データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 國際紛爭平和的處理條約(国際紛争平和的処理条約)

[場所] 
[年月日] 1907年10月18日
[出典] 多数国間条約集(上巻),外務省条約局(昭和37年8月),443-483頁
[備考] 
[全文]

明治四〇年一〇月一八日ヘーグで署名

明治四四年一一月六日批准

明治四四年一二月一三日批准寄託

明治四五年一月一三日公布(條約第一号)

(前文省略)

  第一章

   一般平和ノ維持

    第一條

國家間ノ關係ニ於テ兵力ニ訴フルコトヲ成ルヘク豫防セムカ爲締約國ハ國際紛爭ノ平和的處理ヲ確保スルニ付其ノ全力ヲ竭サムコトヲ約定ス

  第二章

   周旋及居中調停

    第二條

締約國ハ重大ナル意見ノ衝突又ハ紛爭ヲ生シタル場合ニ於テ兵力ニ訴フルニ先チ事情ノ許ス限其ノ交親國中ノ一國又ハ數國ノ周旋又ハ居中調停ニ依賴スルコトヲ約定ス

    第三條

締約國ハ右依賴ニ關係ナク紛爭以外ニ立ツ一國又ハ數國カ事情ノ許ス限自己ノ發意ヲ以テ周旋又ハ居中調停ヲ紛爭國ニ提供スルコトヲ有益ニシテ且希望スヘキコトト認ム

紛爭以外ニ立ツ國ハ交戰中ト雖其ノ周旋又ハ居中調停ヲ提供スルノ權利ヲ有ス

紛爭國ハ右權利ノ行使ヲ友誼ニ戾レルモノト看做スコトヲ得ス

    第四條

居中調停者ノ本分ハ紛爭國ノ主張ヲ調停シ且其ノ間ニ悪感情ヲ生シタルトキ之ヲ融和スルニ在ルモノトス

    第五條

居中調停者ノ職務ハ其ノ提供シタル調停方法ノ受諾セラレサルコトヲ紛爭當事者ノ一方又ハ居中調停者ニ於テ認メタル時終止スルモノトス

    第六條

周旋及居中調停ハ紛爭國ノ依賴ニ因ルト紛爭以外ニ立ツ國ノ發意ニ出ツルトヲ問ハス全ク勸吿ノ性質ヲ有スルニ止リ決シテ拘束力ヲ有スルコトナシ

    第七條

居中調停ノ受諾ハ反對ノ約定アルニ非サレハ之カ爲動員其ノ他戰爭ノ準備ヲ中止シ遲延シ又ハ阻害スルノ結果ヲ生スルコトナシ

開戰ノ後右ノ受諾アリタルトキハ反對ノ約定アルニ非サレハ之カ爲進行中ノ軍事的行動ヲ中止スルコトナシ

    第八條

締約國ハ事情ノ許ス限左ノ手續ニ依ル特別居中調停ノ適用ヲ慫慂スルコトニ一致ス

平和ヲ破ルノ虞アル重大ナル紛爭ヲ生シタル場合ニ於テハ紛爭國ハ平和關係ノ斷絕ヲ豫防スル爲各一國ヲ選定シ他方ノ選定シタル國ト直接ノ交涉ヲ開クノ任務ヲ委託ス

右委任ノ期間ハ反對ノ規定アルニ非サレハ三十日ヲ超エサルモノトシ其ノ期間中紛爭國ハ紛爭事件ヲ居中調停國ニ一任シタルモノト看做シ之ニ關スル一切ノ直接交涉ヲ中止ス右居中調停國ハ紛爭ヲ處理スルニ全力ヲ竭スヘキモノトス

平和關係ノ現實ニ斷絕シタル場合ニ於テ右居中調停國ハ尙平和ヲ囘復スルノ機會アル每ニ之ヲ利用スルノ共同任務ヲ負フモノトス

  第三章

   國際審査委員會

    第九條

締約國ハ名譽又ハ重要ナル利益ニ關係セス單ニ事實上ノ見解ノ異ナルヨリ生シタル國際紛爭ニ關シ外交上ノ手段ニ依リ妥協ヲ遂クルコト能ハサリシ當事者カ事情ノ許ス限國際審査委員會ヲ設ケ之ヲシテ公平誠實ナル審理ニ依リテ事實問題ヲ明ニシ右紛爭ノ解決ヲ容易ニスルノ任ニ當ラシムルヲ以テ有益ニシテ且希望スヘキコトト認ム

    第十條

國際審査委員會ハ紛爭當事者間ノ特別條約ヲ以テ之ヲ構成ス

審査條約ハ審理スヘキ事實ヲ明定シ委員會組織ノ方法及期限竝委員ノ權限ヲ定ム

審査條約ハ又場合ニ依リ委員會ノ開會地及之ヲ變更スルノ權能、委員會ノ使用スヘキ國語及委員會ニ於テ使用スルコトヲ許スヘキ國語、各當事者カ事實ノ說明書ヲ提出スヘキ期日其ノ他當事者間ニ約定セル一切ノ條件ヲ定ム

當事者カ補助委員ノ任命ヲ必要ト認ムルトキハ審査條約ヲ以テ其ノ任命方法及權限ヲ定ム

    第十一條

審査條約ヲ以テ委員會ノ開會地ヲ指定セサリシトキハ海牙ニ於テ開會スルモノトス

審査委員會ハ當事者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ一旦定メタル開會地ヲ變更スルコトヲ得ス

