データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 山東問題に關する內田外務大臣の聲明(山東問題に関する内田外務大臣の声明)

[場所] 
[年月日] 1919年5月17日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,490‐491頁.
[備考] 
[全文]

大正八年五月十七日午前十一時三十分公表

第一回

最近世局ノ推移ニ伴ヒ各種重要ナル國際問題簇出スルニ至リタル處凡ソ此等諸問題ハ關係列國ノ間ニ融和互信ノ關係アリテ始メテ滿足ナル解決ヲ期スルコトヲ得ヘシ之カ爲ニハ各國民ハ常ニ他國民ノ行動ニ對シ冷静ニシテ公平ナル判定ヲ下スコトヲ要シ一面自己ノ立場ヲ考量スルト共ニ他面他國民ノ立場ヲ了解シテ各當事國特異ノ見地ヲ調和スルニ努メサルヘカラス之ニ反シ事實ニ基カスシテ徒ニ疑念又ハ偏見ヲ抱キ或ハ自己ヲ慮ルニ急ニシテ他國ノ利害ヲ顧ミサルカ如キハ何レノ場合ニ於テモ事ニ益ナキノミナラス今ヤ鞏固永久ナル平和ノ樹立ヲ目的トスル世界改造ノ企畫中ニ際シ殊ニ有害危險ナリト信ス近時內外新聞紙上ニ散見スル評論中此ノ見地ヨリシテ極メテ遺憾ナルモノアリ例ヘハ本邦新聞紙ノ一部ニハ北京ニ於ケル友邦代表者カ暗ニ支那ニ於ケル日本ノ勢力排擠ヲ事トセリト云フカ如キ又ハ西比利亞ニ於テ一二外國カ日本ノ利益ニ反スル政治上乃至經濟上ノ活動ヲ試ミ居レリト云フカ如キ若ハ朝鮮ニ於ケル外國宣敎師カ騷擾ヲ煽動シタリト云フカ如キ往々ニシテ何等的確ナル事實ニ基カス又其ノ日本ノ地位ニ影響スヘキ重大ナル結果ヲ顧慮スルコトナクシテ猥リニ他國ノ行動ヲ批難スル者ナキニ非ス他ノ一方ニ於テ支那ニ於ケル外國新聞記者中ニモ亦往々日本ノ眞意ヲ誤解若ハ曲解シテ頻リニ有害ナル報道ヲ傳フル者アリ其ノ甚シキニ至リテハ日本カ今回ノ戰役中獨逸ト祕密同盟ノ締結ヲ企圖セリト云フカ如キ荒唐無稽ノ流言ヲ敢テシ以テ日本ヲ讒誣セムトスル者スラ之レアルヲ見ル然レトモ日本國民ハ此等無思慮ナル外國記者ノ施爲ニ倣ヒテ自ラ類似ノ言動ヲ試ミ其ノ結果國際間ニ於ケル不信孤立ノ勢ヲ招致スルノ愚ヲ學フヘカラサルナリ若シ我正當ナル權利又ハ利益ニシテ他國ノ爲ニ無視セラルルカ如キ事實アリトセハ其ノ利權ヲ擁護スル唯一有效ノ手段ハ關係列國ニ對シ坦壞率直ニ事ノ眞相ヲ指摘シテ反省ヲ求ムルニ在リ目下何レノ方面ニ於テモ斯ノ如キ憂慮スヘキ何等事實ノ認ムヘキモノナキモ萬一事茲ニ至ラハ政府ハ直ニ必要ナル手段ヲ執ルニ躊躇スルモノニアラス

飜リテ我邦ト支那トノ關係ヲ見ルニ支那官民中往々日本ノ眞意ニ對シテ深ク疑惑ノ念ヲ懷キ殊ニ日本ニ於テ今次膠州灣租借地ヲ支那ニ還附スヘキ旣定ノ方針ヲ變更セムトスル意圖ヲ有スルカ如ク誤信セル者アルヲ聞クニ至リテハ余ノ甚タ意外トシ遣憾トスル所ナリ

余ハ茲ニ牧野男爵カ山東問題ニ關スル日本ノ地位ヲ說明スル爲ニ五月四日巴里ニ於テ新聞紙上ニ發表シタル聲明ヲ確認セムトス卽チ日本ハ其ノ公約セル所ハ嚴ニ之ヲ恪守スルモノニシテ山東半島ハ其ノ完全ナル主權ト共ニ支那ニ還附セラルヘク日支兩國相互ノ利益增進ノ爲締結セラレタル一切ノ協定ハ誠實ニ遵行セラルヘシ支那ハ其ノ參戰ノ結果聯合國ヨリハ團匪事件賠償金支拂停止及關稅現實五分引上ノ承諾ヲ得タルノミナラス更ニ獨逸ヨリハ講和條約ニ基キ極メテ有利ナル條件ヲ收ムルヲ得ヘク日本ハ此等事項ニ關シ欣然支那ノ正當ナル希望ヲ支持シタリ尙帝國政府ハ曩ニ前期帝國議會ニ於テ余ノ聲明シタル通公正共助ノ精神ヲ根幹トシテ我對支關係ヲ確立セムトスル方針ヲ飽ク迄遂行セムト欲スルモノナリ