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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 修好通商平和條約(修好通商平和条約,李・パトノートル条約,天津条約)

[場所] 
[年月日] 1885年6月9日
[出典] 支那及び満州關係條約及公文集,外交時報社編,542-545頁
[備考] 
[全文]

修好通商平和條約

   千八百八十五年六月九日天津ニ於テ調印

   千八百八十五年十一月二十八日北京ニ於テ批准書交換

佛蘭西共和國大統領及淸國皇帝陛下ハ兩國カ同時ニ安南事件ニ干涉セルヨリ起リタル平和ヲ結了セムトスル等シキ希望ニ動カサレ且佛國及淸國間ニ存セル昔日ノ和親通商關係ヲ恢復改善セムコトヲ欲シ千八百八十四年五月十一日天津ニ於テ署名シ千八百八十五年四月十三日ノ勅令ヲ以テ批准セル假條約ヲ基礎トシ兩國民共通ノ利益ニ適應セル新條約ヲ締結スルコトニ決定セリ

之カ爲兩締約國ハ左ノ如ク其全權委員ヲ任命セリ

佛蘭西共和國大統領

 在淸國特命全權公使勳級會員南極星大勳章等 「イム、ヂユール、パトノートル」

淸國皇帝陛下

 欽差大學士太子太傅北洋通商大臣直隷總督伯爵四品 李鴻章

 副使欽差軍機大臣刑部尙書戶部國庫管理北京駐在撻靻軍左翼世襲士官敎練學校長邊疆左旗兵淸人徴員指揮官 錫欽差禮部官 鄧

右各全權ハ相互ニ全權委任狀ヲ示シ其良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ諸條ヲ締結セリ

第一條 佛蘭西國ハ淸帝國ニ隣接スル安南國ノ諸州ニ於ケル秩序ヲ恢復維持スヘキコトヲ約ス之カ爲佛蘭西國ハ公共ノ安寧ヲ危クスル掠奪隊及浮浪人ヲ分散放逐シ且再ヒ之ヲ組織スルコトヲ禁スルカ爲必要ナル處置ヲ爲スヘシ但シ佛國軍隊ハ淸國及東京間ノ國境ヲ凡テノ來襲ニ對シテ保全擔保スルモ如何ナル場合ニ於テモ決シテ之ヲ越ユルコト能ハサルモノトス

 淸國ハ又東京ノ淸國接境諸州ニ逃亡セル團體ヲ分散放逐シ且佛國保護ノ下ニ置カルル人民中ニ叛亂ヲ起サムカ爲淸國領域內ニ於テ編成セムトスル團體ヲ解散シ且淸國ニ與ヘラレタル國境安全ノ保障ヲ考量シ東京ニ其軍隊ヲ派スルコトヲ避止スヘキモノトス

 兩締約國ハ特別協約ニ依リ淸國及安南國間ニ罪人ノ引渡ヲ行フヘキ條件ヲ定ムヘシ

 淸國人タル植民若ハ昔時ノ兵士ニシテ安南國ニ於テ農工商ニ從事シテ平和ナル生活ヲナシ其行爲ノ非難スヘカラサルモノハ其身體及財產ニ對シ佛國保護民ト同一ノ保障ヲ享有スヘシ

第二條 淸國ハ佛國ノ企テタル平和ノ事業ヲ危クスヘキ何等ノ措置ヲモ爲ササルコトヲ決シ現在及將來ニ於テ佛國及安南國間ニ直接交涉シ若ハ交涉セムトスル條約、協約及協定ヲ尊重スヘキコトヲ約定ス

 淸國及安南國間ノ關係ニ關シテハ淸帝國ノ威嚴ヲ毫モ侵害セス且本條約ニ毫モ違反セサルヘキモノナルコトヲ約定ス

第三條 本條約署名以後六月ノ期間內ニ兩締約國ノ任命スル委員ハ淸國及東京間ノ國境ヲ確認スルカ爲國境地點ニ赴クヘシ該委員ハ必要ナル場所ニ境界線ヲ明瞭ナラシムヘキ境界標ヲ定置スヘシ若シ之等ノ分界標ノ設置若ハ現在ニ於ケル東京境界ノ詳細ナル更定ニ關シ該委員間ニ協定ヲ遂ケサル場合ニハ兩國共通ノ利益上之ヲ兩國政府ニ報吿スヘシ

第四條 境界確認セラレタルトキハ佛國國民若ハ佛國保護民及東京ニ居住スル外國人ニシテ淸國ニ赴カムカ爲國境ヲ越エムトスルモノハ豫メ佛國官憲ノ請求ニ依リ淸國國境官憲ヨリ交付スル旅劵ヲ具有セル後ナラサルヘカラス淸國臣民ニ對シテハ帝國國境官憲ヨリ交付スル許可證ヲ以テ足ル

