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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 改稅約書(改税約書)

[場所] 江戸
[年月日] 1866年6月25日
[出典] 舊條約彙纂,第一卷第一部,外務省條約局,45‐57頁.
[備考] 慶應二年五月十三日
[全文]

慶應二年五月十三日(西曆千八百六十六年六月廿五日)英佛米蘭四公使ト於江戶各國文ヲ以テ五通ニ認メ各通ニ連名調印(日、佛、英、蘭文)

日本安政五戊午(西洋千八百五十八年)日本政府と大貌利太泥亞、佛蘭西、亞米利加合衆國、荷蘭、四箇國と取結ひ條約に添たる交易規則第七則に定め置し通り其輸入輸出の運上目錄を改むへき旨右四箇國の名代人夫々の政府より一樣の命令を受け且又日本慶應元年乙丑十月(西洋千八百六十五年第十一月)四箇國の名代人大坂に赴きし折日本政府より輸入輸出の諸品都て價五分の運上を基本とし右運上目錄を猶豫なく改むへき趣を約束し將日本政府は外國との交易を盛んにし和親の交際益篤からん事を欲するの證を更に顯はさんか爲め日本外國事務老中水野和泉守殿大貌利太泥亞の名代人シル、ハルリー、エス、パークス佛蘭西の名代人モツシュル、レオンロセス亞米利加合衆國の名代人エ、ル、シ、ポルトメン、エスクワイル荷蘭の名代人モツシュユル、ド、デ、ガラーフ、ファン、ポルスブルツク合議の上左の十二條を決定せり

 第一條

各政府の名代として此度約書を議定せし全權は此約書に添たる運上目錄を採用し各政府の臣民皆堅く之を遵奉すへき事とせり

其運上目錄は日本と右四箇國と取結たる條約に添たる元の運上目錄に代るのみならす又日本政府と大貌利太泥亞、佛蘭西、亞米利加合衆國政府、と是迄度々取結たる右運上目錄に關係せる別約にも代れるものとす右新運上目錄取行ふ事神奈川に於ては日本慶應二年丙寅五月十九日(西洋千八百六十六年第七月一日)より長崎箱館に於ては同六月廿一日(第八月一日)よりとす

 第二條

此度の約書に添たる運上目錄は調印の日より日本と右四箇國と取結たる條約の內に倂せたれは日本來壬申年中(西洋千八百七十二年第七月一日)に至り改むへしと雖も茶生絲*1*運上の分は此度の約書調印より二箇年の後雙方の內何れの方よりなりとも六箇月前に告知し前三箇年中平均相場の五分に基き之を改る事を求むへし又材木の運上は此度の約書調印より六箇月後に告知して時相場に從ひ運上を納る事を改めて品物に從ひ運上高を定むる事を得へし

 第三條

元條約に添たる交易規則の第六則に從ひ是迄取立來れる免狀料は此度より相廢せり尤荷物陸揚船積に付ての免狀は是迄通りたるへしと雖も以後は其謝銀を出す事なかるへし

 第四條

神奈川於て日本慶應二年丙寅五月十九日(西洋千八百六十六年第七月一日)長崎箱館於て日本慶應二年丙寅八月二十三日(西洋千八百六十六年第十月一日)より日本政府輸入する者の求に應し運上を納る事なく其輸入品を藏に入置用意を爲すへし日本政府にて其品を預り置間は盗難並風雨の損害なき樣引受へし尤火難は政府にては引受すと雖も外國商人共右荷物火難の受合十分出來すへき樣堅固の土藏を取建へし就ては荷物を輸入する人又は荷主之を藏より引取んとする時は運上目錄通りの運上を拂ふへし其品物を再ひ輸出せんと欲する時は輸入運上を納むるに及はす荷物を引取る節は何れにも藏敷を拂ふへし右藏敷高並貸藏取扱向規則は雙方相談の上議定すへし

 第五條

日本の產物は運送の陸路水路修復の爲諸商賣に付て取立る通例の運上の外は別に運送運上を納むる事なく日本の內何れの地よりも外國交易の爲開きたる各港へ運送する事勝手たるへし

 第六條

日本と外國との條約中に外國貨幣は日本貨幣と同種同量の割合を以て通用すへしと取極たる箇條に從ひ是迄日本運上所にて墨是哥ドルラルを以て運上を納むる時は壹分銀の量目に比較しドルラル百枚を一分銀三百十一个の割合を以て請取來れり然る處日本政府に於て右仕來を改め總て外國の貨幣日本の貨幣と引替る事に障りなき樣にし又日本通用の貨幣を不足なき樣にし交易を便利にせん事を欲するにより日本金銀吹立所を盛大にせん事を旣に決せり然る上は日本人又は外國人より差出すへき總て外國金銀貨幣並地金は日本貨幣に吹替へ其諸雜費を差引其質の眞位を以て其爲め定めたる場所に於て引替んとす此處置を行ふ爲め日本と條約を取締ひし各國は其條約に書載たる貨幣通用に關係せる箇條を改むる事緊要なれは右箇條を改むる樣日本政府*2*より申談し承諾の上日本來丁卯年十一月中(西洋千八百六十八年第一月一日)より其處置を取行へし

