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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 膃肭獸保護條約(猟虎及膃肭獣保護国際条約)(オットセイ保護条約,ラッコ及オットセイ保護国際条約)

[場所] ワシントン
[年月日] 1911年7月7日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,347-351頁.
[備考] 
[全文]

  一九一一年(明治四四年)七月七日華盛頓ニ於テ調印(英文)

  同年一一月六日批准

  同年一二月一二日批准書寄託(華盛頓)

  同年同月一四日公布

亞米利加合衆國、大不列顚愛蘭聯合王國大不列顚海外領土皇帝印度皇帝陛下、日本國皇帝陛下及全露西亞國皇帝陛下ハ北太平洋ノ洋海ニ來集スル膃肭獸ノ保存及保護ノ爲有效ナル手段ヲ採ラムコトヲ欲シ之カ爲ニ條約ヲ締結スルコトニ決定シ

亞米利加合衆國大統領ハ合衆國商働務卿チヤールス、ネーゲル及國務省參事官チヤンドラー、ピー・アンダーソンヲ

大不列顚國皇帝陛下ハ其ノ亞米利加合衆國駐劄特命全權大使「ゼオーダー、オフ、メリツト」ゼ、ライト、オノラブル、ジエームス、ブライス及加奈陀外事次官「コンマンダー、オフ、ローヤル、ヴイクトリアン、オーダー、エンド、コンパニオン、オフ、ゼ、オーダー、オフ、セント、マイケル、エンド、セント、ジヨージ」ジヨセフ、ポープヲ

日本國皇帝陛下ハ其ノ亞米利加合衆國駐劄特命全權大使從三位勳一等男爵內田康哉及農商務省水產局長正四位勳三等道家齊ヲ

全露西亞國皇帝陛下ハ其ノ摩洛哥國駐劄特命全權公使「チヤンバレーン、オフ、ヒズ、マジエスチース、コート」ピエール、ポツトキン及外務省員男爵ボリス、ノールドヲ

各其ノ全權委員ニ任命セリ因テ各全權委員ハ互ニ其ノ委任狀ヲ示シ之カ良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ諸條ヲ協定セリ

第一條 各締約國ハ相互ニ左ノ事項ヲ約ス

 各締約國ノ人民又ハ臣民及凡テ其ノ法令條約ニ服從スヘキ者竝其ノ船舶カ本條約ノ有效期間白令海、勘察加海、「オコツク」海及日本海ヲ包含スル北緯三十度以北ノ北太平洋ノ洋海ニ於テ膃肭獸ノ海上猟獲ヲ爲スヲ禁止スヘキコト

 右ノ禁止ヲ犯シタル者及船舶ハ各締約國ノ海軍將校其ノ他相當ノ權限アル官吏ニ於テ拿捕抑留スルヲ得ルコト但シ拿捕ハ他ノ締約國ノ領海內ニ非サル場合ニ限ル

 拿捕抑留セラレタル者又ハ船舶ハ成ルヘク速ニ拿捕地最近ノ地點其ノ他互ニ協定スルコトアルヘキ場所ニ於ケル其ノ所屬國ノ當該官吏ニ引渡スヘキコト

 右ノ犯罪ヲ審判シ之ニ刑罰ヲ科スルノ權ハ獨リ犯罪者又ハ船舶ノ所屬國官憲ノミ之ヲ有スルコト

 右犯罪立證ノ爲必要ナル證人及證據ニシテ苟モ締約國ノ宰領內ニアルモノハ成ルヘク速ニ其ノ犯罪審判ノ管轄權ヲ有スル當該官憲ニ之ヲ提供スヘキコト

第二條 各締約國ハ自國ニ於ケル何レノ港灣タルト其ノ領土內ニ於ケル何レノ場所タルトヲ問ハス第一條ニ揭クル保護區域內ノ洋海ニ於ケル膃肭獸海上猟獲ノ作業ニ關聯スル目的ノ爲何人ニモ又如何ナル船舶ニモ之ヲ使用セシメサルコトヲ約ス

第三條 各締約國ハ第一條ニ揭クル保護區域內ノ北太平洋ノ洋海ニ於テ獲取セラレタル膃肭獸皮及獸群ノ蕃殖地ヲ領有スル締約國各自ノ權內ニ於テ獲取セラレ官ニテ記號ヲ附シ其ノ旨ヲ證明シタルモノヲ除クノ外米、露若ハ日本ノ獸群ニ屬シ「カロルヒヌス、アラスカヌス」「カロルヒヌス、ウルシヌス」若ハ「カロルヒヌス、クリレンシス」ト稱スル種族ト看做サレタル膃肭獸皮ハ何レノ締約國ノ版圖內ニモ之ヲ輸入又ハ移致セシメサルコトヲ約ス

