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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日英通商航海條約・附屬議定書(日英通商航海条約・附属議定書)

[場所] ロンドン
[年月日] 1894年7月16日
[出典] 舊條約彙纂,第一卷第二部,外務省條約局,46‐68頁.
[備考] 訳文
[全文]

明治二十七年七月十六日倫敦ニ於テ調印(英文)

同年八月二十四日批准

同年八月二十五日東京ニ於テ批准書交換

同年八月二十七日公布

(譯文)

日本國皇帝陛下及大不列顚愛蘭聯合王國兼印度國皇帝陛下ハ兩國臣民ノ交際ヲ皇張增進シ以テ幸ニ兩國間ニ存在スル所ノ厚誼ヲ維持セムコトヲ欲シ而シテ此ノ目的ヲ逹セムニハ從來兩國間ニ存在スル所ノ條約ヲ改正スルニ如カサルヲ確信シ公正ノ主義ト相互ノ利益ヲ基礎トシ其ノ改正ヲ完了スルコトニ決定シ之カ爲メニ日本國皇帝陛下ハ英國駐劄帝國特命全權公使從二位勳一等子爵靑木周藏ヲ大不列顚愛蘭聯合王國兼印度皇帝陛下ハ其ノ外務大臣ガーター勳章ノ「ナイト」、ゼー、ライト、オノレーブル、ジヨン、キムバーレー伯爵ヲ各其ノ全權委員ニ任命セリ因テ各全權委員ハ互ニ其ノ委任狀ヲ示シ其ノ良好妥當ナルヲ認メ以テ左ノ諸條ヲ協議決定セリ

 第一條

兩締盟國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖內何レノ所ニ到リ、旅行シ或ハ住居スルモ全ク隨意タルヘク而シテ其ノ身體及財產ニ對シテハ完全ナル保護ヲ享受スヘシ

該臣民ハ其ノ權利ヲ伸張シ及防護セムカ爲メ自由ニ且容易ニ裁判所ニ訴出ルコトヲ得ヘク又該裁判所ニ於テ其ノ權利ヲ伸張シ及防護スルニ付內國臣民ト同樣ニ代言人、辯護人及代人ヲ選擇シ且使用スルコトヲ得ヘク而シテ右ノ外司法取扱ニ關スル各般ノ事項ニ關シテ內國臣民ノ享有スル總テノ權利及特典ヲ享有スヘシ

住居權、旅行權及各種動產ノ所有、遺囑又ハ其ノ他ノ方法ニ因ル所ノ動產ノ相續竝ニ合法ニ得ル所ノ各種財產ヲ如何ニ處分スルコトニ關シ兩締盟國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖內ニ在リテ內國若ハ最惠國ノ臣民或ハ人民ト同樣ノ特典、自由及權利ヲ享有シ且此等ノ事項ニ關シテハ內國若ハ最惠國ノ臣民或ハ人民ニ比シテ多額ノ稅金若ハ賦課金ヲ徵收セラルヽコトナカルヘシ兩締盟國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖內ニ於テ良心ニ關シ完全ナル自由及法律、勅令及規則ニ從テ公私ノ禮拜ヲ行フノ權利、竝ニ其ノ宗敎上ノ慣習ニ從ヒ埋葬ノ爲メ設置保存セラルル所ノ適當便宜ノ地ニ自國人ヲ埋葬スルノ權利ヲ享有スヘシ

何等ノ名義ヲ以テスルモ該臣民ヲシテ內國若ハ最惠國ノ臣民或ハ人民ノ納ムル所若ハ納ムヘキ所ニ異ナルカ又ハ之ヨリ多額ノ取立金若ハ租稅ヲ納メシムルヲ得ス

 第二條

兩締盟國ノ一方ノ臣民ニシテ他ノ一方ノ版圖內ニ居住スル者ハ陸軍、海軍、護國軍、民兵等ニ論ナク總テ强迫兵役ヲ免カレ且其ノ服役ノ代リトシテ取立ル所ノ一切ノ納金ヲ免カレ又一切ノ强募公債及軍事上ノ賦歛或ハ捐資ヲ免カルヘシ

