[文書名] 黒田辨理大臣に附與の訓條・內諭(黒田弁理大臣に附与の訓条・内諭)
明治八年十二月
訓條
特命全權辨理大臣 黒田淸隆
一我カ政府ハ專ラ朝鮮國ト舊交ヲ續キ和親ヲ敦クセン事ヲ望ヲ以テ主旨トセルカ爲ニ朝鮮ノ我カ書ヲ斥ケ我理事官ヲ接セサルニ關ラズ仍ホ平和ヲ以テ良好ナル結局ヲ得ン事ヲ期シタルニ何ソ料ン俄カニ雲揚艦砲撃ノ事アルニ逢ヘリ右ノ暴害ハ當時相當ナル防戰ヲ爲シタリト云ヘトモ然レトモ我カ國旗ノ受タル汚辱ハ應ニ相當ナル賠償ヲ求ムヘシ
一然レトモ朝鮮政府ハ未タ顯ハニ相絕ツノ言ヲ吐カス而シテ我カ人民ノ釜山ニ至ル者ヲ待遇スル事舊時ニ異ナル事ナシ又其砲撃ハ果シテ彼ノ政府ノ命若クハ意ニ出タル歟或ハ地方官辨ノ擅興ニ出タル歟モ未タ知ルヘカラサルヲ以テ我カ政府ハ敢テ親交全ク絕ヘタリト看做サス
一故ニ我主意ノ注ク所ハ交ヲ續クニ在ルヲ以テ今全權使節タル者ハ和約ヲ結フ事ヲ主トシ彼能我カ和交ヲ修メ貿易ヲ廣ムルノ求ニ順フトキハ卽此ヲ以テ雲揚艦ノ賠償ト看做シ承諾スル事使臣ノ委任ニ在リ
一右兩個ノ成効ハ必ス相連貫シテ結局スヘシ而シテ鈴印ハ兩案同時ニ於テスト云トモ和約條款ノ文案ヲ求メテ叶議ニ至ル事ハ必ス雲揚艦ノ事結案承諾ノ前ニ在ルヘシ
一雲揚艦ノ砲撃ハ果シテ朝鮮政府ノ意若クハ命ニ出タル歟我要求ハ尤モ大ニシテ且急ナルヘシ或ハ其地方官辨ノ擅興ニ出タル歟朝鮮政府亦其責ニ任セサル事ヲ得サルヘシ
一雲揚艦ノ事ニ付若シ朝鮮政府其責ニ任シ我レト舊交ヲ續クノ誠意ヲ表セズ却テ再ヒ暴擧ヲ行ヒ我政府ノ榮威ヲ汚サントスルニ至テハ臨機ノ處分ニ出ル事使臣ノ委任ニアリ要スルニ朝鮮人慣用スル所ノ依違遷延ノ手段ノ爲ニ悞ラルヽ事勿レ
一和交果シテ成ルニ至テハ徳川氏ノ舊例ニ拘ル事無ク更ニ一歩ヲ進メ左ノ條件ヲ完結スヘシ
一我日本國ト朝鮮國ト永久ノ親睦ヲ盟約シ彼我對當ノ禮ヲ以テ交接スヘシ
一兩國臣民ハ兩政府ノ定メタル場所ニ於テ貿易スル事ヲ得ヘシ
一朝鮮國政府ハ釜山ニ於テ彼我人民自由ニ商業ヲ營マシムヘシ且江華府又ハ都府近方ニ於テ運輸便宜ノ場所ヲ撰ヒ日本臣民居住貿易ノ地ト爲スヘシ
一都府ト釜山又ハ他ノ日本臣民貿易場トノ間ニ日本人往來ノ自由ヲ許シ朝鮮政府相當ノ扶助ヲ加フヘシ
一日本軍艦又ハ商賣船ヲ以テ朝鮮海何レノ所ニテモ航海測量スル事ヲ得ヘシ
一彼我ノ漂民ヲ扶助護還スルノ方法ヲ設クヘシ
一彼我ノ親睦ヲ保存スル爲ニ兩國ノ都府ニ互ニ使臣ヲ在留セシメ其使臣ハ禮曹判書ト對等ノ禮ヲ執ルヘシ
一彼我人民ノ紛爭ヲ防ク爲ニ貿易ノ地ニ領事官ヲ置キ貿易ノ臣民ヲ管理ス
以上諸款ノ內時宜ニ應シ卽今必要ナラサル件ヲ省略スル事ヲ得ヘシ