第四條 各締約國ハ第一條ニ揭クル洋海ノ沿岸ニ棲息スル印甸人「アイノ」人、「アリユート」人其ノ他ノ土人カ他船ヲ以テ運搬セラレ又ハ他船ト相關聯シテ使用セラレサル「カヌー」艇ニシテ專ラ橈櫂ノ類又ハ帆ヲ用ヰテ推進シ一隻ノ乘員五人ヲ超過セサルモノニ依リ從來慣行ノ方法ニ從ヒ銃器ヲ使用スルコトナクシテ膃肭獸ノ海上猟獲ヲ行フ場合ニ付本條約ノ規定ヲ適用セサルコトヲ約ス但シ右ハ該土人カ他人ニ使用セラレス又其ノ獲取シタル獸皮ヲ他人ニ引渡スノ契約ヲ爲ササル場合ニ限ル

第五條 各締約國ハ其ノ人民若ハ臣民又ハ船舶ニ對シ本條約第一條ニ揭クル洋海ノ何レノ部分タルヲ問ハス其ノ領土ノ海岸線ヨリ三海里外ニ於テ臘虎ノ猟殺、捕獲又ハ追躡ヲ許ササルコトヲ約ス

第六條 各締約國ハ前數條ノ規定ヲ有效ナラシムルニ必要ナル法令ヲ制定施行シ且其ノ違反ニ對スル相當ノ罰則ヲ付スヘキコトヲ約ス

第七條 合衆國、日本國及露西亞國ハ保護ニ付特ニ利害關係ヲ有スル膃肭獸群ノ來集スル洋海ニ於テ前數條ノ規定ヲ實施スルニ必要ナル限リ各自警衞又ハ巡邏ノ設備ヲ爲スヘキコトヲ約ス

第八條 各締約國ハ第一條ニ揭クル禁猟區域內ニ於ケル膃肭獸ノ海上猟獲ヲ防止スル爲適當ニシテ且有用ナル措置ヲ執ルニ付相互ニ協力スヘキコトヲ約ス

第九條 本條約ニ於テ海上猟獲ト稱スルハ如何ナル方法ヲ以テスルヲ問ハス海上ニ於テ膃肭獸ノ猟殺、捕獲又ハ追躡ヲ爲スヲ謂フ

第十條 合衆國ハ「プリビロフ」島又ハ第一條ニ揭クル洋海ニ在リ將來膃肭獸群ノ來集スルコトアルヘキ同國所屬ノ他ノ島嶼及海岸ニ於テ同國ノ權內ニ於テ年々獲取スル膃肭獸皮ノ總數中數量及價格ノ孰レヨリスルモ之カ百分ノ十五ニ相當スルモノヲ加奈陀政府ノ公認代表者ニ、同上總數量及價格ノ百分ノ十五ニ相當スルモノヲ日本國政府ノ公認代表者ニ每猟季ノ終ニ「プリビロフ」島ニ於テ引渡スヘキコトヲ約ス但シ此ノ規定ハ合衆國カ何時ニテモ其ノ管轄內ニ在リテ膃肭獸群ノ保護保存又ハ蕃殖ニ必要ナリト認ムル島嶼又ハ海岸ニ於テ膃肭獸皮ヲ獲取スルコトヲ全然停止スルノ權利竝何レノ猟季ヲ問ハス獸皮ノ獲取數及猟獲ノ方法時期場所ニ關シ獸群ノ保護保存又ハ蕃殖ニ必要ナリト認ムル制限及規定ヲ設クルノ權利ニ對シ何等ノ拘束ヲ加フルモノニ非ス

第十一條 合衆國ハ日英兩國カ本條約ノ規定ニ依リ各自受領ノ權利ヲ有スル膃肭獸皮ノ各二十萬弗ニ相當スヘキ數量ニ代ヘテ前拂金トシテ本條約實施ノ際大不列顚國ニ二十萬弗日本國ニ二十萬弗ヲ支拂フヘキコトヲ約ス而シテ獸皮ハ前拂ノ報償トシテ合衆國之ヲ保留スヘシ右ノ計算ハ獸皮ノ引渡ヲナスヘキ際ニ於ケル未精製品ノ倫敦市價(「プリビロフ」島ヨリノ運賃ヲ引去ル)ニ基キ之ヲ爲スヘク若シ該市價ニ付爭議ヲ生シタルトキハ其ノ場合ノ如何ニ依リ或ハ合衆國ト大不列顚國ト或ハ合衆國ト日本國トノ間ニ協定スル審判官之ヲ決定スヘキモノトス