 第三條

兩締盟國ノ間ニハ相互ニ通商及航海ノ自由アルヘシ

兩締盟國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖內何レノ所ニ於テモ總テ正業ニ屬スル各種ノ生產物、製造品及貨物ノ卸賣若ハ小賣營業ニ從事スルヲ得ヘシ右營業ニ從事スルニ於テ自身ニ之ヲ爲シ、或ハ代理人ヲ以テシ、又ハ一人ニテ之ヲ爲シ、或ハ外國人若ハ內國臣民ト組合ヲ結ヒテ之ヲ爲スモ隨意タルヘク又必要ナル家屋、製造所、倉庫、店舗及附屬構造物ヲ所有シ或ハ之ヲ借受ケ又ハ使用シ、且住居及商業ノ爲メニ土地ヲ借受クルコトヲ得但シ內國臣民ト同樣其ノ國ノ法律、警察規則及稅關規則ヲ遵守スルヲ要ス

該臣民ハ他ノ一方ノ版圖內ノ各地、諸港及諸河ニシテ外國通商ノ爲メ開カレ又ハ開カルヘキ場所へ船舶及貨物ヲ以テ自由ニ到ルヲ得且通商及航海ニ闘シテハ政府、官吏、公吏、一私人或ハ會社若ハ何等施設ノ名義ヲ以テスルカ又ハ其ノ利益ノ爲メニ課セラルヽ所ノ稅金或ハ取立金ハ其ノ性質若ハ名稱ノ如何ヲ論セス內國臣民若ハ最惠國臣民或ハ人民ノ拂フ所ニ異ナルカ或ハ之ヨリ多額ノモノヲ拂フコトナク內國臣民若ハ最惠國臣民或ハ人民ト同一ノ取扱ヲ受クヘシ但シ常ニ各其ノ國ノ法律、勅令及規則ニ從フヘキモノトス

 第四條

兩締盟國ノ一方ノ臣民カ他ノ一方ノ版圖內ニ於テ住居若ハ商業ノ爲メニ供スル家宅、製造所、倉庫、店舗及之ニ屬スル總テノ附屬構造物ハ侵スヘカラス

右家宅等ヘハ猥ニ侵入捜索スヘカラス又帳簿、書類或ハ簿記帳ヲ檢査點閱スヘカラス但シ內國臣民ニ對シ法律、勅令及規則ヲ以テ制定セル條件及定式ニ據ルトキハ此ノ限リニ在ラス

 第五條

大不列顚國皇帝陛下ノ版圖內ノ生產或ハ製造ニ係ル物品ハ何レノ地ヨリ日本國皇帝陛下ノ版圖內ニ輸入シ又日本國皇帝陛下ノ版圖內ノ生產或ハ製造ニ係ル物品モ何レノ地ヨリ大不列顚國皇帝陛下ノ版圖內ニ輸入スルニモ總テ別國ノ生產或ハ製造ニ係ル同種ノ物品ニ課スル所ノ稅ニ異ナルカ或ハ之ヨリ多額ノ稅ヲ課セラルヽコトナカルヘシ又締盟國ノ一方ノ版圖內へ別國ノ生產或ハ製造ニ係ル物品ノ輸入ヲ禁止スルニ非サレハ他ノ一方ノ版圖內ノ生產或ハ製造ニ係ル同種ノ物品ヲ何レノ地ヨリ輸入スルコトヲモ禁止スルコトナカルヘシ但シ此ノ末段ノ取極ハ人畜或ハ農業ニ有用ナル植物ノ安全ヲ保護スルニ必要ナル衞生上及其ノ他ノ禁止ニハ適用スヘカラサルモノトス

 第六條

兩締盟國ノ一方ノ版圖內ヨリ他ノ一方ノ版圖內へ輸出スル一切ノ物品ヘハ他ノ各外國へ輸出スル同種物品ニ對シテ賦課シ若ハ賦課スヘキ所ニ異ナルカ或ハ之ヨリ多額ノ稅金又ハ雜費ヲ賦課スルコトナカルヘシ又兩締盟國ノ一方ノ版圖內ニ於テ他ノ各外國ニ向ヒ物品ノ輸出ヲ禁止スルニ非サレハ他ノ一方ノ版圖內へ同種ノ物品ヲ輸出スルコトヲモ禁止セサルヘシ

 第七條

兩締盟國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖內ニ在リテ總テノ內地通過稅ハ免除セラルヘク又倉入、奬勵金、便益及稅金拂戾等ノ事項ニ就テハ全ク內國臣民ト均等ノ取扱ヲ享クヘシ

