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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名]　ヤツプ島及他の赤道以北の太平洋委任統治諸島に關する日米條約

[場所]　1922年2月11日
[年月日]　（ヤップ島及他の赤道以北の太平洋委任統治諸島に関する日米条約）
[出典]　日本外交年表竝主要文書下卷，外務省，19‐21頁.
[備考]　
[全文]

大正十一年二月十一日「ワシントン」ニ於テ署名

大正十一年七月十三日實施

日本國及亞米利加合衆國ハ

千九百十九年六月二十八日署名セラレタル「ヴェルサイユ」條約第百十九條ニ依リ獨逸國カ同條約ニ謂フ主タル同盟及聯合國タル諸國卽チ亞米利加合衆國、英帝國、佛蘭西國、伊太利國及日本國ノ爲ニ其ノ海外屬地ニ關スル一切ノ權利及權原ヲ抛棄シタルコトヲ思ヒ

前記「ヴェルサイユ」條約第百十九條ニ依リ合衆國ニ歸屬スル利益ハ合衆國及獨逸國間ノ友好關係ヲ恢復セムカ爲千九百二十一年八月二十五日署名セラレタル兩國間ノ條約ニ依リ確認セラレタルコトヲ思ヒ

前記四國卽チ英帝國、佛蘭西國、伊太利國及日本國ハ「ヴェルサイユ」條約ニ依リ太平洋中赤道以北ニ位スル舊獨逸領諸群島ニ付左記ノ條項ニ準據シテ其ノ施政ヲ行フノ委任ヲ日本國皇帝陛下ニ付與スルコトニ一致シタルコトヲ思ヒ

第一條　日本國皇帝陛下(以下受任國ト稱ス)ニ委任ヲ付與シタル諸島ハ太平洋中赤道以北ニ位スル舊獨逸領諸島ノ全部ヲ含ム

　(中略第七條マデヲココニ引用、上卷所載同文書參照)

合衆國ハ「ヴェルサイユ」條約ヲ批准セス且前記委任ニ關スル協定ニ參加セサリシコトヲ思ヒ

前記諸島殊ニ「ヤップ」島ニ於ケル兩國政府及其ノ各自ノ國民ノ權利ニ關シ確定的了解ニ到逹セムコトヲ希望シ此ノ目的ノ爲條約ヲ締結スルコトニ決シ之カ爲左ノ如ク其ノ全權委員ヲ任命セリ

日本國皇帝陛下

　亞米利加合衆國駐劄特命全權大使男爵幣原喜重郎

亞米利加合衆國大統領

　合衆國國務卿「チァールス、エヴァンス、ヒューズ」

前記各委員ハ互ニ其ノ全權委任狀ヲ示シ之カ良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ如ク協定セリ

第一條　本條約ノ規定ヲ留保シテ合衆國ハ日本國カ前記委任ニ依リ太平洋中赤道以北ニ位スル一切ノ舊獨逸領諸島ノ施政ヲ行フコトニ同意ス

第二條　合衆國ハ國際聯盟ノ聯盟國ニ非サルモ同國及其ノ國民ハ前記委任統治條項第三條、第四條及第五條ニ規定スル日本國ノ約束ノ一切ノ利益ヲ享クヘシ締約國ハ尙左ノ如ク約定ス

（一）日本國ハ公ノ秩序及善良ノ風俗ニ反セサル限リ良心ノ完全ナル自由及各種禮拜ノ自由執行ヲ右諸島ニ於テ確保スヘシ斯ル一切ノ宗敎ノ米國人宣敎師ハ右諸島ニ入リ且右諸島内ニ旅行シ及居住シ竝右諸島内ニ於テ財產ヲ取得シ及占有シ、宗敎的建物ヲ建設シ及學校ヲ開設スルノ自由ヲ有スヘシ尤モ日本國ハ公ノ秩序及善政ヲ維持スルニ必要ナルヘキ監理ヲ行ヒ且右監理上必要ナル一切ノ措置ヲ執ルノ權利ヲ有スルモノトス

（二）委任統治諸島ニ於ケル米國人ノ旣得財產權ハ尊重セラルヘク且如何ナル手段ニ依ルモ侵害セラレサルヘシ

（三）日本國及合衆國間ノ現存諸條約ハ委任統治諸島ニ之ヲ適用スヘシ

（四）日本國ハ其ノ國際聯盟理事會ニ提出スヘキ委任ノ統治ニ關スル年報ノ複本ヲ合衆國ニ送付スヘシ

（五）本條約ニ記載シタル事項ハ本條約ニ引用シタル委任統治條項ニ加ヘラルルコトアルヘキ變更ニ依リ影響ヲ受クルコトナカルヘシ但シ右變更ニ對シ合衆國カ明ニ同意シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス

