[文書名] 四國協約より日本本土除外に關し善後措置方華府全權に訓令
大正十年十二月十七日
四國協約案第一條中ノ"insular possessions"及"insular dominions"ナル字句ハ正面ノ文理解釋上ヨリ云ヘハ當然屬地又ハ領地タル島嶼ヲ指摘シ從屬關係ノ主體タル本土ヲ包含スルモノニ非サルハ敢テ疑ヲ容ルルノ餘地ナキ所ナリ且又本件ノ場合本土ヲ包含スルモノトセハ日本本土ハ其ノ中ニ入ルニ拘ハラス朝鮮ハ入ラサルコトトナリ協約適用上奇妙ナル現象ヲ呈スルコトトナルヘシ
貴見ニ據レハ日本本土ヲ除外セントスルハ一種ノ偏狹ナル感情論ニ外ナラサルヘシトノコトナル處成程體面ニ關聯シテ感情上ヨリ面白カラストスル筋ナキニ非サルヘキモ右感情問題ト離レ實際問題トシテモ面白カラサル點アリ例ヘハ日本本土カ第三國ヨリ侵迫セラルル場合自衛權行使ヲ要スル緊急ノ場合ハ問ハストスルモ其ノ他ノ場合ハ協約第二條ニ基キ日本ヨリ英米佛ニ協議スルヲ要スルニ拘ハラス英米佛ノ三國ハ同樣ノ場合ニ日本其他ノ關係國ニ何等協議ヲ要セスシテ直ニ第三國ニ對抗スルヲ得可シ日本ノミ斯クノ如キ義務ヲ負擔スルハ不均衡ノ譏ヲ免レス日英同盟モ日本本土ヲ其ノ適用範圍内ニ包含セシメタルヲ以テ今回ノ四國協約カ該同盟ト同樣ナリトテ別段差支ナカルヘシトノ議論ハ當方ノ同意シ兼ヌル所ナリ日英同盟カ其ノ適用範圍内ニ日本本土ヲ包含スルコト貴見ノ通ナルモ該同盟ハ第三國ヨリ侵迫又ハ攻撃ヲ受ケタル場合ノミニ關スルモノニシテ今回ノ四國協約第一條ノ規定ノ如ク締約國間限リノ爭議ノ場合ニモ日本本土ヲ包含スルモノニ非ス締約國間限リノ爭議ノ場合ニ於テ日本獨リ本土ニ發生シタル該爭議ヲ締約國全部ノ共同會商ニ附スルノ義務ヲ負擔スルカ如キハ我國民ノ感情ノ到底是認スルヲ得サル所ナルヘク殊ニ該同盟ハ單ニ日英兩國間ノ關係ニ止リ而モ第三國ヨリ侵迫又ハ攻撃ヲ受ケタル場合ニ日英兩國武力ヲ以テ支持スルノ義務ヲ負ヒ最モ密接ナル關係ヲ結フモノニシテ從テ日本本土ヲ其ノ共同防禦地域ニ入ルルモ我方ノ立場ヨリ見レハ寧ロ利益ヲ得タルモ別段不利益ヲ伴フモノニ非ス然ルニ日本ト他ノ締約國トノ間ニ爭議發生スル場合ニ於テ日本ノミ四國協約ニ依リ其ノ爭議發生地タル本土ヲ共同會商ノ適用地域ニ入ルルトセハ事件ニ依リテハ不利益ヲ蒙ルノ結果トナルコトモアルヘシ今回ノ四國協約ハ帝國政府ニ於テモ主義上固ヨリ歡迎スル所ニシテ閣下等ノ御盡力ニヨリ折角成立ニ至リタルハ欣幸トスル所ナルモ如何セン以上三項ノ事由ハ事重大ニシテ何分此儘差置キ難シト認メ旁々善後策ヲ考慮シタル處元來帝國政府ハ濠洲新西蘭兩國カ日英同盟ニ好感ヲ表シ居タル事實ニ鑑ミ今回ノ協約適用範圍ニ右兩國ヲ加ヘムトシタル迄ニテ是非兩國ヲ加フルノ要アルニ非ス若シ英米側ニ於テ濠新兩國ヲ適用範圍ニ加フル以上日本本土ヲモ加フ可シトノ議ヲ固執スルニ於テハ「ヒユーズ」氏カ日本本土ノ除外ニ反對セサル旨ヲ言明シタル行掛ニ顧ミ濠洲新西蘭ヲ協約ノ適用範圍ニ加ヘサルコトトシテ日本本土モ之ヲ除外スルコトト致度ク就テハ至急關係國委員ニ御交渉アリ度シ尤モ調印濟ノ今日到底右ノ如キ開談ヲ爲スコト不可能ナラハ事態ノ重大ナルニ顧ミ何等カ善後措置ヲ講スルノ必要上貴見折返シ申越サレ度シ