[文書名] 日露講和談判全權委員に對する訓令案(日露講和談判全権委員に対する訓令案)
明治三十八年六月三十日閣議決定
同年七月五日御裁決
今般露國トノ講和談判ニ付貴官ヲ帝國全權委員トシテ派遣相成候ニ就テハ貴官ハ左ノ趣旨ヲ服膺シ露國全權委員ト會同商議可相成候
甲 絕對的必要條件
一、韓國ヲ全然我自由處分ニ委スルコトヲ露國ニ約諾セシムルコト
二、一定ノ期限內ニ露國軍隊ヲ滿洲ヨリ撤退セシムルコト之ト同時ニ我方ニ於テモ滿洲ヨリ撤兵スルコト
三、遼東半島租借權及哈爾賓旅順間鐵道ヲ我方ニ讓與セシムルコト
右ハ戰爭ノ目的ヲ達シ帝國ノ地位ヲ永遠ニ保障スル爲メ緊要缺クヘカラサルモノナルニ付貴官ハ飽迄之カ貫徹ヲ期セラルヘシ
乙 比較的必要條件、
一、軍費ヲ賠償セシムルコト右ハ最高額ヲ 億圓{空白ママ}トシ談判ノ模樣ニ依リ其以內ニ於テ適宜ニ之ヲ定ムルコト
二、戰鬪ノ結果中立港ニ竄入セル露國艦艇ヲ交附セシムルコト
三、薩哈嗹及其附屬諸島ヲ割讓セシムルコト
四、沿海州沿岸ニ於ケル漁業權ヲ與ヘシムルコト
右ハ絕對的必要ノ條件ニアラサルモ事情ノ許ス限リ之カ貫徹ヲ努メラルヘシ
丙 附加條件
一、極東ニ於ケル露國海軍力ヲ制限スルコト
二、浦潮港ノ武備ヲ撤シ商港トナスコト
右ハ談判懸引上或ハ提出ヲ可トスルモノニシテ其取捨運用ハ一ニ貴官ノ裁量ニ任ス
帝國政府ヨリ提出スヘキ主要條件ハ前記ノ通ニ有之其他ノ細目ニ至リテハ談判ノ進行如何ニ依リ貴官ニ於テ適宜ニ御協定相成度候終ニ今回ノ談判ニ於テ如上帝國ノ目的ヲ貫徹スルコトハ素ヨリ至難ノ事ニ有之候得共帝國政府ハ深ク貴官ノ材能ニ信賴致居候ニ付貴官ニ於テモ能ク帝國政府ノ趣旨ヲ遵奉シ全力ヲ折衝ニ注キ以テ可成迅速ニ光譽アル平和ノ恢復ニ至ル樣御盡瘁相成度尙談判ノ經過ハ時々詳細ニ報吿セラルヘキハ勿論若シ不幸ニシテ談判ヲ不調ニ歸セシムル場合ニ遭遇セハ豫メ電報シ回訓ヲ俟チテ適當ノ措置ヲ執ラルヘク候
右及訓令候也