 第八條

日本國皇帝陛下ノ版圖內ノ諸港へ日本國ノ船舶ヲ以テ適法ニ輸入シ若ハ輸入セラルヘキ總テノ物品ハ亦大不列顚國ノ船舶ヲ以テ同樣ニ之ヲ右諸港ニ輸入スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ日本國船舶カ右樣ノ物品ヲ輸入スルトキ課スヘキ稅金或ハ雜費ノ外何等ノ名義ヲ以テスルモ更ニ別種或ハ多額ノ稅金雜費等ヲ課セサルヘシ又大不列顚國皇帝陛下ノ版圖內ノ諸港へ大不列顚國ノ船舶ヲ以テ適法ニ輸入シ若ハ輸入セラルヘキ總テノ物品ハ亦日本國ノ船舶ヲ以テ同樣ニ之ヲ右諸港へ輸入スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ大不列顚國船舶カ右樣ノ物品ヲ輸入スルトキ課スヘキ稅金或ハ雜費ノ外何等ノ名義ヲ以テスルモ更ニ別種或ハ多額ノ稅金雜費等ヲ課セサルヘシ右相互對等ノ取扱ハ右物品ノ直ニ原產地ヨリ到ルト其ノ他ノ場所ヨリ到ルトヲ問ハス必ス之ヲ施スモノトス

輸出ニ關シテモ前項ノ場合ト同樣全ク均等ノ取扱ヲ施スヘシ故ニ締盟國ノ一方ヨリ適法ニ輸出シ若ハ輸出セラルヘキ物品ハ其ノ輸出ノ日本國船舶ニ依ルト大不列顚國船舶ニ依ルトニ拘ハラス又其ノ仕向先ノ締盟國ノ一港タルト第三國ノ一港タルトヲ問ハス締盟國ノ版圖內ニ於テハ之ニ課スルニ同一ノ輸出稅ヲ以テシ又之ニ許スニ同一ノ奬勵金竝ニ稅金拂戾ノコトヲ以テスヘシ

 第九條

政府、官吏、公吏、一私人、會社若ハ何等施設ノ名義ヲ以テスルカ又ハ其ノ利益ノ爲メニ課セラルヽ所ノ噸稅、港稅、水先案內料、燈臺稅、檢疫費其ノ他之ト同種ノ稅金ハ其ノ性質竝ニ名義ノ如何ニ拘ハラス同一ノ條件ヲ以テ同樣ノ場合ニ於テ內國船舶一般若ハ最惠國船舶ニ課スルモノニ非サレハ兩締盟國ノ一方ハ其ノ版圖內ノ港ニ於テ之ヲ他ノ一方ノ船舶ニ課セサルヘシ此ノ如キ均等ノ取扱ハ兩國ノ船舶カ何レノ地或ハ港ヨリ來リ又何レノ所ニ往クモノタリトモ相互同一タルヘキモノトス

第十條

兩締盟國ノ一方ノ版圖內ノ海港、海灣、船渠、川河或ハ其ノ他ノ碇泊所ニ於テ船舶ノ繫留又ハ貨物ノ船積、船卸ニ關スル一切ノ事項ニ就テハ內國船舶ニ許與セサル特典ハ均シク他ノ一方ノ締盟國ノ船舶ニモ許與セサルヘシ但シ本件ニ關シテモ亦兩締盟國ノ目的ハ兩國ノ船舶ニ對シ互ニ全ク均等ノ取扱ヲ施スニ在ルモノトス

 第十一條

兩締盟國ノ沿海貿易ハ本條約ニ於テ規定スルノ限ニ在ラス各其ノ法律、勅令及規則ニ從ヒ之ヲ規定スヘキモノトス然レトモ日本國皇帝陛下ノ版圖內ニ於ケル大不列顚國臣民又ハ大不列顚國皇帝陛下ノ版圖內ニ於ケル日本國臣民ハ此ノ事項ニ關シテハ各右法律、勅令及規則ヲ以テ他ノ外國臣民或ハ人民ニ許與シ若ハ許與セラルヘキ諸權利ヲ享有スヘキモノトス

大不列顚國皇帝陛下ノ版圖內ノ二箇以上ノ港へ仕向ケタル荷物ヲ外國ニ於テ積載シタル日本國船舶及日本國皇帝陛下ノ版圖內ノ二箇以上ノ港へ仕向ケタル荷物ヲ外國ニ於テ積載シタル大不列顚國船舶ハ外國貿易ヲ許サレタル仕向港ノ一ニ於テ其ノ積荷ノ一部ヲ陸揚シ而シテ其ノ最初ニ積載シタル荷物ノ剩餘ヲ陸揚スル爲メ他ノ一港若ハ數港へ進航スルコトヲ得ヘシ但シ常ニ兩國ノ法律及稅關規則ニ從フヘキモノトス

