[文書名] 對華借款問題會議議事(対華借款問題会議議事)
大正七年十一月十一日自後二時至後七時
於外務大臣官邸
列席者 內田外務大臣
高橋大藏大臣
犬塚農商務次官
幣原外務次官
小幡駐支公使
埴原政務局長
小村政務局第一課長
廣田外務大臣祕書官
議事ニ入ルニ先チ小幡公使ヨリ帝國ノ對支外交上ノ障碍トシテ左ノ四點ヲ擧ケ之カ改善方ニ付注意ヲ喚起シタリ
第一、日支間ニ現存スル誤解ヲ根本的ニ除却スルコト之カ爲ニハ從來ノ如キ侵略主義ヲ抛棄シ萬事公正ノ態度ヲ以テ支那ニ對スルコトノ要アルヘシ
第二、在支外國人ノ對日反感ノ熾烈ナルコト從テ成ヘク外國人ノ權利ヲ無視シ其ノ感情ヲ害スルカ如キ政策行動ニ出テサルコトニ努ムルノ要アルヘシ
第三、從來對支外交上帝國政府ノ施措統一ヲ缺キ爲ニ幾多ノ不利ヲ招キタルハ顯著ノ事實ナリ仍テ今後ハ對支外交機關ヲ統一スルノ要アルヘシ
第四、日本ニハ南方派北方派宗社黨乃至ハ利權主義者又ハ文化主義者等アリ其支那ニ對スル見解悉歸一スル所ヲ知ラス此ノ如クンハ支那ニ對スル帝國ノ政策ヲ遂行スルコト極メテ難事ナリ仍テ相成ルヘクハ國論ノ一致ヲ希望スルモ少クトモ新聞論調丈ニテモ之ヲ指導シ帝國ノ對支態度統一ニ便ニスルコトトシタシ
右要項ニ基キ小幡公使ヨリ說明スル所アリ之ニ對シ內田外務大臣ヨリ右ハ大體同感ナルモ其ノ實行不鮮困難ナルヘシ然シ折角之カ遂行ニ努ムヘシトノ意ヲ述へ山本農商務大臣其他モ亦小幡公使ノ所述ニ同意ヲ表シタリ
議事
議事ニ入リ小村課長ヨリ十月二十九日閣議決定ノ次第竝別紙蒟蒻版(列席者ニ配付セリ)前文ヲ朗讀シタルニ後段「尤モ目下ハ南北對峙ノ狀勢特ニ緊張シ居レル際ナルヲ以テ差當リテハ此種借款ト雖成ルヘク差控ヘシムルコト大局上得策トス」トノ點ニ關シ高橋大藏大臣ヨリ「日支個人間又ハ銀行間ノ貸借ノ如キハ差支ナカルヘシ」トノ意見アリ之ニ對シ幣原外務次官ヨリ「右ハ勿論ナリ個人間ノ貸借等ニ在リテハ所謂政治借款又ハ實業借款ノ問題ヲ生セス茲ニ問題トスルハ支那政府筋ヲ相手トスル借款ニノミ限ラルルモノナリ」トノ說明アリ
次テ內田外務大臣ヨリ南北妥協ノ上ハ孰レ大借款ニ應セサルヘカラサルコトナルヘキカ其ノ際他國ニ於テ都合惡シキ場合ニハ日本限リニテ二、三億ノ借款ニ應スル覺悟アルヤ否ヤ高橋大藏大臣ニ對シ質問アリ大藏大臣ヨリ在外正貨ノ堆積ハ必シモ放資力ノ豊富ヲ意味スルモノニ非ル旨說明アリ一億ノ出資ト雖トモ頗ル難シトスルモ愈其ノ時期ニ至リテハ何等カノ方法ヲ講スヘシトノ回答アリ
決議
日支個人間ノ貸借ノ件ニ關スル前記了解ノ下ニ別紙蒟蒻版前文ノ通り決定
次テ別紙蒟蒻版所載西原關係借款始末方ニ關スル議事ニ入ル
(イ)吉黑森林金鑛借款
本借款ト日露密約トノ關係在本邦露國大使及在北京露國公使抗議ノ次第ニ付幣原次官及小幡公使ヨリ說明スル所アリ次テ此際日露密約ヲ廢棄スルノ可否モ論議ニ上リシカ目下ノ露國ノ情況ニ際シ我方ヨリ該協約ヲ廢棄スルハ外國ヲシテ日本ハ露國ノ慘禍ニ乘シ私利ヲ圖ルモノナリトノ非難ヲ招キ結局日本ニ取リ不得策ナルニ付「ウイルソン」大統領十四箇條提案ノ實行等ニ伴ヒ自然ノ趨勢ニヨリ該協約ノ失効ヲ見ルニ於テハ兎ニ角此ノ際我ヨリ廢棄措置ヲ執ルハ見合ス方然ルヘシトノコトニ致シ又技師派遣ノ義ハ當分見合ハセノ結果借款利子モ取レヌコトトナルノ虞ナキヤ果シテ然ラハ利子ハ別ニ支出セシムルコトトスヘキカ何レニセヨ本件借款ハ此以上進捗セシメヌコトトシ卽チ技師派遣ノコトモ遷延セシムルコトトシタシトノ趣旨ニテ左ノ通議決セリ
