データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中國關稅會議に於ける日本全權の聲明:關稅特別會議第一委員會第一回會議ニ於ケル日本全權ノ聲明(中国関税会議に於ける日本全権の声明:関税特別会議第一委員会第一回会議に於ける日本全権の声明)

[場所] 
[年月日] 1925年10月30日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,78-79頁
[備考] 
[全文]

關稅特別會議第一委員會第一回會議ニ於ケル日本全權ノ聲明

(十月三十日)

一、日本全權ハ本會議ノ劈頭支那カ關稅自主權ヲ回復スルニ至ルヘキ手段トシテ二個ノ案ヲ提議シタリ然ルニ右提案ハ聊カ簡潔ノ嫌アリタルヲ以テ更ニ其ノ趣旨ヲ闡明スルノ目的ヲ以テ爰ニ多少說明ヲ加フルハ必スシモ徒爾ナラスト信ス

二、我提案中第一案ハ支那ニ於テ一般ニ適用スヘキ國定稅率ヲ制定シ之ト同時ニ特定ノ品目ニ關シ條約ヲ以テ關係國ト各別ニ決定スヘキ特別稅率ヲ併用セムコトヲ提言スルモノナリ右國定稅率ハ支那國ニ於テ自由ニ決定スヘキモノナルカ右決定ニ當リテハ支那ト列國トノ通商關係ヲ阻害セサル樣留意スルノ要アルヘシ蓋公正妥當ナル國定稅率ノ制定ハ特定品目ニ關シ特別ノ協定ヲ必要トスル關係國ノ數ヲ最少限度ニスルノ利アレハナリ

余カ嚮ニ自主權回復ニ關スル我歷史ヲ敍述スルニ當リ言及セルカ如ク一八九四年日本國ト列國トノ間ニ改訂セラレタル条約ハ調印後五年ヲ經テ初メテ其ノ效力ヲ發生シ其ノ後十二年間實施セラレタリ此ノ先例ハ吾人ノ注意ニ値スヘク支那國於テモ亦同樣ノ過程ヲ踐ミ得ヘシ

王正廷氏ハ開會式當日ノ演說ニ於テ支那政府ハ三年以內ニ釐金ヲ撤廢シ國定稅率法ヲ實施セントスルノ決意アルコトヲ述ヘラレタリ支那ハ右準備期間內ニ於テ本案ノ趣旨ニ依リ他列國ト條約ヲ結ヒ右條約ハ支那國定稅率法ノ施行ト時ヲ同ウシテ實施セラルヘシ而シテ右新條約ハ關稅事項ニ關シ支那國ト列國間ノ現存條約ニ代ハリ其ノ結果支那國ニカセラレタル片務的制限ハ除去セラルコトトナル次第ナリ而シテ本會議ニ於テ第一案ヲ承認スル場合ニ於テハ日本全權ハ支那國定稅率ノ實施ニ先ツ右期間中ハ華府條約第三條ノ規定ニ從ヒ中間的附加稅ヲ賦課スヘキコトヲ提議セムト欲ス

三、我方第二案ハ大體一九〇二ー三年ノ支那及外國間ノ條約ノ規定ニ遵依セル稅率制度ノ採用ヲ提議セルモノニシテ本案ノ採用ヲ見ル場合ニ於テモ此等條約ニ規定セルカ如キ率ヲ以テスル均一稅率ハ不合理且非科學的ニシテ支那及外國間ノ通商ヲ阻礙スルモノナルヲ以テ吾人ハ茲ニ差等稅率ノ設定を提案セントスルモノナリ

四、然レトモ此等二個ノ提案ヲ彼此對照スルニ第一案ハ第二案ニ比シ勝レルモノト云フヘシ蓋シ後者ハ遠ク二十餘年前ノ締結ニ係ル支那國ト外國間ノ條約ヲ大體ノ標準トシタルモノニシテ其ノ規定中ニハ實行必スシモ容易ナラサルモノアルノミナラス必スシモ今日ノ經濟狀態ニ適合セサルモノアリ例ヘハ右諸條約ハ現代諸國ノ實行ト全然背馳スル現行輸出稅ノ維持ヲ規定スルノミナラス更ニ之カ引上ヲ認メ居ルカ如シ加之單一ノ關稅定率ヲ設定シ以テ列國間ニ於テ幾多複雑ニシテ相牴訴セル利害ヲ調節スルコトハ容易ノ業ニ非スシテ本會議ノ開會中之カ解決ノ遑無キヲ虞ル之ニ反シ第一案ニ依ルトキハ必要ナル措置ハ會議ニ於テ明確ニ決定セラルヘキカ故ニ關係國ハ準備期間內ニ於テ特定稅率問題ニ關シ十分ノ餘裕ヲ以テ支那國トノ間ニ單獨ノ協定ヲ遂ケ得ヘク同時ニ支那ニ於テモ釐金廢止及通商ニ對スル其ノ他ノ障礙ノ除去ヲ實行スルコトニ依リ關係國全般ノ賛諾ヲ得テ國定稅率法ヲ實施シ得ルニ至ルヘシ是レ卽チ支那ヲシテ直接關稅自生ノ大道ニ進マシムヘキ遙ニ簡易ニシテ實行シ易キ案ナリト謂フヘシ