但シ日本國政府ハ本條約ノ期限間是迄ノ通リ大不列顚國船舶カ帝國ノ現開港場間ニ積荷ヲ運搬スルコトヲ許スコトヲ承諾ス尤大阪、新潟及夷港ハ此ノ限ニ在ラス

 第十二條

兩締盟國ノ一方ノ軍艦或ハ商船ニシテ暴風又ハ其ノ他ノ危難ニ遭遇シ避難ノ爲メ已ムヲ得ス他ノ一方ノ海港ニ進入スルモノハ內國船舶ノ拂フヘキ稅金ノ外何等ノ稅金ヲ拂フコトナク其ノ港ニ於テ更ニ艤裝ヲ爲シ一切ノ需用品ヲ求メ再ヒ航行スルヲ得ヘシ但シ商船ノ船長ニシテ其ノ費用ヲ支辨スル爲メ其ノ積荷ノ一部ヲ賣卸スルヲ要スル場合ニハ該船長ハ其ノ寄港地ノ規則及稅目ヲ遒守スヘキモノトス

兩締盟國ノ一方ノ軍艦或ハ商船ニシテ他ノ一方ノ沿岸ニ於テ淺瀨ニ乘上ケ或ハ難破シタルトキハ地方官ヨリ其ノ事件ノ生シタル地方ニ在ル所ノ總領事、領事、副領事又ハ代辨領事へ其ノ旨ヲ通知スヘシ但シ若其ノ地方ニ領事官ノ駐在セサルトキハ最近地方ノ總領事、領事、副領事又ハ代辨領事へ通知スヘシ

日本國皇帝陛下ノ領海ニテ難破シ若ハ海岸ニ乘上ケタル大不列顚國船舶ノ救助ニ關スル一切ノ手續ハ日本國法律、勅令及規則ニ從テ之ヲ爲スヘク又相互ノ主義ニ基キ大不列顚國皇帝陛下ノ領海ニテ難破シ若ハ海岸ニ乘上ケタル日本國船舶ニ關スル一切ノ救助ノ處分ハ大不列顚國法律、勅令及規則ニ從テ之ヲ爲スヘシ

右難破若ハ乘上ケタル船舶竝ニ其ノ器具及其ノ他一切ノ附屬品及該船舶ヨリ救上ケタル貨物竝ニ商品及右等ノ諸物件ニシテ海中ニ投棄セラレタルモノ又ハ之ヲ賣却シタルトキハ其ノ收得金竝ニ該遭難船內ニ發見セラレタル一切ノ書類ハ右船舶ノ持主或ハ代理人ヨリ要求スルトキハ之ニ引渡スヘシ右持主或ハ代理人ノ現場ニ在ラサルトキハ內國法律ニ定メタル期限內ニ當該總領事、領事、副領事或ハ代辨領事ヨリ請求アレハ之ヲ引渡スヘシ而シテ右領事官、持主或ハ代理人ハ內國船舶難破ノ場合ニ於テ拂フヘキ所ノ物品保存費竝ニ難破救助費及其ノ他ノ費用ノミヲ拂フヘキモノトス

難破船ヨリ救上ケタル貨物及商品ハ消費ノ爲メニ通關手續ヲ爲スモノニ非サレハ一切ノ關稅ヲ免除スヘシ但シ消費ノ爲メニ賣捌ク場合ニハ普通ノ關稅ヲ納ムルヲ要スルモノトス

兩締盟國ノ一方ノ臣民ニ屬スル船舶ニシテ他ノ一方ノ版圖內ニ於テ淺瀨ニ乘上ケ或ハ難破シタルトキ其ノ持主、船長若ハ他ノ持主代理人不在ノ場合ニハ當該總領事、領事、副領事若ハ代辨領事ハ其ノ自國臣民ニ必要ノ輔助ヲ與フル爲メ職權上ノ助力ヲ爲スヲ許サルヘキモノトス此ノ規定ハ持主、船長若ハ他ノ代理人現ニ其ノ場ニ在ルトキト雖モ右樣ノ輔助ヲ與フルヲ請求スル場合ニハ亦適用スヘキモノトス

 第十三條

本條約ニ於テハ日本國ノ國法ニ從ヒ日本國船舶ト見做サルヘキ一切ノ船舶ハ之ヲ日本國船舶ト見認メ又大不列顚國ノ國法ニ從ヒ大不列顚國船舶ト見做サルヘキ一切ノ船舶ハ之ヲ大不列顚國船舶ト見認ムヘシ