吹替の雜費として取立へき高の割合は向後雙方の全權協議の上定むへし

 第七條

運上所諸取扱向荷物の陸揚船積及ひ船人足小遣等雇方に付開港場に於て是迄訴出たる不都合を除かんか爲に各開港場の奉行速に外國のコンシュルと談判に及ひ雙方協議の上右の不都合決して無之樣規則を立て交易の道並各人の所務を可成丈容易くし且安全ならしむる樣雙方爰に議定せり

右規則の內には各港に於て外國人荷物陸揚船積の爲に用ふる波戶場の內にて荷物雨露に損せさる樣小屋掛を作ることを書入へし

 第八條

日本人身分に抅はらす日本開港場又は海外に於て旅客又は荷物を送るへき各種の帆前船蒸氣船共買入る〃事勝手たるへし尤軍艦は日本政府の免許なけれは買入るる事を得す

日本人買入たる諸外國船は蒸氣船は一噸に付一分銀三箇帆前船は一噸に付一分銀一箇の運上を定通り相納る時は日本の船として船藉に書載すへし尤其船の噸數を定むる爲め日本長官の需に應し其筯のコンシュルより本國の船目錄の寫を相示し其眞を證すへし

 第九條

日本と右四箇國と取結ひたる條約且日本政府の使節日本文久二年壬戍五月九日(西洋千八百六十二年第六月六日)大貌利太泥亞政府へ送れる覺書及ひ同𨳝八月十三日(第十月六日)佛蘭西政府へ送れる覺書に載せたる別約に從ひ日本人と外國人と交易又は交通する事の妨を全く除くへき趣を以て日本政府より旣に觸書を逹したり就ては日本の諸商人政府役人の立合なく相對に日本の開港場及ひ此約書中第十條に載せたる仕方にて海外へ出る許しを得れは各外國に於ても外國商人と交易する事勝手たるへく尤日本商人通例商賣に付て取立る運上より餘分は日本政府へ收むる事なし且諸大名並に其使用する人々現在取締の規則を守り定通の運上を納る時は日本役人の立合なく諸外國又は日本の諸開港場に赴き其場所にて交易する事右同樣勝手次第たるへし

 第十條

日本人身分に抅はらす日本の開港場又は各外國の港々より日本の開港場又は各外國の港々に赴くへき日本人所持の船又は條約濟外國船にて荷物を積入るゝ事勝手たるへし且旣に日本慶應二年丙寅四月九日(西洋千八百六十六年第五月廿三日)日本政府より觸書を以て布告せし如く其筋より政府の印章を得れは修行又は商賣する爲め各外國に赴く事並に日本と親睦*3*なる各外國の船中に於て諸般の職事を勤むること故障なし外國人雇置く日本人海外へ出る時は開港場の奉行へ願出政府の印章を得る事妨けなし

 第十一條

日本政府は外國交易の爲め開きたる各港最寄船々の出入安全のため燈明臺浮木瀨印木等を備ふへし

 第十二條

此約書取行ふ以前雙方政府許允の沙汰を待に及はさる故日本慶應二年丙寅五月十九日(西洋千八百六十六年第七月一日)より取行ふへし

右約書を政府許允の上は雙方全權其段互に通逹すべし右通逹の書面は雙方

君主保證*4*の代りとす

此證據として前文全權此約書に名を記し調印せり

日本慶應二年丙寅五月十三日(西洋千八百六十六年第六月廿五日)江戶に於て雙方全權各其國語を以てこれを記せり

  水野和泉守 花押

 佛國全權公使

  レオン、ロセス 印

 英國特派全權公使

  ハリー、エス、パークス 印

 合衆國代理公使

  ヱ、エル、シ、ポルトマン 印

 蘭國目代兼

  コンシュルゼネラール

   ドデグラーフ、ファン、ポルスブルック 印

*1* (一) 茶生糸增稅ノ約明治二年四月廿一日千八百六十九年六月一日英佛米伊獨公使ト取結ヒ施行日限ハ追テ逹スヘクト迄ニテ實施セス

*2* (二) 横文ニハ「日本政府ヨリ」ノ下ニ「條約濟各國ヘ」ノ語アリ

*3* (三) 「親睦ナル」ハ「條約濟」ノ意義也

*4* (四) 「保證」トハ「批准交換」ノコトヲ云フ