データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米紳士協約 第二號 在本邦米國大使「オブライエン」氏ヨリ林外務大臣宛明治四十年十一月二十六日附書翰竝覺書(日米紳士協定 第二号 在本邦米国大使「オブライエン」氏より林外務大臣宛明治四十年十一月二十六日付書翰並覚書)

[場所] 
[年月日] 1907年11月26日
[出典] 日本外交年表並主要文書上巻,外務省,284‐291頁.
[備考] 
[全文]

  第二號 在本邦米國大使「テイー・ジエー・オブライエン」氏ヨリ林外務大臣ニ致セル明治四十年十一月二十六日附來翰竝覺書

以書柬致啓上候陳者日本國民合衆國ヘ移住ノ件ニ關シ近頃我政府ヨリ來信ニ接シ候處閣下ニ於テモ國務長官ノ表明シタル我政府ノ正確ナル態度ヲ御承知相成度儀ト被存候ニ付同長官ノ意見ヲ覺書ニ作リ茲ニ之ヲ致封入候此段申進旁重テ敬意ヲ表シ候 敬具

 覺書

我政府カ日本ニ於テ移民ノ渡航ニ關スル有效ナル取締方ヲ希望スルハ毫モ日本人排斥ノ感情ヲ表示スルニ非スシテ單ニ米國勞働者ノ大部分カ破壞的勞働競爭ト思惟スルヨリ彼等ノ間ニ起生スヘキ結果ヲ豫防シ之ニ依テ以テ日米兩國民ノ間ニ於ケル友好的關係ニ對スル軋轢ト傷害ヲ豫防センコトヲ希望スルニ止マルモノナレハ畢竟本件ハ純然タル經濟問題タルニ過キサルナリ而シテ我提案ニ依テ以テ解決セラルヘキヲ期待セル此難問題ハ日本ノ同盟國ナル英國カ哥倫比亞、「ニュウジーランド」及濠洲ノ諸植民地ニ於テ實驗シツツアル所ノモノト全然同一ニシテ而カモ右諸植民地ノ人民ハ我太平洋沿岸諸州ノ人民ト全ク同一ノ情態ニ在ルモノナリ元來日本ノ方針ハ其ノ移民ヲ米國ヨリハ寧ロ亞細亞大陸ノ方面ニ轉セシメントスルニアルコトハ我政府ノ當初ヨリ了知スル所ニシテ日米兩國ハ其ノ理由トスル所相異ルモ當初ヨリ相同シキ結果ニ到達センコトヲ希望シタルヲ以テ本件ニ關シ爰ニ一層隔意ナク我意見ヲ開陳スルニ至レリ

我政府ハ日本國ハ現下移民ノ件ヲ以テ更ニ條約上ノ事ト爲スニ反對ナルヲ了知シ從來施シタル行政措置ノ全ク失敗シタルニ沮喪スルモ尙ホ日本國政府ノ態度ヲ顧ミ且本件ニ關シテハ其ノ方針上貴我實際相異ノ點ナキヲ信スルヲ以テ日本國ヲ慫慂スルニ腹藏ナキ好意ノ協同行爲ニ由リ卽チ眞實有效ノ行政措置ヲ施シ以テ新ニ此事態ニ處スルノ盡力ヲ共ニセンコトヲ以テス而シテ此ノ措置ニシテ迅速ニ採用セラレ嚴正ニ實行セラルルニ於テハ然ラサル場合ニ於テ我國會カ制定セントスル法律ヲ不必要ナラシムヘキ唯一ノ道ナラン

 覺書

日本國又ハ韓國勞働者合衆國本土及布哇諸島移住ニ關スル日本國ノ方針ヲ更ニ有效ナラシムル爲左ノ計畵ヲ實施セラレンコトヲ提議ス

第一 日本國又ハ韓國臣民ニシテ其ノ國ヲ去ルモノハ日本國政府ニ於テ其ノ旅劵ヲ所持スルコトヲ要シ此ノ旅劵ハ堅牢ニシテ特殊ナル紙ヲ以テ之ヲ作リ發給ノ日附ヲ記入シ正式ニ任命セラレタル官吏之ニ署名シ(此ノ官吏ハ其ノ署名ヲ速ニ認識シ易カラシムルマテ其ノ數ヲ制限スヘシ)被發給者ノ物色ヲ確實ニシテ容易ナラシムルニ足ルマテ十分ニ其ノ人相及職業ヲ記述スヘキコト