 第十四條

兩締盟國ノ一方ノ版圖內ニ駐在スル他ノ一方ノ總領事、領事、副領事及代辨領事ハ自國ノ脫船人ヲ取戾ス爲メ法律ノ許ス所ノ輔助ハ之ヲ地方官ヨリ受クヘキモノトス

但シ海員カ其ノ各自ノ所屬國ニ於テ脫船シタルトキハ此ノ規定ヲ適用セサルモノト知ルヘシ

 第十五條

兩締盟國ハ其ノ一方ノ通商及航海ヲ他ノ一方ニ於テ總テ最惠國ノ基礎ニ置ク主意ヲ有スルニ因リ通商及航海ニ關スル一切ノ事項ニ關シ其ノ一方ヨリ別國ノ政府、船舶、臣民或ハ人民ニ現ニ許與シ或ハ將來許與スヘキ一切ノ特典、殊遇若ハ免除ハ他ノ一方ノ政府、船舶、臣民或ハ人民ニモ卽時ニ且條件ヲ附セスシテ之ヲ許與スヘキコトヲ兩締盟國ニ於テ約定ス

 第十六條

兩締盟國ノ一方ハ他ノ一方ノ海港、都府及其ノ他ノ場所ニ總領事、領事、副領事、領事代及代辨領事ヲ置クコトヲ得ヘシ但シ領事官ノ駐在ヲ認許スルニ便宜ナラサル場所ハ此ノ限ニ在ラス

然レトモ右ノ制限ハ他ノ諸外國ニ對シ之ヲ適用スルニ非サレハ一方ノ締盟國ニ對シテ之ヲ適用スルヲ得サルモノトス

總領事、領事、副領事、領事代及代辨領事ハ一切ノ職務ヲ執行スルコトヲ得且其ノ在留國ニ於テ最惠國ノ領事官ニ現ニ許與シ或ハ將來許與セラルヘキ一切ノ特典、特權及免除ハ總テ之ヲ享有スヘキモノトス

 第十七條

兩締盟國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖內ニ於テ法律ニ定ムル所ノ手續ヲ履行スルトキハ專賣特許、商標及意匠ニ關シ內國臣民ト同一ノ保護ヲ受クヘシ

 第十八條

大不列顚國政府ハ同政府ニ關スル限ハ左ノ取極ニ同意スヘシ

日本國ニ在ル各外國人居留地ハ全ク其ノ所在ノ日本國市區ニ編入シ爾後日本國地方組織ノ一部トナルヘシ

然ル上ハ日本國當該官吏ハ之ニ關シテ其ノ地方施政上ノ責任義務ヲ悉皆負擔スヘシ又之ト同時ニ右外國人居留地ニ屬スル共有資金若ハ財產アルトキハ之ヲ右日本國宮吏へ引渡スヘキモノトス

尤前記外國人居留地*1*ヲ日本國市區ニ編入ノ場合ニハ該居留地內ニテ現ニ因テ以テ財產ヲ所持スル所ノ現在永代借地劵ハ有效ノモノト確認セラルヘシ而シテ右財產ニ對シテハ右借地劵ニ載セタル條件ノ外ハ別ニ何等ノ條件ヲモ附セサルヘシ但シ借地劵中ニ領事官トアルハ總テ日本國當該官吏ヲ以テ之ニ代ユヘキコトト知ルヘシ

外國人居留地公共ノ目的ノ爲メニ無借料ニテ旣ニ貸與シタル各地所ハ永代ニ保存セラルヘシ且該地所ニシテ最初貸與シタルトキノ目的ニ使用セラルヽ限ハ總テノ租稅及徵收金ヲ免スヘシ但シ土地收用權ニハ從フヘキモノトス

 第十九條

本條約ノ規定ハ法律ノ許ス限ハ大不列顚國皇帝陛下ノ殖民地竝ニ其ノ海外領地ニ適用スヘシ但シ左ニ列記スル所ハ此ノ限ニ在ラス

 印度

 加奈太領地

 ニユー、フワウンドランド

 喜望峰殖民地

 ナタル

 ニユー、サウス、ウエールス

 ヴヰクトリヤ

 クヰンスランド

 タスマニヤ

 南濠太利

 西濠太利

 ニユー、ジーランド

然レトモ東京駐劄大不列顚國皇帝陛下ノ代表者ヨリ本條約批准交換ノ日ヨリ二箇年內ニ本條約ノ規定ヲ前記ノ殖民地若ハ領地ノ孰レヘナリトモ適用スヘキ旨ヲ通知シタルトキハ之ヲ適用スヘキモノトス

