々な政策措置の対応について、段階的な移行の検討、調整を進めます。
マスクの着用についても、五類感染症への見直しと併せて、考え方を整理していきたいと思いますが、まずは、今一度、原則、外ではマスク不要といった現在の取扱いについて、周知徹底を図ります。
GDPや企業業績は既に新型コロナ前の水準を回復し、有効求人倍率もコロナ前の水準を回復しつつあります。家庭、学校、職場、地域、あらゆる場面で、日常を取り戻すことができるよう、着実に歩みを進めてまいります。
そして、今後の感染症危機に適切に対応するため、内閣感染症危機管理統括庁や、いわゆる日本版CDC設置に関する法案を今国会に提出します。
歴史の分岐点を迎える中、普遍的価値に立脚しつつ、国益を守り抜くため、積極的かつ力強く、新時代リアリズム外交を展開していきます。
我が国は、今年、G7議長国及び国連安保理非常任理事国を務めます。その立場を活かし、世界の平和と繁栄に向けた取組を主導します。
ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙が継続し、また、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく複雑な状況にあります。
力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない。広島サミットの機会に、こうした原則を擁護する、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとの強い意志を改めて世界に発信します。
そして、世界が直面する諸課題に国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウスに対する関与を強化していきます。そのために、エネルギー、食料危機や下振れリスクに直面する世界経済についても、一致結束した対応を行ってまいります。また、対露制裁、対ウクライナ支援を引き続き強力に推し進めます。
被爆地広島で開かれるサミットの機会を捉え、核兵器のない世界に向け、国際的な取組を主導します。ヒロシマ・アクション・プランを始め、これまでの取組の上に立って、国際賢人会議の叡智も得ながら、現実的かつ実践的な取組を進めていきます。
他にも、地域情勢、経済安全保障、人権、気候変動、保健、開発といった課題にも広く対応していく必要があります。山積する諸懸案への対応に、我が国が主導的役割を果たしてまいります。
加えて、安保理改革を含む国連の機能強化にも取り組みます。
戦後日本が積み重ねてきた信頼関係に基づく二国間関係の強化も引き続き進めます。
我が国外交の基軸は、日米関係です。先日の日米共同声明に基づき、引き続き、日米同盟の抑止力、対処力を一層強化し、地域の平和と安定及び国際社会の繁栄に貢献していきます。また、経済版2プラス2を含む様々なチャネルを通じ、サプライチェーンの強靱化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携にも取り組みます。
日米同盟の強化と合わせて、基地負担軽減にも引き続き取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、強い沖縄経済を作ります。
日米豪印等も活用しつつ、また、アジア、欧州、大洋州を始めとするパートナー国との連携を深め、自由で開かれたインド太平洋を推進するための協力を一層強化します。そして、G7議長国として達成した成果を、インドが議長国を務めるG20に引き継ぎ、友好協力五十周年を迎えるASEANとの特別首脳会議に繋げ、アジアから世界に向け発信してまいります。また、CPTPPの着実な実施と高いレベルを維持しながらの拡大や、IPEF、DFFT等の取組において具体的な成果を目指します。
地域の平和と安定も引き続き重要です。中国に対しては、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを含め、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めてまいります。そして、本年が日中平和友好条約四十五周年であることも念頭に置きつつ、諸懸案を含め、首脳間を始めとする対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、建設的かつ安定的な関係を日中双方の努力で構築していきます。
国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国である韓国とは、国交正常化以来の友好協力関係に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させていくため、緊密に意志疎通をしていきます。
日露関係は、ロシアによるウクライナ侵略により厳しい状況にありますが、我が国としては、引き続き、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。
北朝鮮による前例のない頻度と態様での弾道ミサイル発射は断じて容認できません。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。中でも、最重要課題である拉致問題は深刻な人道問題であり、その解決は一刻の猶予も許されません。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で果断に取り組みます。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。
そのような多国間、二国間外交の最も重要なツールの一つが開発協力です。今後十年間の方向性を示す開発協力大綱を、人間の安全保障の理念を踏まえ、SDGsの達成に向けた議論をリードするようなものとすべく、今年前半を目途に改定します。
憲法改正もまた、先送りできない課題です。先の臨時国会では、与野党の枠を超え、活発な議論をいただきました。
この国会において、制定以来初めてとなる憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待いたします。
昨年は、旧統一教会との関係、政治と金など、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民の皆さんから厳しい声をいただいたことを重く受け止めております。
信なくば立たず。信頼こそが政治の一番大切な基盤であると考えてきた一人の政治家として、ざんきに堪えません。今後、こうしたことが再び起こらないよう、様々な改革にも取り組んでまいります。
旧統一教会の問題については、被害者の実効的な救済と再発防止に向け、昨年の臨時国会で成立した新法等の着実な運用、そして実態把握と相談体制の充実に努めます。
総理就任以来、私は、全国各地を訪問し、多くの皆さんと直接話をしてきました。新潟で物づくりの技術を身に着けようと一生懸命学ばれている学生の皆さん、鹿児島で子育てをしながら和牛生産に取り組んでおられるお母さん、渋谷の子育て支援施設で育児に取り組まれていたお父さん。こうした日本全国の皆さんが輝ける、未来に希望を持てる、そんな日本を創っていきたいと思います。
この日本という国を次の世代に引き継いでいくために、これからも、私に課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くします。共に、一歩一歩、前に進んでいこうではありませんか。
引き続き、国民の皆さんの御理解と御協力をお願いいたします。
御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)