データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 對淸政策に關する件(対清政策に関する件)

[場所] 
[年月日] 1911年10月24日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,356-357頁.
[備考] 
[全文]

 明治四十四年十月二十四日閣議決定

 翌二十五日總理外務兩大臣ヨリ奏上濟(內田大臣花押)

帝國カ政事上並ニ經濟上淸トノ間ニ極メテ密接ナル關係ヲ有スルニ鑑ミ帝國ニ於テ常ニ同國ニ對シテ優勢ナル地位ヲ占メンコトヲ努メ併セテ滿洲ノ現狀ヲ永遠ニ持續スルノ策ヲ講スヘキコトハ前內閣在職中廟議ニ於テ旣ニ決定セラレタル所ナリ

滿洲ニ於ケル租借地ノ租借期限ヲ延長シ鐵道ニ關スル諸般ノ問題ヲ決定シ更ニ進ンテ該地方ニ對スル帝國ノ地位ヲ確定シ以テ滿洲問題ノ根本的解決ヲナスハ帝國政府ノ常ニ畵策ヲ怠ルヘカラサル所ニ屬シ苟モ機ノ乘スヘキアラハ之ヲ利用シ此ノ斷案ヲ下スノ手段ヲ講スヘキハ論ヲ待サル次第ナル處關東州ノ租借ニ關シテハ旅順及大連灣租借條約第三條末段ノ規定アリ租借期限滿了後延期ノ商議ヲナスハ條約上旣ニ之ヲ豫見セル次第ナルノミナラス滿洲ニ關スル北京協約第十三條ニ依リ帝國ハ租借地ニ關シテモ亦最優待遇ヲ受クヘキコトトナリ居リ租借期限ノ延長問題ハ我ニ於テ條約上ノ根據ヲ有スル事項ニ屬スルヲ以テ滿洲ニ關シテハ暫ラク現狀ヲ維持シテ之カ侵害ヲ防キ傍ラ好機ニ際シテ漸次我利權ヲ增進スルコトヲ努メ滿洲澗題ノ根本的解決ニ至リテハ其機會ノ最モ我ニ利ニシテ且其成算十分ナル場合ヲ待チテ初メテ之ヲ實行スルコトヲ得策ナリト思考ス

飜テ支那本部ニ對スル帝國ノ關係ヲ見ルニ在留帝國臣民ノ多キ我通商貿易ノ大ナル將又我ニ於テ關係ヲ有スル企業ノ增加シツツアル帝國カ此地方ニ於テ優勢ナル地步ヲ占ムルノ氣運ハ旣ニ顯然タルモノアリ加フルニ淸國ニ於ケル事態ハ極メテ安靜ヲ缺キ今後ノ形勢如何ハ何人モ之ヲ豫知スルヲ得サルモノアリ而シテ一旦不測ノ變ノ此地方ニ起生スルニ方リ之ニ對シテ應急ノ手段ヲ講シ得ルモノ帝國ヲ措テ他ニ之ヲ發見スルコト能ハス此事實ハ帝國地理上ノ位置並ニ帝國ノ實力ニ照シ更ニ疑ヲ容ルヘカラサル所ニシテ一面帝國ノ東亞ニ於ケル一大任務モ亦之ニ存スルモノト云ハサルヘカラス帝國ハ今後自ラ敍上ノ地位ヲ覺認シ且之ヲ確立スルコトヲ努メサルヘカラサルノミナラス淸國並ニ列國ヲシテ漸次之ヲ承認セシムルノ方策モ亦今ヨリ是非共之ヲ講セサルヘカラス而シテ列國ニシテ深ク東亞ノ大勢ヲ考慮スルニ於テハ遂ニ我優勢ナル地位ヲ認ムルニ至ルヘキコト必スシモ望ナキニアラスト思考ス

右ノ次第ニ付帝國政府ニ於テハ滿洲問題ノ根本的解決ハ一ニ我ニ最モ有利ナル時期ノ到來ヲ待ツコトトシ今後特ニ力ヲ支那本部ニ扶殖スルニ努メ併セテ他國ヲシテ該地方ニ於ケル我優勢ナル地位ヲ承認セシムルノ方法ヲ取ルコトトナシ帝國政府旣定ノ方針ニ基キ一方滿洲ニ關シ露國トノ步調ヲ一ニシテ我利益ヲ擁護スルコトヲ計リ一方出來得ル限リ淸國ノ感情ヲ融和シ彼ヲシテ我ニ信賴セシムルノ方策ヲ取ルノ外英國ニ對シテハ飽迄同盟條約ノ精神ヲ徹底スルコトニ努メ其他佛國ノ如ク支那本部ニ利害關係ヲ有スル諸國トノ間ニ調和ノ途ヲ講シ且出來得ル限リ米國ヲモ我伴侶ノ內ニ收ムルノ策ヲ取リ以テ漸次我目的ヲ達センコトヲ期スルヲ必要ナリト信ス

以上ノ趣旨ニシテ廟議ノ決定ヲ經ルニ至ラハ武昌ニ於ケル今回ノ革命變亂ニ對シテモ亦右ノ方針ニ準據シ隨時必要ナル措置ヲ取ルコトトナサントス