 第二十條

本條約ハ其ノ實施ノ日ヨリ兩締盟國間ニ現存スル嘉永七年八月二十三日卽千八百五十四年十月十四日締結ノ約定慶應二年五月十三日卽千八百六十六年六月二十五日締結ノ改稅約定安政五年七月十八日卽千八百五十八年八月二十六日締結ノ修好通商條約及之ニ附屬スル一切ノ諸約定ニ代ハルヘキモノトス而シテ該條約及諸約定ハ右期日ヨリ總テ無效ニ歸シ隨テ大不列顚國カ日本帝國ニ於テ執行シタル裁判權及該權ニ屬シ又ハ其ノ一部トシテ大不列顚國臣民カ享有セシ所ノ特典、特權及免除ハ本條約實施ノ日ヨリ別ニ通知ヲナサス全然消滅ニ歸シタルモノトス而シテ此等ノ裁判管轄權ハ本條約實施後ニ於テハ日本帝國裁判所ニ於テ之ヲ執行スヘシ

 第二十一條

本條約ハ調印ノ日ヨリ少クモ五箇年ノ後迄ハ實施セラレサルモノトス而シテ日本帝國政府ニ於テ本條約ヲ實施セント欲スル旨ヲ大不列顚國政府ニ通知シタル後一箇年ヲ經ルニ非サレハ實施セラレサルモノトス尤此ノ通知ハ調印ノ日ヨリ四箇年ヲ經タル後何時ニテモ爲スコトヲ得ヘシ又本條約ハ其ノ實施ノ日ヨリ十二箇年間效力ヲ有スルモノトス

兩締盟國ノ一方ハ本條約實施ノ日ヨリ十一箇年ヲ經過シタル後ハ何時タリトモ本條約ヲ終了セント欲スル旨ヲ他ノ一方へ通知スルノ權利ヲ有スヘシ而シテ此ノ通知ヲ爲シタル後十二箇月ヲ經過シタルトキハ本條約ハ消滅ニ歸スヘキモノトス

 第二十二條

本條約ハ兩締盟國ニ於テ之ヲ批准シ其ノ批准ハ本日ヨリ六箇月以內ニ可成速ニ東京ニ於テ交換スヘシ

右證據トシテ各全權委員ハ之ニ記名調印スルモノナリ

 明治二十七年七月十六日倫敦ニ於テ本書二通ヲ作ル

  靑木周藏 印

  キムバーレー 印

*1*日、英、佛、獨條約及其他協約中ノ趣旨竝ニ意義ニ關スル紛爭ヲ仲裁裁判ニ附スルノ議定書(第一六七頁)及同議定書ニ依リ構成セラレタル國際仲裁裁判所ノ判決書(第一六八頁)參照

  同上附屬議定書

(譯文)

日本國皇帝陛下ノ政府及大不列顚愛蘭國兼印度國皇帝陛下ノ政府ハ本日調印セシ通商航海條約ノ外ニ雙方ニ關スル特別ノ事項ヲ規定スルコト兩國ノ利益上便宜ナルヲ以テ雙方ノ全權委員ハ左ノ約定ニ同意セリ

第一 本日調印シタル通商航海條約批准交換後一箇月ノ後ハ本書附屬輸入稅目ハ兩締盟國間ニ現存スル所ノ安政五年條約ノ有效ナル間ハ其ノ第二十三條ノ規定ニ準據シ又右安政五年條約ノ無效ニ歸シタル後ハ本日調印シタル條約第五條及第十五條ノ規定ニ準據シ大不列顚國皇帝陛下ノ版圖內ノ生產若ハ製造ニ係ル物品ニシテ該稅目ニ揭クルモノヲ日本國へ輸入スル場合ニ之ヲ適用スルモノトス但シ日本國政府ニ於テ純良ナラサル藥材、製藥、食物若ハ飮料、猥●{褻の坴の部分が幸/セツ}ノ印刷物、圖畫、書籍、紙牌、石版若ハ其ノ他ノ彫刻畫、寫眞及其ノ他總テ猥●{褻の坴の部分が幸/セツ}ノ物品、日本帝國ノ専賣特許、商標及版權ニ關スル法律ニ違背スル物品又ハ其ノ他衞生、公安若ハ風俗ニ關シ危害ヲ生スヘキ物品ノ輸入ヲ制限シ若ハ禁止スルノ權利ハ本議定書又ハ其ノ附屬稅目ノ爲メ制限セラルヽコトナカルヘキモノトス