明治八年十二月
太政大臣 三條實美(黒田辨理大臣使鮮始末)
內諭
特命全權辨理大臣 黒田淸隆
一朝鮮人我カ求望ニ應スルノ接待ヲ爲ス事ヲ除クノ外ハ左ノ三ツノ所作ニ出ルニ過キザルヘシ
第一 使節ニ對シ凌辱ヲ加へ或ハ使節ヲ認メズシテ暴擧ヲ行フ
第二 使節ヲ接セス又暴擧ヲ行ハズ書ヲ投ズレトモ答ヘス
第三 新約ヲ求メハ支那ノ命ヲ受ケサレハ答へ難シト云ニ托シ又ハ他ノ辭柄ヲ設ケ巧ミニ遷延ノ計ヲ爲ス
一右第一ノ所爲ニ出ルトキハ相當ノ防禦ヲナシ一旦對馬マテ引揚ケ速ニ使船ヲ以テ實地ノ情狀ヲ奏報シ再命ヲ待ツヘシ第二ノ所爲ニ出ル時ハ我ノ隣誼ヲ重ンシ和平ヲ主トスルノ好意ヲ認メサルノ罪ヲ責メ我政府別ニ處分アルベシトノ旨趣ヲ以テ彼ニ一書ヲ投シ速ニ其旨ヲ奏報シ後命ヲ待ツヘシ第三ノ場合ニ於テハ左ノ旨趣ヲ以テ詰責スヘシ
一兩國ノ舊交ハ未タ曾テ支那ノ仲介ニ由ラズ
一昨年東莢府使朴ヨリ森山ニ向テ外務卿ノ書ヲ接スベキノ約ヲ爲シタルハ支那ノ許可ヲ經タルカ今年又前約ヲ違ヘタルモ支那ノ許可ヲ經タル歟江華島ノ事ハ亦支那ノ許可ヲ經タルカ以上諸件已ニ支那ノ意ニ出ルニ非ルトキハ江華暴擧ノ辨償ト將來ノ新約トハ俄カニ支那ニ經由スルノ理ナシ我カ日本ハ必ス直チニ之ヲ朝鮮政府ニ向テ要求スヘシ
一若シ朝鮮政府ハ必ス支那ニ問テ後ニ我カ求メニ應セントナラハ其往復ノ時間ハ我カ兵隊ヲ京城ニ屯駐セシメ而シテ彼ノ餉給ヲ要シ又江華城ヲ佔有シテ公法ノ所謂强償ノ方法ヲ行フベシトノ難題ヲ發スヘシ
一以上諸件ハ豫畵スル所ト云ヘトモ實地ノ景況ニヨリテハ臨機取捨スルハ使臣ノ權內ニアルヘシ
一我カ朝鮮政府ニ求ムル所ノ件々ニ付其必要ナラサル部分ハ兩國ノ幸福ナル和好ヲ重スルカ爲ニハ臨機酌宜シテ我カ意ヲ降シ彼レノ言ヲ申フル事ヲ得ヘシト云トモ左ノ數項ハ必ス我カ初議ヲ執ルヲ要スヘシ
一釜山ノ外江華港口貿易ノ地ヲ定ム
一朝鮮海航行ノ自由
一江華事件ノ謝辭
一彼レ其說ヲ主張シ若クハ虚飾シテ到底我カ必要ナル求望ニ應セサルニ至ルトキハ縱令ヒ顯ハナル暴擧ト凌辱トヲ行ハスト雖トモ使節ハ兩國和好ノ望ミ已ニ斷へ我カ政府ハ另ニ處分アルヘシノ旨趣ヲ以テ決絕ノ一書ヲ投シ速ニ歸航シテ後命ヲ侯チ以テ使節ノ體面ヲ全フスヘシ
明治八年十二月
太政大臣 三條實美(黒田辨理大臣使鮮始末)
特命全權辨理大臣 黒田淸隆
內諭書要求三項中
一釜山ノ外江華港口貿易ノ地ヲ定ム
一朝鮮海航行ノ自由
右兩件彼國全權ト談判ノ上實地施行ノ時限緩急決定ノ權ハ使臣ヘ御委任ノ儀ト可相心得事
明治八年十二月廿八日
太政大臣 三條實美(黒田辨理大臣使鮮始末)