[文書名] 大日本國大淸國修好條規(日清修好条規)
明治四年七月二十九日天津ニ於テ調印(日、支文)
明治六年三月九日批准
大日本國と
大淸國は古來友誼敦厚なるを以て今般一同舊好を修め益邦交を固くせんと欲し
大日本國
欽差全權大臣從二位
大藏卿伊逹
大淸國
欽差全權大臣
辨理通商事務 太子太
保協辨大學士兵部尙書
直隷總督部堂一等肅毅
伯李
各奉したる
上諭の旨に遵ひ公同會議して修好條規を定め以て雙方信守し久遠替らさる事を期す其議定せし各條左の如し
第一條
此後
大日本國と
大淸國は彌和誼を敦くし天地と共に窮まり無るへし又兩國に屬したる邦土も各禮を以て相待ち聊侵越する事なく永久安全を得せしむへし
第二條
兩國好を通せし上は必す相關切す若し他國より不公及ひ輕藐する事有る時其知らせを爲さは何れも互に相助け或は中に入り程克く取扱ひ友誼を敦くすへし
第三條
兩國の政事禁令各異なれは其政事は己國自主の權に任すへし彼此に於て何れも代謀干預して禁したる事を取り行はんと請ひ願ふ事を得す其禁令は互に相助け各其商民に諭し土人を誘惑し聊違犯有るを許さす
第四條
兩國秉權大臣を差出し其眷屬隨員を召具して京師に在留し或は長く居留し或は時々往來し內地各處を通行する事を得へし其入費は何れも自分より拂ふへし其地面家宅を賃借して大臣等の公館と爲し並に行李の往來及ひ飛脚を仕立書狀を送る等の事は何れも不都合なき樣世話いたすへし
第五條
兩國の官位何れも定品有りと雖も職を授る事各同からす因て彼此の職掌相當する者は應接及ひ文通とも均く對待の禮を用ふ職卑き者と上官と相見るには客禮を行ひ公務を辨するに付ては職掌相當之官へ照會して其上官へ轉申し直逹する事を得す又雙方禮式の出會には各官位の名帖を用ふ凡兩國より差出したる官員初て任所に到着せは印證ある書付を出し見せ假冐なき樣の防きをなすへし
第六條
此後兩國往復する公文大淸は漢文を用ひ大日本は日本文を用ひ漢譯文を副ふへし或は只漢文のみを用ひ其便に從ふ
第七條
兩國好みを通せし上は海岸の各港に於て彼此共に場所を指定め商民の往來貿易を許すへし猶別に通商章程を立て兩國の商民に永遠遵守せしむへし
第八條
兩國の開港場には彼此何れも理事官を差置き自國商民の取締をなすへし凡家財產業公事訟訴に干係せし事件は都て其裁判に歸し何れも自國の律例を按して糺辨すへし兩國商民相互の訴訟には何れも願書體を用ふ理事官は先つ理解を加へ成丈訴訟に及はさる樣にすへし其儀能はさる時は地方官に掛合ひ雙方出會し公平に裁斷すへし尤盜賊欠落等の事件は兩國の地方官より召捕り吟味取上け方致す而已にして官より償ふ事はなさゝるへし
第九條
兩國の開港場に若し未た理事官を置さる時は其人民貿易何れも地方官より取締り世話すへし若し罪科を犯さは本人を捕て吟味を遂け其事情を最寄開港場の理事官へ掛合ひ律を照して裁斷すへし
第十條
兩國の官吏商人は諸開港場に於て何れも其地の民人を雇ひ雜役手代等に用ふる事勝手に爲へし尤其雇主より時々取締を爲し事に寄せ人を欺く事なからしめ別して其私言を偏聽して事を生せしむへからす若犯罪の者有らは其地方官より召捕り糺辨するに任せ雇主より庇ふ事を得す
第十一條
兩國の商民諸開港場にて彼此往來するに付ては互に友愛すへし刀劍類を携帶する事を得す違ふ者は罰を行ひ刀劍は官に取上くへし又何れも其本分を守り永住暫居の差別無く必す自國理事官の支配に從ふへし衣冠を替へ改め其地の人別に入り官途に就き紛はしき儀有る事を許さす
第十二條
此國の人民此國の法度を犯せし事有て彼國の役所商船會社等の內に隱れ忍ひ或は彼國各處に遁け潛み居る者を此國の官より査明して掛合越さは彼國の官にて早速召捕へ見遁す事を得す囚人を引送る時は途中衣食を與へ凌虐すへからす
第十三條
兩國の人民若し開港場に於て兇徒を語合盜賊惡事を爲し或は內地に潛み入り火を付け人を殺し劫奪を爲す者有らは各港にては地方官より嚴く捕へ直に其次第を理事官へ知らすへし若し兇器を用て手向ひせは何れに於ても挌殺して論無かるへし倂し之を殺せし事情は理事官と出會して一同に査驗すへし若し其事內地に發りて理事官自ら赴き査驗する事屆きかねる時は其地方官より實在の情由を理事官に照會して査照せしむへし尤縛して取りたる罪人は各港にては地方官と理事官と會合して吟味し內地にては地方官一手にて吟味し其事情を理事官に照會して査照せしむへし若し此國の人民彼國に在て一揆徒黨を企て十人以上の數に及ひ並に彼國人民を誘結通謀し害を地方に作すの事有らは彼國の官より早速査拏し各港にては理事官に掛合ひ會審し內地にては地方官より理事官に照會して査照せしめ何れも事を犯せし地方に於て法を正すへし
第十四條
兩國の兵船開港場に往來する事は自國の商民を保護する爲めなれは都て未開港場及び內地の河湖支港へ乘入る事を許さす違ふ者は引留て罰を行ふへし尤風に遇ひ難を避るために乘入りたる者は此例に在らす
第十五條
此後兩國若し別國と兵を用ゆる事有るに付防禦致すへき各港に於て布吿をなさは暫く貿易並に船隻の出入を差止め誤て傷損を受けさらしむへし又平時に於て大日本人は大淸の開港場及ひ最寄の海上大淸人は大日本の開港場及ひ最寄の海上にて何れも不和の國と互に爭鬪搶劫する事を許さす
第十六條
兩國の理事官は何れも貿易を爲す事を得す亦條約無き國の理事官を兼勤する事を許さす若し事務の計ひ方衆人の心に協はさる實據有らは彼此何れも書面を以て秉權大臣に掛合ひ査明して引取らしむへし一人事を破るに因て兩國の友誼を損傷するに至らしめす
第十七條
兩國の船印は各定式あり萬一彼國の船此國の船印を假冐して私に不法の事を爲さは其船並に荷物とも取上くへし若し其船印官員より渡したる者ならは其筋に申立官を罷めしむへし又兩國の書籍は彼此誦習はんと願はゝ互に賣買する事を許すへし
第十八條
兩國議定せし條規は何れも預め防範を爲し們嫌𨻶を生するを免れしめ以て講信修好の道を盡す所なり是に因て兩國
欽差全權大臣證據の爲め先つ花押調印をなし置き兩國
御筆の批准相濟み互に取替はせし後に卽ち版刻して各處に通行し彼此の官民に普く遵守せしめ永く以て好みを爲すへし
明治四年辛未七月廿九日
同治十年辛未七月廿九日