 該稅目ニ定メタル從價稅ハ之ヲ實行シ得ヘシト認メラルヽ限ハ本議定書ノ日附ヨリ六箇月間ニ兩國政府間ニ締結セラルヘキ追加條約ヲ以テ從量稅ニ換算スヘシ本議定書ノ日附ヨリ前六曆月間ニ於ケル日本國稅關報吿ニ載セタル平均價格ニ仕入地、產出地若ハ製造地ヨリ陸揚港ニ至ル迄ノ保險料及運賃ヲ加算シ又手數料アルトキハ之ヲモ加算シタルモノヲ以テ右換算ノ基礎トナスヘシ若又追加條約ニシテ前記稅目ヲ實施スル爲メニ定メタル期限ヲ終ル迄ニ實施セラレサル場合ニハ其ノ間ハ前記ノ稅目ノ末尾ニ揭ケタル規定ニ從ヒ從價稅ヲ徵收スヘシ

 右稅目ニ揭ケサル物品ニ對シテハ前項ニ記載セシ期日ヨリ前項ニ記載セシ如ク各安政五年條約第二十三條及本日調印シタル條約第五條及第十五條ノ規定ニ準據シ日本國ニテ其ノ時現ニ行ハルヽ所ノ普通國定稅則ヲ適用スルモノトス

 大不列顚國臣民カ日本國ニ輸入スル貨物及商品ニ對シ現今日本國ニ於テ實施スル所ノ輸入稅目ハ前項ニ記載セシ各稅目實施ノ日ヨリ無效ニ歸スヘキモノトス

 尤此ノ外總テノコトニ付テハ現行條約ノ規定ハ本日調印シタル通商航海條約ノ實施セラルヽニ至ル迄ハ無條件ニテ保續セラルヘキモノトス

第二 日本國政府ハ大不列顚國臣民ニ對シ內國ヲ開ク迄ハ現行ノ旅劵方法ヲ擴張スルコトニ同意ス卽大不列顚國臣民カ在東京同國公使若ハ日本國開港場ニ駐在スル大不列顚國領事官ヨリノ紹介證書ヲ所持シテ出願スルニ於テハ十二箇月以內ノ期限間國內何レノ地ヘモ到ルコトヲ得ヘキ旅劵ヲ東京外務省若ハ開港場所在地方長官ヨリ交付スヘシ但シ帝國ノ內地ニ旅行スル大不列顚國臣民ニ關スル現行規定ハ之ヲ保續スヘキモノト知ルヘシ

第三 日本國政府ハ日本國ニ於ケル大不列顚國領事裁判權ノ廢止ニ先タチ工業ノ所有權及版權ノ保護ニ關スル列國同盟條約ニ加入スヘキコトヲ約ス

第四 若日本國ニ於テ何時ニテモ其ノ精糖ノ產出若ハ製造ニ對シ增稅ヲ課スルコトヲ必要ト見做ストキハ其ノ增加セシ內國稅ヲ課スル間ハ日本國へ輸入スル所ノ大不列顚國ノ精糖ニ對シ前記內國稅ト同額ニ增加スル所ノ關稅ヲ課スルコトヲ得ヘキコトヲ兩締盟國ニ於テ承諾ス

 但シ右ニ關シ大不列顚國ノ精糖ハ常ニ最惠國ノ產出若ハ製造ニ係ル精糖ト同一ノ取扱ヲ享クヘキモノトス

第五 左ニ記名スル所ノ全權委員ハ本議定書ハ本日調印シタル通商航海條約ト同時ニ兩締盟國政府ニ提供シ而シテ右條約批准セラルヽトキハ本議定書ニ揭載スル所ノ諸約定モ別ニ正式ノ批准ヲ要セスシテ亦兩締盟國政府ノ可認セシモノト看做スヘキコトヲ約ス

又本議定書ハ前記條約ノ無效ニ歸スルト同時ニ終了スヘキコトヲ約ス

右證據トシテ兩國全權委員ハ之ニ記名調印スルモノナリ

明治二十七年七月十六日倫敦ニ於テ本書二通ヲ作ル

 靑木周藏 印

 キムバーレー 印

  附屬稅目

(譯文)