審査條約ヲ以テ使用スヘキ國語ヲ定メサリシトキハ委員會之ヲ定ム

    第十二條

審査委員會ハ反對ノ規定アルニ非サレハ本條約第四十五條及第五十七條ニ定メタル方法ニ依リ之ヲ組織スルモノトス

    第十三條

委員ノ一人又ハ補助委員アル場合ニ於テ其ノ一人死亡シ辭任シ又ハ原因ノ如何ニ拘ラス支障アルトキハ其ノ任命ノ爲ニ定メタル方法ニ依リ之ヲ補闕ス

    第十四條

當事者ハ自己ヲ代表シ且自己ト審査委員會トノ間ノ媒介者タルヘキ特別代理人ヲ審査委員會ニ簡派スルコトヲ得

當事者ハ又顧問又ハ辯護人ヲ任命シテ委員會ニ於テ自己ノ利益ヲ開陳辯護セシムルコトヲ得

    第十五條

常設仲裁裁判所國際事務局ハ之ヲ海牙ニ開會スル委員會ノ書記局ニ充テ且其ノ廳舍及施設ヲ審査委員會執務ノ爲締約國ノ用ニ供スヘシ

    第十六條

委員會ハ海牙以外ノ地ニ開會スルトキハ書記官長一人ヲ任命シ其ノ事務所ヲ以テ委員會ノ書記局ニ充ツ

書記局ハ委員長ノ指揮ノ下ニ委員會會場ノ設備、調書ノ作成及審査繼續中記錄ノ保管ヲ掌リ記錄ハ後之ヲ海牙國際事務局ニ引渡スヘキモノトス

    第十七條

締約國ハ審査委員會ノ設置及執務ヲ容易ナラシムル爲當事者ニ於テ別段ノ規則ヲ採用セサル限左ノ規定ヲ審査手續ニ適用スルコトヲ慫慂ス

    第十八條

委員會ハ特別審査條約又ハ本條約中ニ規定セサル手續ノ細目ヲ定メ且證據調ニ關スル一切ノ手續ヲ行フ

    第十九條

審査ハ對審ノ上之ヲ行フ

各當事者ハ豫定ノ期日ニ於テ場合ニ依リ事實ノ說明書及如何ナル場合ニ於テモ事實ノ眞相ヲ示スニ有益ナリト認メタル證書、文書其ノ他ノ書類竝陳述ヲ爲サシメムト欲スル證人及鑑定人ノ名簿ヲ委員會及他ノ當事者ニ送付スヘシ

    第二十條

委員會ハ當事者ノ承諾ヲ得タル上取調ノ爲有益ナリト認メタル地ニ一時移轉シ又ハ一人若ハ數人ノ委員ヲ同地ニ派遣スルコトヲ得但シ右取調ヲ爲スヘキ地ノ所屬國ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス

    第二十一條

一切ノ事實上ノ検證及實地ノ臨検ハ當事者ノ代理人及顧問出席ノ上又ハ之ニ對シ正式ニ呼出ヲ爲シタル後之ヲ行フコトヲ要ス

    第二十二條

委員會ハ有益ナリト認ムル說明又ハ報吿ヲ一方又ハ他方ノ當事者ニ請求スルコトヲ得

    第二十三條

當事者ハ係爭事實ヲ完全ニ知悉シ且精確ニ會得スルニ必要ナル一切ノ方法及便宜ヲ其ノ爲シ得ヘシト認ムル限充分ニ審査委員會ニ提供スヘキモノトス

當事者ハ委員會ノ呼出ヲ受ケタル自國領土ニ在ル證人又ハ鑑定人ノ出頭ヲ保障スル爲國內法規ニ依リ爲シ得ル手段ヲ盡スヘキモノトス

證人又ハ鑑定人ニシテ委員會ニ出頭スルコト能ハサルトキハ當事者ハ其ノ當該官憲ヲシテ之カ訊問ヲ爲サシムヘシ

    第二十四條

委員會カ締約國タル第三國ノ領土ニ於テ爲スコトアルヘキ一切ノ通吿ハ委員會ヨリ直接ニ當該國政府ニ宛テ之ヲ爲スヘシ實地ニ就キ一切ノ證據蒐集手續ヲ行フトキ亦同シ

右請求ヲ受ケタル國ハ其ノ國內法規ニ遵ヒ爲シ得ヘキ方法ニ依リ其ノ請求ヲ履行スヘク且其ノ主權又ハ安寧ニ害アリト認ムル場合ヲ除クノ外之ヲ拒ムコトヲ得ス

委員會ハ又常ニ其ノ開會地ノ所屬國ノ媒介ニ依賴スルコトヲ得

    第二十五條

證人及鑑定人ノ呼出ハ當事者ノ請求ニ依リ又ハ職權ヲ以テ委員會之ヲ爲シ且如何ナル場合ニ於テモ證人及鑑定人所在地ノ所屬國政府ノ媒介ニ依ルモノトス

證人ノ訊問ハ委員會ノ定ムル順序ニ從ヒ代理人及顧問出席ノ上順次各別ニ之ヲ行フ

    第二十六條

證人ノ訊問ハ委員長之ヲ行フ

委員會ノ委員ハ各證人ニ對シ其ノ供述ヲ明瞭ナラシメ若ハ之ヲ補充スル爲又ハ事實ノ眞相ヲ明ニスルニ必要ナル程度ニ於テ證人ニ關係アル一切ノ事項ヲ取調フル爲適當ナリト認ムル質問ヲ爲スコトヲ得