第三條　合衆國及其ノ國民ハ現存「ヤップ」「グァム」海底電信線又ハ將來合衆國若ハ其ノ國民ノ敷設シ若ハ運用スルコトアルヘキ「ヤップ」島ニ接續スル海底電信線ノ陸揚及運用ニ關スル一切ノ事項ニ付日本國又ハ他ノ各國及其ノ各自ノ國民ト全然均等ノ地步ニ於テ「ヤップ」島ニ自由ニ出入スルコトヲ得へシ前項ニ定ムル權利及特權ハ又無線電信ニ依ル通信ニ關シ合衆國政府及其ノ國民ニ許與セラルヘシ但シ日本國政府カ「ヤップ」島ニ適當ナル無線電信局ヲ設立維持シ差別的料金ヲ課スルコトナク又順位ヲ附スルコトナク海底電信線及船舶又ハ海岸ニ在ル他ノ無線電信局トノ間ニ有效ニ通信ヲ接續スル限リハ合衆國又ハ其ノ國民カ同島ニ於テ無線電信局ヲ設置スルノ權利ノ行使ハ之ヲ停止スヘシ

第四條　第三條ニ定ムル權利ニ關聯シテ左記諸項ノ特殊權利、特權及免除ハ電氣通信ニ關スル限リ合衆國及其ノ國民ハ「ヤップ」島ニ於テ之ヲ享有スヘシ

（一）合衆國國民ハ同島ニ於テ無制限ノ居住權ヲ有スヘク且合衆國及其ノ國民ハ日本國若ハ他ノ各國又ハ其ノ各自ノ國民ト全然均等ノ地步ニ於テ一切ノ動產不動產及之ニ關スル利益(土地、建物、住居、事務所、工場及附屬物ヲ含ム)ヲ取得シ及保持スルノ權利ヲ有スヘシ

（二）合衆國國民ハ第三條ノ規定ニ從ヒ同島ニ於テ海底電信線ヲ陸揚及運用シ若ハ無線電信局ヲ設置スルカ爲又ハ本條及第三條ニ定ムル權利及特權ヲ享有スルカ爲許可又ハ免許ヲ受クルノ義務ヲ有セス

（三）海底電信線又ハ無線電信ニ依ル通信又ハ運用ニ關シ檢閱又ハ監督ヲ行フヘカラス

（四）合衆國國民ハ其ノ身體及財產ニ付同島出入ノ完全ナル自由ヲ有スヘシ

（五）海底電信線若ハ無線電信局ノ運用ニ關シ又ハ財產、人若ハ船舶ニ關シ租稅、港灣若ハ陸揚ニ關スル課金又ハ如何ナル性質ノ取立金モ一切之ヲ徴收スヘカラス

（六）差別的警察規則ハ之ヲ實施スヘカラス

（七）日本國政府ハ合衆国又ハ其ノ國民カ他ノ方法ヲ以テシテハ同島ニ於テ電氣通信ノ目的ノ爲必要ナル財產又ハ便宜ヲ得ルコト能ハサル場合ニハ之ヲ同國又ハ其ノ國民ニ確保スル爲公用徴收權ヲ行使スヘシ

右徴收セラルヘキ土地ノ位置及面積ハ各場合ノ需要ニ從ヒ兩國政府間ニ協定スヘキモノトス同島ニ於テ電氣通信ノ目的ニ供セラルル合衆國又ハ其ノ國民ノ財產及便宜ハ公用徴收ヲ受クルコトナカルヘシ

第五條　本條約ハ締約國ニ於テ其ノ各自ノ憲法ニ從ヒ批准セラルヘシ本條約ノ批准書ハ出來得ル限リ速ニ華盛頓ニ於テ交換スヘク且本條約ハ其ノ批准書交換ノ日ヨリ實施セラルヘシ

右證據トシテ各全權委員ハ本條約ニ署名調印ス

　千九百二十二年二月十一日華盛頓市ニ於テ本書二通ヲ作成ス

幣原喜重郎(印)

チァールス、エヴァンス、ヒューズ(印)