 合衆國ハ其ノ獸群ヨリ獲取シタル獲皮中本條約ノ規定ニ依リ大不列顚國及日本國ノ各自受領スヘキ配分額カ每年一千枚ヲ下ラサルヘキコトヲ約ス此ノ數量カ其ノ年ニ於ケル公定猟殺數ノ百分ノ十五ヲ超過スル場合ト雖亦同シ但シ合衆國カ島嶼ニ棲息スル土人ノ衣⻝用又ハ船用ノ外如何ナル目的タルヲ問ハス膃肭獸ノ猟殺ヲ絕對ニ禁止シタル年ニ於テハ此ノ限ニ在ラス此ノ場合ニ於テハ合衆國ハ其ノ禁猟年間獸皮ノ配分ニ代ヘテ大不列顚國及日本國ニ對シ年年各一萬弗ヲ支拂フヘキコトヲ約ス而シテ大不列顚國及日本國ハ猟殺再始後兩國各自ノ受領額ヨリ前項ノ規定ニ依リ前拂金回收ノ爲合衆國カ保留スヘキ獸皮ヲ引去リタル後尙右兩國ノ受領額カ各特定ノ最小限タル一千枚ヲ超過シタル年ニ於テハ合衆國カ該超過獸皮ヲ更ニ保留シテ本項ニ規定スル支拂金ノ回收ニ充當スルノ權利ヲ有スルコトニ同意ス但シ右更ニ保留スヘキ獸皮ノ數量ハ其ノ前項規定ノ市價ニ基キテ算出セラレタル金額カ右支拂金ノ總額ニ年四分ノ利子ヲ加ヘタルモノニ相當スルヲ限度トス

 然レトモ合衆國島嶼ニ來集スル膃肭獸ノ總數カ官ノ調査上十萬頭以內ニ下リタル年ニ於テハ膃肭獸ノ獵殺ハ其ノ數カ官ノ調査上再ヒ十萬頭ヲ超過スルニ至ル迄獸皮ノ配分又ハ之ニ相當スル金額ノ支拂ヲ爲スコトナクシテ前記土人ノ生計ニ必要ナル少量ノ供給ヲ除クノ外一切之ヲ停止スルコトヲ得

第十二條 露西亞國ハ「コンマンダー」島又ハ第一條ニ揭クル洋海ニ在リ將來膃肭獸群ノ來集スルコトアルヘキ同國所屬ノ他ノ島嶼及海岸ニ於テ年々獲取スル膃肭獸皮ノ總數中數量及價格ノ執レヨリスルモ之カ百分ノ十五ニ相當スルモノヲ加奈陀政府ノ公認代表者ニ、同上總數量及價格ノ百分ノ十五ニ相當スルモノヲ日本國政府ノ公認代表者ニ每獵季ノ終ニ「コンマンダー」島ニ於テ引渡スヘキコトヲ約ス但シ此ノ規定ハ露西亞國カ本條約期間ノ最初ノ五年間何時ニテモ其ノ管轄內ニ在リテ膃肭獸群ノ保存保護又ハ蕃殖ニ必要ナリト認ムル島嶼又ハ海岸ニ於テ膃肭獸皮ヲ獲取スルコトヲ全然停止スルノ權利竝本條約ノ有效期間何レノ猟季ヲ問ハス獸皮ノ獲取數及獵獲ノ方法時期場所ニ關シ獸群ノ保存保護又ハ蕃殖ニ必要ナリト認ムル制限及規定ヲ設クルノ權利ニ對シ何等ノ拘束ヲ加フルモノニ非ス尤モ露西亞國ハ本條約期間ノ最後ノ十年間年々其ノ膃肭獸蕃殖地及集合地ニ於ケル膃肭獸總數ノ百分ノ五ヲ下ラサル數ヲ獵殺スヘキコトヲ約ス但シ右ハ上記百分ノ五カ其ノ年ニ上陸スル三歲ノ牡獸ノ百分ノ八十五ヲ超過セサル場合ニ限ル

 然レトモ露西亞國島嶼ニ來集スル膃肭獸ノ總數カ官ノ調査上一萬八千頭以內ニ下リタル年ニ於テハ其ノ數カ官ノ調査上再ヒ一萬八千頭ヲ超過スルニ至ル迄前揭獸皮ノ配分ヲ爲サス且島嶼ニ棲息スル土人ノ生計ニ必要ナルモノヲ除クノ外一切ノ膃肭獸ノ獵殺ヲ停止スルコトヲ得