 品目    從價稅率

護謨製品・・・百ニ付十

セメント・・・同  五

綿織絲類・・・同  八

綿織物類、純綿ト麻、亞麻若ハ毛絲又ハ他ノ交セモノアルトヲ問ハス但シ綿ノ重ナル・・・同  十

窻玻瓈片(尋常ノ)

 甲 無色及無著色ノ・・・同  八

 乙 有色、著色、若ハ砂磨ノ・・・同  十

帽子(氈帽トモ)・・・同  十

乾藍・・・同  十

塊鐵及塊鋼・・・同  五

道鐵及道鋼・・・同  五

條鐵、條鋼、竿鐵、竿鋼、板鐵、板鋼・・・同  七二分ノ一

葉鐵(チンドプレーツ)・・・同  十

電鍍板鐵、板鋼・・・同  十

筒鐵、筒鋼、管鐵、管鋼・・・同  十

鉛(塊、錠ノ別ナク)・・・同  五

靴底皮・・・同  十五

他ノ熟皮・・・同  十

麻織絲類・・・同  八

麻織物類・・・同  十

水銀・・・同  五

乳膏、乳粉・・・同  五

鐵釘類・・・同  十

無味香油・・・同  十

色油・・・同  十

印刷料紙・・・同  十

精糖・・・同  十

硝石・・・同  五

鐵螺旋釘及鐵牝牡螺旋類・・・同  十

絹綿繻子・・・同  十五

錫(塊、錠ノ別ナク)・・・同  五

葉錫(チンプレーツ)・・・同  十

無味香蠟・・・同  五

電線・・・同  五

鐵線、鋼線、及徑一因ノ四分一ヲ超ヘサル細竿鐵、細竿鋼・・・同  十

毛織絲類・・・同  八

毛織物類、純毛ト他ノ交セモノアルトヲ問ハス但シ毛ノ重ナル・・・同  十

其ノ他本稅目ニ揭定セサル織絲類・・・同  十

亞鉛(塊、錠ノ別ナク)・・・同  五

板亞鉛・・・同  七二分ノ一

  從價稅算定ノ規定

此ノ稅目ニ從ヒ輸入物品ニ課スヘキ從價稅ハ其ノ物品ノ仕入地、產出地、若ハ製造地ニ於ケル原價ニ其ノ仕入地、產出地、若ハ製造地ヨリ陸揚港ニ至ル迄ノ保險料、運賃ヲ加算シ又手數料アルトキハ之ヲモ加算シテ算定スヘシ

  同上附屬外交文書

法典實施ニ關スル在英帝國公使ヨリ英國外務大臣宛公文ニ就テハ之ト同趣旨ノ明治二十九年日丁通商航海條約附屬外交文書(第一卷第一部第八一二頁)參照

 殖民地ノ條約加入ニ關スル來翰(譯文)

以書簡致啓上候陳者本日調印セシ日英兩國間條約第十九條ニ關シテハ同條ニ揭記スル所ノ英國ノ或殖民地及海外領地ニ於テ前記條約第二條ニ記載シタル兵役ニ關スル規定ヲ承諾スルコト能ハサルカ爲メ現條約ニ加入シ難キ場合アルヲ料リ且將來ノ誤解ヲ防クタメ大不列顚國皇帝陛下ノ政府ハ前記英國殖民地及領地カ第二條ノ規定ニ從ハサル條件ヲ以テ現條約ニ加入スルコトヲ得ヘキコトヲ日本國政府ニ於テ保證セラレムコトヲ請求致候右得貴意候敬具

 千八百九十四年七月十六日外務省ニ於テ

   キムバーレー(手記)

  日本國特命全權公使子爵靑木周藏閣下

 同上往翰(譯文)

以書簡致啓上候陳者本日調印セシ日英兩國間條約第十九條ニ關シ大不列顚國皇帝陛下ノ政府ヨリ公文ヲ以テ該條ニ列記セル英國ノ或殖民地及ヒ海外領地ニ於テハ右公文中ニ開示セラレタル理由ニ因リ第二條ノ規定ニ從ハサル條件ニテ現條約ニ加入スルコトヲ得ルノ保證ヲ請求セラレ候義ニ對シ日本國政府ハ茲ニ希望セラレタル保證ヲ與へ候此段囘答得貴意候敬具

 明治二十七年七月十六日倫敦日本帝國公使館ニ於テ

   靑木周藏(手記)

  ゼー、ライト、ヲノレーブル、ケー、ジ、キムバーレー伯爵閣下