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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 對華問題に關する英國大使と幣原外相会談錄抄(対華問題に関する英国大使と幣原外相会談録抄)

[場所] 
[年月日] 1925年11月5日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,81-82頁
[備考] 
[全文]

大正十四年十一月五日

在本邦「エリオツト」英大使ト幣原外相會談要錄

大正十四年十一月五日在本邦「エリオツト」英國大使幣原大臣ヲ來訪シ

一、先ツ同大使ヨリ關稅會議ノ經過ニ關シ北京ヨリノ報道ニ依レハ米國案英國案等種々提議セラレ居ル處之等提案ノ內容ニハ不明ノ點多ク了解困難ニシテ其間果シテ意見ノ一致ヲ見得ヘキヤ否ヤ疑ハシト述ヘタルニ付

幣原大臣ハ

 諸國提案ノ內容カ難解不明ナルコトニハ全然同感ナルモ列國代表カ誠實ニ其眞意を披瀝シ互ニ說明ヲ試ムルニ於テハ意見ノ一致ヲ見サルヘカラサルモノナリト答ヘタルニ

「エリオツト」大使ハ

 抑モ今回ノ會議ニ於テ何等一定ノ成果ヲ得ヘキヤ否カ自分ハ會議ノ前途ニ對シ甚タ憂慮セルモノナルカ此感想ハ過日加藤總理大臣ニ面會ノ節モ同総理ニ對シテ述ヘタルカ同總理モ其感ヲ同シクシ居ラルル樣見受ケラレタリ、一體關稅自主權等ヲ支那ニ與フルハ大ニ考慮要スル所ナリト思惟スト述ヘタルヲ以テ

幣原大臣ハ

 關稅自主權ヲ支那ニ與フト云フコトハ固ヨリ列國ニトリテ大ナル「コンセッシヨン」ナリ乍然目下支那一般ノ靑年ノ聲ハ關稅自主權ノ恢復ヲ呼號ス今回ノ會議ニ於テ何等カ關稅自主權恢復ニ到ルノ道ヲ開カサレハ國内與論ノ反抗ニ逢ヒテ段政府ハ忽チ崩壞スルニ至ルヘシ自分トシテハ段祺瑞其人ヲ特ニ支持セサルヘカラサル理由無キモ段臨時政府倒レタル後支那ノ文官又ハ武官ニシテ其跡ヲ繼クヘキモノ何人モ無キニ非スヤ然ラハ執政政府倒ルレハ支那ハ暫時無政府狀態ニ陥ルノ外無シ而シテ若シ支那カ無政府狀態ニ陥レハ支那ハ固ヨリ列國モ皆害ヲ被ルヘシ故ニ目下支那政情ノ安定ハ何ヨリモ肝要事ニ屬ス、自分トシテモ關稅自主權ヲ與フルノ利害得失ニ就キテハ考ヘサルニモ非ルカ今次ノ關稅會議ニ對シテハ利害問題以上ニ支那政情ノ安定 Stability of China ナル対局ノ點ヲ篤ト考慮シ其態度ヲ決スヘキモノニシテ要之目下北京ニハ米英案等アリテ自分トシテモ判讀ニ困シメル次第ナルカ孰レニスルモ此會議ニ於テ何等カノ成果ニ達スルコトハ支那政局安定ノ大局極メテ必要ナリト思惟スルモノナリト述ヘタルニ英國大使ハ同感ノ意ヲ表シタリ

(以下略)