當事者ノ代理人及顧問ハ證人ノ供述ヲ中斷シ又ハ證人ニ直接ノ質問ヲ爲スコトヲ得ス但シ其ノ有益ナリト認ムル補足的質問ヲ證人ニ對シ爲サムコトヲ委員長ニ請求スルコトヲ得

    第二十七條

證人ハ供述ヲ爲スニ當リ何等ノ文案ヲモ朗讀スルコトヲ得ス但シ報吿スヘキ事實ノ性質上覺書又ハ文書ヲ用ヰルコトヲ必要トスルトキハ委員長ノ許可ヲ得テ之ヲ使用スルコトヲ得

    第二十八條

證人供述ノ調書ハ卽時ニ之ヲ作成シ證人ニ讀聞カスヘシ證人ハ之ニ對シ所要ノ變更又ハ追加ヲ爲スコトヲ得右變更及追加ハ之ヲ供述ノ次ニ記載ス

供述ノ全部ヲ讀聞カセタル後ハ證人ヲシテ署名ヲ爲サシムヘシ

    第二十九條

代理人ハ審査ノ進行中又ハ其ノ終ニ於テ事實ノ眞相ヲ知ル爲有益ナリト認ムル言明、請求又ハ事實ノ要領ヲ書面ヲ以テ委員會及相手方ニ提出スルコトヲ得

    第三十條

委員會ノ評議ハ祕密會ニ於テ之ヲ行ヒ且之ヲ祕密ニ付ス

一切ノ決定ハ委員ノ多數決ニ依ル

委員中投票ニ加ルコトヲ拒ム者アルトキハ其ノ旨調書ニ記載スヘシ

    第三十一條

委員會ハ公開セス且審査ニ關スル調書其ノ他ノ文書ハ當事者ノ同意ヲ得テ爲シタル委員會ノ決定ニ依ルニ非サレハ之ヲ公表セス

    第三十二條

當事者ヨリ一切ノ說明及證據ヲ提出シ各證人ノ訊問終了シタルトキハ委員長ハ審査ノ終結ヲ宣吿シ委員會ハ評議及報吿書調製ノ爲停會ス

    第三十三條

委員會ノ各委員ハ報吿書ニ署名ス

委員中署名ヲ拒ム者アルトキハ其ノ旨ヲ記載ス但シ報吿書ハ之ニ拘ラス有效トス

    第三十四條

委員會ノ報吿書ハ當事者ノ代理人及顧問出席ノ上又ハ之ニ對シ正式ニ呼出ヲ爲シタル後公開廷ニ於テ之ヲ朗讀ス

各當事者ニ報吿書ノ謄本ヲ交付ス

    第三十五條

委員會ノ報吿書ハ單ニ事實ノ認定ニ止リ仲裁判決ノ性質ヲ有スルコトナシ右認定ニ對シ如何ナル結果ヲ付スヘキヤハ全ク當事者ノ自由タルヘシ

    第三十六條

當事者ハ各自ノ費用ヲ負擔シ且委員會ノ費用ヲ均等ニ分擔ス

  第四章

   國際仲裁裁判

    第一節

    仲裁裁判

    第三十七條

國際仲裁裁判ハ國家間ノ紛爭ヲ其ノ選定シタル裁判官ヲシテ法ノ尊重ヲ基礎トシ處理セシムルコトヲ目的トス

仲裁裁判ニ依賴スルコトハ誠實ニ其ノ判決ニ服從スルノ約定ヲ包含ス

    第三十八條

締約國ハ法律問題就中國際條約ノ解釋又ハ適用ノ問題ニ關シ外交上ノ手段ニ依リ解決スルコト能ハサリシ紛爭ヲ處理スルニハ仲裁裁判ヲ以テ最有效ニシテ且最公平ナル方法ナリト認ム

故ニ前記ノ問題ニ關スル紛爭ヲ生シタルトキハ締約國ニ於テ事情ノ許ス限仲裁裁判ニ依賴セムコトヲ希望ス

    第三十九條

仲裁裁判條約ハ旣ニ生シタル又ハ將來生スルコトアルヘキ紛爭ノ爲ニ之ヲ締結ス

仲裁裁判條約ハ總テノ紛爭又ハ特種ノ紛爭ノミニ關スルコトヲ得

    第四十條

締約國間ニ仲裁裁判ニ依賴スヘキ義務ヲ現ニ規定シタル總括的又ハ特別的條約ノ有無ニ拘ラス締約國ハ仲裁裁判ニ付スルコトヲ得ヘシト認ムル一切ノ場合ニ義務的仲裁裁判ヲ普及セシメムカ爲總括的又ハ特別的新協定ヲ締結スヘキコトヲ留保ス

  第二節

   常設仲裁裁判所

    第四十一條

締約國ハ外交上ノ手段ニ依リテ處理スルコト能ハサリシ國際紛爭ヲ直ニ仲裁裁判ニ付スルヲ容易ナラシムルノ目的ヲ以テ何時タリトモ依賴スルコトヲ得ヘク且當事者間ニ反對ノ規約ナキ限本條約ニ揭ケタル手續ニ依リテ其ノ職務ヲ行フヘキ常設仲裁裁判所ヲ第一囘平和會議ニ依リ設置セラレタル儘維持スルコトヲ約定ス

