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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中國關稅會議に於ける日本全權の聲明:第二委員會第一回會議ニ於ケル日本全權ノ提案(中国関税会議に於ける日本全権の声明:第二委員会第一回会議に於ける日本全権の提案)

[場所] 
[年月日] 1925年11月6日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,80-81頁
[備考] 
[全文]

第二委員會第一回會議ニ於ケル日本全權ノ提案

(十一月六日)

日本全權ハ本会議第二回總會ニ於テ支那國定關稅條例ノ實施ニ至ル迄ノ過渡的期間ニ於テハ華府條約第三條ニ認ムル二分五厘ノ附加稅ヲ課スヘキ旨ヲ提議シタリ其ノ理由トスル所ハ左ノ諸點ニ存ス

 (イ) 二分五厘附加稅ハ本會議ニ代表者ヲ有スル總テノ政府ノ同意シタル所ニシテ本會議ニ於テ之カ賦課ヲ認ムル場合ニハ更ニ批准ヲ要セサルカ又ハ之ヲ得ルコト確實ナリ若シ之以上ノ附加稅行ハレムカ特ニ條約ヲ必要從テ其ノ實施ハ不確実トナリ且遲延スルノ虞アリテ緊急ノ所要ニ應スルコト能ハス日本全權ハ以上ノ理由ニ依リ暫行措置トシテ二分五厘附加稅增徴ヲ以テ的確ナル結果ヲ得ルニ最モ確實ナル方法ナリト思考ス

 (ロ) 二分五厘以上ノ附加稅ノ急速ノ實施ハ支那ト他國間ノ通商關係ヲ著シク攪亂スルノミナラス特ニ日本ノ產業及貿易ニ對シ甚大ナル影響ヲ及ホスコトトナルヘシ加之斯ノ如キ附加稅ニ依ル負擔ハ輸出國タル外國人ノ負フモノナルト同時ニ結局支那國民自身又之ヲ分擔スルコトトナルヘシ

二、右附加稅收入ノ使途ニ關スル具體的方策ヲ確定スルニ當リテハ素ヨリ支那側ノ希望及其ノ所要ヲ正確ニ承知スルヲ要スルモ日本全權ハ茲ニ右具體案ヲ決定スルニ當リ準據スヘキ大綱ヲ提議スヘシ暫行期間ニ於ケル前記附加稅增收額ノ使途ヲ考究スルニ當リテハ次ノ三點ヲ考慮スルヲ要ス

 (イ)釐金收入ニ代ハルヘキ基金

 (ロ)支那政府ノ財政的信用ノ確立

 (ハ)政府ノ行政費

右ノ內(ハ)卽チ政府ノ一般行政費ノ問題ハ支那側全權ヨリノ說明ヲ俟チテ討議スヘキ事項ナルヘシ

三、吾人ハ前述ノ如ク二分五厘附加稅ノ增收額ハ他ノ收入ト相俟チテ支那政府ノ所要ニ應スルト共ニソノ一般的財政上ノ信用ヲ確立スルカ爲實行可能ナル計畫ヲ立ツルニ足ルモノト信ス

四、日本全權ハ支那政府ノ聲明シタル如ク釐金廢止ハ千九百二十九年一月一日以前ニ於テ實行セラレムコトヲ希望ス而シテ自主權ニ關スル委員會第一回會議ニ於ケル支那全權ノ「メモランダム」ニ於テハ支那諸省ニ於ケル釐金收入總額ハ每年約七千萬弗ト計算セラレ居ル處右支那側提案ニ依レハ今後三年以內ニ地方各省ノ歳入タル右釐金ヲ廢止スルカ爲ニハ其ノ一年間ノ收入額ニ相當スル補償ヲ必要トスルモノト認メラル

五、支那政府ノ信用ヲ確立スルカ爲ニハ現存各種ノ無擔保不確實ノ債務ヲ整理スルコト必要ナル處日本全權ハ右問題ハ次ノ原則ニ準據シテ之ヲ解決スヘキモノト思惟ス

 (イ) 整理スヘキ債務ハ內債及外債ノ兩者ヲ包含スヘキコト

 (ロ) 關稅収入ヲ擔保トスル適當ノ利率及償還期限ノ整理公債ヲ所要額丈ケ發行シ之ヲ舊債權者ニ公付シ現債權ヲ之ニ引換フルコト

 (ハ) 整理ノ條件ハ支那ニ對シ出來得ル限リ公平且寛大ナルコト

六、前期所要ニ應スル爲ニハ支那政府ハ各種ノ財源卽チ上述セル附加稅增收貿易ノ自然增加ニ依ル增收關稅剩餘及鹽稅剩餘擔保解除額其ノ他ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得ヘシ此等財源ハ所要ヲ充スニ十分ナルヤ否ヤハ後日ノ討議ニ讓リ日本全權ハ支那カ釐金を廢止シ國內ノ一般的改善ヲ實施スルニ對シ支那ヲ援助スル爲極度ノ努力を爲スコトニ決セリ卽チ此ノ趣旨ニ依リ日本全權ハ一切ノ不確實債務ヲ直ニ整理スルノ主義ヲ主張スルト同時ニ最大ノ利害關係ヲ有スル債權者タル日本トシテ必要アル場合ニハ暫行期間タル三年間ハ整理公債ノ元利支拂ヲ据置其ノ資金ヲ擧ケテ支那政府ニ提供セムコトヲ提議スルモノナルコトヲ茲ニ表明ス余ハ關係事項ニ付テ他ノ機會ニ於テ陳述スルコトアルヘキヲ追加シタシ