 淸國臣民ニシテ陸路ニ依リ東京ヨリ淸國ニ赴カムトスルモノハ帝國官憲ノ請求ニ依リ佛國官憲ヨリ交付スル正規ノ旅劵ヲ有セサルヘカラス

第五條 輸入及輸出ノ通商ハ淸國及東京間陸路境界ニ依リ佛國商人若ハ佛國保護民竝淸國商人間ニ許容セラルヘシ但シ該通商ハ後日協定スヘキ地點ニ於テ爲スコトヲ要ス該地點ノ選擇竝數ハ兩國間通商ノ方向竝程度ニ從ヒ之ヲ定ムヘク尙淸帝國內地ニ施行セラルル諸規則ヲ斟酌スヘキモノトス如何ナル場合ニテモ之等地點ノ中二箇所ハ淸國國境上ニ之ヲ指定スヘキモノトス一ハ老開ノ上部ニ他ハ諒山ノ下部ナルコトヲ要ス佛國商人ハ外國通商ニ對スル開港場ニ於ケルト同一ノ條件及同一ノ便宜ヲ以テ該地點ニ居所ヲ定ムルコトヲ得淸國皇帝陛下ノ政府ハ該地點ニ稅關ヲ設置シ共和國政府ハ該地點領事ヲ駐在セシムルコトヲ得該領事ノ特權及職權ハ開港場ニ於ケル同級ノ官吏ト同一ナルモノトス

 他方ニ於テ淸國皇帝陛下ハ佛蘭西共和國政府トノ協定ニ依リ東京ノ主要都府ニ駐在スル領事ヲ任命スルコトヲ得

第六條 本條約附屬ノ特別規則ニ依リ東京及雲南、廣西、廣東ノ淸國諸省間ニ於テ陸路ニ依リ通商ヲ行フヘキ條件ヲ確定スヘシ該規定ハ兩締約國ノ任命スル委員本條約ノ署名後三月ノ期間內ニ之ヲ熟議決定スヘシ

 該通商ノ目的物タル商品ハ東京及雲南、廣西兩省ニ於ケル出入ニ際シ外國通商ニ關スル現行稅率以下の租稅ヲ課セラルヘキモノトス但シ低減稅率ハ東京及廣東間ニ於テ陸境ニ依リ運送セラルル商品ニ適用セス條約ニ依リテ既ニ解放セル港ニ於テハ之ヲ施行スルノ限ニ在ラス

 各種ノ武器、機關、糧食、彈藥ノ取引ハ各締約國版圖內ニ於テ發布セル法律及規定ノ定ムル所ニ依ル

 阿片ノ輸出及輸入ニ關シテハ前記通商規則中ニ定メラルヘキ特別規定ニ依リテ之ヲ定ム

 淸國及安南國間ノ‎海上通商ニ關シテハ等シク特別規制ノ定ムル所ニ依ル當分ノ間現行慣習ハ少シモ之ヲ變改スルコトヲ許サス

第七條 本條約カ佛國及淸國間ニ於テ再設セムトスル通商及善隣ノ關係ヲ一層有利ナル條件ノ下ニ發達セシメムカ爲佛蘭西共和國政府ハ東京ニ道路ヲ開設シ且鐵道敷設ヲ奬勵スヘシ

 他方ニ於テ淸國カ鐵道敷設ヲ決定スルトキハ之ヲ佛國ノ工作ニ委スヘキコトヲ約定ス襾シテ佛蘭西共和國政府ハ佛國ニ於テ必要ナル人員ヲ求ムルカ爲淸國ニ對シ一切ノ便宜ヲ供與スヘシ但シ本條項ハ之ヲ佛國ノ為ニ排他的ノ特權ヲ構成スルモノト看做スルコトヲ得ス

第八條 本條約ノ通商條項及附帶規則ハ本條約批准書交換ノ日以後滿十年ノ後之ヲ改正スルコトヲ得然レトモ期限六月以前ニ兩締約國カ改正ヲ爲サムトスル希望ヲ發表セサル場合ニハ通商條項ハ更ニ十年間其效力ヲ有シ以下之ニ準スヘキモノトス

第九條 本條約署名後直ニ佛國軍隊ハ基隆ヲ撤退シ且公海ニ於ケル檢察等ヲ止ムヘキ命令ヲ受クヘシ本條約署名後一月ノ期間內ニ佛國軍隊ハ臺灣島及澎湖列島ヨリ全ク撤退スヘシ

第十條 佛國及淸國間ニ於ケル舊條約協定及協約ノ條欵ニシテ本條約ニ依リ變更セラレサルモノハ爾後充分ノ效力ヲ有スヘシ

 本條約ハ淸國皇帝陛下ニ依リテ速ニ批准セラルヘシ襾シテ佛蘭西共和國大統領ニ依リテ批准セラレタル後批准書ノ交換ハ出來得ル限リ最短期間內ニ北京ニ於テ行ハルヘキモノトス

千八百八十五年六月九日卽光緖十一年四月二十七日天津ニ於テ本書四通ヲ作ル

     パトノートル(印)

     李鴻章(印)

     錫(印)

     鄧(印)