    第四十二條

常設裁判所ハ特別裁判ヲ開クコトニ付當事者間ニ協定アル場合ヲ除クノ外一切ノ仲裁事件ヲ管轄スルモノトス

    第四十三條

常設裁判所ハ之ヲ海牙ニ置ク

國際事務局ハ之ヲ裁判所書記局ニ充テ裁判開廷ニ關スル通信ヲ媒介シ記錄ヲ保管シ及一切ノ事務ヲ處理ス

締約國ハ其ノ相互間ニ定メタル仲裁裁判ニ關スル一切ノ約款及自國ニ關シ特別裁判ニ於テ爲シタル一切ノ仲裁判決ノ認證謄本ヲ成ルヘク速ニ事務局ニ送付スルコトヲ約定ス

締約國ハ又裁判所ノ下シタル判決ノ執行ヲ證スルニ足ルヘキ法律、規則及文書ヲ事務局ニ送付スルコトヲ約定ス

    第四十四條

各締約國ハ國際法上ノ問題ニ堪能ノ名アリテ徳望高ク且仲裁裁判官ノ任務ヲ受諾スルノ意アル者四人以下ヲ任命ス

前項ニ依リ任命セラレタル者ハ裁判所裁判官トシテ名簿ニ記入シ右名簿ハ事務局ヨリ之ヲ各締約國ニ通吿スヘシ

事務局ハ仲裁裁判官ノ名簿ニ變更アル每ニ之ヲ締約國ニ通吿ス

二國又ハ數國ハ協議ノ上一人又ハ數人ノ裁判官ヲ共同ニ任命スルコトヲ得

同一人ハ數國ヨリ任命セラルルコトヲ得

裁判所裁判官ノ任期ハ六年トス但シ再任セラルルコトヲ得

裁判所裁判官中死亡又ハ退職シタル者アルトキハ其ノ任命ノ爲ニ定メタル方法ニ依リ更ニ六年ヲ任期トシテ之カ補闕ヲ行フ

    第四十五條

締約國カ其ノ相互間ニ生シタル紛爭ヲ處理セムカ爲常設裁判所ニ訴ヘムト欲スル場合ニ於テ其ノ紛爭ヲ判定スルニ付當該裁判部ヲ組織スヘキ仲裁裁判官ノ選定ハ裁判所裁判官ノ總名簿ニ就キテ之ヲ爲スコトヲ要ス

仲裁裁判部ノ構成ニ付當事者ノ合意ナキ場合ニ於テハ左ノ方法ニ依ル

當事者ハ各自二人ノ仲裁裁判官ヲ指定スヘシ其ノ內一人ニ限リ自國民又ハ自國カ常設裁判所裁判官トシテ任命シタル者ノ中ヨリ之ヲ選定スルコトヲ得右仲裁裁判官ハ合同シテ一人ノ上級仲裁裁判官ヲ選定ス

投票相半シタル場合ニ於テハ當事者ノ協議ヲ以テ指定シタル第三國ニ上級仲裁裁判官ノ選定ヲ委託ス

右指定ニ關スル合意成立セサルトキハ當事者ハ各自異ナル一國ヲ指定シ其ノ指定セラレタル國ハ協議ヲ以テ上級仲裁裁判官ヲ選定ス

二月ノ期間內ニ右兩國間ニ合意成立シ能ハサルトキハ兩國ハ常設裁判所裁判官名簿ニ就キ當事者ノ指定シタル裁判官ニ非ス且當事者ノ孰レノ國民ニモ非サル者ノ中ヨリ各二人ノ候補者ヲ出シ抽籤ヲ以テ該候補者中上級仲裁裁判官タルヘキ者ヲ定ム

    第四十六條

裁判部構成セラレタルトキハ當事者ハ直ニ裁判所ニ訴フルノ決意、仲裁契約ノ正文及仲裁裁判官ノ氏名ヲ事務局ニ通吿スヘシ

事務局ハ遲滞ナク各仲裁裁判官ニ對シ仲裁契約及其ノ裁判部ノ他ノ裁判官ノ氏名ヲ通知スヘシ

裁判部ハ當事者ノ定メタル期日ヲ以テ開廷シ事務局ハ其ノ準備ヲ爲スヘシ

裁判部裁判官ハ其ノ職務ノ執行ニ關シ自國以外ニ於テ外交官ノ特權及免除ヲ享有ス

    第四十七條

事務局ハ仲裁裁判ニ關スル一切ノ特別裁判ノ執務ノ爲其ノ廳舍及施設ヲ締約國ノ用ニ供スルコトヲ得

常設裁判所ノ裁判權ハ當事者カ其ノ裁判ニ訴フルコトヲ約定シタルトキハ規則ニ定メタル條件ニ從ヒ之ヲ非締約國間又ハ締約國ト非締約國トノ間ニ存スル紛爭ニ及ホスコトヲ得

    第四十八條

締約國ハ其ノ二國又ハ數國ノ間ニ激烈ナル紛爭ノ起ラムトスル場合ニ於テハ常設仲裁裁判所ニ訴フルノ途アルコトヲ之ニ注意スルヲ以テ其ノ義務ナリト認ム

故ニ締約國ハ紛爭當事者ニ對シ本條約ノ規定アルコトヲ注意シ且平和ノ重要ナル利益ノ爲常設裁判所ニ訴フヘキコトヲ勸吿スルハ全ク周旋ノ行爲ニ外ナラサルモノト認ムヘキコトヲ宣言ス兩國間ニ紛爭ヲ生シタル場合ニ於テハ其ノ一方ハ何時ニテモ國際

