データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 朝鮮國に對する將來の政策に關する陸奥外相訓令(対朝鮮國に政策に關する陸奥外相訓令)

[場所] 
[年月日] 1894年8月23日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,156‐157頁.
[備考] 
[全文]

八月廿三日達

機密送第四五號

   陸奥外務大臣

 在京城

  大鳥公使

帝國政府カ朝鮮政府ニ對スル行爲ノ義ニ付テハ本月九日機密送第三十七號信ヲ以テ及訓令置候義有之候威卽今ノ形勢ニ就ヒテ言フトキハ帝國ハ已ニ淸國ト交戰中ニ有之而シテ軍略上ノ都合ヨクシテ總テノ陸兵ハ釜山ヲ以テ上陸地トナシテ縱横ニ朝鮮國內ヲ通行シ尙今後ノ戰鬪ノ進行ニ依リテハ單ニ其國ニ屯在スル淸國軍兵ヲ同國境外ニ驅逐スルニ止ラス或ハ道ヲ同國ニ假リテ直チニ淸國疆域ニ攻進スルノ已ムヲ得サルニ至ルヘキヤモ不被計實際ニ於テハ朝鮮國ハ恰モ日淸兩國ノ戰場若クハ戰場ニ達スヘキ通路ノ如キ姿ナルヲ以テ之ニ對シテ全ク平和ノ時ニ於ケルカ如キ手段ヲ執居ル事能ハサル事ハ勿論ノ義ニ有之候得共本問題ニ關シテハ帝國政府ハ已ニ歐米各國政府ニ向テ公然言明シタル所モ有之候得共其外交上及軍事上ノ行爲ニ至テハ總テ右等各國ニ向テ其責ニ任セサルヲ得サレハ外交上ニ於テモ將タ軍事上ニ於テモ著シク國際公法ノ範圍外ニ軼出スルカ如キ行動無之樣極メテ愼重ヲ加ヘサルヘカラサル義ニ有之尤今日ノ場合一方ニ於テハ朝鮮國內ニテ頻リニ戰鬪ノ設備ヲ爲シ又同國未曾有ノ改革ヲ擧行セシムル等ノ權變ヲ行ヒツツ他ノ一方ニ於テ國際公法ノ常軌ニ循守セントスル事ハ時ニ或ハ牽掣ヲ生シテ不便ヲ感スル事少カラサルヘケレトモ去迚又之カ爲メニ他强國ノ非難ヲ招キ帝國政府ヲシテ殆ト其答辭苦ムカ如キ地位ニ陷ラシメ候事ハ決而策ノ得タルモノニ無之要之今日朝鮮國ノ地位ハ我カ同盟ニシテ敵國ニ無之候得共終始同國政府及人民ノ敵意若クハ怨心ヲ引起ササル樣注意ヲ加フル事最モ肝要ニ有又第二ニハ我ハ已ニ朝鮮ヲ獨立國ト公認シ且ツ其疆土ヲ侵略スルノ意ナシト明言シタル以上ハ言行ノ一致ヲ保ツタメ其獨立國タル面目ヲ著シク毀損スルカ如キ行動及其疆土ヲ實際ニ略取シタルカ如キ形跡ハ可成之ヲ避ケ我軍隊ノ運動ノ如キモ總テ朝鮮政府ノ同意ヲ得タルカ若クハ朝鮮政府ト一體ノ運動ヲ爲スカノ實ヲ擧クル事肝要ニ有之又帝國政府ニ於テ朝鮮政府ニ向テ其政治上ノ改革ヲ勸吿スルニ付テハ單純ナル勸吿ニ止マラスシテ時宜ニ依リテハ多少强勸勉從セシムル事モ可有之又軍事事上ニ於テモ種々ノ輔助ヲ要求スル場合モ可有之候得共此等ノ勸吿要求モ時トシテハ同政府又ハ人民ニ於テ堪へ得サルノ感ヲ生スルノ恐ナシトセス無論今日ノ處ニテハ同政府モ到底我ニ倚賴セサレハ其獨立ヲ保全スル事能ハストノ観念ヲ有スルモノノ如クナレハ我カ勸吿我請求ニ對シテハ萬事勉强シテ相應シ居候ニハ相違無之候得共我要求過度ニ至テハ彼竟ニ堪得スシテ不本意ナカラモ情ヲ他歐洲各國ヨリノ駐在官ニ訴へ我勸吿要求ヲ猶豫シ若クハ延展セン事ヲ求ムルニ至ラサルヲ保セス殊ニ或國政府ノ如キニ至テハ常ニ其乘スヘキノ機會ヲ待居ルコト判然タレハ若シ一旦如此機會若クハ口實ヲ與フルトキハ必ス巧ミニ朝鮮政府ヲ籠絡シ竟ニハ日韓間ノ關係ヲ轉シテ其國ニ涉ル關係トナシ朝鮮政府ニ代ハリテ我ニ抗議ヲ試ミルニ至ル事ナキヤモ難計就而ハ此際帝國政府ニ於テハ務メテ事ヲ愼重ニシ第三國ヲシテ容易ニ容喙干涉ノ端ヲ得サラシムル樣注意ヲ加フル事肝要ニ付左記ノ三ケ條ヲ本大臣ヨリハ閣下江又當該軍衙ヨリハ其國江出張ノ陸海軍總指揮官江各訓令ヲ發スヘキ樣廟議決定相成候

 第一 苟モ朝鮮ノ獨立權ヲ侵害スルカ如キ行爲ハ軍事上不便若クハ不經濟ニ涉ル事アルトモ可成之ヲ避クヘキ事

 第二 朝鮮政府ニ對スル請求ハ時ニ已ムヲ得サル場合可有之ト雖トモ其請求ノ程度ハ朝鮮政府獨立ノ體面ニ對シ及ヒ新設政府ニ伴フ經濟上ノ關係ニ對シ堪へ得ヘキ度合ヲ限トシ竟ニ朝鮮政府ヲシテ我要求ニ堪ヘサルノ感ヲ起サシメサル樣充分注意スル事

 第三 朝鮮ハ我カ同盟ニシテ敵國ニ非サレハ同國ニ於テ軍事上及其他ニ必要物品アルトキハ成丈其滿足スヘキ代償ヲ與へ決シテ侵掠ノ形跡無之樣深ク注意スル事

前述ノ通廟議決定ノ旨ニ從ヒ此義ニ付當該軍衙ヨリモ其國出張陸海軍總指揮官江綿密ナル訓令可有之筈ニ付閣下ニモ能ク右廟算ノ在ル所ニ從ヒ萬事充分御注意御措辨相成度候右及訓令候 敬具