決議
小幡公使北京赴任ノ上ハ在北京露國公使ヨリ本件ニ付質問アルヘキ處之ニ對シテハ大體別紙蒟蒻版(イ)ノ趣旨ヲ含ミ本件借款ノ事實ヲ肯定スルト共ニ本件借款ト日露密約ノ關係ニ付テハ目下帝國政府ニ於テ折角考量中ナル旨ヲ答フルコト一方技師派遣方ニ關シ支那政府ヨリ督促アラハ相當挨拶シテ成ルヘク實行ヲ遷延スルコトニ努ムヘク之カ爲外務省ヨリ三銀行ニ對シ右ノ方針ヲ以テ適當ノ指示ヲ與フルコト尙政府ニ於テ森林及鑛山ノ價値如何ヲ調査スルコト
(ロ)吉會鐵道借款
別紙蒟蒻版所載ノ趣旨ニ基キ本契約ノ訂結ヲナスコト而シテ契約案ニ關シテハ從來ノ大藏省案ハ不備ナルニ付改メテ外務省大藏省間ニ篤ト協議ヲ遂クルコト
尙本契約ノ締結期旣ニ切迫シ居ルニ付本件ノ措置ハ急速之ヲ爲スコト
(ハ)滿蒙四鐵道及山東鐵道借款
滿蒙四鐵道及吉會鐵道ハ滿鐵ヲシテ之カ建設ニ當ラシメ山東鐵道ハ東亞興業會社ヲシテ之ニ當ラシムルコトニ決定 着手スヘキ線路ハ未定ナリ尙關東都督ヨリ別紙ノ通リ來電アリタルモ本契約ハ三銀行ヲシテ締結セシメ然ル後新當時者ニ引次クカ若シクハ新當時者ヲシテ本契約ノ締結ニ當ラシムルカハ前貸金問題トノ關係モアリ亦一方ヨリ見レハ當事者ノ變更ナルヲ以テ支那政府トノ關係モ考慮スルノ要アリ更ニ外務大藏兩省間ニ於テ協議決定スルコトニ決定
(ニ)製鐵所借款案
一、山本農商務大臣ヨリ別紙意見書提出アリ結局製鐵所借款ハ未タ成立セサルモノト了解セラルルニヨリ一旦打切リトスルコト尤モ本件ニ關シテハ前內閣ニ於テ閣議決定ノ次第アルコト故右打切ノコトハ其旨閣議ニ於テ決定スルヲ要ス
二、支那鐵礦ニ關スル排斥的法規ハ之ヲ撤廢セシムルニ努カスルコト
三、敍上ノ次第ニ依リ鳳凰山其ノ他製鐵所借款ノ爲累ヲ受ケタル個人關係ノ鑛山ニ關スル對支交涉ハ勿論之ヲ復活セシメ差支ナク又政府ニ於テモ製鐵所借款問題起生前ノ狀態ニ立戾リテ右個人關係ノ礦山ニ關スル對支交涉ニ支持ヲ與フルコト
(ホ)金劵條例問題
決議
本件ハ一段落着キタルモノト認メ別紙蒟蒻版所載ノ通リ措置スルコトニ決定
(ヘ)團匪事件賠償金抛棄問題
決議
本件實行ハ國庫ヨリ預金部へ資金補塡ノ關係モアリ議會ノ協賛ヲ經ルノ要アル處其ノ抛棄ノ時期ハ何時ナルヤ豫測スルヲ得ス又賠償金支拂ハ旣ニ五年間延期ノコトニ決シアルヲ以テ其ノ期限到達スル迄ハ右抛棄ヲ決行スルト否トハ國庫ノ收入ニ事實上ノ消長ヲ來タスモノニ非ス從テ此ノ際豫メ本期機會ニ本案ヲ提出シ其ノ協賛ヲ經ルコトハ强テ必要モナカルヘキコト竝別紙蒟蒻版所載ノ趣旨ニテ措置ノコトニ決定
(ト)鐵道借款團ノ件
決議
別紙蒟蒻版所載ノ通リ此儘中止ノコトニ決定
一、對外借款問題取扱方ニ關スル件
對外借款ト謂ヒ凡テノ外國ヲ包含セシムルハ廣キニ過クルヲ以テ差當リ支那及在西比利亞ニ限ルコトニ決定セリ(別紙参照)
尙高橋大藏大臣ヨリ右政府ノ借款方針ヲ遵守セサル者ハ政府ニ於テ啻ニ保護ヲ與ヘサルノミナラス一般ノ對外放資ニシテ大藏大臣ノ承知シ居サルモノハ禁止スルコトアルヘシトノ意見ヲ述ヘタリ
(一)對外借款問題主管省ニ關スル件
今後對外借款施措ノ統一ヲ圖ル爲主管省ヲ確定スル件ニ關シ高橋大藏大臣ハ對外借款ハ外交上ノ關係密接ナルヲ以テ外務省之カ主管タルハ勿論ナリ從テ對支借款ノ如キ今後ハ全然外務省ノ主管トスヘシ但シ大藏省之カ協議ニ與ルヘキハ言ヲ俟タスト述ヘタリ