[文書名] 奉直戰に對する態度に關する件(奉直戦に対する態度に関する件)
大正十一年四月二十二日閣議決定
奉直兩軍ハ愈々支那ノ中央ニ於テ戰端ヲ開クニ至リタリトノ情報アリ奉天軍ハ其ノ數ニ於テ稍直隷軍ヲ凌駕スト雖モ直隷軍特ニ吳佩孚麾下ノ軍隊ハ其精銳ニ於テ實戰ノ經歷ニ於テ奉天軍ノ上ナルコト明瞭ニシテ兩軍ノ勝敗ハ蓋シ數ノミヲ以テシテハ逆賭シ得ヘカラス若シ奉天軍ニシテ勝利ヲ博シ張作霖ニ於テ北京中央ノ政局ヲ左右スルニ至ランカ張反對派及外國ノ輿論ハ之ヲ以テ其ノ背後ニ日本ノ援助アルモノトナシ是モ大ナル排日ノ材料ヲ供給スルニ至ルヘシ而モ事實我支援ヲ受ケサル張作霖ハ單ニ我ニ好意ヲ表セサルノミナラス今日迄ノ經驗ニ徴スルモ其老獪ナル或ハ其權勢ヲ利用シ裏面ニ於テ我勢力驅逐ノ方法トシテ排日ヲ宣傳スルコトナキヲ保セス若シ夫レ張作霖敗竄ノ結果吳佩孚ニ於テ中央ノ政權ヲ左右スル場合ニ於テハ一般ハ以テ日本ノ支援ヲ受ケタルモノノ敗北ナリトナシ以テ我ヲ侮蔑シ吳佩孚ニ於テモ益々英米ニ信賴スルノ政策ヲ執ルニ至ルヘク結局安直ノ爭闘當時ノ經驗ヲ繰返スニ過キサルヘシ茲ニ於テ支那現時ノ時局ニ對シテ帝國政府トシテハ愼重ノ態度ヲ以テ之ニ臨マサルヘカラス
我對支政策ノ根本義トシテ我國ハ今日マテ支那內政ニハ絕對不干涉ノ主義ヲ執リ如何ナル勢力ニ對シテモ不偏不黨ノ態度ヲ持シ徐ロニ支那國民ノ覺醒向上ヲ期待シ特ニ今日ニ於テハ華府會議條約竝決議ノ精神ニ依リ行動シツツアリ此大方針ヲ貫徹シ奉直何レカ敗北スルモ我立場ヲ安全ニシ有利ナル對支政策ノ素地ヲ作ラムカ爲メニハ先ツ北京外交團ニ對シ十分我立場ヲ明カニシテ列國公使ヲ以テ我方ノ對支態度ニ關シ何等誤解ナカラシメムコトニ努メ進ムテ英米公使トノ連絡ヲ密接ニシ常ニ共同ノ行動ヲ執ルコトニ努ムルコトヲ要ス現ニ日本カ張作霖ノ背後ニアリトノ感ハ外國人殊ニ英米人ノ間ニ傳統的ニ印𧰼セラレ居ル所ニシテ又他方吳佩孚ノ背後ニハ英米アリトノ感ハ一般日本人ノ間ニ傳播シ居ル有樣ナリ從テ此傾向ヲ以テ進マハ恰モ奉直闘爭ヲ通シテ支那ニ於テ日本ハ英米ト對抗スルノ形勢トナリ其ノ大局ニ及ホス不利益到底忍フコト能ハサルヲ思ハシム而シテ我對支政策ハ上記ノ通ナルモ茲ニ之等一般ノ誤解ヲ招ク有力ナル原因ノ一ニシテ常ニ之等論者ノ指摘スル所ハ現ニ奉天派ニ於テハ多數我現役武官ニシテ張作霖ニ直屬シ其ノ顧問ノ地位ニアルモノヨリ日本ハ之等ヲ通シテ張ヲ使嗾スルモノニシテ日本カ張作霖ノ背後ニアル有力ナル證左ナリトナス點ニ在リ我トシテハ之カ辯明甚タ困難ナル立場ニアリ之等ノ理由ニ依リ差當リ左ノ通リ方針ニ付閣議御決定ヲ請フ
一、從來旣定ノ方針ニ從ヒ北京ニ於テ英米公使ヲ初メ外交團ニ對シ支那時局ニ付協議ノ上共同ノ處置ニ出ツル樣我方ヨリ進ムテ措置スルコト
二、支那內政ニ對シ帝國政府ノ執リ來リタル不偏不黨ノ方針ヲ實證スル爲メ張作霖ニ顧問タリ又奉天派ニ關係ヲ有スル軍人ヲシテ時局ニ關スル限リ何等事務ニ關與セサラシムルコト