事務局ニ宛テ該紛爭ヲ仲裁裁判ニ付スルノ意向アル旨ノ宣言ヲ含ム文書ヲ送ルコトヲ得

事務局ハ直ニ右宣言ヲ他ノ一方ニ通知スルコトヲ要ス

    第四十九條

常設評議會ハ和蘭國ニ駐箚スル締約國ノ外交代表者及和蘭國外務大臣ヲ以テ組織シ國際事務局ヲ指揮監督ス和蘭國外務大臣ハ議長ノ職務ヲ行フ

評議會ハ庶務規程其ノ他必要ナル諸規則ヲ定ム

評議會ハ裁判所ノ職務執行ニ關シテ生スルコトアルヘキ事務上ノ一切ノ問題ヲ決定ス

評議會ハ事務局ノ役員及雇員ノ任命、停職及罷免ニ關スル全權ヲ有ス

評議會ハ俸給及手當ヲ定メ且全般ノ支出ヲ監督ス

評議會ハ正式ニ召集セラレタル會合ニ於テ九人以上ノ出席者アルトキハ有效ノ評議ヲ爲スコトヲ得決議ハ多數決ニ依ル

評議會ハ其ノ採用シタル諸規則ヲ遲滞ナク締約國ニ通知シ每年裁判所ノ事業、事務ノ執行及支出ニ關スル報吿書ヲ締約國ニ提出ス報吿書中ニハ又本條約第四十三條第三項及第四項ニ基キ各國ヨリ事務局ニ送付スル書類中重要事項ノ要領ヲ揭クヘシ

    第五十條

事務局ノ費用ハ万國郵便聯合總理局ノ爲ニ定メタル比例ニ依リ締約國之ヲ負擔ス

加盟國ノ負擔スヘキ費用ハ其ノ加盟カ效力ヲ生スル日ヨリ之ヲ計算ス

  第三節

   仲裁裁判手續

    第五十一條

仲裁裁判ノ發達ヲ助クルノ目的ヲ以テ締約國ハ當事者カ別段ノ規則ヲ協定セサリシ場合ニ於テ仲裁裁判手續ニ適用スヘキ左ノ規則ヲ定ム

    第五十二條

仲裁裁判ニ依賴スル諸國ハ其ノ紛爭ノ目的、仲裁裁判官ヲ指定スヘキ期間、第六十三條ノ送達ヲ爲スヘキ方式、順序及期間竝各當事者カ費用ノ豫納金トシテ寄託スヘキ金額ヲ定メタル仲裁契約ニ記名ス

仲裁契約ハ又必要ニ應シ仲裁裁判官指定ノ方法、裁判部ノ有スルコトアルヘキ一切ノ特別權能、其ノ開廷地、其ノ使用スヘキ國語及裁判部ニ於テ使用スルコトヲ許スヘキ國語其ノ他當事者間ニ約定セル一切ノ條件ヲ定ム

    第五十三條

常設裁判所ハ當事者カ仲裁契約ノ作成ヲ該裁判所ニ委託スルコトニ一致シタルトキハ之ヲ作成スルノ權限ヲ有ス

裁判所ハ左ノ場合ニ於テハ外交上ノ手段ニ依リ合意ノ成立セサリシ後ハ單ニ當事者ノ一方ヨリ請求アルトキニ於テモ亦前項ノ權限ヲ有ス

 一 本條約實施後締結セラレ又ハ更新セラレタル總括的仲裁裁判條約ニシテ各紛爭ニ付仲裁契約ノ作成ヲ豫見シ且明白ニモ又暗默ニモ其ノ作成ニ關スル裁判所ノ權限ヲ否認セサルモノノ中ニ規定スル紛爭ニ關スルトキ但シ他ノ當事者ニ於テ該紛爭カ義務的仲裁裁判ニ付スヘキ紛爭ノ種類ニ屬セスト認ムルコトヲ宣言シタルトキハ仲裁裁判條約カ此ノ先決問題ヲ決定スルノ權能ヲ仲裁裁判部ニ付與シタル場合ヲ除クノ外裁判所ノ干與スル限ニ在ラス

 二 一國ニ對シ他ノ一國カ其ノ國民ニ支払ハルヘキモノトシテ請求スル契約上ノ債務ヨリ生シタル紛爭ニシテ其ノ解決ニ付仲裁裁判ノ提議カ受諾セラレタルモノニ關スルトキ但シ他ノ方法ニ依リ仲裁契約ヲ定ムルコトヲ受諾ノ條件トシタルトキハ右規定ヲ適用セス