第二 日本國政府指定方針卽熟練ヲ要シ若ハ之ヲ要セサル日本國又ハ韓國勞働者ニ合衆國向キノ旅劵ヲ發給セサルコトハ尙ホ之ヲ持續シ且一切旅劵請求者ノ從來職業ノ如何ヲ問ハス合衆國へ到着後依テ以テ其ノ身分ヲ定ムヘキ生計程度ヲ先以テ綿密ニ調査シ合衆國へ入國ノ上希望ニ因リ又ハ境遇ニ迫ラレ勞働者ト爲ルヘキ虞アル者ニハ將來除外ナク全然右旅劵ノ發給ヲ拒絕スルコト

第三 日本國政府ハ勞働者又ハ前記ノ生計程度ニアルニ對シテハ一箇年ニ一千以上ノ布哇向キ旅劵ヲ發給セサルコト

第四 今後非勞働者トシテ旅劵ヲ發給セラレ其ノ旅劵ノ規定ニ違反シ合衆國本土又ハ布哇諸島ニ於テ手仕事ヲ業トシ又ハ勞働者トシテ右米國領土向ニアラサル旅劵ヲ發給セラレ竊カニ右米國領土ニ入ラント企ツル者ハ日本國政府ニ於テ其ノ旅劵ニ依テ之ヲ許與シタル權利ヲ失ヒタルモノト認ムヘキコト

第五 現今權利アリテ合衆國本土又ハ布哇諸島ニ在ル勞働者ノ保護セラレンカ爲且之ト旅劵規定ニ違反シテ同地ニ在ルモノトヲ區別シ右權利アルモノニ一時不在ノ後其ノ住所ニ歸來スルノ特權ヲ得セシメンカ爲メ日本國政府ハ其ノ右米國領土駐在領事ニ訓令シテ總テ適法ニ其ノ領事管轄區域內ニ在ル日本國及韓國勞働者ノ登錄簿ヲ備置キ千九百八年一月一日ヨリ一箇年間ヲ限リ右勞働者ノ請求ニ依リ登錄證明書ヲ發給セシメ(此ノ證明書ハ堅牢ニシテ特殊ナル紙ニ書シタル英語全譯文ヲ之ニ添ヘ當該米國官吏ノ捺印シタル裏書ヲ有シ所持者ノ姓名、男女ノ別、年齡身長、出生地、米國領土ヘ渡來ノ日附及場所、前旅劵竝人相擧動書ノ番號ヲ揭クヘシ)又日本國又ハ韓國勞働者ヲ物色スルニ必要ナル場合ニ於テハ右參考ノ材料ヲ得ントスル當該米國官吏ト協同セシムルコト且千九百八年一月一日ヨリ一箇年ノ後日本國政府ハ前記證明書ノ所有ヲ以テ日本人又ハ韓人カ其ノ政府ノ元旅劵ニ違反セスシテ當該國米領土ニ於テ勞働ニ從事スルコトニ對スル唯一ニシテ必要ナル證據ト看做スヘキコト但シ布哇諸島ニ於テハ一箇年一千限以內ノ旅劵ヲ受ケタル勞働者ハ同島到着後一箇年間ハ旅劵ヲ證明書ニ代フルノ必要ナキコト

第六 日本國政府ハ其ノ旅劵及前記證明書ノ目的ヲ達スル爲合衆國政府ト協力シ適宜ト認メラルヘキ保證ノ方法又ハ其ノ他ノ手段ヲ以テ關係汽船會社ヲシテ米國領土ニ入リ同地ニ於テ勞働ニ從事シ其ノ移住ノ規定ニ違反シテ行動シタル日本國人又ハ韓人ヲ其ノ到着後三箇年間內ニ兩國政府ノ負擔ナク送還セシムルコトニ協力シ若クハ何時ニテモ且何ノ場合ニ於テモ右ノ如キ者ニシテ其ノ移住ノ條件ニ背キタルトキハ之ヲ送還スルノ負擔ヲ合衆國政府ト折半スヘキコト