第十三條 日本國ハ海豹島又ハ第一條ニ揭クル洋海ニ在リ將來膃肭獸群ノ來集スルコトアルヘキ同國所屬ノ他ノ島嶼及海岸ニ於テ年々獲取スル膃肭獸皮ノ總數中數量及價格ノ孰レヨリスルモ之カ百分ノ十ニ相當スルモノヲ合衆國政府ノ公認代表者ニ、同上總數量及價格ノ百分ノ十ニ相當スルモノヲ加奈陀政府ノ公認代表者ニ又同上總數量及價格ノ百分ノ十ニ相當スルモノヲ露西亞國政府ノ公認代表者ニ每獵季ノ終ニ海豹島ニ於テ引渡スヘキコトヲ約ス但シ此ノ規定ハ日本國カ本條約期間ノ最初ノ五年間何時ニテモ其ノ管轄內ニ在リテ膃肭獸群ノ保存保護又ハ蕃殖ニ必要ナリト認ムル島嶼又ハ海岸ニ於テ膃肭獸皮ヲ獲取スルコトヲ全然停止スルノ權利竝本條約ノ有效期間何レノ獵季ヲ問ハス獸皮ノ獲取數及獵獲ノ方法時期場所ニ關シ獸群ノ保存保護又ハ蕃殖ニ必要ナリト認ムル制限及規定ヲ設クルノ權利ニ對シ何等ノ拘束ヲ加フルモノニ非ス尤モ日本國ハ本條約期間ノ最後ノ十年間年々其ノ膃肭獸蕃殖地及集合地ニ於ケル膃肭獸總數ノ百分ノ五ヲ下ラサル數ヲ獵殺スヘキコトヲ約ス但シ右ハ上記百分ノ五カ其ノ年ニ上陸スル三歲ノ牡獸ノ百分ノ八十五ヲ超過セサル場合ニ限ル

 然レトモ日本國島嶼ニ來集スル膃肭獸ノ總數カ官ノ調査上六千五百頭以內ニ下リタル年ニ於テハ其ノ數カ官ノ調査上再ヒ六千五百頭ヲ超過スルニ至ル迄前揭獸皮ノ配分ヲ爲サス且島嶼ニ棲息スル土人ノ生計ニ必要ナルモノヲ除クノ外一切ノ膃肭獸ノ獵殺ヲ停止スルコトヲ得

第十四條 大不列顚國ハ第一條ニ揭クル洋海ニ在ル同國所屬ノ島嶼及海岸ニ將來膃肭獸群ノ來集スルコトアル場合ニ於テハ本條約期間右獸群ヨリ年々獲取スル膃肭獸皮ノ總數中數量及價格ノ孰レヨリスルモ之カ百分ノ十ニ相當スルモノヲ合衆國政府ノ公認代表者ニ、同上總數量及價格ノ百分ノ十ニ相當スルモノヲ日本國政府ノ公認代表者ニ又同上總數量及價格ノ百分ノ十ニ相當スルモノヲ露西亞國政府ノ公認代表者ニ每獵季ノ終ニ引渡スヘキコトヲ約ス

第十五條 合衆國及大不列顚國ハ千九百十一年二月七日兩國間ニ締結シタル膃肭獸ニ關スル條約ノ規定ニシテ本條約ノ規定ト牴觸又ハ重複スル部分ニ付テハ本條約ノ規定ヲ以テ之ニ代フヘキコトヲ約ス

第十六條 本條約ハ千九百十一年十二月十五日ヨリ之ヲ實施シ同日ヨリ十五年間及其ノ後締約國中ノ或者ヨリ爾餘ノ締約國ニ對シ爲シタル十二月前ノ書面通吿ヲ以テ廢棄セラルル迄引續キ效力ヲ有ス右ノ通吿ハ十四年ヲ經過シタルトキ又ハ其ノ後何時ニテモ之ヲ爲スコトヲ得又本條約終了前何時ニテモ締約國中ノ一國ヨリ請求アルトキハ各締約國ハ直ニ代表者ヲ會合セシメ本條約ノ期間延長及若シ必要アラハ之ト共ニ追加修正ヲ協議シ成ルヘク之ニ同意スヘキコトヲ約ス

第十七條 本條約ハ亞米利加合衆國大統領(元老院ノ協賛ヲ經テ)、大不列顚國皇帝陛下、日本國皇帝陛下及全露西亞國皇帝陛下ニ於テ批准セラルヘク批准書ハ成ルヘク速ニ華盛頓ニ於テ之ヲ交換スヘシ

右證據トシテ各全權委員本條約四通ニ署名調印ス

  明治四十四年七月七日卽西曆千九百十一年七月七日華盛頓ニ於テ

   チヤールス、ネーゲル 印

   チヤンドラー、ピー、アンダーソン 印

   ジエームス、ブライス 印

   ジヨセフ、ポープ 印

   內田康哉 印 

   道家齊 印

   ピー、ボットキン 印

   ノールド 印