    第五十四條

前條ノ場合ニ於テハ第四十五條第三項乃至第六項ニ定メタル方法ニ依リテ指定セラルル五人ノ委員ヲ以テ組織スヘキ委員會ニ於テ仲裁契約ヲ作成ス

第五ノ委員ハ當然委員長タルモノトス

    第五十五條

仲裁裁判ノ職務ハ之ヲ當事者カ随意ニ指定シ又ハ本條約ニ依リテ設置シタル常設仲裁裁判所ノ裁判官中ヨリ選定シタル一人又ハ數人ノ仲裁裁判官ニ委託スルコトヲ得

裁判部ノ構成ニ付當事者ノ合意ナキトキハ第四十五條第三項乃至第六項ニ規定スル方法ニ從フモノトス

    第五十六條

君主其ノ他國ノ元首ニシテ仲裁者ニ選定セラレタルトキハ仲裁裁判手續ハ仲裁者之ヲ定ム

    第五十七條

上級仲裁裁判官ハ當然裁判長タルモノトス

裁判部ニ上級仲裁裁判官ナキトキハ裁判部自ラ其ノ裁判長ヲ指定ス

    第五十八條

第五十四條ニ規定スル委員會ニ於テ仲裁契約ヲ作成シタル場合ニハ反對ノ規約アルニ非サレハ該委員會自ラ仲裁裁判部ヲ組織ス

    第五十九條

仲裁裁判官中死亡シ辭職シ又ハ原因ノ如何ニ拘ラス支障ヲ生シタル者アルトキハ其ノ指定ノ爲ニ定メタル方法ニ依リ之カ補闕ヲ行フ

    第六十條

裁判部ハ當事者ニ於テ指定ヲ爲ササルトキハ之ヲ海牙ニ開ク

裁判部ハ第三國ノ領土ニ於テハ其ノ同意ヲ得ルニ非サレハ開廷スルコトヲ得ス

裁判部ハ當事者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ一旦定メタル開廷地ヲ變更スルコトヲ得ス

    第六十一條

仲裁契約ヲ以テ使用スヘキ國語ヲ定メサリシトキハ裁判部之ヲ定ム

    第六十二條

當事者ハ自己ト裁判部トノ間ノ媒介者タルヘキ特別代理人ヲ裁判部ニ簡派スルコトヲ得

當事者ハ又顧問又ハ辯護人ヲ任命シ裁判部ニ於テ其ノ權利及利益ヲ辯護セシムルコトヲ得

常設裁判所裁判官ハ之ヲ裁判所裁判官ニ任命シタル國ノ爲ニスルノ外代理人、顧問又ハ辯護人ノ職務ヲ行フコトヲ得ス

    第六十三條

仲裁裁判手續ハ原則トシテ準備書面提出及辯論ノ二段ニ分ツ

準備書面提出トハ各代理人ヨリ陳述書、答辯書及必要アルトキハ辯駁書ヲ裁判部裁判官及相手方ニ送達スルヲ謂フ當事者ハ右書面ニ其ノ申立中ニ援用シタル一切ノ文書其ノ他ノ書類ヲ添附ス送達ハ仲裁契約ヲ以テ定メタル順序及期間ニ於テ直接ニ又ハ國際事務局ヲ經テ之ヲ行フモノトス

仲裁契約ヲ以テ定メタル期間ハ合意アルトキハ當事者ニ於テ又裁判部カ正當ナル決定ヲ與フル爲必要アリト認ムルトキハ裁判部ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得

