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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米紳士協約 第五號 在本邦米國大使「オブライエン」氏ヨリ林外務大臣宛明治四十一年一月二十五日附書翰(日米紳士協定 第五号 在本邦米国大使「オブライエン」氏より林外務大臣宛明治四十一年一月二十五日付書翰)

[場所] 
[年月日] 1908年1月25日
[出典] 日本外交年表並主要文書上巻,外務省,299‐301頁.
[備考] 
[全文]

  第五號 在本邦米國大使「テイー・ジエー・オブライエン」氏ヨリ林外務大臣ニ致セル明治四十一年一月二十五日附來翰

以書翰致啓上候陳者移民規則及其ノ制限ニ對シ或ハ規定ヲ設クル件ニ關シ去ル十二月三十一日附貴翰ヲ以テ御意見御開示ノ趣致了承候右御協議ノ趣意ハ合衆國政府ノ注意迄ニ致提供置候處今般右貴翰ニ對スル囘答トシテ左ノ考案ヲ閣下ニ提出スヘキ訓令ニ接シ申候合衆國政府ハ貴大臣閣下ノ覺書二通ニ對スル槪要ヲ電報ニテ領收シ日本帝國政府ニ於テハ昨年十一月中合衆國政府ヨリ及提議候行政方法執行ニ對シ相互協助的ニ且誠實ニ隔意ナク協同一致シテ之ニ當ルヘキ御精神アルコト竝ニ其方法ノ如キ日本ニ對シ最モ都合能ク其結果ニ於テハ日米兩國共ニ其最上ノ利益ヲ保護スル上ニ於テ必要ト認ムル範圍ニ於テ速カニ本件ヲシテ有効ナラシメントノ御精神ナルコトハ我政府ニ於テモ十分感得致シ候儀ニ有之候右樣案出ニカカル方法ニシテ他日確然タル具體的ノモノトシテ之ヲ實施スルニ於テハ御協議中第一以下三項ノ目的ヲ達スルニ足ルモノト假定スルヲ以テ或ハ適當ナラント認ムルモ合衆國政府ニ於テハ御提議ニカカル第四及第五項ノ如キ方法ヲ根本的ニ應用スルモ猶他ノ各項ヲシテ實際有効ナラシムルニ足ルヤ且日本政府ノ旅劵規則ヲシテ米國領內ニ施行セシムルニ足ルヘキヤノ懸念ヲ全然排除スルコト不可能ノ儀ニシテ而シテ從來執リ來リタル手段モ亦右目的ヲ達セムトスルニ外ナラサル儀ニ有之候右二項提議ノ趣旨ハ相互共通ノモノタルヘキハ論ヲ俟タス且米國政府ニ於テハ更ニ進テ本件ニ對シ同情的ノ調査ヲ加ヘラルルニ於テハ右提議ノ論旨ニ於テ一致セラルルカ乃至本件ノ進捗ヲ謀ルノ目的ヲ達セシムルニ於テ援助トモナルヘキ他ノ方法ヲ案出スルノ一法ヲ御講究可相成コトト十分確信スル虞ニ有之候

第四項ノ協議ニ關シテハ旅劵携帶者カ之ニ據リテ附與セラレタル一般ノ權利ノ何レヲモ褫奪セラルルカ如キコトハ毫モ曾テ企及シタルコトナキモ該旅劵ハ旣ニ開陳シタルカ如キ場合ニ於テハ移民カ元來其自國政府ヨリ負フ所ノ條件ニ違反スルモ猶米國領內ニ居住シ得ヘシト云フ效力ヲ有セス之ヲ反言セハ日本臣民カ其帝國政府ヨリ負フ處ノ制裁ヲ巧ミニ違背シ得タル場合ニ際シ右制裁ヲ免カルルカ如キ權利ヲ新タニ收得シタルモノト見做スヘカラスト云フ儀ニ有之候

第五項ノ協議ニ關シテハ誤解タルコト明瞭ニ有之候其故ハ右ニ企及致候人物證明ノ必要ハ勞働ニ從事スルモノニ對シテノミ存在シ勞働者ニアラサルモノニ對シテハ毫モ關係ナキコト勿論ニ有之候尤モ合衆國政府ハ第五項中ニアル考案ニシテ其日本政府ノ意ニ適セサル以上ハ强テ之ヲ遂行セントノ意思ニハ無之候得共合衆國政府ハ日本臣民ノ其政府ノ許可ヲ得テ合衆國ニ渡航スル場合ニハ日本政府カ自カラ一定ノ方法ヲ設ケ其渡航人員ヲ調査スルコトヲ甘諾セラルルコトヲ希望致候右方法ハ日本政府カ其移民ニ對シ渡航數ヲ制限スルニ當リ之カ違反者ヲ妨止スル場合ニ於テ兩國政府ヲシテ協同一致ノ態度ニ出テシムルコトヲ得レハナリ今ヤ合衆國政府ハ其諸外國在留ノ都テノ米國市民ニ對シ其在留管轄地ノ合衆國領事館ニ就キ登錄スルコトヲ要求致居候且各領事ヲシテ登錄證明書ヲ發給セシムルコトヲモ命令致置候

