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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大冶鐵山產鑛石買入契約書(大冶鉄山産鉱石買入契約書)

[場所] 
[年月日] 1899年4月7日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,188‐189頁.
[備考] 
[全文]

  明治三十二年四月七日

(譯文)

現今日淸兩國交誼日ニ敦ク輔車ノ情切ニシテ凡百ノ事互ニ利ヲ以テ濟ハン事ヲ期ス石炭鐵鑛ノ如キハ殊ニ富强ノ要端トス茲ニ大日本製鐵所長官和田維四郞大淸國頭品頂戴大理寺少堂督辨湖北漢陽鐵政局盛宣懷ハ商議ノ上左ノ如キ各款ヲ擬定ス是レ全ク工ヲ通シ事ヲ易へ邦交ヲ聯絡スルノ意ニ外ナラス今雙方ノ遵守ニ便ニシテ愼重ヲ昭ニスル爲メ左ニ其條款ヲ列記ス

第一款 本契約訂結以後日本製鐵所ハ淸國湖北漢陽鐵政局所屬ノ大冶鐵鑛ヨリ礦石ヲ購入スヘシ第一年ノ購入高ハ五萬噸トス第二年以後ノ數量ハ其年三月議會ノ承認ヲ經タル上決定通知スヘシ是又少クモ五萬噸ヲ以テ度トナスヘシ

 漢陽鐵政局及ヒ盛大臣兼轄ノ招商局、織布局、紡績局モ亦日本ヨリ製鐵所ノ手ヲ經テ少クモ每年三四萬噸ノ石炭ヲ購入スヘシ但シ先ツ招商局ニ於テ從來使用セル石炭ノ見本ヲ送付シテ其撰擇ニ任セ然ル後其價格ヲ面議スヘシ且ツ招商局カ從來日本商人ト訂結セシ契約ノ振合ニ準シテ辨理スヘキモノトス周旋者ハ手數料ヲ請求スル事ヲ得ス

以上ノ方法ハ專ハラ往復共ニ貨物ヲ積載スル事ヲ得テ運賃ヲ省減シ雙方利益アルカ爲メナリトス

第二款 第一款ハ專ハラ日本製鐵所ヨリ汽船ヲ派遣シ大冶石灰窟ノ江岸ニ於テ礦石ヲ積載スル場合ヲ指スモノニテ若シ漢陽製鐵所カ自カラ運搬シ上海ニ於テ受渡ヲ爲ス時ハ日本製鐵所ハ礦石正價ノ外ニ石灰窟上海間ノ運賃トシテ二弗ヲ支拂フヘシ此場合ニハ礦石石炭相互買賣ノ例ニ拘ハルニ及ハス但シ此事ハ双方前以テ通知談合スヘキモノトス

石灰窟ニハ庫船ヲ準備シアルヲ以テ日本製鐵所ハ隨事水ノ淺深ニ應シテ汽船ヲ派遣シ該船ニ就キ礦石ヲ積込ムヘシ若シ汽船ノ吃水深クシテ庫船ニ接近碇泊スル能ハサル爲メニ生スル積荷費用ハ日本製鐵所ノ自辨タルヘシ

第三款 淸國漢陽鐵廠其他各局廠ニ於テ每年購入スル石炭及ビ或ル場合ニ於テ購入スルコーク{前3文字右横に傍線あり}ハ預シメ其噸數ヲ定メテ日本製鐵所ニ通知スヘシ又石炭ノ價格ハ近年高下一定セサルヲ以テ招商局ノ買入規定ニ照ラシ年二囘ニ分チ時價ニ照ラシテ各種ノ價格ヲ議定スヘシコーク{前3文字右横に傍線あり}ノ購否ハ臨時取極ムヘシ

第四款 日本製鐵所ニ於テ購入スル礦石ハ標準量價格共ニ別表記載スル所ニ依ル但シ日本製鐵所ヨリ派出スル大冶駐在ノ委員ト漢陽鐵廠ニ於テ聘雇スル外國技師ト立會ノ上分析試驗シタルモノヲ以テ標準ト爲ス互ニ偏見ヲ持シテ故意ニ價格ヲ變更シ公平ヲ缺ク等ノ事アルヘカラス

第五款 漢陽鐵廠ハ工ヲ通シ事ヲ易へ彼此相裨益スルノ主旨ニ基キ決シテ劣等ノ礦石ヲ賣與シテ日本製鐵所ノ需要ヲ妨クル如キ事アルヲ願ハス該鐵鑛ヨリ產出スル礦石ハ自用ノ外假令他ニ販路アルモ必ス先ツ日本製鐵所へ每年五萬噸ヲ賣與スヘキモノトス日本製鐵所ニ於テ前需用額ヲ增加スルモ差支ナシ但シ日本製鐵所ハ大冶鐵鑛ノ外淸國ニ於ケル他ノ鑛山ヨリ礦石ヲ買フ事ヲ得ス大冶鐵鑛モ亦淸國ニ於ケル外國人ノ資本ヲ有スル他ノ製鐵所へ其鑛石ヲ賣與スル事ヲ得ス

第六款 日本製鐵所ハ石灰窟及鐵山兩地ハ二三名ノ委員ヲ派遣駐在セシメ礦石買入等一切ノ事宜ヲ處辨セシム漢陽鐵廠ハ無賃ニテ相當ノ家屋ヲ給與シ且ツ相當ノ保護ヲ與フヘシ

第七款 本契約ノ期限ハ記名調印ノ日ヨリ向フ十五ケ年トス滿期ノ後双方ニ於テ契約撤鎖ノ通知ヲ爲ササル時ハ本條約ハ尙ホ十五ケ年間繼續スルモノトス

 大日本明治三十二年四月初七日

 大淸國光緖二十五年二月廿七日

  大日本製鐵所長官 和田

  大淸頭品頂戴大理寺少堂湖北漢陽鐵政局 盛