[文書名] 太平洋防備問題に關し訓令の件(太平洋防備問題に関し訓令の件)
大正十年十二月十日
一、日米兩國(若クハ日英米佛四國)ハ各自本國ヨリ隔在スル太平洋諸島ノ防備現狀ヲ維持スヘク且將來新タニ軍事的施設ヲナササルコトノ原則ヲ提議スルコト(各國本土及之ニ近接スル島嶼竝ニ濠洲新西蘭各自治領ヲ含マサルモノトス)
二、本件ハ主トシテ日米兩國間ノ問題ナルモ若シ米國側ニ於テ太平洋ニ島嶼ヲ有スル其ノ他ノ諸國ト共ニ協議センコトヲ希望スルニ於テハ我ニ於テ異議ナキコト
三、本件適用區域ニ各國本土ヲ包含セシムルコトハ他國ニ於テモ恐ラク容易ニ承認セサルヘク又日本本土ノミヲ加フルカ如キハ公平ナラサルコト勿論ナリ
四、布哇ニ關シテハ米國ヨリ强キ反對アルニ於テハ適用區域ノ外ニ置クニ同意シ差支ナキコト
五、右原則ハ四國協商又ハ海軍協定制限中ニ可成規定シ度キモ場合ニ依リ共同宣言又ハ別箇ノ文書交換ニ依ルモ別ニ差支ナキコト
元來太平洋防備問題ハ華盛頓會議提唱ノ當初ヨリ帝國政府ニ於テ特ニ重キヲ措キ我國論亦本問題ノ成行ニ深甚ノ注意ヲ拂ヒ居ルハ御承知ノ通リニシテ今回會議ノ主要目的タル軍備競爭ヲ防止セントスル精神ヨリ云フモ將又太平洋ニ於ケル恒久平和維持ノ目的ヲ以テ今ヤ四國協商ヲ訂立セントスル情勢ヨリスルモ本問題ノ提議ハ事態當然ノ事ニ屬ス殊ニ海軍兵力ノ制限ヲ實行セントスル以上ハ其ノ運用ニ密接ノ關係アル諸島ノ防備ニ對シテモ現狀ニ止ムルノ約定ヲ爲スコト至當ト云フ可ク又太平洋諸島ニ關シ平和維持ノ目的ヲ以テ四國協商ヲ設ケ若クハ兵力ノ制限ヲ約スルモ若シ各國競ヒテ是等諸島ノ防備ニ腐心スルカ如キ情勢ヲ招クノ虞アル以上我國民ニ於テモ容易ニ承服シ難カルヘキハ勿論今回ノ會議本來ノ使命ニモ副フ所以ニアラサルヘシ此點ヨリ云フモ本件提議ノ充分ノ根據アリ尙攝津ヲ犠牲トシ陸奥ヲ復活スルノ件ハ主張貫徹ノ爲メ全力ヲ盡クサンコト希望ニ堪ヘス