辯論トハ裁判部ニ於ケル當事者ノ事由ノ口頭演述ヲ謂フ

    第六十四條

當事者ノ一方ヨリ提出シタル一切ノ文書ハ其ノ認證謄本ヲ他ノ一方ニ送達スヘキモノトス

    第六十五條

特別ナル事情アル場合ヲ除クノ外裁判部ハ準備書面提出終結ノ後ニ非サレハ開廷セス

    第六十六條

辯論ハ裁判長之ヲ指揮ス

辯論ハ當事者ノ承諾ヲ經テ爲シタル裁判部ノ決定ニ依ルノ外之ヲ公開セス

辯論ハ之ヲ裁判長ノ任命スル書記官ノ作成スル調書ニ記載シ裁判長及書記官ノ一名之ニ署名ス此ノ調書ニ限公正ナル性質ヲ有ス

    第六十七條

裁判部ハ準備書面提出終結ノ後ハ當事者ノ一方ヨリ相手方ノ承諾ヲ得スシテ提出セムト欲スル新ナル一切ノ證書其ノ他ノ書類ニ付辯論ヲ拒絕スルコトヲ得

    第六十八條

裁判部ハ當事者ノ代理人又ハ顧問カ其ノ注意ヲ求ムルコトアルヘキ新ナル證書其ノ他ノ書類ヲ參酌スルノ自由ヲ有ス

右ノ場合ニ於テ裁判部ハ右證書其ノ他ノ書類ノ提出ヲ請求スルコトヲ得但シ其ノ旨相手方ニ通知スルコトヲ要ス

    第六十九條

裁判部ハ又當事者ノ代理人ニ一切ノ證書ノ提出ヲ請求シ且必要ナル一切ノ說明ヲ求ムルコトヲ得其ノ拒絕アリタル場合ニハ其ノ旨ヲ記錄ス

    第七十條

當事者ノ代理人及顧問ハ其ノ申立ヲ辯護スル爲有益ナリト認ムル一切ノ事由ヲ口頭ニテ仲裁裁判部ニ陳述スルコトヲ得

    第七十一條

當事者ノ代理人及顧問ハ抗辯ヲ爲シ又ハ中間爭議ヲ起スコトヲ得之ニ關スル裁判部ノ決定ハ確定的ニシテ更ニ之ヲ論議スルコトヲ得サルモノトス

    第七十二條

裁判部裁判官ハ當事者ノ代理人及顧問ニ質問ヲ爲シ且疑ハシキ事項ニ關シテ說明ヲ求ムルコトヲ得

辯論ノ進行中裁判部裁判官カ爲シタル質問又ハ發言ハ裁判部全體又ハ裁判官各員ノ意見ヲ表明シタルモノト認ムルコトヲ得ス

    第七十三條

裁判部ハ仲裁契約及事件ニ關シテ援用シ得ヘキ其ノ他ノ證書及書類ヲ解釋シ且法律上ノ原則ヲ適用シテ自己ノ權限ヲ定ムルコトヲ得

    第七十四條

裁判部ハ裁判指揮ノ爲手續上ノ命令ヲ發シ各當事者カ辯論ヲ終結スヘキ方式、順序及期間ヲ定メ且證據調ニ關スル一切ノ手續ヲ行フコトヲ得

    第七十五條

當事者ハ紛爭決定ノ爲必要ナル一切ノ方法ヲ其ノ爲シ得ヘシト認ムル限充分ニ裁判部ニ提出スヘシ

    第七十六條

裁判部カ締約國タル第三國ノ領土ニ於テ爲スヘキ一切ノ通吿ハ裁判部ヨリ直接ニ當該國政府ニ宛テ之ヲ爲スヘシ實地ニ就キ一切ノ證據蒐集手續ヲ行フトキ亦同シ

右ニ關スル請求ヲ受ケタル國ハ其ノ國內法規ニ遵ヒ爲シ得ヘキ方法ニ依リ其ノ請求ヲ履行スヘク且其ノ主權又ハ安寧ニ害アリト認ムル場合ヲ除クノ外之ヲ拒ムコトヲ得ス

裁判部ハ又常ニ其ノ開廷地ノ所屬國ノ媒介ニ依賴スルコトヲ得

    第七十七條

當事者ノ代理人及顧問カ各其ノ申立ヲ支持スル一切ノ說明及證據提出ヲ終リタルトキハ裁判長ハ辯論ノ終結ヲ宣吿ス

    第七十八條

裁判部ノ評議ハ祕密會ニ於テ行ヒ且之ヲ祕密ニ付ス

一切ノ決定ハ裁判官ノ多數決ニ依ル

    第七十九條

仲裁判決ニハ理由ヲ附シ裁判官ノ氏名ヲ揭ケ裁判長及裁判部書記局員又ハ其ノ職務ヲ行フ書記官之ニ署名ス

    第八十條

判決ハ當事者ノ代理人及顧問出席ノ上又ハ之ニ對シ正式ノ呼出ヲ爲シタル後公開廷ニ於テ之ヲ朗讀ス

    第八十一條

正式ニ言渡ヲ爲シ且當事者ノ代理人ニ通吿シタル判決ハ確定的ニ終審トシテ紛爭ヲ決定ス

    第八十二條

判決ノ解釋及執行ニ關シ當事者間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ紛爭ハ反對ノ規約アルニ非サレハ該判決ヲ言渡シタル裁判部ノ裁判ニ付スヘシ

    第八十三條

當事者ハ仲裁契約ニ於テ仲裁判決ニ對スル再審ノ請求ヲ留保スルコトヲ得

右ノ場合ニ於テハ反對ノ規約アルニ非サレハ判決ヲ爲シタル裁判部ニ請求ヲ爲スコトヲ要ス右請求ハ判決ニ對シ決定的影響ヲ與フヘキ性質ヲ有スル新事實ニシテ辯論終結ノトキ裁判部及再審ヲ請求スル當事者カ知ラサリシモノヲ發見シタル場合ニ限之ヲ爲スコトヲ得

再審ノ手續ハ裁判部ニ於テ特ニ新事實ノ存在ヲ確認シ其ノ事實カ前項ニ揭クル特質ヲ有スルコトヲ認識シ且之ニ因リ請求カ受理スヘキモノナルコトヲ宣言スル決定ヲ爲スニ非サレハ之ヲ開始スルコトヲ得ス

再審ノ請求ヲ爲スヘキ期間ハ仲裁契約ニ於テ之ヲ定ム

    第八十四條

仲裁判決ハ紛爭當事者ニ對シテノミ效力ヲ有ス

若紛爭當事者以外ノ諸國カ加リタル條約ノ解釋ニ關スルモノナルトキハ紛爭當事者ハ適當ノ時期ニ之ヲ各記名國ニ通知スヘシ右諸國ハ各訴訟ニ參加スルノ權利ヲ有ス一國又ハ數國カ此ノ權能ヲ利用シタルトキハ判決中ニ包含スル解釋ハ其ノ國ニ對シテモ亦等シク效力ヲ有スルモノトス

    第八十五條

當事者ハ各自ノ費用ヲ負擔シ且裁判部ノ費用ヲ均等ニ分擔ス

  第四節

   仲裁裁判簡易手續

    第八十六條

締約國ハ簡易ナル手續ニ依リ得ヘキ性質ノ紛爭ニ關シ仲裁裁判ノ運用ヲ容易ナラシムル爲別段ナル規約ナキ場合ニ適用スヘキ次ノ規定ヲ設ク但シ第三節ノ條項ニシテ右規定ニ牴觸セサルモノハ之ヲ適用ス

