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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 朝鮮問題ニ關スル議定書(朝鮮問題に関する日露間議定書,山縣・ロバノフ協定)

[場所] モスクワ
[年月日] 1896年6月9日
[出典] 舊條約彙纂第一卷第二部,外務省,697‐698頁.
[備考] 訳文,「機密條款」の出典は日本外交年表竝主要文書上巻,176頁.
[全文]

明治二十九年六月九日「モスクウ」ニ於テ調印(佛文)

明治三十年二月二十六日發表

(譯文)

日本國皇帝陛下ノ特命全權大使陸軍大將山縣侯爵及露西亞國外務大臣ル、スクレテール、デター、プランス、ロバノフ、ロストウスキーハ朝鮮國ノ形勢ニ關シ其ノ意見ヲ交換シ左ノ諸條ヲ協議決定セリ

 第一條

日露兩國政府ハ朝鮮國ノ財政困難ヲ救濟スルノ目的ヲ以テ朝鮮國政府ニ向テ一切ノ冗費ヲ省キ且其ノ歲出入ノ平衡ヲ保ツコトヲ勸吿スヘシ若シ萬止ヲ得ザルモノト認メタル改革ノ結果トシテ外債ヲ仰クコト必要トナルニ到レバ兩國政府ハ其ノ合意ヲ以テ朝鮮國ニ對シ其ノ援助ヲ與フベシ

 第二條

日露兩國政府ハ朝鮮國財政上及經濟上ノ狀況ノ許ス限リハ外援ニ藉ラスシテ內國ノ秩序ヲ保ツニ足ルベキ內國人ヲ以テ組織セル軍隊及警察ヲ創設シ且ツ之ヲ維持スルコトヲ朝鮮國ニ一任スルコトヽスベシ

 第三條

朝鮮國トノ通信ヲ容易ナラシムル爲メ日本國政府ハ其ノ現ニ占有スル所ノ電信線ヲ引續キ管理スベシ

露國ハ京城ヨリ其ノ國境ニ至ル電信線ヲ架設スルノ權利ヲ留保ス

右諸電信線ハ朝鮮國政府ニ於テ之ヲ買收スベキ手段附キ次第之ヲ買收スルコトヲ得ルモノトス

 第四條

前記ノ原則ニシテ尙ホ一層精確且詳細ノ定義ヲ要スルカ又ハ後日ニ至リ商議ヲ要スベキ他ノ事項生ジタルトキハ兩國政府ノ代表者ハ友誼的ニ之ヲ妥協スルコトヲ委任セラルベシ

千八百九十六年六月九日・五月二十八日{日付は原文では横に並べて記しているものを右から表記した}「モスクウ」府ニ於テ之ヲ書ス

   山縣 手署

   ロバノフ 手署

 秘密條款

第一條 原因ノ內外タルヲ問ハズ若シ朝鮮國ノ安寧秩序亂レ若クハ將ニ亂レントスルノ危懼アリテ而シテ若シ日露兩國政府ニ於テ兩國臣民ノ安寧ヲ保護シ及電信線ヲ維持スルノ任務ヲ有スル軍隊ノ外其ノ合意ヲ以テ更ニ軍隊ヲ派遣シ內國官憲ヲ援助スルヲ必要ト認メタルトキハ兩帝國政府ハ其ノ軍隊間ニ總テノ衝突ヲ豫防スル爲メ兩國政府ノ軍隊ノ間ニ全ク占領セサル空地ヲ存スル樣各軍隊ノ用兵地域ヲ確定スヘシ

第二條 朝鮮國ニ於テ本議定書ノ公開條款第二條ニ揭クル內國人ノ軍隊ヲ組織スルニ至ル迄ハ朝鮮國ニ於テ日露兩國同數ノ軍隊ヲ置クコトノ權利ニ關シ小村氏ト「ル、コンセイヱー、デター、アクチユヱル、ド、ウエバー」氏ノ記名シタル假取極ハ其ノ效力ヲ有スヘシ朝鮮國大君主ノ護身上ニ關シ現ニ存在スル狀態モ亦特ニ此ノ任務ヲ有スル內國人ヲ以テ組織セル一隊創設セラルヽ迄ハ均シク之ヲ繼續スヘシ

千八百九十六年六月九日・五月廿八日{日付は原文では横に並べて記しているものを右から表記した}「モスクワ」府ニ於テ之ヲ書ス

   山縣 手署

   ロバノフ 手署