データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 極東共和國との軍事協定案に關する件

[場所] 
[年月日] 1921年10月25日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,532‐533頁.
[備考] 
[全文]

大正十年十月二十五日閣議決定

目下大連ニ於テ交涉中ナル極東共和國トノ通商其他ニ關スル協約成立スルニ於テハ右協約中ニ豫見スル軍事々項細部ノ協定ヲ遂クルノ必要アル所右ハ左ノ通リ之ヲ取極ムルコトト致度

一、浦潮附近ニ現存スル海陸兩正面諸要塞ハ極東共和國政府之ヲ廢棄シ爾後何等ノ補修又ハ施設ヲ爲スコトナカルヘシ

二、極東共和國政府ハ將來其領域沿岸及ヒ朝鮮國境附近ニ於ケル軍港要塞ノ設備等其他日本國ヲ脅威スル総テノ軍事的措置ヲ爲ササルモノトス

(備考)先方ニ於テ異議アル場合ハ前項中「其他日本國ヲ脅威スル総テノ軍事的措置」ナル文字ハ之ヲ削除スルモ差支ナシ

三、極東共和國政府ハ綏芬河口、露支國境Ⅱ號界標ヲ連ヌル線以南ノ地域ニ一定數以內ノ民警ノ外一切ノ武裝團體ヲ駐劄セシムルコトナシ

但シ不逞團體掃蕩等ノ爲必要ナル時ハ豫メ日本側ト協議ノ上期間ヲ限リ所要ノ武裝團體ヲ行動セシムルコトヲ得

四、在「ルスキー」島無線電信所ノ施設ハ現在ノ儘當分ノ內日本陸海軍其使用ヲ繼續シ現在協定ノ範圍內ニ於テ露國側ノ使用ヲ許ス

五、極東共和國政府ハ日本國軍事委員ノ浦潮、齊多、尼市、哈府及武市等ノ重要都市ニ駐在スルコトヲ承認シ其領域內ニ於テ常ニ之ヲ保護シ生命、身體、財產ノ不可侵及通信、旅行ノ自由ヲ保證スルモノトス

六、日本軍カ極東共和國領域內ノ鐵道ニ施シタル一切ノ作業設備及架設セル電線ハ現狀ノ儘無償ニテ極東共和國政府ニ交附セラルヘシ

極東共和國政府ハ前記諸作業ノ爲メ露國側ヨリ提供セル材料又ハ其代金ヲ請求スルコト無シ

七、押收物件ハ現在ノ儘極東共和國政府ニ引渡スモノトス

但シ該物件中其不正使用カ內外人ニ對シ危害ヲ及ホシ又ハ我治安ヲ紊スカ如キ虞アリト認ムルモノハ日本軍ニ於テ適宜處理スルモノトス

(備考)撤兵終了期ニ就テハ先方ニ於テ要求スル場合ニハ非公式ニ之ヲ通吿シ差支ナシ

尙又本件撤兵措置ヲ圓滑ニ進行セシムル爲メ左記訓令ヲ浦潮派遣軍司令官ニ發スルコトト致度

一、通商其他ニ關スル協約調印ヲ終ラハ浦潮派遣軍ハ軍事々項細部ノ協定ノ成立ヲ俟ツコトナク直チニ其ノ駐屯區域ヲ尼市以南ニ縮少ス

二、極東共和國ト「メルクーロフ」政權トノ妥協ハ極力之ヲ促進セシムヘシ但シ其成立セサル場合ニ於テ日本軍ノ行動或ハ押收物件引渡等ヲ妨害スル者アレハ之ヲ排除スヘシ

(參考)尙ホ日本軍撤去ニ際シ不慮ノ事件ノ發生ヲ豫防スル爲メ兩國軍事委員間ニ左ノ通リ協定ヲ遂クルコトトスル豫定

一、極東共和國軍隊ハ日本國軍隊ノ撤退ニ伴ヒ逐次舊日本軍ノ駐屯地域內ニ前進ス

二、「パルチザン」匪徒其ノ他ノ行動ニシテ日本軍ノ撤去ニ影響ヲ及ホスカ如キ場合ニハ日本軍ハ撤去ニ關スル行動ヲ變更シ適宜ノ處置ヲ採ルコトアルヘシ