データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 張作霖に對する態度に關する件(張作霖に対する態度に関する件)

[場所] 
[年月日] 1921年5月17日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,524‐525頁.
[備考] 
[全文]

大正十年五月十七日閣議決定

張作霖ノ企望カ東三省ニ於ケル實權ヲ維持確保シ進ムテ中央政界ニ其ノ權勢ヲ伸張セムトスルニ在ルハ殆ト疑ヲ容レサル處ニシテ現ニ最近我文武官憲ニ對シ武器其他物質的援助ヲ需メムトスルノ希望ヲ述へ來レル處同人今後ノ活動ニ對スル帝國ノ態度ハ最愼重ナル考量ヲ要スルモ大體ニ於テ張作霖カ東三省ノ內政及軍備ヲ整理充實シ牢固ナル勢力ヲ此ノ地方ニ確立スルニ對シ帝国ハ直接間接之ヲ援助スヘシト雖中央政界ニ野心ヲ遂クルカ爲帝國ノ助力ヲ求ムルニ對シテハ進ンテ之ヲ助クルノ態度ヲ執ラサルコト適切ナル對策ナリ右ノ方針ニ基キ尙出先帝國官憲ヲシテ臨機我カ眞意ヲ張ニ徹底セシメ彼我ノ連絡接觸ニ便ナラシムル爲接衝上ノ心得ヲ左ノ通リ決定シ置クヲ要ス

(一)帝國カ張ヲ援助スルノ主旨ハ張個人ニ對スルニ非スシテ滿蒙ノ實權ヲ掌握セル彼ヲ援助シ以テ滿蒙ニ對スル我カ特種ノ位置ヲ確實ニスルニアリ

故ニ帝國ハ何人ト雖モ滿蒙ニ於テ張ト同樣ノ地位ニ立ツ者ニ對シテハ之ト提携シ彼我共ニ其ノ利益ヲ享受スルニ勉メサルヘカラス

(二)帝國一度西比利ヨリ撤兵スルニ至ラハ之ト同時ニ東支鐵道問題、滿蒙政策、朝鮮統治竝ニ治安ノ維持及露支、日露國境地方ノ防備等ニ關シ日支間ニ協定施設スヘキコト頗ル多ク而カモ支那側當面ノ對手ハ張ニアルコト勿論ニシテ帝國カ此等ノ目的ヲ達センカ爲メニハ張ヲシテ好意ヲ以テ我ニ對セシメサルヘカラス此意味ニ於テ帝國ハ張ヲシテ滿蒙ニ有スル根據ヲ失脚セサル如ク之ヲ援助スルコト必要ナリ

(三)兵器供給ハ支那ニ對スル兵器供給差止ニ關スル列國ノ協定存續スル限リ到底帝國政府ニ於テ張ノ要望ヲ應諾シ得ヘキ限ニアラス寧ロ兵器製造所ヲ設立セシメ自給ノ途ヲ講セシムルヲ可トス

(四)財政援助ハ帝國政府ニ於テ臨機好意的考慮ヲ加フルニ吝ナラスト雖可成經濟借款殊ニ合辦投資ノ形式ヲ執ルコト列强ノ妬疑中央政府ノ嫉視ヲ避クル爲肝要ナリ就テハ張巡閱使ニ於テモ益々日支經濟提携ノ實ヲ發揚スルニ努メ例ヘハ土地租借鑛山森林經營其他有望企業ニ關シテハ力メテ旣存ノ又ハ新設ノ日支合辦公司ニ依リ共同辦理ノ方法ヲ講シ所謂共存共榮ノ本義ヲ實践スルニ盡力セハ目立ツコトナク自然ニ東三省ノ財政ヲ豊ナラシムルヲ得ヘシ

(五)東支鐵道ニ關スル帝國ノ方針確立セハ之カ達成ヲ期スルニ當テハ張作霖トノ了解ニ俟タサルヘカラサルモノ極メテ多シ殊ニ東支鐵道南線ノ軌道改築ニ付然リ仍テ時機ヲ見テ右改築ハ(一)張巡閱使ノ實權下ニ在ル南北兩滿洲ノ交通連絡ヲ圓滑自由ニスルコト、(二)殊ニ京奉鐵道トノ直通連絡統一ヲ實現スルコト、(三)南北滿洲ノ兵力集散ニ便ナラシムルコトノ政治上經濟上軍事上ノ三大利益アルコトヲ說明シ彼ノ手ヲ通シテ東支鐵道ニ對スル借款ヲモ行ヒ彼ノ力ニヨリテ東支鐵道廳ヲ動カシ以テ南線改築促進ヲ計ルニ努ムヘシ