    第八十七條

紛爭當事者ハ各一人ノ仲裁裁判官ヲ指定ス右兩人ノ仲裁裁判官ハ一人ノ上級仲裁裁判官ヲ選定ス若其選定ニ關シ合意成立セサルトキハ仲裁裁判官ハ常設裁判所裁判官ノ總名簿ニ就キ各當事者ノ指定シタル裁判官ニ非ス且其ノ孰レノ國民ニモ非サル者ノ中ヨリ各二人ノ候補者ヲ出シ抽籤ヲ以テ該候補者中上級仲裁裁判官タルヘキ者ヲ定ム

上級仲裁裁判官ハ裁判長ト爲ル裁判部ノ決定ハ多數決ニ依ル

    第八十八條

裁判部ハ豫メ何等ノ合意ナキトキハ其ノ構成後直ニ當事者雙方ヨリ陳述書ヲ提出スヘキ期間ヲ定ム

    第八十九條

各當事者ハ一人ノ代理人ヲシテ裁判部ニ於テ自己ヲ代表セシム

右代理人ハ裁判部ト之ヲ任命シタル政府トノ間ノ媒介者タルヘキモノトス

    第九十條

裁判手續ハ悉ク書面ニ依ルモノトス但シ各當事者ハ證人及鑑定人ノ出頭ヲ請求スルコトヲ得裁判部ハ當事者雙方ノ代理人竝出頭セシムルヲ有益ナリト認メタル鑑定人及證人ニ對シ口頭ノ說明ヲ求ムルコトヲ得

  第五章

   附則

    第九十一條

本條約ハ正式ニ批准セラレタル上締約國間ノ關係ニ於テ千八百九十九年七月二十九日ノ國際紛爭平和的處理條約ニ代ルヘキモノトス

    第九十二條

本條約ハ成ルヘク速ニ批准スヘシ

批准書ハ海牙ニ寄託ス

第一囘ノ批准書寄託ハ之ニ加リタル諸國ノ代表者及和蘭國外務大臣ノ署名シタル調書ヲ以テ之ヲ證ス

爾後ノ批准書寄託ハ和蘭國政府ニ宛テ且批准書ヲ添附シタル通吿書ヲ以テ之ヲ爲ス

第一囘ノ批准書寄託ニ關スル調書、前項ニ揭ケタル通吿書及批准書ノ認證謄本ハ和蘭國政府ヨリ外交上ノ手續ヲ以テ直ニ之ヲ第二囘平和會議ニ招請セラレタル諸國及本條約ニ加盟スル他ノ諸國ニ交付スヘシ前項ニ揭ケタル場合ニ於テハ和蘭國政府ハ同時ニ通吿ヲ接受シタル日ヲ通知スルモノトス

    第九十三條

第二囘平和會議ニ招請セラレタル諸國ニシテ記名國ニ非サルモノハ本條約ニ加盟スルコトヲ得

加盟セムト欲スル國ハ書面ヲ以テ其ノ意思ヲ和蘭國政府ニ通吿シ且加盟書ヲ送付シ之ヲ和蘭國政府ノ文庫ニ寄託スヘシ

和蘭國政府ハ直ニ通吿書及加盟書ノ認證謄本ヲ第二囘平和會議ニ招請セラレタル爾餘ノ諸國ニ送付シ且通吿書ヲ接受シタル日ヲ通知スヘシ

    第九十四條

第二囘平和會議ニ招請セラレサリシ諸國カ本條約ニ加盟シ得ヘキ條件ハ後日締約國間ノ協商ニ依リテ之ヲ定ム

    第九十五條

本條約ハ第一囘ノ批准書寄託ニ加リタル諸國ニ對シテハ其ノ寄託ノ調書ノ日附ヨリ六十日ノ後又其ノ後ニ批准シ又ハ加盟スル諸國ニ對シテハ和蘭國政府カ右批准又ハ加盟ノ通吿ヲ接受シタルトキヨリ六十日ノ後ニ其ノ效力ヲ生スルモノトス

    第九十六條

締約國中本條約ヲ廢棄セムト欲スルモノアルトキハ書面ヲ以テ其ノ旨和蘭國政府ニ通吿スヘシ和蘭國政府ハ直ニ通吿書ノ認證謄本ヲ爾餘ノ請國ニ送付シ且通吿書ヲ接受シタル日ヲ通知スヘシ

廢棄ハ其ノ通吿カ和蘭國政府ニ到達シタルトキヨリ一年ノ後右通吿ヲ爲シタル國ニ對シテノミ其ノ效力ヲ生スルモノトス

    第九十七條

和蘭國外務省ハ帳簿ヲ備ヘ置キ第九十二條第三項及第四項ニ依リ爲シタル批准書寄託ノ日竝加盟(第九十三條第二項)又ハ廢棄(第九十六條第一項)ノ通吿ヲ接受シタル日ヲ記入スルモノトス

各締約國ハ右帳簿ヲ閱覽シ且其ノ認證抄本ヲ請求スルコトヲ得

右證據トシテ各全權委員本條約ニ署名ス

千九百七年十月十八日海牙ニ於テ本書一通ヲ作リ之ヲ和蘭國政府ノ文庫ニ寄託シ其ノ認證謄本ヲ外交上ノ手續ニ依リ締約國ニ交付スヘキモノトス

(署名省略)