右證明書ハ右登錄ヲ受ケタル者ヲシテ其身分及條約上ノ實證ヲ容易ニ提出シ得ヘキ爲ニ使用スル目的ニ有之候(千九百七年四月八日附行政命令領事規則第百七十二章改正及ヒ千九百七年四月十九日附國務省囘章參看)米國市民ニ對シ右ノ如キ政略ヲ適用スルハ必要ニシテ且異論ナキモノト認メタルノ事實ハ第五項ノ協議ヲ提出シタル時致考量居候儀ニ有之候

合衆國ニ於テハ宇內各國ヨリ渡來スル處ノ移民ニ於テ屢其移民入國法ニ違反セントスルモノアルヲ以テ同法中幾多ノ條項實施上米國政府ノ官吏ヲシテ何レノ外國人カ合法ノ居住者ナルカ何レノ者カ然ラサルカヲ判定セシムルノ目的ヲ以テ同政府ハ一般ニ猶一層嚴重ナル規則ヲ採用スルノ必要ヲ認ムルニ至ルヘク右樣ノ場合ニハ合衆國政府ハ每事其移民所屬ノ本國政府ト全然協同一致ノ運動ニ出ツルコトヲ希望可致候之ト同時ニ日本帝國政府ニ於テ本件ニ對シ熱心ノ考慮ヲ與ヘラルルニ於テハ合衆國政府ハ頗ル喜悅可致候

第六項ノ協議ニ對シテハ合衆國政府ハ米國國法ニ違反シテ米國國境ニ進入スル外國人ヲシテ三年以內何時ニテモ米國諸港ニ入港スル汽船ノ會社ヲシテ送還セシムル義務ヲ負ハシメ得ルコト容易ニ有之候現ニ存在スル處ノ協定ニテハ加奈陀ニ入港スル英國各汽船ニテモ亦右同樣ノ義務ヲ負ヒ申居候合衆國政府ハ日本帝國政府カ本問題ニ於ケル學理的法律上ノ關係ニ對シ再審査ヲ加ヘラレ日本汽船會社ヲシテ右樣ノ協定ニ加入セシムルカ然ラサレハ同會社ノ協助ヲ得ル爲メ行政上ノ手段ヲ發見セラルルコトヲ希望致候

日米兩國間ニ於ケル統計上ニ相違アルコトヲ發見致候件ニ關シテハ合衆國政府ハ其政府ノ統計ハ入港船舶ノ船目錄ト其來着ノ移民ト其旅劵ト現實ナル事實トニ據リテ十分精密ニ編纂スルモノナレハ每事十分精確ナル證據ヲ有シ居ルコトヲ單ニ言及スルニ過キ不申候右樣ノ事實有之候ニ付自然不都合ノ輩アリテ日本政府ノ旅劵規則ニ對シ盛ニ詐欺的ノ行爲ヲナセリトノ懸念ヲ抱クノ根據モ有之候儀ニ候

本信第三頁ニ係ル千九百七年四月八日附行政命令寫爰ニ添附閣下ニ及御送附候

本日附本使ノ書翰ニ加フルニ本使ハ或ハ追加ノ方法ニ對シ貴大臣ノ御承諾ノ上之ヲ御採用アル樣貴大臣ニ對シ是非御協議可致樣希望被致候右方法ハ貴大臣ヨリ御提議相成候モノト併行實施セラルル場合ニハ目下討論中ニカカル本問題ニ對シ日本政府ノ政略ヲシテ猶一層有效ナラシムルモノト確信致サレ居候

爰ニ本使ハ此機會ヲ利用シ閣下ニ向テ敬意ヲ表シ候 敬具

 規則二十一(J)

(J)實用且行政上ノ目的ヲ以テ「熟練、不熟練ノ勞働者」ナル名義ハ千九百七年三月十四日附行政命令ノ意義ノ範圍內ニ於テハ第一ニ重ニ身體的ノ仕事或ハ少クモ手工的ノ仕事ニ從事スルモノ卽チ農業日雇、道路人足、工場人足、土木請負方人足、廐人足、荷役人足、船積人足、鑛夫其他類似者ヲ指シ又大工、石工、瓦職、「ペンキ」塗工、鍛冶工、機械工手、裁縫工、印刷工等ノ如キ其ノ仕事ハ前者ニ比シ身體的ニアラサルモ尙手工的ノモノニシテ且非常ニ熟練ナルモノヲ指スト知ルヘシ然シ其ノ仕事ノ明カニ手工的ニモ亦機械的ニモアラスシテ寧ロ本業的、美術的、商業的又ハ書記的ノモノ卽チ藥劑師、製圖師、寫眞師、意匠師、賣子、簿記方、速記者、寫字生等ノ如シ前條ノ定義ハ時々變更セラルヘク且商勞務大臣ハ各種各樣ノ事實ト場合トニヨリ控訴ヲ求ムル處ノ各單獨ノ訴件判定ニ際シ右變更ノ爲メ更ニ阻害セラルルコトナシ